明暗
空欄の場合はつゆになります
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夜は長く深く静かだった。
誰もいない廊下を歩いて裏口へ続く玄関へ出ると門番から死角になっている塀がある。
そこを目掛けて飛び上がろうとした時、肩を掴まれた。
「待たんかい」
つゆが振り向くと土方がそこに立っている。
「こんな夜更けに俺の目を掻い潜って何処行こうってんだ」
鬼の副長を見てもつゆは夜の中でただひっそりと笑い答えた。
「散歩」
土方がため息と共に煙を吐き出した。
「こんな時間の散歩を好むとは困りもんだな。次からは言えよ」
土方がつゆの背中を押して歩き出した。
一緒に行ってくれるつもりなのだ。
夜の散歩は気持ちがいい。
誰もいない通りも静かな公園も無口な木々も。
夜はそこにある全てのものが互いに引き立て合っているかのような静けさが存在する。
「いいのか? 明日に支障が出るぜ」
もう歩き出している土方が言い、またひとつ煙を吐き出した。
「いいの。散歩したかったんだから」
明日、つゆは交際したばかりの男と出掛ける約束をしている。
「酒は飲むなよ、弱えんだからよ。四時には帰れ。迎えに行く」
「お兄ちゃん?」
つゆは笑うが土方は眉一つ動かさなかった。
「それで、何処へ行くんだ?」
「お団子屋さん。土方さんも行きますか?」
ふと土方がひとりきり足を止めた。
沈黙の中、夜の中を二、三歩踏み出したつゆも足を止めて目の前のおおきな柳を見上げる。
たゆとうしだれ柳の枝と一緒に髪を揺られながらつゆが今幽かに微笑を灯して振り返った。
「つゆちゃん俺____…… 合わせる顔なんてないんだ。御免」
交際三日目で つゆは振られた。
理由は分からない。
蒼く芽吹いた柳の下で、沖田は往来の向こうを見ていた。
「飯食ったらからかってやろうと思ってたんでさァ。それがあのまま動かなくてね」
白い番傘の下、団子屋の長椅子につゆがひとり、懐紙に挟んだ大福を持って座っている。
まるで初めて見るものでもつかまえたみたいに菓子を見つめたまま動かない。
それはじっと一瞥しているのだった。
「そうさな。あまりの旨さに固まってんだろ」
銀時が言い、沖田はそれに眉を器用に片方だけ吊り上げて言った。
「いや、舐めてもかじってもいねえでしょう」
「さらして香りをつけてんだよ。ほら見ろ、あそこに高ぇが旨い抹茶を飲んでる奴がいんだろ。そのにおいを付けて食おうって寸法だ。通だね」
「阿呆な事言いなさんな。旦那じゃねぇんだから」
見守っているうちに日が暮れてきた。
「おい暮れてきたぞ」
つゆは一向にそのままの姿勢で固まっている。
もう二時間になる。
町の向こうに日が沈み、辺りが藍色に染まりはじめた頃しびれを切らした銀時が踏み込んだ。
「____っ食えやおらっ!」
大福を握っているつゆの手を持ってつゆの口にあてる。
つゆが口を開けないのでそれは口に打ち当たり
「こうやって食うんだぜ。おら口開けろィ」
銀時が何度も繰り返すと頬や目にも打ち当たる。
「つゆちゃんは何処で食うんですか? 口か? 目か? 口だよなァさっさと開けろオラ」
大福の粉で真っ白になったつゆの顔にあんこが飛び散った。
一口になった大福の欠片をつゆの開いた口に押し込んで銀時が言う。
「上手じゃねえの。次からもこうして食わしてやろうか? どうなんだよつゆ」
咳き込むつゆの目の前に銀時のブーツを履いた足が見える。
「旦那ァ。あんまりうちのつゆを虐めないで下せえ。ほらつゆ。これで面ァ拭きな」
店員が運んでいたケーキを二つ取り、沖田はそれをつゆの頭と顔面に押し当てた。
ぐにゃりと顔と頭に潰れた感触がして、つゆは肩をすくめて立ち上がった。
