幸せな夢
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*
「うっ、ぐ…ゲホッゲホッ…主ー!」
ゴウゴウと燃え盛る炎の中、俺は本体を支えにしながら必死に足を動かす。半身は既に機能していないため、
たったの1歩でさえ進むのに時間がかかることに苛立った。
早く、早く…寂しがりのあの子の元へと行かねば…
呼吸をする毎に肺が焼け、体と思考は鉛のように重くなって視界がぼやける。仲間達の気配は薄く、この本丸が完全に落ちるのは時間の問題だろう。
それでも尚、ギリギリで命を繋いでいるであろう主君の気配だけは色濃く、俺の辿るべき道を照らす。
「…おい、鶴丸」
主のために執務室の防衛に当たっていた奴らの破片が散らばる中、黒い何かが息も絶え絶えで座り込んでいた。
「…………お前は…もしかして…伽羅坊?生きてたのか?」
「いや、俺…っ、は…もう、折れる」
「…そうか」
よく見ると俺に負けず劣らず血に染っており、四肢が揃っていることが不思議なくらいボロボロだった。
「あい…つ、なら、地下だ」
「そうかい。教えてくれて…ありがとな」
「こん…っ、ど…酒……奢れ、よ」
「あぁ…光坊の上手い肴と一緒に…上等なやつを用意してやるよ。ここの警護、ごくろーさん」
「ふん」
伽羅坊は満足そうな表情を浮かべると、パキンというガラスが割れたような音が聞こえた。他の奴らと同じように、瞬きの間にその場には破片が転がっていた。
敬意を評して軽く会釈をし、言われた通り執務室の地下へと進む。ここまで火の手が迫っているのか少々煙たいが、外に比べればまだマシな方だ。
だが、あれだけ大きかった主の気配が段々薄くなり始めているから、急がねばならない。
散らばった命に礼をしながら進み続けると、目当ての者が横たわっていた。最後まで抗ったのか、ボロボロで、血で汚れていて、プツリと切れそうなくらいの虫の息だが…。清廉で凛とした美しさを持っており、そこだけ時が止まっているかのように感じた。
「ある…じ…?あるじ…主…!」
「……………………………つる…ま、る…さ…?」
傍に寄って何回か呼びかけると、ゴホゴホと激しく咳をしながら、焦点の合わない瞳が俺を捉えようと瞼を開く。声の主を探しているのか、右手のひらが羽の欠けた蝶のように舞い、空を切る。
愛しい人の健気な姿に、思わず雪崩込むようにその手を握りしめた。
「つるま…さ…、つ…、るま…る、…さ…」
「主…!すまない…来るのが遅くなって…!本当にすまない…!」
「いい、え…会えて…うれしい…」
僅かながらも返ってくる暖かさに、瞳から何かが零れた。瞬きをする度に、彼女の柔らかそうな頬にポタポタと零れ落ちた。
「ない、て…る、の…?」
「泣いてない!ちょっと煙が目に染みただけだ!」
「ふふふ…そう、ですか……」
「あぁそうだ」
彼女の姿を目に焼きつけたいのに、余分な水分が邪魔をする。こういう時ばっかり動いちゃくれない己の半身が憎い。
「…ねぇ、つるまるさん」
「なんだい?」
主は先程までクスクスと笑っていたかと思うと、どこかホッとしたような表情を浮かべている。不思議に思いながら言葉の続きを待っていると、さらに柔らかな表情になった。
「わたっ、し、つるまるさっ、の…ことが…すきです…」
「!」
「……………あぁ、やっと…やっと、言えた…うれしい…ふふっ、すき、すきですよ、つるま…る、さ………………」
「主…?あるじ…?」
俺がどんなに待ち望んでいたか。どんなに欲していたか。その言葉を告げた主は、とても…とても、満足そうだ。
「俺だって好きだ…!大好きだ!主君じゃねぇ!一人の女として愛してんだよ!……………………………言い逃げなんて…ずるいじゃないか、主…」
まるで眠っているかのように穏やかな顔をしているが、俺はこんなところで終わりたくなんかない。
ミシリ、ミシリ、と肉体にヒビが入っていく。
とんちき魔術をかけられた灰被りの姫さんのように、自分自身が元の形に戻っていく。知らないフリをしていたが、とっくの昔に限界は来ていたのだ。
「なぁ…主、愛してるぜ…。絶対君を見つけ出す。だから、だから……っ!この続きは来世でな…!」
一方的な約束。だが俺にとっては決意表明であり、誓いであり、覚悟だ。君に触れる手も、見つめるための瞳も、もうないけれど、この想いばかりは無限大だ。
悪いが俺は諦めが悪いんでな。
その唇も、人生も、奪わせてもらうぜ?
