暗転
空欄の場合はつゆになります
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越後屋の隣にある薬屋は江戸でも評判だ。
大きなお抱えの客が幾つかあって、その一つが真撰組。
今日も減っている薬を確認するためにつゆはおおきな薬棚を背負って訪問した。
夏の陽射しが眩しい季節になり日が長くなった。
縁側の真ん中に胡座をかいた沖田が蝉に紐をつけて遊んでおり、つゆは足を止めた。
「器用な事をするんだね。つかまえてどうするの?」
すると沖田が顔に近づけた蝉が羽ばたく。
「涼しいでしょう」
「蝉の羽はとても薄いよ」
つゆは荷を下ろすと引き出しからうちわを取り出して渡した。
「この方がずっと涼しい」
「あー涼しい」
しかし沖田は止めない。
「しかも、蝉は焼いたら旨いんだぜ。覚えておきなせえ」
「駄目ですよ。隊長。悪戯に捕まえては可哀想じゃありませんか」
沖田はこれみよがしにはつゆに見せる。
つゆが嫌がるのを知っているのだ。
それで今日も仕事を終えたつゆがうちわを渡しに行く。
すると
「何でィ。商売が上手いじゃねえか。この蝉はあんたの差し金か? 朝から虫取りたァご苦労なこってィ」
「お金、頂きませんから」
「出すなんて言ってねえぜ。腹の足しにするのに訳がいんのかい?」
「訳など、いりません。貴方が本当に食べ物に困っているなら」
薬棚を背負い直して、つゆは踵を返す。
「ちょいと待ちな」
肩を掴まれて振り向くと沖田は常の無表情だった。
そして、べ、と舌を出して口の中のガムを見せる。
何かと思えばこれだ。
つゆは暗い顔をして眉根を寄せる。
「お放しください」
「どっちがいいか選びなせえ。明日もまた俺に遊ばれるのと今日拷問されるのと」
また始まると何人かの隊士が集まってくる。
見事に避けるので竹刀を渡した事のある沖田だが、つゆはことのほか避けるという技しか持っていなかった。
しかし沖田の太刀筋を避けるものだから、技だと呼びたくなるそれに代わりはない。
いよいよ避けられなくなってきたつゆをむんずと掴んだ沖田。
「最期に何か言う事はあるかい?」
目撃してしまった隊士達は慌てて止めに入る。
「来世で自分につける薬でもこさえるか?」
つゆの長い髪を掴んで刀を抜いている沖田に声がかかる。
「おーしそこまでだ」
「何でィ土方さん。ちょいと遊んでただけじゃねえか」
「それがちょいと遊んでた奴の面かよ。真剣抜いてんじゃねえか。てめえ____やり過ぎだ」
地面から立ち上がり、つゆは土という土を払う。
「あれは勝手にすっ転んだんでさァ」
「てめえが追い回すからだろうよ」
毎度こうなってしまう沖田とつゆを並んで座らせて、近藤は腕を組んで悩んだ。
「殴ったのは俺ですがね、煽ったのはつゆでさァ」
「先でも後でもいけません」
「そりゃ狡いや。勝ち負けで認めてくれねえと」
「一本勝負だな」
そう言う近藤に土方が呆れた。
「おい頼むぜ。寝言は寝てからだ」
「つゆはいい腕してるって言うんだぜ」
「避ける事に関してはな」
「俺がつゆにつこう」
「あんたが加勢してどうすんだよ。仕事放って遊ぶ気か? 構うな」
「つゆ。近藤さんは俺が貰う。友達でも虫でも一匹連れて来なせえ。加勢になるやも分かりやせんからね」
そういう沖田につゆは眉を歪めて暗転した。
「薬屋も風鈴を売る季節か。ひとつ貰えるか?あとはそうだな____」
近藤が選ぶ手元を跨いで沖田が部屋を出て行った。
「しかしどうするつもりだ。本当にやるのかよ」
沖田と近藤は乗り気だが、つゆの仲間はどうするか。
避けるしか出来ないつゆと決闘紛いのことをして何が楽しいというのか。
つゆは無口だ。そして寛容で孤立している。
それでいて陰気なところはまるでなく、むしろその口元には常に微笑が灯り話せばふわりと明るい。
