睫毛に蝶
空欄の場合はつゆになります
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席を立った銀時が落ち着いた足取りで空間を割いた。
蒼い顔をして重い心を縮こまらせたつゆの元に。
つゆの手はつめたく、銀時の手は温かかった。
「だから言ったろ? つゆは俺の部屋に行こうな。こんな野郎共々と話す必要ねえから。目も合わすなよ?」
「いや。いてもらう」
「血のにおいが駄目なんだよ。PTSDって奴だ。察しろ。とんちき」
彼らが入って来て窓を全開にしてくれたのは銀時だ。
風でにおいがまわるが、まわるから新しい風も入ってくる。
「御免なさい」
リビングから二階に続く階段を上りながらつゆは言った。
「そんな事までさせてごめんなさい」
「何謝ってんの?」
目の前を登ってゆく銀時の足と腰。
ゆったりした浴衣。
「謝る義理なんざねえんだからよ」
階段の下から見上げていた沖田が土方に振り向いて言った。
「旦那に女がいたなんざ驚きでさァ。土方さんも真っ青だ」
「真っ青なのはあの女だろ」
そうして銀時を親指で指して言う。
「ありゃァストーカーの面だろうが」
と。
つゆが降りて来た時の銀時の気配、顔つき。
絶対に自分達に関わらせないという圧と異様な密度があった。
事件は勿論、男として人としても関わらせない。
そういう立ち方をしていた。
「一旦風に当たろうぜ。奴らももう帰っから」
つゆを廊下のカウチに座らせてくれながら銀時は窓を開ける。
酷いどしゃ降りで、開けた傍からつめたい雨が入ってくる。
しかしそれが今のつゆには心地よかった。
「泊めて貰っていいですかい?」
その声がしたのは階段の下からだった。
手すりに腕をかけ、沖田がこちらを見あげている。
「あ?」
銀時は面倒臭そうに立ち上がり、上から彼を見下ろした。
「いい窓だろ。だが江戸の町の安全はこっから見えないぜ。おら、帰れ」
「旦那ァ、そいつァひでぇや。この土砂降りが見えないなんて事ァねえでしょう」
やり取りを聞いていたつゆは覚悟して言った。
銀時にきこえるくらいの重さで、しかしはっきりと。
「いいよ。大丈夫」
振り向いた銀時は何も言わないがその眼差しは切実だった。
「大丈夫。一晩くらい」
つゆは心から強く思う。
銀時は完全にこちらを振り返り、手すりに両腕を休ませて言う。
「俺ァ嫌だね。一晩も」
「一階を使って貰ったらいいよ。広いから、においも音も届かない。銀も下に行かなければいい」
さっきのやり取りで判ったが、どうやら彼ら、特に煙草をくわえた男と銀時は馬が合わないらしい。
つゆはひっそりと微笑を灯し
「喧嘩しないで」
ふわりとわらった。
笑みくだけた銀時は頭をかき、息をついた。
「俺の部屋にいろ。三階の一番奥」
「三階の一番奥は鍵がないけど」
「部屋の前に書物があるだろ。一番下の奥に凹みがあってよ、そこ引っ張ると開くから」
本当に銀時は昔からこういう事を簡単にやってのける。
「ああ、そうだ。中は何も触るなよ?」
「わかった」
「つゆ」
大事な事を言う時の生真面目な銀時の口調。
攘夷戦争時代、この人は告白もこうして切り出したのだ。
俺ァお前が好きだ、と。
つゆはわたしも好きだよと言った。
その時の銀時の顔を見て、銀時の好きと自分の好きは酷く違うとわかった。
しかし銀時はそれ以上何も求めずただ「俺が一番傍にいるから」とだけ言って穏やかに笑った。
「つゆ」
銀時の広い両手がつゆの頬を囲った。
こちらを覗き込む目は真剣そのもので、つゆもその目を睫毛を持ち上げて見返した。
「朝起きて、目を開けて此処にいんのはつゆと俺だけ」
つゆは怖かった。
うんと素直に言ってしまうと二人で一緒に落ちてしまいそうで。
友人を斬った事を許していない。
許してはいけない。
銀時に今以上の深入りをしてはいけない。
せめて線を決めている。
「あの人達もいる」
つゆはかろうじて、しかし切実に言った。
すると階下に目をやったつゆの顔は銀時の両手に正面へ戻された。
「いーんだよ。あいつらはつゆが起きる前に帰すから。いねえの。いねえものなの。わかった?」
「うん」
「終わったら寝る前の茶も持ってくから」
この一ヶ月一緒に過ごし、銀時はつゆが眠る前に入眠作用のある薬湯を飲んでいることを十分に知っている。