だからどうか、今は、幸せな夢を────…
*
「…っ!…………………なんだ、夢か…」
心臓が五月蝿いほどにバクバクと脈打っている。俺が勢いよく起き上がって布団がめくれてしまったせいなのか、隣で眠る彼女は寒そうに身動ぎをしたかと思うと、子猫のように擦り寄ってくる。
肩まで布団をかけてやると、ふわりと口元を緩ませた。
「ようやく……………………ようやくだ…」
きっと今日のフライングすぎるプロポーズをしたせいで、あの頃を夢に見たのだろう。
この体は、鋼では無い。彼女と同じ人間のもの。この手は、武器を持つための手では無い。彼女の手を取り、共に前に進むもの。それならば、この口は?この唇は?何のためのもの?
「………………………だとしても……あれは無いだろう…本当に何やってんだよ、俺…」
あんなに、入念に、前の仲間たちと打ち合わせをして、光坊のレストランを貸し切って、良い雰囲気の中で、最高の驚きを送りたかったというのに…!自分のバカさ加減に頭痛がする。
…それでも彼女は俺がいいと選んでくれた。その現実に顔が緩んでしまうのも事実なのだが。
「…………愛してる。この先、何度巡っても。永遠に、君のことを…夢だけを愛してる。
………………………って、今言っても意味ないよな」
額にキスをすると「んふふ」と、嬉しそうに笑う。起きたのかと思ったが、どうやら幸せそうに眠っているようだ。
再び横になり、彼女を腕の中に閉じ込める。仕込みは上々。あとは、来る時に計画を実行するだけ。
その時には、最高の驚きを君にもたらそう。
だからそれまで、共に、幸せな夢を────。
「うっ、ぐ…ゲホッゲホッ…主ー!」
ゴウゴウと燃え盛る炎の中、俺は本体を支えにしながら必死に足を動かす。半身は既に機能していないため、
たったの1歩でさえ進むのに時間がかかることに苛立った。
早く、早く…寂しがりのあの子の元へと行かねば…
呼吸をする毎に肺が焼け、体と思考は鉛のように重くなって視界がぼやける。仲間達の気配は薄く、この本丸が完全に落ちるのは時間の問題だろう。
それでも尚、ギリギリで命を繋いでいるであろう主君の気配だけは色濃く、俺の辿るべき道を照らす。
「…おい、鶴丸」
主のために執務室の防衛に当たっていた奴らの破片が散らばる中、黒い何かが息も絶え絶えで座り込んでいた。
「…………お前は…もしかして…伽羅坊?生きてたのか?」
「いや、俺…っ、は…もう、折れる」
「…そうか」
よく見ると俺に負けず劣らず血に染っており、四肢が揃っていることが不思議なくらいボロボロだった。
「あい…つ、なら、地下だ」
「そうかい。教えてくれて…ありがとな」
「こん…っ、ど…酒……奢れ、よ」
「あぁ…光坊の上手い肴と一緒に…上等なやつを用意してやるよ。ここの警護、ごくろーさん」
「ふん」
伽羅坊は満足そうな表情を浮かべると、パキンというガラスが割れたような音が聞こえた。他の奴らと同じように、瞬きの間にその場には破片が転がっていた。
敬意を評して軽く会釈をし、言われた通り執務室の地下へと進む。ここまで火の手が迫っているのか少々煙たいが、外に比べればまだマシな方だ。
だが、あれだけ大きかった主の気配が段々薄くなり始めているから、急がねばならない。
散らばった命に礼をしながら進み続けると、目当ての者が横たわっていた。最後まで抗ったのか、ボロボロで、血で汚れていて、プツリと切れそうなくらいの虫の息だが…。清廉で凛とした美しさを持っており、そこだけ時が止まっているかのように感じた。
「ある…じ…?あるじ…主…!」
「……………………………つる…ま、る…さ…?」
傍に寄って何回か呼びかけると、ゴホゴホと激しく咳をしながら、焦点の合わない瞳が俺を捉えようと瞼を開く。声の主を探しているのか、右手のひらが羽の欠けた蝶のように舞い、空を切る。