「____……っ」
つゆは声も出ない。
沖田が笑う声の中つゆの頭から皿がずり落ちた。
誰もいない廊下を歩いて裏口へ続く玄関へ出ると門番から死角になっている塀がある。
そこを目掛けて飛び上がろうとした時、肩を掴まれた。
「待たんかい」
つゆが振り向くと土方がそこに立っている。
「こんな夜更けに俺の目を掻い潜って何処行こうってんだ」
鬼の副長を見てもつゆは夜の中でただひっそりと笑い答えた。
「散歩」
土方がため息と共に煙を吐き出した。
「こんな時間の散歩を好むとは困りもんだな。次からは言えよ」
土方がつゆの背中を押して歩き出した。
一緒に行ってくれるつもりなのだ。
夜の散歩は気持ちがいい。
誰もいない通りも静かな公園も無口な木々も。
夜はそこにある全てのものが互いに引き立て合っているかのような静けさが存在する。
「いいのか? 明日に支障が出るぜ」
もう歩き出している土方が言い、またひとつ煙を吐き出した。
「いいの。散歩したかったんだから」
明日、つゆは交際したばかりの男と出掛ける約束をしている。
「酒は飲むなよ、弱えんだからよ。四時には帰れ。迎えに行く」
「お兄ちゃん?」
つゆは笑うが土方は眉一つ動かさなかった。
「それで、何処へ行くんだ?」
「お団子屋さん。土方さんも行きますか?」
ふと土方がひとりきり足を止めた。
沈黙の中、夜の中を二、三歩踏み出したつゆも足を止めて目の前のおおきな柳を見上げる。
たゆとうしだれ柳の枝と一緒に髪を揺られながらつゆが今幽かに微笑を灯して振り返った。
「つゆちゃん俺____…… 合わせる顔なんてないんだ。御免」
交際三日目で つゆは振られた。
理由は分からない。
蒼く芽吹いた柳の下で、沖田は往来の向こうを見ていた。
「飯食ったらからかってやろうと思ってたんでさァ。それがあのまま動かなくてね」
白い番傘の下、団子屋の長椅子につゆがひとり、懐紙に挟んだ大福を持って座っている。
まるで初めて見るものでもつかまえたみたいに菓子を見つめたまま動かない。
それはじっと一瞥しているのだった。
「そうさな。あまりの旨さに固まってんだろ」
銀時が言い、沖田はそれに眉を器用に片方だけ吊り上げて言った。
「いや、舐めてもかじってもいねえでしょう」
「さらして香りをつけてんだよ。ほら見ろ、あそこに高ぇが旨い抹茶を飲んでる奴がいんだろ。そのにおいを付けて食おうって寸法だ。通だね」
「阿呆な事言いなさんな。旦那じゃねぇんだから」
見守っているうちに日が暮れてきた。
「おい暮れてきたぞ」
つゆは一向にそのままの姿勢で固まっている。
もう二時間になる。
町の向こうに日が沈み、辺りが藍色に染まりはじめた頃しびれを切らした銀時が踏み込んだ。
「____っ食えやおらっ!」
大福を握っているつゆの手を持ってつゆの口にあてる。
つゆが口を開けないのでそれは口に打ち当たり
「こうやって食うんだぜ。おら口開けろィ」
銀時が何度も繰り返すと頬や目にも打ち当たる。
「つゆちゃんは何処で食うんですか? 口か? 目か? 口だよなァさっさと開けろオラ」
大福の粉で真っ白になったつゆの顔にあんこが飛び散った。
一口になった大福の欠片をつゆの開いた口に押し込んで銀時が言う。
「上手じゃねえの。次からもこうして食わしてやろうか? どうなんだよつゆ」
咳き込むつゆの目の前に銀時のブーツを履いた足が見える。
「旦那ァ。あんまりうちのつゆを虐めないで下せえ。ほらつゆ。これで面ァ拭きな」
店員が運んでいたケーキを二つ取り、沖田はそれをつゆの頭と顔面に押し当てた。
ぐにゃりと顔と頭に潰れた感触がして、つゆは肩をすくめて立ち上がった。
「____……っ」
つゆは声も出ない。
沖田が笑う声の中つゆの頭から皿がずり落ちた。
1/7ページ