ツナ山
付き合い初めて3週間
「さっみ~な!」
「風強ぇ~」
すっかり日がくれた町中を、俺と山本は並んで歩いていた。
オレ達は一応、お付き合いをしている。
一緒に帰りながら、本屋に寄ったり公園で話しをしたりしてたらあっという間に辺りは真っ暗になった。
「何か山本といると時間があっという間に過ぎちゃうよ」
「オレも。不思議だよな。授業はあんなに時間経つの遅ぇのにさ」
山本が首をかしげた。
「1日って短いよね。全然足りないよ・・・」
俺はハァッと大きく息を吐いた。
1日が足りない。本当に。
オレ達は付き合って3週間になる。
が、まだ手もつないでない。
オレから告白して付き合い始めたんだから、いくなららオレから!とか思うんだけど、その勇気が出ないでいた。
だって、告白した時の返事が、
「…そっか…うん、オレもツナの事いいなって思うし…その…よろしくな!」
って…本当に良かったの?流されたんじゃないの!?なんて戸惑うくらいしどろもどろな返事で。
しかも、出会った頃からあった、肩を組んだり頭をくしゃくしゃ撫でたりっていう山本的スキンシップが、ここんとこスッカリなくなったのだ。
…何でなんだろ…。
本当に山本、良かったのかな。
不安が押し寄せる。
毎日こんな事を考えて、結局何も出来ず1日が終わってしまうのだ。
俺はハッとして、首を横に振った。
こんなウダウダ考えるからダメなんだ!
ちゃんと山本を信じてしっかりしなきゃ!
「どーした?ツナ」
「エッ!いや、何でもない…」
よし、今日こそは何か恋人っぽく…
「あ、あのさ山本」
「ん?」
うわ…格好いい!
……じゃなくて!
「さ…寒いね…」
「?そうだな」
「えっと、もう少し」
くっつく?って言おうと思ったら
「あ、そーだ!」
と山本がいきなり鞄をあさりだす。
な、何?
それでなくてもドキドキしてるのに、いきなり大きな声出されてオレは心臓飛び出そうになっちゃったよ?
「ほらコレ!」
と、山本が取り出したのは使い捨てカイロ。
「そーいや部活の先輩に貰ったのすっかり忘れてた!早く出せば良かったな!」
そう言って山本はそのままオレに差し出した。
「あ、ありがとう。あれ、でも山本の分は?」
「ん?オレはへーきだからツナ使えよ」
「えっ!いいよ」
「いーって!なっ」
カラリと笑う山本。優しいなぁもう。
じゃあ、とありがたくいただく事にした。
…いや、ありがたくいただいてる場合じゃないよオレ!
早くしないと分かれ道になっちゃうから!
とりあえずカイロを開けて、ポケットにしまう。
「あったかい」
「良かったな」
山本がニコリと笑顔を見せる。
俺はまた、その顔にトクリと脈打つ。
俺ばかりが、ドキドキしてる気がする。
その時、冷たい風がビュウッと音をたてて勢い良く吹き抜けた。
「うわ…!」
寒!!
風が落ち葉を巻き上げ、その一枚がヒラッと山本の肩に舞い落ちる。
「あ、山本肩に…」
肩についた枯れ葉を取ろうと手を伸ばした時だった。
山本は、俺の手を触れさせまいとサッと体を後ろに引いたのだ。
―――――え?
思わず、動きが止まる。
山本はハッとして俺を見た。
「あ…自分で取るから大丈夫だぜ?」
取り繕うように笑うが、眉は八の字に下がっている。
俺は、目の前が真っ暗になった。
―――――拒絶。
そう、これは拒絶だ。
何で気付かなかったんだろう。
山本は俺に、触りたくもないし触らせたくもないのだ。
だから、スキンシップもなくなったんじゃないか。
付き合ってるんじゃなくて、俺の一方通行だった。
その事実に愕然とした。
勝手にドキドキして、勝手に盛り上がって、山本は優しいからただそれに付き合ってくれただけ。
本当は、嫌だったのに…。
…すっげー恥ずかしい…!
「ツナ?」
急に黙りこくった俺に、山本が声をかける。
オレは、どうしていいか分からなかった。
「…あ、俺さっきの公園に忘れ物したかも。山本先帰ってて?」
踵を返し、その場から逃げるように走った。
「え、ツナ!」
山本の声が遠ざかる。
オレはバカだ。
告白なんかしなきゃ良かった。
山本は、いつだって親友としてそばにいてくれたのに。
それだけで良かったのに……!
一人になった俺に、追い討ちをかけるような冷たい風。
俺はそっと右のポケットに手を入れた。
…暖かい。
山本のくれたカイロがポカポカしていた。
…まるで山本みたいだ。
なんて思って、今時そんなの少女漫画でも言わないよ…と自分で自分に突っ込みを入れる。
あぁ…。
明日からどうしよう。
身も心も鉛のようだ。
足がこれ以上動かない。
「ハァ…」
灰色みたいな溜息をついた、その時だった。
「ツナ!」
「!?」
いきなり手首を掴まれた。
振り返ると、少し息を切らせた山本の姿。
「置いてくなよ…!」
「…山本…」
なんで?
