第1章 波乱

幼馴染の悪行はすぐサマにバレた。
額に浮かぶ血管ははち切れそうである。
いつもは優しく仏の水城と呼ばれる先輩が渾身の力にて幼馴染に鉄拳を落とした。

「ぎゃぁ~!痛いっ!みなみオトーサンが殴ったぁ!!」

「うーん、それはちぃちゃんが悪いと思うのよ」

うわぁんっと俺には味方がいないと大袈裟に叫ぶ幼馴染だが、流石に水城先輩の反応は間違いなく正当だと思う。

何だかんだ普段通りの先輩と幼馴染の姿を眺めつつ
、外部世界から日常に戻ってきたのだと染み染みと実感する。

外部世界は此処には無いものが沢山あり自由だし好きだとは思う。
けれどハッキリ言ってしまえば僻事する事が多くあり嫌気が差す事がある。

だから如月学園帰ってくると酷く安心する。
変わらない空間
変わらない人間関係
変わらない日常…のはずだったのに。

如月学園が一人の人間に翻弄されるなんて、なんて滑稽なことか…

「ふふっ、どう始末してやろうか」

威圧的な笑みを浮かべる青城みなみに2人は目を合わせ頷き合った。

「オトーサン放課後緊急会議で!」

「承知した…謹慎中の南雲も召集しておこう」

青城みなみは基本的にどんな事にも我関せず無害な人間であるが…
時より自分のテリトリーを乱す者に関しては容赦がない。

「フフッ、まずは英明ちゃんを躾直さないとだよね」

集団で生徒会長として一番の権力を持つ黒川英明がターゲットにされた瞬間であった。


和やかにそれはもう本当に和やかに昼食終えた青城みなみがふらりと立ち上がった。

「あーぁ、真央君が帰ってこないなぁー
大丈夫かな?心配だなぁ僕迎えに行ってくるよ」

抑揚のない棒読みな台詞はその場を凍りつかせるには十分であった。

スタスタと役員専用フロアから一般席へと続く階段を降りていく姿に食事中の生徒達の視線を集めた。

『ひゃぁっ!青城様だ!相変わらずお美しい!』

『しっ、静かにしなきゃだよ青城様は騒がしいのはお嫌いなんだから』

お花達(親衛隊)の手綱を握る青城みなみの躾の賜物は他の生徒達にしっかりと浸透されている。

知らないのはきっと騒ぎの中心地にいる転校生くらいだろう。

あれだけ騒がしかったカフェテリアが一瞬にして静まるも、静かになってしまったからこそ転校生の声が嫌に目立つ。

『お前が言ってる事全然分からない!青城様だっけ?そいつが何だって言うだ!お前は関係ないだろう!用があるなら本人が言いに来るべきだっ!』

「ふむ一理あるが…やれやれだなぁ」

一歩また一歩と一同へと距離を詰め己のお花である西園寺の背を眺めつつ、青城みなみが転校生を除く集団に鋭い視線を向けた。

一番反応をみせたのはやはり黒川英明であった。
顔色は青白く青城みなみが歩を進めると一歩また一歩と後ろへと下がっていく。
次に書紀の阪上が頬を引きつらせながらもぎこちない笑みを浮かべてみせた。
口パクでごめんねぇなんて言っている

しかしだその中でも特に顔色が悪く怯えた様子の生徒が転校生に引っ張られ今にも倒れそうだ。

この子は…幼馴染が言っていたスケープゴートにされてしまった被害者だと気づく。

如月学園には悪い風習が多くある。
特に親衛隊関連の制裁は酷い事が多い。

軽く罵られ殴らるならまだ軽い方だ。
酷い時は拷問に近しい事や強姦等口では言い難い事をやってのける者達が居るのだ。

犯罪行為をするのは駄目な事だと頭だは理解している筈なのに、愛と言う暴走した感情を盾に行動を起こす輩達は悪しき風習に囚われているのだろう。

被害生徒と共に加害者たちが学園を去っていく姿を何度見送っただろうか。

この場に居る被害者生徒も同じように去って行くのだろうか?

