ヒバ山
express kiss
「新幹線、乗ってみてーな」
その一言でこんな事になるだなんて思いもよらず。気付いたらオレは、ヒバリと二人きりで、飛ぶように走るこの乗り物に乗っていた。
オレの家は寿司屋だから、なかなか家族旅行ができない。ディーノさんがイタリア連れて行ってくれた時が初めての飛行機だった。けど新幹線って乗った事ないんだよなぁ。
そんな話をヒバリにしていたら、じゃあ今度の土曜日迎えに行くよ、なんて言われて、バイクに乗せられ大きな駅に着いて、そしてよく分からないまま目の前には新幹線があった。
「すっげー!本物だ!」
「サッサと乗るよ」
「おー」
中は広くて、3列の座席と2列の座席がズラリと並んでいた。不思議なのは、オレ達以外誰もいない事。
「……この車両、人いねーな?」
「観光シーズンじゃないからじゃない。群れるの嫌いだから丁度良かったよ」
ヒバリはそう言うと、早々と真ん中まで歩き、小さな荷物を2列シートに置くと、自分は3列シートの通路側にドサッと腰を下ろした。
でも、駅で新幹線に並んでる人いたけどな。この車両だけ空いているのだろうか。
ま、いっか。
そんなもんなのかなと思い、オレは深く考えなかった。
「なあこれ、席ってどこでもいいの?」
車掌さんが切符を見に来るのをテレビで見た事があったが、そういや切符もヒバリが持っている。
「君はココ」
そう言ってヒバリは、同じシートの窓側の座席を指差した。
「へー、じゃ座ろ。前ごめんなっ」
荷物はそこ、と言われた通りにヒバリの荷物の横に置き、ヒバリの足を蹴らないように示された席へと座る。
座ると同時に列車は動き出した。
「うわ、動いた!」
「そりゃあね」
ヒバリは呆れた顔を見せるが、オレはワクワクして仕方なかった。
新幹線は、最初思ったよりゆっくりだったけど、いくつかの駅を通過すると本領発揮!とばかりにスピードに乗り始める。
すっげえ~はっえ~!
オレは外の景色に夢中だった。
民家が飛んじゃうんじゃねーの?ってくらい目まぐるしく流れ、やたら広い畑やデカい工場、違う町の学校では豆粒みたいな小学生が野球をやっていたりする。
車や普通の電車がすごくゆっくりに見えて面白かった。
「……山本、あっち」
肩を叩かれ振り向くと、ヒバリは反対側の窓を指指す。
「ん?」
「あっちの景色も見たら?」
「?、うん」
よくワカンねーけど、ヒバリに言われるまま反対の窓側の座席へと移動する。
すると、雪化粧をした大きな大きな山が見えてきた。
「おああ!あれってもしかして!」
目を見開いてヒバリを振り返る。
ヒバリは、いいから見とけば、と、ふっと笑った。
オレはまたその山に目を戻した。
凛とそびえ立つその山は力強く、景色と一緒に移動していく。
だんだん見えなくなって、オレはヒバリの隣に戻る事にした。
「ヒバリも見た?すごかったな」
「良かったね」
「……うん」
気付けばオレばかりはしゃいでて、落ち着いて座るヒバリに対し少し恥ずかしくなる。
なので、少しはオレも落ち着く事にした。
「あ……お茶飲むか?」
「いきなり何」
「いや、オレも落ち着いて旅しようかと」
「……へぇ」
「何だよ……」
人の顔を面白そうに…ってか見下すように?ニヤニヤして見てくるから、オレはちょっとムッとした。
「バカにしてんのかー?」
「してないよ」
「じゃあ何だよ」
「……子供扱い?」
「はぁ?」
「情操教育しがいがあるよね」
「じょーそ……?」
目をぱちくりさせると、ヒバリは分からないだろうねと頭を撫でてくる。
「……もー子供扱いすんなって」
その手を掴むと
「……あぁ」
ヒバリは澄ました顔で目を光らせた。
「じゃあ大人扱いしてあげる」
「……うっん!?」
そしてナゼだかオレはヒバリにキスをされていた。
それは不意討ちで、息つく暇もなく。
後ろに逃げようとしたら窓に頭をぶつけてしまった。
「って……!」
「何してんの?」
後頭部がじーんとする。
「それこっちのセリフだろ」
そう言ったところで、ヒバリは全く関係ないと言わんばかりの顔。関係ないどころか自業自得とでも言いたげだ。
「君が大人扱いしろって言ったんだよ」
「そうだけど、そういう意味じゃ…うひゃ!」
いきなり腹部に冷たい感触が降りて、変な声が出てしまった。ヒバリの手はいつも少しヒンヤリしている。
と言うか…え?何?ここで!?
