幸せな夢
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【前世】ぜんせ、ぜんしょう
この世に生まれ出る以前の世。さきの世。過去世。
あなたは、前世を信じるだろうか。
私は信じるタイプです。
なにも宗教じみた話とかではなく、実際に前世の記憶を持っているから信じているだけなのだけれど。
最初は何かしらに見覚えがあって、懐かしさがあって、あるはずのない記憶の存在に周囲を困らせた。
でも、物心が着く頃には普通なら有り得ないことなのだと理解できるようになってからは、言わないようにしてきた。
…前世で共に戦った彼と出会うまでは。
前の世では戦いの中に身を置きながらも懸命に生き、命を散らせた。その中でも色濃く残った存在が一振いた。
鶴丸国永だ。
儚げな印象を与える佇まいなのに、誰よりも男気が溢れて、子どもらしい一面を持つ。
ひとたび戦場へ赴けば、地を駆ける姿は白く大きな翼を広げるようで。
そんな彼に、私は恋情を抱いていた。が、よくある話だ。私は審神者であり、刀剣男士達を束ねる主君なため想いを伝えることは無かった。
……………………………というのが前世の話。
今世では、戦いのない平和な世に生まれ落ちて早20と数年。それなりに波はありつつも順当に人生を歩んできた。
「ふぅ…こんなもんかな」
しじみの入ったお味噌汁と、胃腸薬。ラムネとミネラルウォーターの用意はできた。でもおそらく彼のことだから周りに気を回しすぎてあまり食事がとれていないかもしれないから……念の為厚焼き玉子も作っておこうかな。あ、さっきの残りの煮物もあるや。
冷蔵庫を開けて他になにか必要なものはないか思案する。そろそろ帰ってきてもおかしくない時間帯なのだが、帰宅前にくる連絡はいつまでも来ない。
それだけ盛り上がっているのだろうか…。仕事も混ざってるだろうし、仕方がないと言えば仕方がないが…。
なんて考えているとピンポーンと呼び鈴が鳴った。
モニターで誰が来たのかを確認するや否や、私は大慌てで玄関扉を開けた。
「鶴丸さん!?大倶利伽羅!?」
目の前には大倶利伽羅に支えられて帰宅した鶴丸さんがいた。
…まさか件の彼と同棲しているとは、前世の私には信じられないことだろう。
燭台切光忠の経営するレストランに遊びに行ったら、偶然鶴丸さんと再会したのをきっかけに交際が始まり、気がついたら現在に至っている。
「…久方ぶりだな」
「本当!久しぶりだね!…というか鶴丸さんが潰れるの…珍しいね…」
「それは…」
どうやら今日はお世話になった上司の方が定年退職されるからということで大いに盛り上がり…。特に関わりの深かった鶴丸さんが終始その上司の方に絡まれていたらしい。
「あるじ…?」
「ふふっ、お帰りなさい鶴丸さん」
「あるじぃ〜」
「わっ、わわっ!」
「!…おい鶴丸」
顔を真っ赤に染めた鶴丸さんが顔を上げると、ふにゃりと笑う。心臓をドキンと高鳴らせながら見惚れていると、彼が勢いよく抱きついてきた。重さに耐えきれずその場に尻もちを着き、彼はどさくさに紛れて私の膝を枕にしつつ背中に腕を回した。
「んふふふふ…あるじ…やわこくて…あたたかいな…」
「鶴丸さん…かなり酔ってますね…」
今の私のことを“主”と呼ぶのは、再会した時以来だ。普段は名前で呼ばれているだけに、なんだかくすぐったい。
「…じゃあ、俺は戻る」
「!ここまでありがとね」
大倶利伽羅は目だけで挨拶をすると颯爽と立ち去っていった。
「鶴丸さん、お水飲めますか?」
「のめない〜」
「もう…お腹は空いてますか?」
「うん」
「しじみのお味噌汁と卵焼きがありますよ」
「たべる〜」
ふにゃふにゃした受け答えが可愛くて、思わず頭を撫でる。すると彼はじゃれつく猫のようにうれしそうに目を細めた。
しかしいつまでもここにいる訳にはいかない。離れるようにお願いすると「やだ!」とさらにぎゅうぎゅうと擦り寄られた。
「ここにいると風邪ひいちゃいますよ?」
「じゃあ…あるじがあっためて〜」
「もう…これでどうですか?」
羽織っていたカーディガンを肩に掛け、そっと額にキスを送る。普段は照れくさくて、自分からここまでしないけど…今は彼はかなり酔っ払ってるし…。
別に、夜遅くまで1人で待ってるのが寂しかったとか、そういう訳じゃないんだけど…。
恥ずかしすぎて目をそらそうとすると、鶴丸さんの大きな手のひらが頬を撫でる。
「鶴丸さん…?」
「結婚してくれ」
「…え?」
「…ん?」
…今、なんて…?
