睫毛に蝶
空欄の場合はつゆになります
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昨夜ドアを開けたのも銀時だったのだろうか。
つゆの部屋へ二人分の紅茶を淹れて銀時は戻ってきた。
「薬草?」
ベッド脇のサイドテーブルに置かれた入眠用の薬湯を見て銀時が言う。
「そう。よく眠れるの」
「薬草に頼ってぐっすり眠るたァよ、言ってくれりゃァ俺が毎晩こうして添い寝すんのに」
つゆのベッドに勝手に上がり込み、銀時がいう。
そうしてサイドテーブルに腕を伸ばし、紅茶茶碗に入った薬湯のにおいを嗅ぐ。
「あんまりいいにおいではねえな」
「それに寝起きが悪くなるよ」
「寝起き? どんな風に?」
「ふわっとするの。身体も少し痛いし。調合したの失敗かな」
「へえ。ふわっとね。気持ちいい?」
手を枕にし、銀時は目を僅かに細めた。
「痛気持ちいいってとこ?」
「何て言ったらいいかわからない。そういえば銀はいつも何処にいたの?」
「そりゃァ警備してたよ。屋敷中な」
「寝ずに?」
「ああ。安心して寝ていいんだぜ。眠れねえなら明日もこの時間に会おうぜ。茶でも淹れてくるからよ」
翌日の同じ時間から銀時とお茶をするようになってひと月。
しかし今日銀時は中々来なかった。
どうしたのかと思い、廊下を辿って行くと夜は長く深く静かだった。
そこでふとにおったのは濃い血のにおいだった。
その一瞬で攘夷戦争の記憶がきりもなく戻ってくる。
血の海。刀と死体の山。友の死。
つゆはにわかに具合が悪くなりながら廊下で息をついた。
キッチンから灯りが漏れており、血のにおいはそこを頂点としていた。
「辻斬りが____」
という昼間の警備員の言葉を胸に傍にあった重い燭台をつかむとキッチンの灯りの中へ踏み出した。
すると人は居なく、しかし冷蔵庫に血がついていた。
「つゆ?」
視界の端から伸びてきた手。血のにおい。
つゆは思わず振り払って身を避けた。
血のにおいを頂点としているのは銀時だった。
見れば、腕の持ち主がこちらを認めて立ち尽くしている。
銀時のその手は行き場をなくしていた。
心身共に蒼白のまま、つゆは勝手に退く足で踵を返して走り出した。
自分の心音と足音だけが迫る廊下は長く静かだった。
いつもなら気をつける床板の浮き上がりに躓いたのは今だった。
斜めに思い切り転び、額を打った。
目の上からつと生暖かいものを感じて触るとその指先に血が。
踏み出した足がガクンと下がった。
しかしそれにも構わず足早にその場を立ち去ると、また目の上から流れてくる。
血からは逃げられない。
つゆは端にあった鏡の前に立ち、目を凝らした。
目の上の額が切れている。
「救急箱は?」
ふと真上から声がした。
銀時だ。
頭にハチマキを巻いて、伸ばす手が動くと甲冑の音がする。
「つゆ」
血を流しているのは銀時の方だった。
その腹の傷は見ただけで深いと分かる。
早く縫わないと____。
「つゆ」
つゆの顔を銀時の広い両手が覆った。
びくりとつゆの身体が震える。
「誰が見える?」
紅い目。
真剣な顔をしてこちらを見ている。
「銀____」
見れば、甲冑のない身軽な格好で銀時がそこに立っている。
「つゆ。いつもいるから」
つゆの焦点が合うのは生真面目な顔をした銀時の目だった。
「俺ァいつもいるから。な」
頬を撫でる手が優しい。
つゆは静かに瞬いてもう一度銀時の腹を見た。
傷は無い。何処にも。何処も血に濡れていない。
「何か飲むだろ?」
傍のカウチに座らせてくれたあと、銀時は救急箱とお茶を持って戻ってきた。
「つーかよォ、派手に転んだなァおい。広げていい?」
「麻酔しなきゃ」
ないと知っていても痛がりなつゆがいう。
「広げていい?」
「なにを?」
つゆがにっこりと笑ってみせると銀時もまたにっこりと笑い
「此処」
と膝の傷に触れた。
「痛っ……っ」
痛みで跳ねたつゆの足を掴み、銀時がニヤリと笑った。
つゆの顔つきはたちまち暗転し
「麻酔してよ」
