東方project
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「あーもう、焦れったい」
白玉楼の客間で、私はとある少女向けの漫画を読んでいた。テーブルを挟み、対面するのは私の友人の幽々子だ。そばには従者である妖夢も控えている。
白玉楼の客人の分際なのに、漫画を読みながら寝っ転がるのも、本当はあまり良くないのではと考えた。でも鈴奈庵にある、外の世界で存在する本は面白くて、やめられない。
「何が焦れったいのよ」
幽々子は煎餅を手に取り、食べ始める。妖夢もなにやら気になっている様子だ。私は漫画を読むのを止めることにして、その場に座った。
「少女漫画。男女の恋愛を描いたものなんだけど、男側の言動にいちいちムカムカして……あまり萌えられなかったよ」
幽々子に本を手渡す。すると妖夢がこちらの顔色を窺うように聞いてきた。
「あの、萌えとは何ですか?」
外の世界ではわりと見受けられる萌えという言葉。この言葉は本来、オタクなる者が使うそうだ。私は質問について、思ったままに返した。
「オタクという人たち……みたいなのが使うそうだよ」
「す、すみません……オタクって何ですか?」
妖夢は知りたがりで、申し訳なさそうにまたも質問してきた。それ自体は悪くないのだが(可愛いし)、その先は私も知らなかった。
「ごめん……知ったかぶりました」
「こちらこそ何度もすみませんでした。また今度調べてみます」
調べるほどではないよ――と私は苦笑を浮かべたところで、幽々子は私に本を突き出した。
「もういいわ。ありがとう」
「え、ああ……うん」
幽々子の好みには合わなかったみたいだ。あまり面白くないと感じた漫画を貸した私も、どうかしているかもしれない。
うーん、でも幽々子は、恋愛について詩を詠んだりするような――耽美なものとしてみてそうな気もする。だから合わなかったとも。
私は本を受け取ろうとするも、そこで幽々子が本の片方のページを、指で押さえつけていたことに疑問を覚える。
「幽々子ちゃん、どうしたの?」
「パラパラ捲って見ただけなんだけど、このシーンが印象に残ったわね」
そこには男性が女性を逃げられないようにするかのように、壁に手をついている、あの場面を指し示していた。
「それは壁ドンって呼ばれているやつだね」
「へー、名前があるのね。なかなか過激ねぇ」
にこにこと笑った幽々子は、手を合わせる。あ、あれ……?幽々子もこういうことに興味はあるんだろうか。我が友人ながら、恋愛事情も掴みどころがない。まあ私が勝手に推察していたのもあるけれど。
「それのどこが気になるんですか、幽々子様」
妖夢は幽々子が差し押さえていたページを、怪訝そうにまじまじとみていた。
確かに壁ドンは幽々子ちゃんの心を射止めたのだろうか。
「侍ちゃんにやってみたいなって」
「はぁ!?」
思わず私は、テーブルに手を叩きつけ、立ち上がった。妖夢も慌てた様子だった。
「だ、だめですよ!侍様とこんなふしだらなこと!」
人差し指を唇にあてて、子供っぽく微笑む幽々子ちゃん。なのにどこか艷っぽく、さっきまでせんべいを食べていた者と同一人物だとは思えない。
「ちょっとだけだから……」
「だめなもんは……」
「ねえ侍ちゃん、いいでしょう?」
相変わらず子供っぽい表情で、首をこてんと傾げる幽々子ちゃん。
なんだか妖夢は泣きそうな顔で幽々子をみている。泣くほどではないようにみえるけれど、そんなに壁ドンは嫌だったのか。真面目な彼女には堪えたのだろうか。それは彼女のみぞ知る。
私が座り直すと、幽々子は口元が楽しそうなまま、妖夢はきょとんした表情でこちらをみた。
「やってみる?……その壁ドンってやつ」
壁際に相手を立たせ、その傍らに手を付く。それが壁ドン。要はこれらをやるだけだ。
幽々子がそんなことで喜んでくれるなら、まあいいかもしれない。第一、壁ドンをやめることからして、聞いてくれなさそうだったから。
妖夢は大ショックを受けたみたいで、体育座りしている。
「さ、早く始めようよ」
妖夢にもなんだか悪いし。
「それじゃあ侍ちゃん、壁際に立って」
