うしろの正面
空欄の場合はつゆになります
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翌日の事だった。
お昼休憩にお茶を淹れたつゆは雑草を抜いている銀時の真後ろに立った。
「銀時様。お茶をどうぞ」
土を軽く払い立ち上がった銀時の影でつゆの上背が暗くなる。
振り向いた銀時の影はつゆの姿をすっぽりと隠した。
その影の中で、冴えて青いお茶のひとつなぎを見つめるつゆは伏せた睫毛の先まで静かだった。
「つゆ。こっち見て」
見られている気配を感じて顔を赤くするつゆの盆を持つ手が震えていた。
「信じろよ。何か考えておくっつったろ」
つゆは銀時が思っていた以上に素直だった。
ふと顔を上げたつゆの瞳は空を映す水の溜まりのような静かさで全てを囲う。
焦点を当てて睫毛を持ち上げるその一息はむしろ無防備な程だった。
「____……」
つゆの前に狐が立っていた。
狐面を掛けた銀時が。
「どうよ。これ」
自身の顔を親指で指して彼は言う。
「おめえがこっち見てくれんなら、俺ァ化けてでも出るぜ。つゆの前に」
唖然とするつゆに銀時は尚もいう。
「どうよ。気に入った?」
銀時の視線は狐面越しにも強く、それに戸惑ったつゆは
「もう少し離れてください」
という。
それで二、三歩下がった銀時につゆはもっと、という。
三メートル程離れたところで銀時の顔は狐にしか見えなくなった。
「こんなに?」
「はい」
つゆはふわりと笑った。
つゆは素直で孤立していておおらかでつめたかった。
晴れなのに降りる雨みたいに。
銀時は時々聞いた。
「もっと近づいていい?」
と。
返事は決まって駄目だった。
つゆと目が合うようになったが距離が遠のいた。
まるで逃げ水のようにつゆは銀時の外にいる。
その距離感のまま夕食をとったりその距離感のままお菓子を作ったり食べたりした。
風呂上がり髪の乾かないまま二人で春の花火を見た。
「いいもんがあるからよ、そっち行っていい?」
つゆは仄かに首をかたげ、無防備なまま何も言わなかった。
カツンカツンとブーツの音が鳴る。
銀時が近づくにつれてつゆの視線は下がっていった。
春で、闇の濃い夜だった。
銀時が持っていた桜茶はつゆの目を釘付けにした。
湯を注ぐと見るまに桜の花が咲いた。
その目の覚めるような美しさにつゆは
「もう一回やって」
これに銀時が肩を揺らして笑った。
「無茶言うなよ。咲くのは一回きりだぜ」
お茶を手に取りつぶさに見つめるつゆは何処までも見蕩れ、笑み砕けた。
「しゃァねえ。いいぜ、ちょいと待ってろよ」
そう言って銀時は町へ走り出した。
動きたい。走りたい。叫びたい。
夜を割いて店へ飛び込んだ銀時は言った。
「おいおっさん。桜茶あるだけ売ってくれ」
あるだけを受け取った銀時はまた走り出した。
つゆと血液を巡らせたい。体熱を上げたい。体と脳と水分を燃やしたい。
そう感じながらつゆの目を釘付けにし、笑みくだけさせた桜に暗い炎を燃やしていた。
嫉妬だ。
しかし買わずには、走らずにはいられなかった。
つゆをどんどん好きになる。
お昼休憩にお茶を淹れたつゆは雑草を抜いている銀時の真後ろに立った。
「銀時様。お茶をどうぞ」
土を軽く払い立ち上がった銀時の影でつゆの上背が暗くなる。
振り向いた銀時の影はつゆの姿をすっぽりと隠した。
その影の中で、冴えて青いお茶のひとつなぎを見つめるつゆは伏せた睫毛の先まで静かだった。
「つゆ。こっち見て」
見られている気配を感じて顔を赤くするつゆの盆を持つ手が震えていた。
「信じろよ。何か考えておくっつったろ」
つゆは銀時が思っていた以上に素直だった。
ふと顔を上げたつゆの瞳は空を映す水の溜まりのような静かさで全てを囲う。
焦点を当てて睫毛を持ち上げるその一息はむしろ無防備な程だった。
「____……」
つゆの前に狐が立っていた。
狐面を掛けた銀時が。
「どうよ。これ」
自身の顔を親指で指して彼は言う。
「おめえがこっち見てくれんなら、俺ァ化けてでも出るぜ。つゆの前に」
唖然とするつゆに銀時は尚もいう。
「どうよ。気に入った?」
銀時の視線は狐面越しにも強く、それに戸惑ったつゆは
「もう少し離れてください」
という。
それで二、三歩下がった銀時につゆはもっと、という。
三メートル程離れたところで銀時の顔は狐にしか見えなくなった。
「こんなに?」
「はい」
つゆはふわりと笑った。
つゆは素直で孤立していておおらかでつめたかった。
晴れなのに降りる雨みたいに。
銀時は時々聞いた。
「もっと近づいていい?」
と。
返事は決まって駄目だった。
つゆと目が合うようになったが距離が遠のいた。
まるで逃げ水のようにつゆは銀時の外にいる。
その距離感のまま夕食をとったりその距離感のままお菓子を作ったり食べたりした。
風呂上がり髪の乾かないまま二人で春の花火を見た。
「いいもんがあるからよ、そっち行っていい?」
つゆは仄かに首をかたげ、無防備なまま何も言わなかった。
カツンカツンとブーツの音が鳴る。
銀時が近づくにつれてつゆの視線は下がっていった。
春で、闇の濃い夜だった。
銀時が持っていた桜茶はつゆの目を釘付けにした。
湯を注ぐと見るまに桜の花が咲いた。
その目の覚めるような美しさにつゆは
「もう一回やって」
これに銀時が肩を揺らして笑った。
「無茶言うなよ。咲くのは一回きりだぜ」
お茶を手に取りつぶさに見つめるつゆは何処までも見蕩れ、笑み砕けた。
「しゃァねえ。いいぜ、ちょいと待ってろよ」
そう言って銀時は町へ走り出した。
動きたい。走りたい。叫びたい。
夜を割いて店へ飛び込んだ銀時は言った。
「おいおっさん。桜茶あるだけ売ってくれ」
あるだけを受け取った銀時はまた走り出した。
つゆと血液を巡らせたい。体熱を上げたい。体と脳と水分を燃やしたい。
そう感じながらつゆの目を釘付けにし、笑みくだけさせた桜に暗い炎を燃やしていた。
嫉妬だ。
しかし買わずには、走らずにはいられなかった。
つゆをどんどん好きになる。