驚きで呆けていると、酔いで赤くなっていた鶴丸さんの顔色がみるみるうちに白くなっていった。それから目の焦点が合うと勢いよく起き上がった。
「なっ、お、俺、は…今…!?嘘だ!たたた頼む!今のは忘れてくれ!」
「えっ、うそ…?」
「あぁぁぁぁ!いや嘘じゃないし夢を嫁に欲しいのは常日頃思ってるし本心なんだが…!もっと…こんっ、こ、こんなっ、酔っ払った拍子に言うことではなくてだな…!?」
「あ、は、はい!」
どうやら酔いが覚めてきたのか、さっきまで舌っ足らずな喋り方だったのに、ものすごく饒舌に話している。
普段あんなにも優しくて、男らしくて、子どもらしいところがあって、大人の余裕を持っている人が…今はこんなにも慌てている姿に、不思議と心が暖まる。
あぁ、好きだなぁ…
鶴丸さんは自己嫌悪しているのか、頭を抱えている。
そっと近寄って顔を覗き込むと耳まで真っ赤に染まっていることが分かり、キュンと胸の奥が締め付けられた。
「あの…私…も、鶴丸さんの…お嫁さんになりたいって…思ってます、よ?」
「…は?」
まさか私がそんなことを言うとは思わなかったのか、大きな瞳をさらに大きくしながら瞬く。
いつも驚かされてばかりいる私が、彼を動揺させているという事実に、いつも彼はこんな気分なのかと頬が緩んでしまう。
それから彼は「あ」とか「う」と発しながら何かと葛藤していたかと思うと、小さく息を吐いて真剣な表情に切り替わった。
「……本当に…本当に、俺でいいのか?今でこそ君と同じ人間になれたが…元は色んなものを斬って斬って斬りまくった、血で染まった手なんだぞ?」
その手は私を離す気はないくせに、最後の選択肢を提示してくる。答えなんてとっくの昔に決まっている。
「さらに鶴らしくなりましたね?」
「君なぁ…」
「こっちとしては、前世から好きだった人と結婚できるんですよ?鶴丸さん以外考えられません!」
「!」
前世の私は、命尽きる直前で、願ったのだ。それぐらいしたってバチは当たらないだろうと。ここまで頑張ってきたんだから、最期くらい報われたいとさえ思った。
本丸を襲撃され、退路もなく、燃え盛る炎に迫られ、苦しさと今にも途切れそうな意識の中で、赤く染まった白い神様が目の前に見えた気がしたのだ。
今まで色恋事の道には逸れまいと努力し続け、最期に幻覚と言えど彼に会えたのなら、切望してしまうに決まっている。そんな無念を抱えながら転生して、また彼と再会できて、どんなに嬉しかったことか。
そんな彼以外誰を選べばいいのか。私には皆目見当もつかない。意地悪な問いかけはもうお腹いっぱいだ。前世では想いを伝えられなかった分、素直に伝えていきたい。
戸惑う彼の手を両手で握りしめ、想いの強さを表す。すると、鶴丸さんは泣いているような、嬉しいような、そんな表情を浮かべると、そのまま私の指先に唇を寄せた。
「後日仕切り直させてもらうが…結婚してくれ」
「…はい!不束者ですが…よろしくお願いします…!」
互いに額をすり合わせ、どちらともなくそっと唇を重ねたのだった。
この世に生まれ出る以前の世。さきの世。過去世。
あなたは、前世を信じるだろうか。
私は信じるタイプです。
なにも宗教じみた話とかではなく、実際に前世の記憶を持っているから信じているだけなのだけれど。
最初は何かしらに見覚えがあって、懐かしさがあって、あるはずのない記憶の存在に周囲を困らせた。
でも、物心が着く頃には普通なら有り得ないことなのだと理解できるようになってからは、言わないようにしてきた。
…前世で共に戦った彼と出会うまでは。
前の世では戦いの中に身を置きながらも懸命に生き、命を散らせた。その中でも色濃く残った存在が一振いた。