「えっ!?私がそっち側?」
そういえば私に壁ドンをやってみたいといっていたっけ。困惑しつつも、私は客間内の壁際に立つ。
「それじゃあ準備できた?」
「え……なんの?」
「いくわよ」
こ、これが壁ドン……。
幽々子ちゃんは、壁越しに私の傍らへ手を付いた。
どこかにこやかに、私をみてくる幽々子。
「ごめん、幽々子ちゃん。あんまりときめかない」
幽々子はわかりやすくがーんといった様子だった。幽々子ちゃんのそんな素振りをみるのは、結構レアかもしれない。しまった。喜ばせるつもりが、ショックを受けている。
でも正直、ここまでに至るまでのシチュエーションが雑すぎて、ムードもへったくれもないというか。
「侍様」
しゅんとしていた妖夢にいきなり名前を呼ばれ、私はおろか幽々子からも視線を集めた、そのときだった。
妖夢はさきほどの幽々子と同じような体勢――そう、私に妖夢ちゃんは壁ドンしてきたのだ。顔は少し強張り、緊張したような面持ちで、頬はなぜかうっすらと赤くなっている。
「……ま、満点」
初恋のようなときめきを味わった私は、恥ずかしくなり妖夢ちゃんからそっぽを向いた。幽々子と萌えとかいう差があるのは、真剣さだ。しかも妖夢ちゃんはまだ壁ドンを続けている。
「ちょっと妖夢〜、私の友人との距離が近すぎるわよ」
からかうように幽々子にそういわれた妖夢は、壁ドンをやめたので、私も正面を向くことができた。
まだ顔が熱い気がする。
そして妖夢が一瞬だけガッツポーズしたのも、見逃さなかった。私の反応が面白かった、そんな理由だろうか。
幽々子はすでに座っていたので、壁ドンについて語り始めたときと同じく、私も妖夢も以前と同じ位置に座った。
頬に帯びた熱も若干落ち着いてきて、さっきまでのことがまるでなかったようだ。
そして幽々子が話を切り出してきたので、相槌なりを打っていくと、私も本格的な調子を取り戻していった。
幽々子や妖夢と談笑する、何の代わり映えのない一日の一幕であった。
230517
えっ!?ここで終わり?と思われた方、ごめんなさい。
この二人に壁ドンされる話が書きたかっただけです。
白玉楼の客間で、私はとある少女向けの漫画を読んでいた。テーブルを挟み、対面するのは私の友人の幽々子だ。そばには従者である妖夢も控えている。
白玉楼の客人の分際なのに、漫画を読みながら寝っ転がるのも、本当はあまり良くないのではと考えた。でも鈴奈庵にある、外の世界で存在する本は面白くて、やめられない。
「何が焦れったいのよ」
幽々子は煎餅を手に取り、食べ始める。妖夢もなにやら気になっている様子だ。私は漫画を読むのを止めることにして、その場に座った。
「少女漫画。男女の恋愛を描いたものなんだけど、男側の言動にいちいちムカムカして……あまり萌えられなかったよ」
幽々子に本を手渡す。すると妖夢がこちらの顔色を窺うように聞いてきた。
「あの、萌えとは何ですか?」
外の世界ではわりと見受けられる萌えという言葉。この言葉は本来、オタクなる者が使うそうだ。私は質問について、思ったままに返した。
「オタクという人たち……みたいなのが使うそうだよ」
「す、すみません……オタクって何ですか?」
妖夢は知りたがりで、申し訳なさそうにまたも質問してきた。それ自体は悪くないのだが(可愛いし)、その先は私も知らなかった。
「ごめん……知ったかぶりました」
「こちらこそ何度もすみませんでした。また今度調べてみます」
調べるほどではないよ――と私は苦笑を浮かべたところで、幽々子は私に本を突き出した。
「もういいわ。ありがとう」
「え、ああ……うん」
幽々子の好みには合わなかったみたいだ。あまり面白くないと感じた漫画を貸した私も、どうかしているかもしれない。
うーん、でも幽々子は、恋愛について詩を詠んだりするような――耽美なものとしてみてそうな気もする。だから合わなかったとも。
私は本を受け取ろうとするも、そこで幽々子が本の片方のページを、指で押さえつけていたことに疑問を覚える。
「幽々子ちゃん、どうしたの?」
「パラパラ捲って見ただけなんだけど、このシーンが印象に残ったわね」