「ヒバ……っ!」
制止を求める声はあっさりとヒバリの口付けに飲み込まれ、浅く、深く、繰り返されて思考が停止する。
「……ん」
その間も指先でお腹の横辺りを撫でられてくすぐったい。
周りは誰もいないからとても静かで、ゴーッという音だけが耳に入る。
あ、だめだ、何も考えらんねー…
するとゆるりと唇が離れた。心臓がドキドキ言っている。目を開けて、トロけそうだった気持ちがハッと我に返った。
そうだ、ここ、そんな事する場所じゃねーんだった!
「もっとしようか」
脇腹にあるヒバリの手がスルリと上へ動こうとする。
「わぁ!ダメだろ!」
オレは慌ててその腕を掴んだ。
「何で?」
「だって!外から見えんじゃん」
「こんなに早く走ってるんだから見える訳ないだろ」
「でも!いつ誰が来るか分かんねーし」
「貸切りだから誰も来ないよ」
「貸切り……!?」
「……諦めたら?」
「えぇえ!?あ…っ!」
貸切りって言葉に気を取られた隙に、ヒバリの指はオレの胸へと辿り着いてしまった。
貸切り…新幹線って貸切りなんて出来んの!?ってかヒバリ何してんだって…!
「ちょ…んっ…ヒバ…」
声がうまく出せない。
「……君さ、跳ね馬と飛行機乗った時……二人だったの?」
「ん……?」
いきなりの質問に、頭の中は「?」でいっぱい。
「何もされてないだろうね?」
一体何の話だ?ディーノさんと飛行機乗った時?何かって何だ!
「…んも…な…」
「何?」
何って…そんな触られてたら、声が…!
「何も…っあるわけ、ない…って」
絞り出すように答えると、そう、と一言聞こえて再び唇が重ねられる。
待った、これ以上はダメだって!
ギュッとヒバリの腕と肩を掴んだ手に力を入れるが、ヒバリはやめてくれず。
ダメだと思う自分がいるのに、気持ち良さに負けてうまく逆らえない。
「っ……もう……」
「もう…?」
ヒバリはイタズラを楽しむかように口角を吊り上げた。胸の尖りを弄ぶ手は反対の方へと移り、ビクリと体が跳ねてしまう。
「……卑猥だよね君って」
「な……!」
何が!どっちが!ヒワイなのはオレじゃなくてヒバリだろ!
なんて声も声にならず。
肩口に顔を埋めれば耳を甘噛みされ。
「…やめ…っ…」
逃れようと顔を背けたら、ゴオッと響く音と共に窓の外は真っ暗になり、自分の顔が反射して映るのが目に入る。
オレはゆでダコみたいに真っ赤で、すげぇ情けねー顔をしていた。窓越しにヒバリと目が合い、何かもう、いたたまれないくらい恥ずかしい……!
「……っ!もう、ここまで…っ!」
オレは力を振り絞って、グイッとヒバリの腕を押した。ようやく解放されて、少し乱れた息を整える。
「もう…やめろっつったろ」
「そんな顔してなかったじゃない」
「だっ…ダメなもんはダメなの!」
オレは再び顔が赤くなるのを自分でも感じた。そりゃ嫌だったなんて言ったら嘘になるけど、でも、こんなトコでなんて無理!