まさか、追いかけてくるなんて。
「…あの…」
「ごめんな」
「え?」
いきなり謝られて、オレはキョトンとする。
山本は続けた。
「さっき、ツナの事避けちまっただろ?」
オレは胸がズキリと痛む。
「き、気にしてないよ!オレこそ山本に無理させちゃって…」
「ツナ、違うんだって!」
山本はオレの言葉を遮って、握る手に力を込めた。
何が???
いつもと違う思い詰めた表情をする山本に、オレは息を呑んだ。
「ツナのせいじゃなくて」
山本は、言うのをためらうようにポツリポツリと言葉を落とす。
「ツナに触ると、やべーくらいドキドキしちまうからさ…変に思われんのが嫌で…」
「…」
「だから、触られんの避けてて…傷つけたよな。ごめん、ツナ」
「…」
俺は言葉が出なかった。
頭が働かない。
ドキドキしてるのは、俺だけじゃなかった…?
「…つな、怒ってる?」
山本は仔犬のようにシュンとした顔で俺に問いかける。
「怒るわけないよ…!」
咄嗟に両手で山本の手を握る。
怒るどころか、オレは舞い上がって飛んでいきそうだよ。
「オレ……山本に嫌われたんだと思った……」
全身の力が抜けて、膝がくずれそうだった。
「んなわけねーだろ!オレツナの事すっげー好きなんだぜ!?」
山本の言葉が胸に響く。
さっきまでのどんよりした気持ちが嘘のように飛んでいく。
「オレも、山本がすごい好きだよ」
山本は一瞬間を置いて、うん、と笑顔を見せた。
「山本、手袋は?」
寒さで少し赤くなった山本の手は、オレの手袋を通してまでヒンヤリとしている。
「あぁ、忘れちまってさ」
ハハッと笑う。
「あ、そうだ」
オレは繋いだ手を一度外し、右手の手袋を山本に渡した。
「山本、これ右手にはめなよ」
「お?いーの?」
「うん」
山本がはめたのを見て、また手を繋ぐ。
…手袋越しではなく直に繋いで、かなりドキッとしたのは内緒だ。
そのまま、俺の右のポケットに手を入れた。
「うわ、あったけー!」
「ね!山本のカイロすごい暖かいよ」
「ハハハッ」
くすぐったい気分だった。
オレ達はゆっくり歩いた。
分かれ道まで、ゆっくりゆっくり…。
付き合い始めて3週間。
ようやくオレ達は手を繋ぎました。
オシマイ
「さっみ~な!」
「風強ぇ~」
すっかり日がくれた町中を、俺と山本は並んで歩いていた。
オレ達は一応、お付き合いをしている。
一緒に帰りながら、本屋に寄ったり公園で話しをしたりしてたらあっという間に辺りは真っ暗になった。
「何か山本といると時間があっという間に過ぎちゃうよ」
「オレも。不思議だよな。授業はあんなに時間経つの遅ぇのにさ」
山本が首をかしげた。
「1日って短いよね。全然足りないよ・・・」
俺はハァッと大きく息を吐いた。
1日が足りない。本当に。
オレ達は付き合って3週間になる。
が、まだ手もつないでない。
オレから告白して付き合い始めたんだから、いくなららオレから!とか思うんだけど、その勇気が出ないでいた。
だって、告白した時の返事が、
「…そっか…うん、オレもツナの事いいなって思うし…その…よろしくな!」
って…本当に良かったの?流されたんじゃないの!?なんて戸惑うくらいしどろもどろな返事で。
しかも、出会った頃からあった、肩を組んだり頭をくしゃくしゃ撫でたりっていう山本的スキンシップが、ここんとこスッカリなくなったのだ。
…何でなんだろ…。
本当に山本、良かったのかな。
不安が押し寄せる。
毎日こんな事を考えて、結局何も出来ず1日が終わってしまうのだ。
俺はハッとして、首を横に振った。
こんなウダウダ考えるからダメなんだ!
ちゃんと山本を信じてしっかりしなきゃ!
「どーした?ツナ」
「エッ!いや、何でもない…」
よし、今日こそは何か恋人っぽく…
「あ、あのさ山本」
「ん?」
うわ…格好いい!
……じゃなくて!
「さ…寒いね…」
「?そうだな」
「えっと、もう少し」
くっつく?って言おうと思ったら
「あ、そーだ!」
と山本がいきなり鞄をあさりだす。
な、何?
それでなくてもドキドキしてるのに、いきなり大きな声出されてオレは心臓飛び出そうになっちゃったよ?
「ほらコレ!」
と、山本が取り出したのは使い捨てカイロ。
「そーいや部活の先輩に貰ったのすっかり忘れてた!早く出せば良かったな!」
そう言って山本はそのままオレに差し出した。
「あ、ありがとう。あれ、でも山本の分は?」
「ん?オレはへーきだからツナ使えよ」
「えっ!いいよ」
「いーって!なっ」
カラリと笑う山本。優しいなぁもう。
じゃあ、とありがたくいただく事にした。
…いや、ありがたくいただいてる場合じゃないよオレ!