「確か少年の名前は…篠宮茜だったかな」

幼馴染との情報共有していたお陰でスッと名前を思い出せた。

篠宮は転校生に比べ身長が低く華奢な体型をしている。

転校生よりも少年のが品があり清潔感も感じさせるのに、お馬鹿な集団達は転校生に何を見いだしたのか理解できない。

それにしてもだ僕のお花は変わらず一番美しい。

西園寺真央は青城みなみの親衛隊に入らなければ間違いなく生徒会役員に選ばれていた。
学園内の人気投票は親衛隊の者達は、親衛隊を辞めない限り選出されることはない。

全く残念な事ではあるが致し方ない。

青城みなみという人間は己の気を許した者に特に甘い。

未だに使命を果たそうとする西園寺の華奢な身体を抱き寄せ耳元で囁いて見せた。

「真央君がなかなか帰ってこないから迎えに来てしまったよ」

「みっ、みなみ様!」

己使命が未だに果たされていない西園寺にとってご褒美が過ぎるのでは?と思いながらも久しぶりの青城みなみの温もりに心臓が激しい悲鳴を上げていた。

「僕の愛しいお花ちゃん今日も一番可愛いよ」

「ひゃっ、みなみ様っ、耳っ、駄目ですぅ」

一体自分達は何を見せられているのだろうかと思う生徒達は多く居た。

しかしだ特に秀でた事がない転校生が親衛隊持ちである煌びやかな集団達を侍らかし、愛を囁かれる姿を毎日見せられる方のが苦痛で不快であった。

だからこそ今青城みなみが隠そうとせず醸し出す色気に黄色い悲鳴が上がるが、それを覆い隠すような声がカフェテリアに響き渡った。

「うっ、お、お前っ、此処は食堂だぞっ!えっ、えっちな如何わしい事すんなよっ!」

えっちな如何わしい事とは?

「はて?何のことだろうかでも君には関係ないだろう」

「かっ、関係ないけど此処は食堂だ!他の生徒達を不快にさせるなよ!」

「僕を見て不快になる人間が居るわけないだろ?あんまり笑わせてくれるなよ、君を見ている方が一番不快なんだが」

「さっ、サイテーだっ!人を見た目で判断するなっ!」

「僕がいつ君を見た目で判断したんだろうか?全く話にならない
ねぇ真央君僕は最低な人間なのだろうか?」

クスンッと嘆きつつ西園寺を抱きとめる腕に力を込める。

「みなみ様は素晴らしいお方です!最低な人間はコイツです!なのでこんな害虫等気になさらず、みなみ様は変わらず好きなように何時も通りお過ごし下さい」

どこからか西園寺の言葉に賛同する声が上がり出す。
ならば頃合いは今だろうかと青城みなみがすっと西園寺を開放した。

転校生には目もくれずに青城みなみが篠宮茜の瞳を覗き込むように身をかがめた。

「篠宮茜」

「ひぇっ、な、何でしょうか?」

「こちらへおいで…篠宮茜。僕の手を掴むといい」

優しい声
優しい眼差し
己へと差し出された右手

「何にも心配することは無い
ただ君には生徒会の馬鹿たちが迷惑を掛けてしまったからねお詫びがしたい」

生徒会の馬鹿達がビクリと背筋を伸ばすのは見たのは青城みなみだけだ。

「フフッ、さてお返事は頂けるかな?」

篠宮は青城みなみの手を払いのけるという暴挙かできるわけ無かった。
何故かと言えば青城みなみの背後に立ちすくむ親衛隊の隊長様の無言の圧に耐えきれなかったのだ。

えっ、みなみ様のお言葉を無視するの?
えっ、手を払いのけるの?
えっ、意味がわからない…
えっ、◯にたいの?
えっ、◯してほしいの?
等など…

口に出来ない西園寺の思念がしっかりと届いた結果、篠宮茜は恐る恐る青城みなみの手を掴んだのであった。







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