「あぁそう」
ヒバリは目を細め、口をへの字に曲げた。
「じゃあいいよ。少しは楽しんだ事だし、僕は寝ようかな」
「えっ」
「着くまで静かにしていなよ」
「寝んの?」
「だって構われたくないんでしょ」
そう言ってヒバリは大きな欠伸をする。
せっかくの旅なのに、ヒバリの機嫌を損ねてしまっただろうか。
「別にそうじゃねぇよ……ヒバリ~」
オレの言葉も虚しく、ヒバリは顔を反対の方へ向けてしまった。一人にされて、ガランとした車内がなんだか寂しい。
さっきまではオレの保護者みてーに優しくしてくれて、今度は思い通りにいかないからって拗ねて見せて、ヒバリはオトナなんだかコドモなんだかよく分かんねーな。
あーあ……。
ついため息が落ちる。
ふと、さっきディーノさんの事を聞かれたのを思い出した。あれは何だったんだろう?ディーノさんとイタリアに行ったけど、その時はロマーリオのおっさんもいたし、ディーノさんの部下もいた。だから別に二人きりじゃなかったんだけど……。
そこまで考えて、オレはドキリとしてヒバリの方を見た。
もしかしてヒバリ、妬いてくれたとか?
だから急に新幹線に乗せてくれたんだろうか。しかもまさかの貸切りで。
そう考えたら、ソッポを向いてるヒバリの事を抱き締めたくて仕方ない衝動にかられた。……でも、寝てる時は起こすなといつも言われているので、その衝動を何とか押さえ込み、代わりに投げ出されている手をそっととる。指を交互に絡ませて、キュッと握った。
「オレ……ヒバリの事、誰よりも好きだぜ」
そう呟くと、寝ているはずのヒバリの手がキュッと握り返してきた。
オレはまた心臓飛び出るだろってくらいドキッとしてしまい、なんだ起きてたのか、と顔がニヤケた。
ホント、ヒバリって面白ぇ。
手をそのままに、目線を窓の外へと移す。
一体今どの辺なのか。そういえばどこの駅で降りるんだ?そんな事を考えてぼんやり見つめていたが、突然世界が真っ白になり、オレは息をのんだ。
「……!!ヒバリ!ヒバリ起きろ!」
「……?」
思わずヒバリを揺さぶり起こし、窓を見るよう促した。
「外見て!外!」
「……!」
ヒバリも思わず目を大きくする。
窓の外は、一面銀色の雪景色。
さっきまであんなに晴れていて、雪なんて何処にもなかったのに、民家も田畑も真っ白で、誰の足跡もない綺麗に平な雪が光る。
「へぇ……綺麗だね」
「な!」
並盛はまだ雪が降っておらず、雪を見るのは久しぶり。しかもヒバリと二人でというのが嬉しくて。身を乗り出して夢中になってるヒバリの姿が可愛いくて。
あ。何かキスしてぇかも。
思うと同時に体が動き、ヒバリの頬に唇を寄せていた。
ヒバリは我に返り、オレを睨んだ。
「何してんの」
「ハハッ、何かしたくなっちまった」
「は……」
ヒバリは真っ直ぐオレを見つめて、オレはその顔が綺麗だなと見とれて、オレ達は引き合うようにキスをした。
優しくふれてくれるそれは、ヒバリがオレに好きだと伝えてくれてるようで、オレもヒバリが好きだよと、伝わるように触れ合った。
なぁヒバリ、すげぇ好き……。
その後も旅はスゴく楽しかった。
まあ、夜は大変な目にあったけど、それは言えないので秘密。
初めての新幹線は、幸せを山のように運んでくれた。帰りもやっぱり貸切りで、オレ達は手を繋いで隣に座る。
「ヒバリ、本当にサンキューな」
感謝の気持ちを込めて、オレは眠そうにしているヒバリに口付けをした。
END
「新幹線、乗ってみてーな」
その一言でこんな事になるだなんて思いもよらず。気付いたらオレは、ヒバリと二人きりで、飛ぶように走るこの乗り物に乗っていた。
オレの家は寿司屋だから、なかなか家族旅行ができない。ディーノさんがイタリア連れて行ってくれた時が初めての飛行機だった。けど新幹線って乗った事ないんだよなぁ。
