睫毛に蝶
空欄の場合はつゆになります
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
家主に長期の留守で雇われた。
「此処にある本は幾ら読んでも構わない。けどただじゃない。古書の整理を頼まれてくれ」
と、そう言われてからつゆは暫くをこの屋敷で過ごしている。
二階建ての洋館で、どの部屋にも埃と一緒に本が積まれていた。
本は、キッチンの戸棚を開けるとパスタの瓶と一緒に倒れていたり、あらゆる場所から出てきたりもした。
「今の知ってる猫?」
猫の出て行った方を見て「さあ。お隣かな」と警備員は言う。
隣といえば二軒あり、一方は行灯屋、そしてもう一方は随分離れているが町へ出る前にある洋風の茶屋だった。
果たして猫は扉の向こうへ行くためにノブを下ろし、押し開いたりするものだろうか。
つゆが気になるのは昨夜の出来事である。
自分の座敷にしている寝室の扉の向こうに昨夜、何者かがいた。
入眠を促す薬湯を昨夜は忘れて夜を迎えたつゆの眠気は何処なと遠く冴えていた。
明かりの消した暗い部屋でじっとしているのも飽きてきた頃、雨が降ってきた。
濡れても尚、背の高い針葉樹の群れは枝の先までピンとして立ち、空を指している。
すると、滴の伝う窓ガラスの闇の中で何かが動いた気がした。
その違和感から離れずじっとしていると、硝子に映りこんだ部屋のドアノブが奇妙なことに下がっている。
それは確かに、誰かが外側から握って押し開こうとしている角度で止まっているのだった。
息をひそめて、つゆは半身を起こしていた。
その不可解なものに焦点を合わせて。
鍵にぶつかり行き止まるという動きを二度繰り返した後で静かになった。
屋敷にいるのは警備の他いない。
声をかけようかともひらめいたがそうしなかった。
つゆの目の中で、扉のドアノブがそれはゆっくりと元の位置に戻った。
まるで何者も起こさないような静かさで、横たわる真夜中を置いて。
「昨日、わたしの部屋を開けた?」
窓を背にして向き直った彼は心なしか顔色が悪い。
夜の警備が不慣れなせいだろうか。
「いえ。そんな失礼な事は決して。そういえば、町の外れで辻斬りが出たそうで。この辺りまで及ぶか分かりませんが今夜は用心に用心を重ねないと」
その夜のことだった。
入眠を促す薬湯を飲みながらつゆが本を読んでいると廊下で足音がした。
辻斬りの噂や昨夜のこともあって、足音の不気味さといったらない。
警備員だと思われたが、つゆは思い切って部屋の扉を開けて廊下を覗いた。
すると、懐中電灯の明かりと共に歩いていたのは見知った顔の男だった。
「銀? ____なんで……____」
「何だ聞いてねえの?」
夜間の警備員。
実は、芝居を見るために万事屋へ依頼し夜間の管理交代をして貰っていたという。
「もう既に何度か、な」
「知らなかった」
「おめえは何してる?」
事情を話すと、本ね、と低く呟いて銀時は納得した。
攘夷戦争の真っ只中、つゆが薬の本を読み漁っていたのを知っている1人である。
救護班が出来てからも、つゆは知識を得ることを続けた。
飯を炊く合間に、あるいは炊くのも放って。
眠るのを惜しみ、あるいは眠れない夜に____暇があれば読み、採り、薬をつくりあげる。
そのつゆは今、色を失った顔で銀時を見ていた。
ふと、表情を緩ませた彼は何に笑いを誘われたのかと思えばこう言ったのだった。
「傑作だな。幽霊でも見たような顔じゃねえか。茶でも持って来るわ」
「此処にある本は幾ら読んでも構わない。けどただじゃない。古書の整理を頼まれてくれ」
と、そう言われてからつゆは暫くをこの屋敷で過ごしている。
二階建ての洋館で、どの部屋にも埃と一緒に本が積まれていた。
本は、キッチンの戸棚を開けるとパスタの瓶と一緒に倒れていたり、あらゆる場所から出てきたりもした。
「今の知ってる猫?」
猫の出て行った方を見て「さあ。お隣かな」と警備員は言う。
隣といえば二軒あり、一方は行灯屋、そしてもう一方は随分離れているが町へ出る前にある洋風の茶屋だった。
果たして猫は扉の向こうへ行くためにノブを下ろし、押し開いたりするものだろうか。
つゆが気になるのは昨夜の出来事である。
自分の座敷にしている寝室の扉の向こうに昨夜、何者かがいた。
入眠を促す薬湯を昨夜は忘れて夜を迎えたつゆの眠気は何処なと遠く冴えていた。
明かりの消した暗い部屋でじっとしているのも飽きてきた頃、雨が降ってきた。
濡れても尚、背の高い針葉樹の群れは枝の先までピンとして立ち、空を指している。
すると、滴の伝う窓ガラスの闇の中で何かが動いた気がした。
その違和感から離れずじっとしていると、硝子に映りこんだ部屋のドアノブが奇妙なことに下がっている。
それは確かに、誰かが外側から握って押し開こうとしている角度で止まっているのだった。
息をひそめて、つゆは半身を起こしていた。
その不可解なものに焦点を合わせて。
鍵にぶつかり行き止まるという動きを二度繰り返した後で静かになった。
屋敷にいるのは警備の他いない。
声をかけようかともひらめいたがそうしなかった。
つゆの目の中で、扉のドアノブがそれはゆっくりと元の位置に戻った。
まるで何者も起こさないような静かさで、横たわる真夜中を置いて。
「昨日、わたしの部屋を開けた?」
窓を背にして向き直った彼は心なしか顔色が悪い。
夜の警備が不慣れなせいだろうか。
「いえ。そんな失礼な事は決して。そういえば、町の外れで辻斬りが出たそうで。この辺りまで及ぶか分かりませんが今夜は用心に用心を重ねないと」
その夜のことだった。
入眠を促す薬湯を飲みながらつゆが本を読んでいると廊下で足音がした。
辻斬りの噂や昨夜のこともあって、足音の不気味さといったらない。
警備員だと思われたが、つゆは思い切って部屋の扉を開けて廊下を覗いた。
すると、懐中電灯の明かりと共に歩いていたのは見知った顔の男だった。
「銀? ____なんで……____」
「何だ聞いてねえの?」
夜間の警備員。
実は、芝居を見るために万事屋へ依頼し夜間の管理交代をして貰っていたという。
「もう既に何度か、な」
「知らなかった」
「おめえは何してる?」
事情を話すと、本ね、と低く呟いて銀時は納得した。
攘夷戦争の真っ只中、つゆが薬の本を読み漁っていたのを知っている1人である。
救護班が出来てからも、つゆは知識を得ることを続けた。
飯を炊く合間に、あるいは炊くのも放って。
眠るのを惜しみ、あるいは眠れない夜に____暇があれば読み、採り、薬をつくりあげる。
そのつゆは今、色を失った顔で銀時を見ていた。
ふと、表情を緩ませた彼は何に笑いを誘われたのかと思えばこう言ったのだった。
「傑作だな。幽霊でも見たような顔じゃねえか。茶でも持って来るわ」