狐の箱庭
空欄の場合はつゆになります
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「つゆっ____」
全身の奥底から突き出た叫び声を貫きながら、銀時は目を覚ました。
彼女を追って立ち上がろうとして取った低い姿勢が硬直し、真っ白になった全身で耳をそばだてる。
辺りが見慣れた景色だと分かりはじめても、銀時の気はひとつに張り詰めたままだった。
瞬きもせず、裸足の指だけが布団の上で微かに動く。
ふれていた計りの針が正確な重さを捉えたみたいな最後が今だった。
こちらを呼びながら目の前を覗き込む従業員をようやく認めようとした時
「銀さん____っ」
新八が声をあげた。
そして今よりずっと静かな声で言った。
「銀さんしっかりして下さい」
気が遠くなるような感覚を受け止めたまま、銀時は未だに走り出しそうになっている足を崩して腰を下ろした。
「大丈夫ですか?」
何拍もおいて「ああ」とだけ答えた銀時の睫毛の上に朝の透明な光が乗っている。
「朝っぱらから驚かせないで下さいよ。ご飯出来てますよ」
それ以上は何も言わず、新八はゆっくりと立ち上がった。
首筋を撫でると生暖かい汗が銀時の手のひらに残った。
起き抜けに在る簡素な部屋の壁を認める銀時の全身は静まり返り、瞳の奥にはあの夜の感触が痛いほど鮮やかに迫るのだった。
「銀。わたしを信じる?」
深い谷底の下にぶら下がるつゆが微笑を灯して言った。
「離して」
殆ど身を乗り出してつゆの手を握る銀時につゆは尚も言う。
「離すの」
「離してたまるか____っ」
つゆを見ると力が湧く。
その一心で熱い血をたぎらせて引っ張り上げようとした時、銀時の掴んでいた枝が折れた。
真っ逆さまに落ちた後、つゆは何処にもいなかった。
落ちた場所の木々という木々を探し、穴という穴を何度も何年も探した。
朝から晩までいつまでもどこまでも探した。
それでもつゆは何処にもいなかった。
「よお。俺ちょっと出るわ。ちゃんと店番しとけよ」
そう言って銀時が向かうのは描くもの皆生き写しだと人気の絵描きの元だった。
店は今日も盛況で順番を待った。
この店にも探し人としてつゆの人相書が何枚も貼られている。
「旦那ァ。毎日来られても困りますよ。他にもお客様はいますし手掛けてる作品もありますし、そう何枚もねえ」
「そう言うなよおっさん。あんたの描くつゆが一番似てんだよ」
人相書といっても表情ひとつでは心もとない。
そんな銀時は毎日違う表情を細かく指示して注文している。
笑った顔、怒った顔、泣いた顔、困った顔。
そこからもっと細かく微妙な表情を注文すると毎日通っていた。
筋肉バスターをかけられそうになった時の死にそうな顔、飯を取られた時の死にそうな顔、出来もしない打ち合いに遊びで混ぜられた時の責めに責められた時の死にそうな顔。
そして今日注文したのは銀時に好きなものを取られた時の死にそうな顔だった。
「怒ってるけど暗い顔だよ。もっと暗いんだよ。もっと影つけて」
しつこく細かく注文をつけながら出来上がった作品は見事で傑作だった。
「もっとこうさ、ないの? 恋してる顔とかおじさん描きたいんだけど」
「あ? ____ねえよ。殺すぞ」
飾ってある作品を退けてまた一枚人相書を貼って店を出た。
人は忘れる生き物だという。
だから見た人が少しでも思い出しやすいように何枚も描いて貰っている。
そしてまた人が忘れる生き物だというのが嘘だという事を銀時はよく知っていた。
遠くから祭囃子がきこえる。
「銀。お祭りがあるんだって。行こう。晋助も行くって」
思い出すのはつゆとつゆとつゆの事。
人相書を貼って歩き、つゆの行きそうな場所を当たって人が変わっていないか確認する。
つゆは祭りが好きだ。