鶴丸国永だ。
儚げな印象を与える佇まいなのに、誰よりも男気が溢れて、子どもらしい一面を持つ。
ひとたび戦場へ赴けば、地を駆ける姿は白く大きな翼を広げるようで。
そんな彼に、私は恋情を抱いていた。が、よくある話だ。私は審神者であり、刀剣男士達を束ねる主君なため想いを伝えることは無かった。
……………………………というのが前世の話。
今世では、戦いのない平和な世に生まれ落ちて早20と数年。それなりに波はありつつも順当に人生を歩んできた。
「ふぅ…こんなもんかな」
しじみの入ったお味噌汁と、胃腸薬。ラムネとミネラルウォーターの用意はできた。でもおそらく彼のことだから周りに気を回しすぎてあまり食事がとれていないかもしれないから……念の為厚焼き玉子も作っておこうかな。あ、さっきの残りの煮物もあるや。
冷蔵庫を開けて他になにか必要なものはないか思案する。そろそろ帰ってきてもおかしくない時間帯なのだが、帰宅前にくる連絡はいつまでも来ない。
それだけ盛り上がっているのだろうか…。仕事も混ざってるだろうし、仕方がないと言えば仕方がないが…。
なんて考えているとピンポーンと呼び鈴が鳴った。
モニターで誰が来たのかを確認するや否や、私は大慌てで玄関扉を開けた。
「鶴丸さん!?大倶利伽羅!?」
目の前には大倶利伽羅に支えられて帰宅した鶴丸さんがいた。
…まさか件の彼と同棲しているとは、前世の私には信じられないことだろう。
燭台切光忠の経営するレストランに遊びに行ったら、偶然鶴丸さんと再会したのをきっかけに交際が始まり、気がついたら現在に至っている。
「…久方ぶりだな」
「本当!久しぶりだね!…というか鶴丸さんが潰れるの…珍しいね…」
「それは…」
どうやら今日はお世話になった上司の方が定年退職されるからということで大いに盛り上がり…。特に関わりの深かった鶴丸さんが終始その上司の方に絡まれていたらしい。
「あるじ…?」
「ふふっ、お帰りなさい鶴丸さん」
「あるじぃ〜」
「わっ、わわっ!」
「!…おい鶴丸」
顔を真っ赤に染めた鶴丸さんが顔を上げると、ふにゃりと笑う。心臓をドキンと高鳴らせながら見惚れていると、彼が勢いよく抱きついてきた。重さに耐えきれずその場に尻もちを着き、彼はどさくさに紛れて私の膝を枕にしつつ背中に腕を回した。
「んふふふふ…あるじ…やわこくて…あたたかいな…」
「鶴丸さん…かなり酔ってますね…」
今の私のことを“主”と呼ぶのは、再会した時以来だ。普段は名前で呼ばれているだけに、なんだかくすぐったい。
「…じゃあ、俺は戻る」
「!ここまでありがとね」
大倶利伽羅は目だけで挨拶をすると颯爽と立ち去っていった。
「鶴丸さん、お水飲めますか?」
「のめない〜」
「もう…お腹は空いてますか?」
「うん」
「しじみのお味噌汁と卵焼きがありますよ」
「たべる〜」
ふにゃふにゃした受け答えが可愛くて、思わず頭を撫でる。すると彼はじゃれつく猫のようにうれしそうに目を細めた。
しかしいつまでもここにいる訳にはいかない。離れるようにお願いすると「やだ!」とさらにぎゅうぎゅうと擦り寄られた。
「ここにいると風邪ひいちゃいますよ?」
「じゃあ…あるじがあっためて〜」
「もう…これでどうですか?」
羽織っていたカーディガンを肩に掛け、そっと額にキスを送る。普段は照れくさくて、自分からここまでしないけど…今は彼はかなり酔っ払ってるし…。
別に、夜遅くまで1人で待ってるのが寂しかったとか、そういう訳じゃないんだけど…。
恥ずかしすぎて目をそらそうとすると、鶴丸さんの大きな手のひらが頬を撫でる。
「鶴丸さん…?」
「結婚してくれ」
「…え?」
「…ん?」
…今、なんて…?