そんな話をヒバリにしていたら、じゃあ今度の土曜日迎えに行くよ、なんて言われて、バイクに乗せられ大きな駅に着いて、そしてよく分からないまま目の前には新幹線があった。
「すっげー!本物だ!」
「サッサと乗るよ」
「おー」
中は広くて、3列の座席と2列の座席がズラリと並んでいた。不思議なのは、オレ達以外誰もいない事。
「……この車両、人いねーな?」
「観光シーズンじゃないからじゃない。群れるの嫌いだから丁度良かったよ」
ヒバリはそう言うと、早々と真ん中まで歩き、小さな荷物を2列シートに置くと、自分は3列シートの通路側にドサッと腰を下ろした。
でも、駅で新幹線に並んでる人いたけどな。この車両だけ空いているのだろうか。
ま、いっか。
そんなもんなのかなと思い、オレは深く考えなかった。
「なあこれ、席ってどこでもいいの?」
車掌さんが切符を見に来るのをテレビで見た事があったが、そういや切符もヒバリが持っている。
「君はココ」
そう言ってヒバリは、同じシートの窓側の座席を指差した。
「へー、じゃ座ろ。前ごめんなっ」
荷物はそこ、と言われた通りにヒバリの荷物の横に置き、ヒバリの足を蹴らないように示された席へと座る。
座ると同時に列車は動き出した。
「うわ、動いた!」
「そりゃあね」
ヒバリは呆れた顔を見せるが、オレはワクワクして仕方なかった。
新幹線は、最初思ったよりゆっくりだったけど、いくつかの駅を通過すると本領発揮!とばかりにスピードに乗り始める。
すっげえ~はっえ~!
オレは外の景色に夢中だった。
民家が飛んじゃうんじゃねーの?ってくらい目まぐるしく流れ、やたら広い畑やデカい工場、違う町の学校では豆粒みたいな小学生が野球をやっていたりする。
車や普通の電車がすごくゆっくりに見えて面白かった。
「……山本、あっち」
肩を叩かれ振り向くと、ヒバリは反対側の窓を指指す。
「ん?」
「あっちの景色も見たら?」
「?、うん」
よくワカンねーけど、ヒバリに言われるまま反対の窓側の座席へと移動する。
すると、雪化粧をした大きな大きな山が見えてきた。
「おああ!あれってもしかして!」
目を見開いてヒバリを振り返る。
ヒバリは、いいから見とけば、と、ふっと笑った。
オレはまたその山に目を戻した。
凛とそびえ立つその山は力強く、景色と一緒に移動していく。
だんだん見えなくなって、オレはヒバリの隣に戻る事にした。
「ヒバリも見た?すごかったな」
「良かったね」
「……うん」
気付けばオレばかりはしゃいでて、落ち着いて座るヒバリに対し少し恥ずかしくなる。
なので、少しはオレも落ち着く事にした。
「あ……お茶飲むか?」
「いきなり何」
「いや、オレも落ち着いて旅しようかと」
「……へぇ」
「何だよ……」
人の顔を面白そうに…ってか見下すように?ニヤニヤして見てくるから、オレはちょっとムッとした。
「バカにしてんのかー?」
「してないよ」
「じゃあ何だよ」
「……子供扱い?」
「はぁ?」
「情操教育しがいがあるよね」
「じょーそ……?」
目をぱちくりさせると、ヒバリは分からないだろうねと頭を撫でてくる。
「……もー子供扱いすんなって」
その手を掴むと
「……あぁ」
ヒバリは澄ました顔で目を光らせた。
「じゃあ大人扱いしてあげる」
「……うっん!?」
そしてナゼだかオレはヒバリにキスをされていた。
それは不意討ちで、息つく暇もなく。
後ろに逃げようとしたら窓に頭をぶつけてしまった。
「って……!」
「何してんの?」
後頭部がじーんとする。
「それこっちのセリフだろ」
そう言ったところで、ヒバリは全く関係ないと言わんばかりの顔。関係ないどころか自業自得とでも言いたげだ。
「君が大人扱いしろって言ったんだよ」
「そうだけど、そういう意味じゃ…うひゃ!」
いきなり腹部に冷たい感触が降りて、変な声が出てしまった。ヒバリの手はいつも少しヒンヤリしている。
と言うか…え?何?ここで!?