愛しい人の健気な姿に、思わず雪崩込むようにその手を握りしめた。
「つるま…さ…、つ…、るま…る、…さ…」
「主…!すまない…来るのが遅くなって…!本当にすまない…!」
「いい、え…会えて…うれしい…」
僅かながらも返ってくる暖かさに、瞳から何かが零れた。瞬きをする度に、彼女の柔らかそうな頬にポタポタと零れ落ちた。
「ない、て…る、の…?」
「泣いてない!ちょっと煙が目に染みただけだ!」
「ふふふ…そう、ですか……」
「あぁそうだ」
彼女の姿を目に焼きつけたいのに、余分な水分が邪魔をする。こういう時ばっかり動いちゃくれない己の半身が憎い。
「…ねぇ、つるまるさん」
「なんだい?」
主は先程までクスクスと笑っていたかと思うと、どこかホッとしたような表情を浮かべている。不思議に思いながら言葉の続きを待っていると、さらに柔らかな表情になった。
「わたっ、し、つるまるさっ、の…ことが…すきです…」
「!」
「……………あぁ、やっと…やっと、言えた…うれしい…ふふっ、すき、すきですよ、つるま…る、さ………………」
「主…?あるじ…?」
俺がどんなに待ち望んでいたか。どんなに欲していたか。その言葉を告げた主は、とても…とても、満足そうだ。
「俺だって好きだ…!大好きだ!主君じゃねぇ!一人の女として愛してんだよ!……………………………言い逃げなんて…ずるいじゃないか、主…」
まるで眠っているかのように穏やかな顔をしているが、俺はこんなところで終わりたくなんかない。
ミシリ、ミシリ、と肉体にヒビが入っていく。
とんちき魔術をかけられた灰被りの姫さんのように、自分自身が元の形に戻っていく。知らないフリをしていたが、とっくの昔に限界は来ていたのだ。
「なぁ…主、愛してるぜ…。絶対君を見つけ出す。だから、だから……っ!この続きは来世でな…!」
一方的な約束。だが俺にとっては決意表明であり、誓いであり、覚悟だ。君に触れる手も、見つめるための瞳も、もうないけれど、この想いばかりは無限大だ。
悪いが俺は諦めが悪いんでな。
その唇も、人生も、奪わせてもらうぜ?
だからどうか、今は、幸せな夢を────…
*
「…っ!…………………なんだ、夢か…」
心臓が五月蝿いほどにバクバクと脈打っている。俺が勢いよく起き上がって布団がめくれてしまったせいなのか、隣で眠る彼女は寒そうに身動ぎをしたかと思うと、子猫のように擦り寄ってくる。
肩まで布団をかけてやると、ふわりと口元を緩ませた。
「ようやく……………………ようやくだ…」
きっと今日のフライングすぎるプロポーズをしたせいで、あの頃を夢に見たのだろう。
この体は、鋼では無い。彼女と同じ人間のもの。この手は、武器を持つための手では無い。彼女の手を取り、共に前に進むもの。それならば、この口は?この唇は?何のためのもの?
「………………………だとしても……あれは無いだろう…本当に何やってんだよ、俺…」
あんなに、入念に、前の仲間たちと打ち合わせをして、光坊のレストランを貸し切って、良い雰囲気の中で、最高の驚きを送りたかったというのに…!自分のバカさ加減に頭痛がする。
…それでも彼女は俺がいいと選んでくれた。その現実に顔が緩んでしまうのも事実なのだが。
「…………愛してる。この先、何度巡っても。永遠に、君のことを…夢だけを愛してる。
………………………って、今言っても意味ないよな」
額にキスをすると「んふふ」と、嬉しそうに笑う。起きたのかと思ったが、どうやら幸せそうに眠っているようだ。
再び横になり、彼女を腕の中に閉じ込める。仕込みは上々。あとは、来る時に計画を実行するだけ。
その時には、最高の驚きを君にもたらそう。
だからそれまで、共に、幸せな夢を────。
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