だから毎年祭とあれば欠かさず何処でも見に行く。
今日は近所だった。
全身の奥底から突き出た叫び声を貫きながら、銀時は目を覚ました。
彼女を追って立ち上がろうとして取った低い姿勢が硬直し、真っ白になった全身で耳をそばだてる。
辺りが見慣れた景色だと分かりはじめても、銀時の気はひとつに張り詰めたままだった。
瞬きもせず、裸足の指だけが布団の上で微かに動く。
ふれていた計りの針が正確な重さを捉えたみたいな最後が今だった。
こちらを呼びながら目の前を覗き込む従業員をようやく認めようとした時
「銀さん____っ」
新八が声をあげた。
そして今よりずっと静かな声で言った。
「銀さんしっかりして下さい」
気が遠くなるような感覚を受け止めたまま、銀時は未だに走り出しそうになっている足を崩して腰を下ろした。
「大丈夫ですか?」
何拍もおいて「ああ」とだけ答えた銀時の睫毛の上に朝の透明な光が乗っている。
「朝っぱらから驚かせないで下さいよ。ご飯出来てますよ」
それ以上は何も言わず、新八はゆっくりと立ち上がった。
首筋を撫でると生暖かい汗が銀時の手のひらに残った。
起き抜けに在る簡素な部屋の壁を認める銀時の全身は静まり返り、瞳の奥にはあの夜の感触が痛いほど鮮やかに迫るのだった。
「銀。わたしを信じる?」
深い谷底の下にぶら下がるつゆが微笑を灯して言った。
「離して」
殆ど身を乗り出してつゆの手を握る銀時につゆは尚も言う。
「離すの」
「離してたまるか____っ」
つゆを見ると力が湧く。
その一心で熱い血をたぎらせて引っ張り上げようとした時、銀時の掴んでいた枝が折れた。
真っ逆さまに落ちた後、つゆは何処にもいなかった。
落ちた場所の木々という木々を探し、穴という穴を何度も何年も探した。
朝から晩までいつまでもどこまでも探した。
それでもつゆは何処にもいなかった。
「よお。俺ちょっと出るわ。ちゃんと店番しとけよ」
そう言って銀時が向かうのは描くもの皆生き写しだと人気の絵描きの元だった。
店は今日も盛況で順番を待った。
この店にも探し人としてつゆの人相書が何枚も貼られている。
「旦那ァ。毎日来られても困りますよ。他にもお客様はいますし手掛けてる作品もありますし、そう何枚もねえ」
「そう言うなよおっさん。あんたの描くつゆが一番似てんだよ」
人相書といっても表情ひとつでは心もとない。
そんな銀時は毎日違う表情を細かく指示して注文している。
笑った顔、怒った顔、泣いた顔、困った顔。
そこからもっと細かく微妙な表情を注文すると毎日通っていた。
筋肉バスターをかけられそうになった時の死にそうな顔、飯を取られた時の死にそうな顔、出来もしない打ち合いに遊びで混ぜられた時の責めに責められた時の死にそうな顔。
そして今日注文したのは銀時に好きなものを取られた時の死にそうな顔だった。
「怒ってるけど暗い顔だよ。もっと暗いんだよ。もっと影つけて」
しつこく細かく注文をつけながら出来上がった作品は見事で傑作だった。
「もっとこうさ、ないの? 恋してる顔とかおじさん描きたいんだけど」
「あ? ____ねえよ。殺すぞ」
飾ってある作品を退けてまた一枚人相書を貼って店を出た。
人は忘れる生き物だという。
だから見た人が少しでも思い出しやすいように何枚も描いて貰っている。
そしてまた人が忘れる生き物だというのが嘘だという事を銀時はよく知っていた。
遠くから祭囃子がきこえる。
「銀。お祭りがあるんだって。行こう。晋助も行くって」
思い出すのはつゆとつゆとつゆの事。
人相書を貼って歩き、つゆの行きそうな場所を当たって人が変わっていないか確認する。
つゆは祭りが好きだ。
だから毎年祭とあれば欠かさず何処でも見に行く。
今日は近所だった。
1/11ページ