暗転
空欄の場合はつゆになります
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「戻る? 戻るも何もねえさ」
どういう意味かと心の内で問いながら、つゆは布切れの向こうを凝視する。
いつか戻る事ははじめからわかっていた。
そうして今理解しつつある。
分かち難くても、彼はもういないことを。
そこにいるのは恐らくあの意地の悪い銀時だということ。
そして声は変わらず真横から降ってきていた。
何をおいても身動きの仕様がなく、つゆは解ける気配のまるでない結びに緊張しながら彼に問いかけてみる他なかった。
「どういうこと?」
物音ひとつない静けさも不気味で、暗闇の向こうを灯りひとつでみつけ出すような気持ちがする。
「____他に誰か、いるの?」
問いかけながら、その先を見ようと息をしていた。
足音ひとつ立てずに。
「いねえよ。ふたりきりだ」
落ち着いた低い声で話す銀時の声が暗がりから返ってきた。
「俺のことようく覚えて貰おうと思って。こうすると目の前が冴えて感じるだろ?」
言う事はつゆを混乱させるばかり。
もし、これがいつもの嫌がらせなら今までで一番気持ちの悪いしつこさだ。
可能性はある。
「楽しいの? こんな悪戯して。二人して拐かされたのかと思った」
苛立ちがあった。
「外してよ。全然わからない____」
「外したらわかんの?」
「わたしは、此処がどこなのかを知りたいの」
「二人きりの場所だよ」
「____帰る途中だった。これじゃ帰れない」
気配にそばだててみても彼がわからない。
「帰る?」
ただこちらをじっと見ている視線だけは感じ取れる。
そして銀時はまるで不思議そうに今と全く同じ声色で問いかけるのだった。「何処に?」と。
「此処にいるんだぜ。頼りにしてくれてたよな。俺だけを」
落ち着いた、しかし何処かズレたその抑揚といい、戻ったとはいえ彼は何かが可笑しい。
違和感は爪の先までしんと伝わり、つゆの手首に絡まる縄は先程からびくともしなかった。
帰ればそれを喜ぶ人がいっぱいいるというのに、それとも未だ何かなくしているのか。
つゆはごく冷静にこう言った。
「知ってる人、言ってみて」
「俺ァ正気だよ」
確かにつゆが解いて欲しいものを解かない銀時は正気だ。
すると腕の横に体重の沈む気配があり、つゆの緊張の糸はどんどん細くなっていった。
「じゃあ、お医者さんに診てもらった方がいいよ。長い間、記憶が飛んでたんだから」
「俺のこと嫌いになっちゃった? こんな、____つゆを独り占めしようとする俺は」
つゆは苦戦しながらきいていた。
銀時の眼光をまざまざと感じながら。
そしてつゆの思うよりずっと、銀時は近くにいるのだった。
「けどもう手遅れなんだぜ。つゆが眠ってる間にたっぷり唾液の交換しちゃった」
何拍も置いて、つゆはほんの僅かに口の中でわらった。
暗い顔で
「なにそれ」
と。
わらうのに、その顔に差す陰りは静かに濃くなる。
「どうしたらつゆが離れねえか考えてたらよ、こんなにきつく縛っちまった」
「____どこなの」
不安になって言うと何かが頬に触れた。
暗闇。
武骨な手のひらは静かに熱く、つゆの顔をそこからやや上を向かせた。
「____此処にいる」
両の目で囲われたみたいな生気を正面に感じてつゆは息をのんだ。
「手が、空いてるならほどいてよ。銀時様」
喉の奥で銀時が笑った。
「懐かしいなァ。けどこれは遊びじゃァねえ。本気だぜ」
つゆは胸がざわざわする。
「腕、苦しいか?」
「苦しいに決まってる」
つゆが言うと銀時は「そうか」と答えてつゆの頬から手を離した。
一笑もない呼気で彼は続けた。
「んじゃァもっと苦しくなって貰おうかな」
厭な感じで心臓が鳴り、すると身構える間もなくつゆの唇は何か布のようなもので塞がれた。
出遅れて、咄嗟に首をひねって避けるつゆの鼻に銀時の舌が這い上がり
「俺のにおいする?」
口を塞いだ結び目がもうつゆの届かない場所にあった。