大きなお抱えの客が幾つかあって、その一つが真撰組。
今日も減っている薬を確認するためにつゆはおおきな薬棚を背負って訪問した。
夏の陽射しが眩しい季節になり日が長くなった。
縁側の真ん中に胡座をかいた沖田が蝉に紐をつけて遊んでおり、つゆは足を止めた。
「器用な事をするんだね。つかまえてどうするの?」
すると沖田が顔に近づけた蝉が羽ばたく。
「涼しいでしょう」
「蝉の羽はとても薄いよ」
つゆは荷を下ろすと引き出しからうちわを取り出して渡した。
「この方がずっと涼しい」
「あー涼しい」
しかし沖田は止めない。
「しかも、蝉は焼いたら旨いんだぜ。覚えておきなせえ」
「駄目ですよ。隊長。悪戯に捕まえては可哀想じゃありませんか」
沖田はこれみよがしにはつゆに見せる。
つゆが嫌がるのを知っているのだ。
それで今日も仕事を終えたつゆがうちわを渡しに行く。
すると
「何でィ。商売が上手いじゃねえか。この蝉はあんたの差し金か? 朝から虫取りたァご苦労なこってィ」
「お金、頂きませんから」
「出すなんて言ってねえぜ。腹の足しにするのに訳がいんのかい?」
「訳など、いりません。貴方が本当に食べ物に困っているなら」
薬棚を背負い直して、つゆは踵を返す。
「ちょいと待ちな」
肩を掴まれて振り向くと沖田は常の無表情だった。
そして、べ、と舌を出して口の中のガムを見せる。
何かと思えばこれだ。
つゆは暗い顔をして眉根を寄せる。
「お放しください」
「どっちがいいか選びなせえ。明日もまた俺に遊ばれるのと今日拷問されるのと」
また始まると何人かの隊士が集まってくる。
見事に避けるので竹刀を渡した事のある沖田だが、つゆはことのほか避けるという技しか持っていなかった。
しかし沖田の太刀筋を避けるものだから、技だと呼びたくなるそれに代わりはない。
いよいよ避けられなくなってきたつゆをむんずと掴んだ沖田。
「最期に何か言う事はあるかい?」
目撃してしまった隊士達は慌てて止めに入る。
「来世で自分につける薬でもこさえるか?」
つゆの長い髪を掴んで刀を抜いている沖田に声がかかる。
「おーしそこまでだ」
「何でィ土方さん。ちょいと遊んでただけじゃねえか」
「それがちょいと遊んでた奴の面かよ。真剣抜いてんじゃねえか。てめえ____やり過ぎだ」
地面から立ち上がり、つゆは土という土を払う。
「あれは勝手にすっ転んだんでさァ」
「てめえが追い回すからだろうよ」
毎度こうなってしまう沖田とつゆを並んで座らせて、近藤は腕を組んで悩んだ。
「殴ったのは俺ですがね、煽ったのはつゆでさァ」
「先でも後でもいけません」
「そりゃ狡いや。勝ち負けで認めてくれねえと」
「一本勝負だな」
そう言う近藤に土方が呆れた。
「おい頼むぜ。寝言は寝てからだ」
「つゆはいい腕してるって言うんだぜ」
「避ける事に関してはな」
「俺がつゆにつこう」
「あんたが加勢してどうすんだよ。仕事放って遊ぶ気か? 構うな」
「つゆ。近藤さんは俺が貰う。友達でも虫でも一匹連れて来なせえ。加勢になるやも分かりやせんからね」
そういう沖田につゆは眉を歪めて暗転した。
「薬屋も風鈴を売る季節か。ひとつ貰えるか?あとはそうだな____」
近藤が選ぶ手元を跨いで沖田が部屋を出て行った。
「しかしどうするつもりだ。本当にやるのかよ」
沖田と近藤は乗り気だが、つゆの仲間はどうするか。
避けるしか出来ないつゆと決闘紛いのことをして何が楽しいというのか。
つゆは無口だ。そして寛容で孤立している。
それでいて陰気なところはまるでなく、むしろその口元には常に微笑が灯り話せばふわりと明るい。
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