そこには男性が女性を逃げられないようにするかのように、壁に手をついている、あの場面を指し示していた。
「それは壁ドンって呼ばれているやつだね」
「へー、名前があるのね。なかなか過激ねぇ」
にこにこと笑った幽々子は、手を合わせる。あ、あれ……?幽々子もこういうことに興味はあるんだろうか。我が友人ながら、恋愛事情も掴みどころがない。まあ私が勝手に推察していたのもあるけれど。
「それのどこが気になるんですか、幽々子様」
妖夢は幽々子が差し押さえていたページを、怪訝そうにまじまじとみていた。
確かに壁ドンは幽々子ちゃんの心を射止めたのだろうか。
「侍ちゃんにやってみたいなって」
「はぁ!?」
思わず私は、テーブルに手を叩きつけ、立ち上がった。妖夢も慌てた様子だった。
「だ、だめですよ!侍様とこんなふしだらなこと!」
人差し指を唇にあてて、子供っぽく微笑む幽々子ちゃん。なのにどこか艷っぽく、さっきまでせんべいを食べていた者と同一人物だとは思えない。
「ちょっとだけだから……」
「だめなもんは……」
「ねえ侍ちゃん、いいでしょう?」
相変わらず子供っぽい表情で、首をこてんと傾げる幽々子ちゃん。
なんだか妖夢は泣きそうな顔で幽々子をみている。泣くほどではないようにみえるけれど、そんなに壁ドンは嫌だったのか。真面目な彼女には堪えたのだろうか。それは彼女のみぞ知る。
私が座り直すと、幽々子は口元が楽しそうなまま、妖夢はきょとんした表情でこちらをみた。
「やってみる?……その壁ドンってやつ」
壁際に相手を立たせ、その傍らに手を付く。それが壁ドン。要はこれらをやるだけだ。
幽々子がそんなことで喜んでくれるなら、まあいいかもしれない。第一、壁ドンをやめることからして、聞いてくれなさそうだったから。
妖夢は大ショックを受けたみたいで、体育座りしている。
「さ、早く始めようよ」
妖夢にもなんだか悪いし。
「それじゃあ侍ちゃん、壁際に立って」
「えっ!?私がそっち側?」
そういえば私に壁ドンをやってみたいといっていたっけ。困惑しつつも、私は客間内の壁際に立つ。
「それじゃあ準備できた?」
「え……なんの?」
「いくわよ」
こ、これが壁ドン……。
幽々子ちゃんは、壁越しに私の傍らへ手を付いた。
どこかにこやかに、私をみてくる幽々子。
「ごめん、幽々子ちゃん。あんまりときめかない」
幽々子はわかりやすくがーんといった様子だった。幽々子ちゃんのそんな素振りをみるのは、結構レアかもしれない。しまった。喜ばせるつもりが、ショックを受けている。
でも正直、ここまでに至るまでのシチュエーションが雑すぎて、ムードもへったくれもないというか。
「侍様」
しゅんとしていた妖夢にいきなり名前を呼ばれ、私はおろか幽々子からも視線を集めた、そのときだった。
妖夢はさきほどの幽々子と同じような体勢――そう、私に妖夢ちゃんは壁ドンしてきたのだ。顔は少し強張り、緊張したような面持ちで、頬はなぜかうっすらと赤くなっている。
「……ま、満点」
初恋のようなときめきを味わった私は、恥ずかしくなり妖夢ちゃんからそっぽを向いた。幽々子と萌えとかいう差があるのは、真剣さだ。しかも妖夢ちゃんはまだ壁ドンを続けている。
「ちょっと妖夢〜、私の友人との距離が近すぎるわよ」
からかうように幽々子にそういわれた妖夢は、壁ドンをやめたので、私も正面を向くことができた。
まだ顔が熱い気がする。
そして妖夢が一瞬だけガッツポーズしたのも、見逃さなかった。私の反応が面白かった、そんな理由だろうか。
幽々子はすでに座っていたので、壁ドンについて語り始めたときと同じく、私も妖夢も以前と同じ位置に座った。
頬に帯びた熱も若干落ち着いてきて、さっきまでのことがまるでなかったようだ。
そして幽々子が話を切り出してきたので、相槌なりを打っていくと、私も本格的な調子を取り戻していった。
幽々子や妖夢と談笑する、何の代わり映えのない一日の一幕であった。
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えっ!?ここで終わり?と思われた方、ごめんなさい。
この二人に壁ドンされる話が書きたかっただけです。