明暗
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その夜遅く、見回り帰りにつゆの部屋の灯りがついているのを認めて土方は障子を開け放った。
「よお」
つゆはめそめそと泣いてなどいなかった。
行灯の灯りのようにひっそりと、しかし確かに明るくつゆの生気が光っている。
部屋の真ん中に座して三味線を抱えるつゆは振り返り
「おかえりなさい」
土方は一口で答えた。
「ただいま」
と。
文机の上、窓の下、障子の前、灯りの後ろ____、至るところに果物の箱が重なっており、部屋の中は果物のにおいでいっぱいだった。
「果物屋か? 此処は」
手前にあって、土方のすねに当たってしまった箱から跳ねた林檎は重たい音を立てて畳に転がった。
「何でもありますよ。近藤さんが食べてって」
「ほう。また近藤さんがね」
つゆへのお悔やみのつもりだろう。
箱を拾い上げて、土方は文机の上に置き直した。
林檎は鮮やかに紅く、手に余る程おおきい。
転がった林檎は三味線の調子を直すつゆの膝の真横で止まった。
真横にどっかりと座ると、土方は言った。
「何か聞かせてくれ」
つゆは雨のように真っ直ぐすっきりと笑いバチを握った。
一曲、二曲、三曲と続けてつゆの雨垂れ拍子のようなそれを土方は黙ってそこで聞いていた。
四曲目をつま弾き終えた時、やわらかな風が吹いた。
「土方さん、三味線が好きなの? 毎日聞いてる」
「ああ。____好きだ」
六月なのに肌寒い真夜中だった。
しかし窓は開け放たれている。
つゆはその四角い夜をみつめてやわらかな風を顔と首で受け止めた。
「月のない夜に月見をするとは乙なもんだな」
目を伏せる間にもつゆはただ笑い、また三味線をつま弾き何も答えなかった。
恐らく今は何も考えていない。
土方から見てそういう静けさでつゆはそこに存在していた。
そういう時のつゆの微笑はきりもなく静かだ。
真夏の影のように明るく濡れてひっそりとしている。
九曲目の終わった今
「もうひけない」
仰向けに倒れたつゆの目はやわらかに閉じ、心持ちすっきりとした顔をしている。
つゆの長い髪の一筋がかかった土方の指がピクリと微かに動く。
つゆの睫毛は蝶がとまれそうな程静かだ。
「つゆ」
睫毛を持ち上げたつゆの目は天井を撫でる。
「んなとこで寝たら風邪ひくぜ」
つゆの夜は長い。
長年一緒にいる土方はよく知っている。
「朝飯でもどうだ? 釣りに行く」
以前、真夜中に土方に誘われて釣りに行ったことがある。
釣りの成果で罰ゲームがあり、負けたつゆは打ち合いに付き合った。
出来もしないのに、いいからやれと言われ攻めに攻められ酷い目にあった。
思い出して、たちまち暗転するつゆは思った。
「罰ゲームはありですか?」
あからさまに嫌な顔で暗転するつゆに土方は喉の奥で笑う。
「行くぜ」
手を引かれ、つゆは無理矢理半身を起こされた。
「よお」
つゆはめそめそと泣いてなどいなかった。
行灯の灯りのようにひっそりと、しかし確かに明るくつゆの生気が光っている。
部屋の真ん中に座して三味線を抱えるつゆは振り返り
「おかえりなさい」
土方は一口で答えた。
「ただいま」
と。
文机の上、窓の下、障子の前、灯りの後ろ____、至るところに果物の箱が重なっており、部屋の中は果物のにおいでいっぱいだった。
「果物屋か? 此処は」
手前にあって、土方のすねに当たってしまった箱から跳ねた林檎は重たい音を立てて畳に転がった。
「何でもありますよ。近藤さんが食べてって」
「ほう。また近藤さんがね」
つゆへのお悔やみのつもりだろう。
箱を拾い上げて、土方は文机の上に置き直した。
林檎は鮮やかに紅く、手に余る程おおきい。
転がった林檎は三味線の調子を直すつゆの膝の真横で止まった。
真横にどっかりと座ると、土方は言った。
「何か聞かせてくれ」
つゆは雨のように真っ直ぐすっきりと笑いバチを握った。
一曲、二曲、三曲と続けてつゆの雨垂れ拍子のようなそれを土方は黙ってそこで聞いていた。
四曲目をつま弾き終えた時、やわらかな風が吹いた。
「土方さん、三味線が好きなの? 毎日聞いてる」
「ああ。____好きだ」
六月なのに肌寒い真夜中だった。
しかし窓は開け放たれている。
つゆはその四角い夜をみつめてやわらかな風を顔と首で受け止めた。
「月のない夜に月見をするとは乙なもんだな」
目を伏せる間にもつゆはただ笑い、また三味線をつま弾き何も答えなかった。
恐らく今は何も考えていない。
土方から見てそういう静けさでつゆはそこに存在していた。
そういう時のつゆの微笑はきりもなく静かだ。
真夏の影のように明るく濡れてひっそりとしている。
九曲目の終わった今
「もうひけない」
仰向けに倒れたつゆの目はやわらかに閉じ、心持ちすっきりとした顔をしている。
つゆの長い髪の一筋がかかった土方の指がピクリと微かに動く。
つゆの睫毛は蝶がとまれそうな程静かだ。
「つゆ」
睫毛を持ち上げたつゆの目は天井を撫でる。
「んなとこで寝たら風邪ひくぜ」
つゆの夜は長い。
長年一緒にいる土方はよく知っている。
「朝飯でもどうだ? 釣りに行く」
以前、真夜中に土方に誘われて釣りに行ったことがある。
釣りの成果で罰ゲームがあり、負けたつゆは打ち合いに付き合った。
出来もしないのに、いいからやれと言われ攻めに攻められ酷い目にあった。
思い出して、たちまち暗転するつゆは思った。
「罰ゲームはありですか?」
あからさまに嫌な顔で暗転するつゆに土方は喉の奥で笑う。
「行くぜ」
手を引かれ、つゆは無理矢理半身を起こされた。