きりもなく暗くなるつゆを見て銀時が肩を震わせて笑いだした。
「変わらねえなァおい」
と。
つゆの部屋へ二人分の紅茶を淹れて銀時は戻ってきた。
「薬草?」
ベッド脇のサイドテーブルに置かれた入眠用の薬湯を見て銀時が言う。
「そう。よく眠れるの」
「薬草に頼ってぐっすり眠るたァよ、言ってくれりゃァ俺が毎晩こうして添い寝すんのに」
つゆのベッドに勝手に上がり込み、銀時がいう。
そうしてサイドテーブルに腕を伸ばし、紅茶茶碗に入った薬湯のにおいを嗅ぐ。
「あんまりいいにおいではねえな」
「それに寝起きが悪くなるよ」
「寝起き? どんな風に?」
「ふわっとするの。身体も少し痛いし。調合したの失敗かな」
「へえ。ふわっとね。気持ちいい?」
手を枕にし、銀時は目を僅かに細めた。
「痛気持ちいいってとこ?」
「何て言ったらいいかわからない。そういえば銀はいつも何処にいたの?」
「そりゃァ警備してたよ。屋敷中な」
「寝ずに?」
「ああ。安心して寝ていいんだぜ。眠れねえなら明日もこの時間に会おうぜ。茶でも淹れてくるからよ」
翌日の同じ時間から銀時とお茶をするようになってひと月。
しかし今日銀時は中々来なかった。
どうしたのかと思い、廊下を辿って行くと夜は長く深く静かだった。
そこでふとにおったのは濃い血のにおいだった。
その一瞬で攘夷戦争の記憶がきりもなく戻ってくる。
血の海。刀と死体の山。友の死。
つゆはにわかに具合が悪くなりながら廊下で息をついた。
キッチンから灯りが漏れており、血のにおいはそこを頂点としていた。
「辻斬りが____」
という昼間の警備員の言葉を胸に傍にあった重い燭台をつかむとキッチンの灯りの中へ踏み出した。
すると人は居なく、しかし冷蔵庫に血がついていた。
「つゆ?」
視界の端から伸びてきた手。血のにおい。
つゆは思わず振り払って身を避けた。
血のにおいを頂点としているのは銀時だった。
見れば、腕の持ち主がこちらを認めて立ち尽くしている。
銀時のその手は行き場をなくしていた。
心身共に蒼白のまま、つゆは勝手に退く足で踵を返して走り出した。
自分の心音と足音だけが迫る廊下は長く静かだった。
いつもなら気をつける床板の浮き上がりに躓いたのは今だった。
斜めに思い切り転び、額を打った。
目の上からつと生暖かいものを感じて触るとその指先に血が。
踏み出した足がガクンと下がった。
しかしそれにも構わず足早にその場を立ち去ると、また目の上から流れてくる。
血からは逃げられない。
つゆは端にあった鏡の前に立ち、目を凝らした。
目の上の額が切れている。
「救急箱は?」
ふと真上から声がした。
銀時だ。
頭にハチマキを巻いて、伸ばす手が動くと甲冑の音がする。
「つゆ」
血を流しているのは銀時の方だった。
その腹の傷は見ただけで深いと分かる。
早く縫わないと____。
「つゆ」
つゆの顔を銀時の広い両手が覆った。
びくりとつゆの身体が震える。
「誰が見える?」
紅い目。
真剣な顔をしてこちらを見ている。
「銀____」
見れば、甲冑のない身軽な格好で銀時がそこに立っている。
「つゆ。いつもいるから」
つゆの焦点が合うのは生真面目な顔をした銀時の目だった。
「俺ァいつもいるから。な」
頬を撫でる手が優しい。
つゆは静かに瞬いてもう一度銀時の腹を見た。
傷は無い。何処にも。何処も血に濡れていない。
「何か飲むだろ?」
傍のカウチに座らせてくれたあと、銀時は救急箱とお茶を持って戻ってきた。
「つーかよォ、派手に転んだなァおい。広げていい?」
「麻酔しなきゃ」
ないと知っていても痛がりなつゆがいう。
「広げていい?」
「なにを?」
つゆがにっこりと笑ってみせると銀時もまたにっこりと笑い
「此処」
と膝の傷に触れた。
「痛っ……っ」
痛みで跳ねたつゆの足を掴み、銀時がニヤリと笑った。
つゆの顔つきはたちまち暗転し
「麻酔してよ」
きりもなく暗くなるつゆを見て銀時が肩を震わせて笑いだした。
「変わらねえなァおい」
と。