「ヒバ……っ!」
制止を求める声はあっさりとヒバリの口付けに飲み込まれ、浅く、深く、繰り返されて思考が停止する。
「……ん」
その間も指先でお腹の横辺りを撫でられてくすぐったい。
周りは誰もいないからとても静かで、ゴーッという音だけが耳に入る。
あ、だめだ、何も考えらんねー…
するとゆるりと唇が離れた。心臓がドキドキ言っている。目を開けて、トロけそうだった気持ちがハッと我に返った。
そうだ、ここ、そんな事する場所じゃねーんだった!
「もっとしようか」
脇腹にあるヒバリの手がスルリと上へ動こうとする。
「わぁ!ダメだろ!」
オレは慌ててその腕を掴んだ。
「何で?」
「だって!外から見えんじゃん」
「こんなに早く走ってるんだから見える訳ないだろ」
「でも!いつ誰が来るか分かんねーし」
「貸切りだから誰も来ないよ」
「貸切り……!?」
「……諦めたら?」
「えぇえ!?あ…っ!」
貸切りって言葉に気を取られた隙に、ヒバリの指はオレの胸へと辿り着いてしまった。
貸切り…新幹線って貸切りなんて出来んの!?ってかヒバリ何してんだって…!
「ちょ…んっ…ヒバ…」
声がうまく出せない。
「……君さ、跳ね馬と飛行機乗った時……二人だったの?」
「ん……?」
いきなりの質問に、頭の中は「?」でいっぱい。
「何もされてないだろうね?」
一体何の話だ?ディーノさんと飛行機乗った時?何かって何だ!
「…んも…な…」
「何?」
何って…そんな触られてたら、声が…!
「何も…っあるわけ、ない…って」
絞り出すように答えると、そう、と一言聞こえて再び唇が重ねられる。
待った、これ以上はダメだって!
ギュッとヒバリの腕と肩を掴んだ手に力を入れるが、ヒバリはやめてくれず。
ダメだと思う自分がいるのに、気持ち良さに負けてうまく逆らえない。
「っ……もう……」
「もう…?」
ヒバリはイタズラを楽しむかように口角を吊り上げた。胸の尖りを弄ぶ手は反対の方へと移り、ビクリと体が跳ねてしまう。
「……卑猥だよね君って」
「な……!」
何が!どっちが!ヒワイなのはオレじゃなくてヒバリだろ!
なんて声も声にならず。
肩口に顔を埋めれば耳を甘噛みされ。
「…やめ…っ…」
逃れようと顔を背けたら、ゴオッと響く音と共に窓の外は真っ暗になり、自分の顔が反射して映るのが目に入る。
オレはゆでダコみたいに真っ赤で、すげぇ情けねー顔をしていた。窓越しにヒバリと目が合い、何かもう、いたたまれないくらい恥ずかしい……!
「……っ!もう、ここまで…っ!」
オレは力を振り絞って、グイッとヒバリの腕を押した。ようやく解放されて、少し乱れた息を整える。
「もう…やめろっつったろ」
「そんな顔してなかったじゃない」
「だっ…ダメなもんはダメなの!」
オレは再び顔が赤くなるのを自分でも感じた。そりゃ嫌だったなんて言ったら嘘になるけど、でも、こんなトコでなんて無理!