何が起こっているのか追いつかなくとも悪寒の走った背中で壁を押し、猛烈に乱れたつゆの呼気は内側にこもった。
どういう意味かと心の内で問いながら、つゆは布切れの向こうを凝視する。
いつか戻る事ははじめからわかっていた。
そうして今理解しつつある。
分かち難くても、彼はもういないことを。
そこにいるのは恐らくあの意地の悪い銀時だということ。
そして声は変わらず真横から降ってきていた。
何をおいても身動きの仕様がなく、つゆは解ける気配のまるでない結びに緊張しながら彼に問いかけてみる他なかった。
「どういうこと?」
物音ひとつない静けさも不気味で、暗闇の向こうを灯りひとつでみつけ出すような気持ちがする。
「____他に誰か、いるの?」
問いかけながら、その先を見ようと息をしていた。
足音ひとつ立てずに。
「いねえよ。ふたりきりだ」
落ち着いた低い声で話す銀時の声が暗がりから返ってきた。
「俺のことようく覚えて貰おうと思って。こうすると目の前が冴えて感じるだろ?」
言う事はつゆを混乱させるばかり。
もし、これがいつもの嫌がらせなら今までで一番気持ちの悪いしつこさだ。
可能性はある。
「楽しいの? こんな悪戯して。二人して拐かされたのかと思った」
苛立ちがあった。
「外してよ。全然わからない____」
「外したらわかんの?」
「わたしは、此処がどこなのかを知りたいの」
「二人きりの場所だよ」
「____帰る途中だった。これじゃ帰れない」
気配にそばだててみても彼がわからない。
「帰る?」
ただこちらをじっと見ている視線だけは感じ取れる。
そして銀時はまるで不思議そうに今と全く同じ声色で問いかけるのだった。「何処に?」と。
「此処にいるんだぜ。頼りにしてくれてたよな。俺だけを」
落ち着いた、しかし何処かズレたその抑揚といい、戻ったとはいえ彼は何かが可笑しい。
違和感は爪の先までしんと伝わり、つゆの手首に絡まる縄は先程からびくともしなかった。
帰ればそれを喜ぶ人がいっぱいいるというのに、それとも未だ何かなくしているのか。
つゆはごく冷静にこう言った。
「知ってる人、言ってみて」
「俺ァ正気だよ」
確かにつゆが解いて欲しいものを解かない銀時は正気だ。
すると腕の横に体重の沈む気配があり、つゆの緊張の糸はどんどん細くなっていった。
「じゃあ、お医者さんに診てもらった方がいいよ。長い間、記憶が飛んでたんだから」
「俺のこと嫌いになっちゃった? こんな、____つゆを独り占めしようとする俺は」
つゆは苦戦しながらきいていた。
銀時の眼光をまざまざと感じながら。
そしてつゆの思うよりずっと、銀時は近くにいるのだった。
「けどもう手遅れなんだぜ。つゆが眠ってる間にたっぷり唾液の交換しちゃった」
何拍も置いて、つゆはほんの僅かに口の中でわらった。
暗い顔で
「なにそれ」
と。
わらうのに、その顔に差す陰りは静かに濃くなる。
「どうしたらつゆが離れねえか考えてたらよ、こんなにきつく縛っちまった」
「____どこなの」
不安になって言うと何かが頬に触れた。
暗闇。
武骨な手のひらは静かに熱く、つゆの顔をそこからやや上を向かせた。
「____此処にいる」
両の目で囲われたみたいな生気を正面に感じてつゆは息をのんだ。
「手が、空いてるならほどいてよ。銀時様」
喉の奥で銀時が笑った。
「懐かしいなァ。けどこれは遊びじゃァねえ。本気だぜ」
つゆは胸がざわざわする。
「腕、苦しいか?」
「苦しいに決まってる」
つゆが言うと銀時は「そうか」と答えてつゆの頬から手を離した。
一笑もない呼気で彼は続けた。
「んじゃァもっと苦しくなって貰おうかな」
厭な感じで心臓が鳴り、すると身構える間もなくつゆの唇は何か布のようなもので塞がれた。
出遅れて、咄嗟に首をひねって避けるつゆの鼻に銀時の舌が這い上がり
「俺のにおいする?」
口を塞いだ結び目がもうつゆの届かない場所にあった。
何が起こっているのか追いつかなくとも悪寒の走った背中で壁を押し、猛烈に乱れたつゆの呼気は内側にこもった。