驚きで呆けていると、酔いで赤くなっていた鶴丸さんの顔色がみるみるうちに白くなっていった。それから目の焦点が合うと勢いよく起き上がった。
「なっ、お、俺、は…今…!?嘘だ!たたた頼む!今のは忘れてくれ!」
「えっ、うそ…?」
「あぁぁぁぁ!いや嘘じゃないし夢を嫁に欲しいのは常日頃思ってるし本心なんだが…!もっと…こんっ、こ、こんなっ、酔っ払った拍子に言うことではなくてだな…!?」
「あ、は、はい!」
どうやら酔いが覚めてきたのか、さっきまで舌っ足らずな喋り方だったのに、ものすごく饒舌に話している。
普段あんなにも優しくて、男らしくて、子どもらしいところがあって、大人の余裕を持っている人が…今はこんなにも慌てている姿に、不思議と心が暖まる。
あぁ、好きだなぁ…
鶴丸さんは自己嫌悪しているのか、頭を抱えている。
そっと近寄って顔を覗き込むと耳まで真っ赤に染まっていることが分かり、キュンと胸の奥が締め付けられた。
「あの…私…も、鶴丸さんの…お嫁さんになりたいって…思ってます、よ?」
「…は?」
まさか私がそんなことを言うとは思わなかったのか、大きな瞳をさらに大きくしながら瞬く。
いつも驚かされてばかりいる私が、彼を動揺させているという事実に、いつも彼はこんな気分なのかと頬が緩んでしまう。
それから彼は「あ」とか「う」と発しながら何かと葛藤していたかと思うと、小さく息を吐いて真剣な表情に切り替わった。
「……本当に…本当に、俺でいいのか?今でこそ君と同じ人間になれたが…元は色んなものを斬って斬って斬りまくった、血で染まった手なんだぞ?」
その手は私を離す気はないくせに、最後の選択肢を提示してくる。答えなんてとっくの昔に決まっている。
「さらに鶴らしくなりましたね?」
「君なぁ…」
「こっちとしては、前世から好きだった人と結婚できるんですよ?鶴丸さん以外考えられません!」
「!」
前世の私は、命尽きる直前で、願ったのだ。それぐらいしたってバチは当たらないだろうと。ここまで頑張ってきたんだから、最期くらい報われたいとさえ思った。
本丸を襲撃され、退路もなく、燃え盛る炎に迫られ、苦しさと今にも途切れそうな意識の中で、赤く染まった白い神様が目の前に見えた気がしたのだ。
今まで色恋事の道には逸れまいと努力し続け、最期に幻覚と言えど彼に会えたのなら、切望してしまうに決まっている。そんな無念を抱えながら転生して、また彼と再会できて、どんなに嬉しかったことか。
そんな彼以外誰を選べばいいのか。私には皆目見当もつかない。意地悪な問いかけはもうお腹いっぱいだ。前世では想いを伝えられなかった分、素直に伝えていきたい。
戸惑う彼の手を両手で握りしめ、想いの強さを表す。すると、鶴丸さんは泣いているような、嬉しいような、そんな表情を浮かべると、そのまま私の指先に唇を寄せた。
「後日仕切り直させてもらうが…結婚してくれ」
「…はい!不束者ですが…よろしくお願いします…!」
互いに額をすり合わせ、どちらともなくそっと唇を重ねたのだった。
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