傷に結う
空欄の場合はつゆになります
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高杉と桂。二人がいればつゆも必ず近くにいる。それが当然の日々の中であの光景を見た時、銀時は黒い風のように姿を変えた。
侍に後ろ髪を掴まれたつゆの横顔。髪を捨て、自身を刃物で切り離したつゆの身が生に沈んだ時、銀時の刀が侍を斬り裂いていた。
つゆが咄嗟に握った刃は切れ味の良いものではなかった。草間に埋まり、刃こぼれの目立つ代物。意志を持って強く握り過ぎたため、剥き出しのそれは髪を断つのと同時に鋭くつゆの皮膚を破き肉を断った。
傷ついた神経は、つゆの指を思うままにさせなくなった。ずっとこのままかもしれないと宣告されて、しかし利き手が動かなくとも何とかならなくては。そういう気持ちは身体にも伝わって、そして何かに苦戦する前に救いあげられる。その手はいつも銀時だった。
だから包帯を巻いて貰えばそのままにしたし、お湯を浴びれば時間がかかるが自分で巻き直して外へ出た。違う事などないみたいに。
銀時よりも早く目の覚めた身体で、つゆは障子の隙間に手を伸ばした。
もうじき暮れる。
そうなるとこの座敷は真っ赤に染まり、眩しくていられなくなるのだ。その前に抜け出そうとした腕を掴まれて、つゆはただひとりそこにいる人を顧みた。障子に背を預けて休んでいた彼は立ち上がり、そのままつゆの腕を引いて歩いた。つゆがどこを目指していたのかまるで知っているみたいに。
陰の出来た桃木の下はおおきくて静かで寛容だった。
つゆが休むと、その正面に足を突き刺したまま銀時は言った。
「何でも引き受けるって言ったろ?」
何て事のないように、恐らく彼は何度でも言う。
けれど、今日は少し違った。
「俺がお前の腕になる」
実際銀時は常につゆの傍にいて、しかしこんなふうに口にした事はない。
だからそれには少し驚いたが、そう言うのは確かに銀時なのだった。
そこに彼の意思が恐いくらいにそびえ立っている。
「何でもなんていらない」
つゆの顔には微笑が灯っていた。
なんでもない日に冴えた青い空を見るような、それは特別な気持ちが浮き上がっていた。
水面を割く小舟の跡のように言葉が静かについてきた。それ以外に言葉はなかった。
すると彼は眉ひとつ動かさずに繋げるのだった。まるでそれ以外ないみたいに。
「だったら勝手にさせて貰う」
独り言とは違う静かな密度でそう言い切った彼は僅かにも揺るがず、その場で背を向けた。
前に立つ銀時の上背の射す影。
そこは濃い影になり、つゆの姿をまるごと納めていた。
彼の勝手など知らない。
その向かう先、そしてその程も。
つゆもまた勝手で、しかしそれでも光と呼べる彼の何かを、それだけはもう大切に囲っていた。
だから侍である彼の気質を改めて理解した瞬間につゆはもうわらっていた。途方もなく静かに。
その真摯な一色はまるで訪れる夜のような素直さでその姿を受け入れたのだった。
「じゃあ此処にいて」
と。
「何でもなんていらないから」
侍に後ろ髪を掴まれたつゆの横顔。髪を捨て、自身を刃物で切り離したつゆの身が生に沈んだ時、銀時の刀が侍を斬り裂いていた。
つゆが咄嗟に握った刃は切れ味の良いものではなかった。草間に埋まり、刃こぼれの目立つ代物。意志を持って強く握り過ぎたため、剥き出しのそれは髪を断つのと同時に鋭くつゆの皮膚を破き肉を断った。
傷ついた神経は、つゆの指を思うままにさせなくなった。ずっとこのままかもしれないと宣告されて、しかし利き手が動かなくとも何とかならなくては。そういう気持ちは身体にも伝わって、そして何かに苦戦する前に救いあげられる。その手はいつも銀時だった。
だから包帯を巻いて貰えばそのままにしたし、お湯を浴びれば時間がかかるが自分で巻き直して外へ出た。違う事などないみたいに。
銀時よりも早く目の覚めた身体で、つゆは障子の隙間に手を伸ばした。
もうじき暮れる。
そうなるとこの座敷は真っ赤に染まり、眩しくていられなくなるのだ。その前に抜け出そうとした腕を掴まれて、つゆはただひとりそこにいる人を顧みた。障子に背を預けて休んでいた彼は立ち上がり、そのままつゆの腕を引いて歩いた。つゆがどこを目指していたのかまるで知っているみたいに。
陰の出来た桃木の下はおおきくて静かで寛容だった。
つゆが休むと、その正面に足を突き刺したまま銀時は言った。
「何でも引き受けるって言ったろ?」
何て事のないように、恐らく彼は何度でも言う。
けれど、今日は少し違った。
「俺がお前の腕になる」
実際銀時は常につゆの傍にいて、しかしこんなふうに口にした事はない。
だからそれには少し驚いたが、そう言うのは確かに銀時なのだった。
そこに彼の意思が恐いくらいにそびえ立っている。
「何でもなんていらない」
つゆの顔には微笑が灯っていた。
なんでもない日に冴えた青い空を見るような、それは特別な気持ちが浮き上がっていた。
水面を割く小舟の跡のように言葉が静かについてきた。それ以外に言葉はなかった。
すると彼は眉ひとつ動かさずに繋げるのだった。まるでそれ以外ないみたいに。
「だったら勝手にさせて貰う」
独り言とは違う静かな密度でそう言い切った彼は僅かにも揺るがず、その場で背を向けた。
前に立つ銀時の上背の射す影。
そこは濃い影になり、つゆの姿をまるごと納めていた。
彼の勝手など知らない。
その向かう先、そしてその程も。
つゆもまた勝手で、しかしそれでも光と呼べる彼の何かを、それだけはもう大切に囲っていた。
だから侍である彼の気質を改めて理解した瞬間につゆはもうわらっていた。途方もなく静かに。
その真摯な一色はまるで訪れる夜のような素直さでその姿を受け入れたのだった。
「じゃあ此処にいて」
と。
「何でもなんていらないから」
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