ツナ山

2DK



「つな~休憩しようぜ~」
「うん!」

並盛から少し離れた小さな町。
新築ではないけどまだ新しいアパートで、俺とツナは一緒に暮らす事になった。
日当たり良好な角部屋で、畳とフローリングがそれぞれ6畳、小さなダイニングキッチンもあってバストイレは別々だ。
壁も厚いし、ベランダには布団も干せる。
目と鼻の先にはスーパーがある。
見た瞬間に気に入って、俺達はすぐにこの部屋に決めた。


ツナと俺は同じ大学に進み、それぞれ自宅から通っていた。
でも同じ大学とはいえ時間のズレは生じる。
付き合い始めて3年半。いつからか、一緒に住みたいななんて話すようになり。
思い切ってルームシェアの話をしてみたら、一度親元を離れての生活も経験すべきだな!なんて親父たちもあっさりOKしてくれた。(まぁ親友が一緒なら安心てのもあるんだろうけど)

で、10月。
中途半端なこの時期に、俺達二人は引っ越し作業中なのだ。

「あ~、オレ引っ越しって初めてだけどさ~、結構疲れるね~」
畳まれた段ボールを端に寄せ、座れる場所を作りながらツナはげんなりとため息を一つ。
「本当にな~、部屋なかなか片付かねぇもんな」
返事をしながら、温かなコーヒーにミルクをたっぷり注ぐ。
積み上げられた段ボール箱の隙間を通り、ツナの座るフローリングへ。
「はい、ツナ」
「ありがとう山本!」
ツナの顔が綻んだ。
オレもつられて頬がゆるむ。
「今日中に寝る場所だけでも確保しないとね」
「だな。午後になったら獄寺が来てくれるし、何とかなんじゃね?」
「そうだねっ」
獄寺は、オレ達とは違う大学へ進んだのでだいぶ会う機会は減ったけど、ツナとはマメに連絡とってるみたいだ。月1~2回は三人で会って話すので相変わらず仲は良い。
「あ、そしたらさぁ三人で銭湯行こうぜ!」
「銭湯?そんなのあんの?」
「あるある!!近くにダチも住んでてさ、そいつが言ってたんだ」
「へー行きたい!」
「なっ♪」

疲れていても、陽気な音楽のように話は弾む。
新しい環境はやっぱりわくわくするし、何よりこれからはツナと一緒にいられる時間がぐっと増えると思うとテンションは上がる一方だ。
じゃあまた明日な、から、ただいま、おかえりになる。

………うわ、やべぇ。
いいなそれ。

思わず頬が熱くなった。
ってかもうこうやってお揃いのマグカップとか使ってる時点で何かイイよな。
なんか、こう、まるで―――

「…山本、何にやけてんの」
「へっ?」

ぽわわんとしたまどろみからハッと我にかえると、ツナが呆れた表情を向けていた。
「…にやけてねぇよ?」
「にやけてるけど?…何か変な事考えてたんでしょ~?」
「ばっ…!考えてねえって!」
「ふ~~~ん?」
「ほ・ん・と・に!」
ツナがあまりにじろじろと疑うので、何だか本当に変なコト考えてたかのようにうろたえてしまう。
そんなオレをみて、ツナはいたずらっぽく口角を上げた。
「な~んだ。山本の事だから、夜でも楽しみにしてんのかと思った」
「し、してねえし!」
「えー本当?」
「ほ、んと…ってかしてなくはないけど、今は別な事考えてたんだって」
「…あはは!山本正直~」
「もぅ…ツナのが変なコト考えてんじゃん」
「え~」
ぷぅと頬を膨らますと、ツナはゴメンゴメンって笑った。
コクリとコーヒーを味わい、ほぅっと一息。
そうしてオレに向けられたツナの目は、包みこまれるような温かさだった。
「だって…やっぱり山本と暮らせるって思ったら嬉しいし」
「…うん」
「さっきスーパーで買った間に合わせのマグだけどさ、こうやってお揃いの使ってるとなんかスゲー幸せ感じちゃったりして」
「あ、それオレも今思ってた」
「あははそっか!あ、それでにやにやしてたの山本?」
「ニヤニヤしてねーし」
オレが苦虫を噛み潰したような顔をすれば、ツナはお腹を抱えて笑った。

胸の奥がくすぐったい。
ツナが同じ事を考えて、同じような幸せ感じててるってのが、嬉しくてたまらない。

「山本、あの、オレたくさん迷惑かけるかもだけど、いやかけないようにするつもりだけど、えと、…これからよろしくね」
ツナがほんのり頬を染めて、照れくさそうにはにかんだ。
ツナとの付き合いは長いはずなのに、改めて言われてしまったよろしくなんて言葉にオレの心臓はドキドキと音を立てる。
「こちらこそっ、オレツナの事ずっとずっと好きだから!だから、よろしくな!」
危うく声が裏返ってしまいそうになり、しかも挨拶じゃなくて告白してどうすんだよと言ってから気づいたりして耳まで熱い。
ツナは一瞬ん目を丸くして、小さく笑った。
「もう…山本」
「う…」
何だか穴に入りたいほど恥ずかしくなって何も言えないでいると、ちゅっと、唇に柔らかな感触。
「っ…つな」
「オレも、山本の事ずっとずっと好きだから…よろしくね」
「…うん」
目の前のツナもいつの間にか耳まで真っ赤で、再び合わせた唇はとても熱くて、まだ散らかりまくってるこの部屋は、今にも花が咲きこぼれそうなほどポカポカしていた。


「あ、そうだツナ、オレずっと言おうと思ってたんだけど」
「ん、何?」
「誕生日、おめでと。今日だよな?」
「え?あっ、そういえば…最近バタバタしてて忘れてた」
ぽかんとしたツナに思わず笑ってしまった。確かにここんとこ、買い物したりあちこち電話したりと時間はあっという間に過ぎ去ったっけ。
「ツナらしいよなー」
「うるさいなぁ」
でも、ありがと!
そう言って、ツナはごまかすようにキスをする。
そんなツナが可愛いくて、オレからもキスを贈った。


部屋が片付いたら、カバンにしまってあるプレゼントを渡そう。
獄寺も多分、いや、間違いなく何か用意してくるだろうから、そしたら夜はツナの誕生日祝いをしよう。

来年も再来年も、この部屋で、ツナの誕生日を祝えたらいいなぁと、色々な新しい物に囲まれながらオレは願った。






おしまい!
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