「ありがとう」
つゆは素直に言ってその場を後にした。
蒼い顔をして重い心を縮こまらせたつゆの元に。
つゆの手はつめたく、銀時の手は温かかった。
「だから言ったろ? つゆは俺の部屋に行こうな。こんな野郎共々と話す必要ねえから。目も合わすなよ?」
「いや。いてもらう」
「血のにおいが駄目なんだよ。PTSDって奴だ。察しろ。とんちき」
彼らが入って来て窓を全開にしてくれたのは銀時だ。
風でにおいがまわるが、まわるから新しい風も入ってくる。
「御免なさい」
リビングから二階に続く階段を上りながらつゆは言った。
「そんな事までさせてごめんなさい」
「何謝ってんの?」
目の前を登ってゆく銀時の足と腰。
ゆったりした浴衣。
「謝る義理なんざねえんだからよ」
階段の下から見上げていた沖田が土方に振り向いて言った。
「旦那に女がいたなんざ驚きでさァ。土方さんも真っ青だ」
「真っ青なのはあの女だろ」
そうして銀時を親指で指して言う。
「ありゃァストーカーの面だろうが」
と。
つゆが降りて来た時の銀時の気配、顔つき。
絶対に自分達に関わらせないという圧と異様な密度があった。
事件は勿論、男として人としても関わらせない。
そういう立ち方をしていた。
「一旦風に当たろうぜ。奴らももう帰っから」
つゆを廊下のカウチに座らせてくれながら銀時は窓を開ける。
酷いどしゃ降りで、開けた傍からつめたい雨が入ってくる。
しかしそれが今のつゆには心地よかった。
「泊めて貰っていいですかい?」
その声がしたのは階段の下からだった。
手すりに腕をかけ、沖田がこちらを見あげている。
「あ?」
銀時は面倒臭そうに立ち上がり、上から彼を見下ろした。
「いい窓だろ。だが江戸の町の安全はこっから見えないぜ。おら、帰れ」
「旦那ァ、そいつァひでぇや。この土砂降りが見えないなんて事ァねえでしょう」
やり取りを聞いていたつゆは覚悟して言った。
銀時にきこえるくらいの重さで、しかしはっきりと。
「いいよ。大丈夫」
振り向いた銀時は何も言わないがその眼差しは切実だった。
「大丈夫。一晩くらい」
つゆは心から強く思う。
銀時は完全にこちらを振り返り、手すりに両腕を休ませて言う。
「俺ァ嫌だね。一晩も」
「一階を使って貰ったらいいよ。広いから、においも音も届かない。銀も下に行かなければいい」
さっきのやり取りで判ったが、どうやら彼ら、特に煙草をくわえた男と銀時は馬が合わないらしい。
つゆはひっそりと微笑を灯し
「喧嘩しないで」
ふわりとわらった。
笑みくだけた銀時は頭をかき、息をついた。
「俺の部屋にいろ。三階の一番奥」
「三階の一番奥は鍵がないけど」
「部屋の前に書物があるだろ。一番下の奥に凹みがあってよ、そこ引っ張ると開くから」
本当に銀時は昔からこういう事を簡単にやってのける。
「ああ、そうだ。中は何も触るなよ?」
「わかった」
「つゆ」
大事な事を言う時の生真面目な銀時の口調。
攘夷戦争時代、この人は告白もこうして切り出したのだ。
俺ァお前が好きだ、と。
つゆはわたしも好きだよと言った。
その時の銀時の顔を見て、銀時の好きと自分の好きは酷く違うとわかった。
しかし銀時はそれ以上何も求めずただ「俺が一番傍にいるから」とだけ言って穏やかに笑った。
「つゆ」
銀時の広い両手がつゆの頬を囲った。
こちらを覗き込む目は真剣そのもので、つゆもその目を睫毛を持ち上げて見返した。
「朝起きて、目を開けて此処にいんのはつゆと俺だけ」
つゆは怖かった。
うんと素直に言ってしまうと二人で一緒に落ちてしまいそうで。
友人を斬った事を許していない。
許してはいけない。
銀時に今以上の深入りをしてはいけない。
せめて線を決めている。
「あの人達もいる」
つゆはかろうじて、しかし切実に言った。
すると階下に目をやったつゆの顔は銀時の両手に正面へ戻された。
「いーんだよ。あいつらはつゆが起きる前に帰すから。いねえの。いねえものなの。わかった?」
「うん」
「終わったら寝る前の茶も持ってくから」
この一ヶ月一緒に過ごし、銀時はつゆが眠る前に入眠作用のある薬湯を飲んでいることを十分に知っている。
「ありがとう」
つゆは素直に言ってその場を後にした。