早くしないと分かれ道になっちゃうから!
とりあえずカイロを開けて、ポケットにしまう。
「あったかい」
「良かったな」
山本がニコリと笑顔を見せる。
俺はまた、その顔にトクリと脈打つ。
俺ばかりが、ドキドキしてる気がする。
その時、冷たい風がビュウッと音をたてて勢い良く吹き抜けた。
「うわ…!」
寒!!
風が落ち葉を巻き上げ、その一枚がヒラッと山本の肩に舞い落ちる。
「あ、山本肩に…」
肩についた枯れ葉を取ろうと手を伸ばした時だった。
山本は、俺の手を触れさせまいとサッと体を後ろに引いたのだ。
―――――え?
思わず、動きが止まる。
山本はハッとして俺を見た。
「あ…自分で取るから大丈夫だぜ?」
取り繕うように笑うが、眉は八の字に下がっている。
俺は、目の前が真っ暗になった。
―――――拒絶。
そう、これは拒絶だ。
何で気付かなかったんだろう。
山本は俺に、触りたくもないし触らせたくもないのだ。
だから、スキンシップもなくなったんじゃないか。
付き合ってるんじゃなくて、俺の一方通行だった。
その事実に愕然とした。
勝手にドキドキして、勝手に盛り上がって、山本は優しいからただそれに付き合ってくれただけ。
本当は、嫌だったのに…。
…すっげー恥ずかしい…!
「ツナ?」
急に黙りこくった俺に、山本が声をかける。
オレは、どうしていいか分からなかった。
「…あ、俺さっきの公園に忘れ物したかも。山本先帰ってて?」
踵を返し、その場から逃げるように走った。
「え、ツナ!」
山本の声が遠ざかる。
オレはバカだ。
告白なんかしなきゃ良かった。
山本は、いつだって親友としてそばにいてくれたのに。
それだけで良かったのに……!
一人になった俺に、追い討ちをかけるような冷たい風。
俺はそっと右のポケットに手を入れた。
…暖かい。
山本のくれたカイロがポカポカしていた。
…まるで山本みたいだ。
なんて思って、今時そんなの少女漫画でも言わないよ…と自分で自分に突っ込みを入れる。
あぁ…。
明日からどうしよう。
身も心も鉛のようだ。
足がこれ以上動かない。
「ハァ…」
灰色みたいな溜息をついた、その時だった。
「ツナ!」
「!?」
いきなり手首を掴まれた。
振り返ると、少し息を切らせた山本の姿。
「置いてくなよ…!」
「…山本…」
なんで?
まさか、追いかけてくるなんて。
「…あの…」
「ごめんな」
「え?」
いきなり謝られて、オレはキョトンとする。
山本は続けた。
「さっき、ツナの事避けちまっただろ?」
オレは胸がズキリと痛む。
「き、気にしてないよ!オレこそ山本に無理させちゃって…」
「ツナ、違うんだって!」
山本はオレの言葉を遮って、握る手に力を込めた。
何が???
いつもと違う思い詰めた表情をする山本に、オレは息を呑んだ。
「ツナのせいじゃなくて」
山本は、言うのをためらうようにポツリポツリと言葉を落とす。
「ツナに触ると、やべーくらいドキドキしちまうからさ…変に思われんのが嫌で…」
「…」
「だから、触られんの避けてて…傷つけたよな。ごめん、ツナ」
「…」
俺は言葉が出なかった。
頭が働かない。
ドキドキしてるのは、俺だけじゃなかった…?
「…つな、怒ってる?」
山本は仔犬のようにシュンとした顔で俺に問いかける。
「怒るわけないよ…!」
咄嗟に両手で山本の手を握る。
怒るどころか、オレは舞い上がって飛んでいきそうだよ。
「オレ……山本に嫌われたんだと思った……」
全身の力が抜けて、膝がくずれそうだった。
「んなわけねーだろ!オレツナの事すっげー好きなんだぜ!?」
山本の言葉が胸に響く。
さっきまでのどんよりした気持ちが嘘のように飛んでいく。
「オレも、山本がすごい好きだよ」
山本は一瞬間を置いて、うん、と笑顔を見せた。
「山本、手袋は?」
寒さで少し赤くなった山本の手は、オレの手袋を通してまでヒンヤリとしている。
「あぁ、忘れちまってさ」
ハハッと笑う。
「あ、そうだ」
オレは繋いだ手を一度外し、右手の手袋を山本に渡した。
「山本、これ右手にはめなよ」
「お?いーの?」
「うん」
山本がはめたのを見て、また手を繋ぐ。
…手袋越しではなく直に繋いで、かなりドキッとしたのは内緒だ。
そのまま、俺の右のポケットに手を入れた。
「うわ、あったけー!」
「ね!山本のカイロすごい暖かいよ」
「ハハハッ」
くすぐったい気分だった。
オレ達はゆっくり歩いた。
分かれ道まで、ゆっくりゆっくり…。
付き合い始めて3週間。
ようやくオレ達は手を繋ぎました。
オシマイ
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