「あぁそう」
ヒバリは目を細め、口をへの字に曲げた。
「じゃあいいよ。少しは楽しんだ事だし、僕は寝ようかな」
「えっ」
「着くまで静かにしていなよ」
「寝んの?」
「だって構われたくないんでしょ」
そう言ってヒバリは大きな欠伸をする。
せっかくの旅なのに、ヒバリの機嫌を損ねてしまっただろうか。
「別にそうじゃねぇよ……ヒバリ~」
オレの言葉も虚しく、ヒバリは顔を反対の方へ向けてしまった。一人にされて、ガランとした車内がなんだか寂しい。
さっきまではオレの保護者みてーに優しくしてくれて、今度は思い通りにいかないからって拗ねて見せて、ヒバリはオトナなんだかコドモなんだかよく分かんねーな。
あーあ……。
ついため息が落ちる。
ふと、さっきディーノさんの事を聞かれたのを思い出した。あれは何だったんだろう?ディーノさんとイタリアに行ったけど、その時はロマーリオのおっさんもいたし、ディーノさんの部下もいた。だから別に二人きりじゃなかったんだけど……。
そこまで考えて、オレはドキリとしてヒバリの方を見た。
もしかしてヒバリ、妬いてくれたとか?
だから急に新幹線に乗せてくれたんだろうか。しかもまさかの貸切りで。
そう考えたら、ソッポを向いてるヒバリの事を抱き締めたくて仕方ない衝動にかられた。……でも、寝てる時は起こすなといつも言われているので、その衝動を何とか押さえ込み、代わりに投げ出されている手をそっととる。指を交互に絡ませて、キュッと握った。
「オレ……ヒバリの事、誰よりも好きだぜ」
そう呟くと、寝ているはずのヒバリの手がキュッと握り返してきた。
オレはまた心臓飛び出るだろってくらいドキッとしてしまい、なんだ起きてたのか、と顔がニヤケた。
ホント、ヒバリって面白ぇ。
手をそのままに、目線を窓の外へと移す。
一体今どの辺なのか。そういえばどこの駅で降りるんだ?そんな事を考えてぼんやり見つめていたが、突然世界が真っ白になり、オレは息をのんだ。
「……!!ヒバリ!ヒバリ起きろ!」
「……?」
思わずヒバリを揺さぶり起こし、窓を見るよう促した。
「外見て!外!」
「……!」
ヒバリも思わず目を大きくする。
窓の外は、一面銀色の雪景色。
さっきまであんなに晴れていて、雪なんて何処にもなかったのに、民家も田畑も真っ白で、誰の足跡もない綺麗に平な雪が光る。
「へぇ……綺麗だね」
「な!」
並盛はまだ雪が降っておらず、雪を見るのは久しぶり。しかもヒバリと二人でというのが嬉しくて。身を乗り出して夢中になってるヒバリの姿が可愛いくて。
あ。何かキスしてぇかも。
思うと同時に体が動き、ヒバリの頬に唇を寄せていた。
ヒバリは我に返り、オレを睨んだ。
「何してんの」
「ハハッ、何かしたくなっちまった」
「は……」
ヒバリは真っ直ぐオレを見つめて、オレはその顔が綺麗だなと見とれて、オレ達は引き合うようにキスをした。
優しくふれてくれるそれは、ヒバリがオレに好きだと伝えてくれてるようで、オレもヒバリが好きだよと、伝わるように触れ合った。
なぁヒバリ、すげぇ好き……。
その後も旅はスゴく楽しかった。
まあ、夜は大変な目にあったけど、それは言えないので秘密。
初めての新幹線は、幸せを山のように運んでくれた。帰りもやっぱり貸切りで、オレ達は手を繋いで隣に座る。
「ヒバリ、本当にサンキューな」
感謝の気持ちを込めて、オレは眠そうにしているヒバリに口付けをした。
END
