flower bud

6つ

「こーんぜーん」

ノックの後、返事をする前に勢いよく開けられた扉。
こういう所はあのババアに似やがったなと悪態をつく。

「返事してから開けろって言ってんだろ」
「金蝉にしかしませんって」
「お前なぁ…」
「もぉ久しぶりに会ったのに怒らないでくださいよ」
「怒らせてんのはお前だ」

幼い頃からの付き合いのせいか金蝉の扱いを熟知している秋霖だか、どっかの変人の影響も相まってか回避の仕方が飄々としていてよく似ている。

「それで何の用だ?」
「特に用はないですよ?ただ相変わらず退屈そうにしてるかなって遊びに来ただけですもん」
「…喧嘩売ってんなら買うぞ」

減らず口まで似てきたとは勘弁してくれ。
それでも帰れと言わないのは、聞いて欲しい話があるとこうして部屋へと突然訪問をしてくることをここ数年で分かっているから。
 
「……そっちはどうなんだ?」
「毎日すごく楽しいです!下界へ討伐任務で行ったりもして、今まで見たことないものばかりで見るもの全てが目新しくて」
「そうか……」
「あっ!ちょっと前に新しい大将が来てですね。捲簾っていう名前なんですけど、天蓬様と一緒でもの好きなんですよ。」
「ほぉ」
「天蓬様も相変わらず部屋はばっ散らかすし、本の海に沈んで寝てるしお風呂には何日も入らないし、濡れた髪のままにするし、書類は期限内に出さないし」
「ふん。相変わらずだな」
「そうなんですよ!それに聞いてくださいよ!天蓬様ったら──」

部屋に訪れて大体の話題は天蓬の事ばかり。
ほとんどが愚痴のような内容であるが話す顔は、本当に楽しそうな顔で話すものだから良くこうして聞いてあげていた。
金蝉にとって秋霖は幼なじみでもあるが、妹のような存在でもある。だから外に出るようになってより一層豊かな表情を見せることが嬉しく思う。

「あっだいぶん話し込んでしまいましたね。すみません、お仕事中なのに」
「休憩をしようと思っていたから大丈夫だ。」
「……金蝉も大概私に甘いですよね」
「さぁな。それより時間大丈夫なのか?」
「え?……わーもうこんな時間!!じゃあ金蝉!また来ます!!」
「気をつけろよ」
「はーい」
 

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「……大将ーーー捲簾大将ーー?…ああもう…何処いっちゃったんだ!あの人はーー!?」

部下の呼ぶ声が聞こえる。
その様子を桜の樹の上から眺める捲簾は舞い散る桜を見てソッと目を閉じた。

「みつけましたよ」
「宴を外れて手酌ですか?」
「…お前らか」

こちらに話しかけてくる声に閉じた目を向けると天蓬と秋霖が立っていた。表情からして宴を抜けたことを咎めに来たようではないようだ。
それよりも捲簾を探す口実に二人で抜けて来ていそうな気もする。
 
「可哀相に部下の方々が必死で貴方 捜してましたよ」
「ですねぇ。返事ぐらいしてあげたらいいのに」
「勘弁してくれよーー 。ヒヒ爺どもに愛想振り撒きながら酒呑みたかねっての」
「…否定はしませんが御老体は敬わないと。あれでも一応、上級神の方々なんですからね“捲簾大将”?」
「そーゆーお前だってこんな処で油売ってていいのか“天蓬元帥”大将の不在となれば副官の出番だろ?」
「嫌ですね♡面倒臭い」
「あ、そ…」
「それにあんな所に居たら秋霖に女なら酌をしろなんて言ってきたりするんですから」
「それはあれだ クソだな。」
「それこそ嫌ですね 酌する相手ぐらい自分で決めます。」
「おっじゃあ俺らにもしてくれねぇの?」
「天蓬様や捲簾ならいつでも喜んでしますよ」
「愛されてるねぇ〜俺ら」
「捲簾…」
 
クスクスと鈴のなるような笑い方をする秋霖。
前々から宴の席で何か合ってはいけないからと、隣を離れず常に共に行動するように天蓬から指示しされていた。だからとんだ過保護って言われんだよっと呟いたのも記憶に新しいくらいだ。

「──花はいいぜ 女もいいがな。でもって旨い酒とくれば、それだけで充分じゃねェか」
「……捲簾。貴方は死に等しいほどの退屈など感じたことはないのでしょうね」
「天蓬様……」
 
天蓬の言葉に「何だそりゃ」と返すと捲簾。
秋霖は誰のこと言っているのかすぐに分かった。
思い浮かべるのはいつも退屈そうに眉間に皺を寄せた羨ましいほどに綺麗な金糸の髪の持ち主。

「── 一人知ってるんですよ。花を愛でることも人と触れ合うことも酒を楽しむことも知らない……不機嫌な表情の男をね」
「…ふーん つまんねぇ奴」
「ふふ 確かにつまんねぇ奴、ですね」

素直に答える捲簾を可笑しそうに笑いを堪える秋霖
二人の気も知らない様子な秋霖に呆れたように捲簾から忠告が入る。

「それよかマジで秋霖は俺らから離れんなよ。特に天蓬から。酒の場は無礼講とか言って来る爺がいるからな」
「大丈夫ですよ捲簾。そんなことを言ってくれば酒の味も味わえない程の惨状にしますので」
「出たよ 笑顔で過激派」
「捲簾 余計なこと言わないでくださいよ。」

捲簾に台詞にいつもの如く愛刀が出そう勢いの笑顔で過激なことを言う天蓬に頭を抱える秋霖であった。

 
────────────────
──────────
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「金蝉が子どもを?」
「ああ」

それは近況報告をしながら観世音とお茶会をしていた時のこと。面白い話があるなんて言いながらニヤニヤしていた観世音。なんでも下界の大地が産んだ人間でも妖怪でもない生き物を金蝉が預かったと言う話。
そんな話を聞いてまさか金蝉が自分から預かると言うとは思わなかったので
 
「ああ…ってどうせ観世音が面白がって押し付けたんじゃないですか?」
「……秋霖 当たってます。」
「二郎神余計なこと言うな」

後ろに控えている二郎神が小さく呟くと振り向き威嚇する観世音。

「まったく!だと思いました……でも面白そうですね」
「だろ?金蝉とこに行ってみろよ。面白いもんが見れるぜ」
「へぇ〜」
「またそのチビの口説き文句も凄くてな」
「口説き文句?」
「金蝉を見て『太陽みたい』だとよ」
「それは…最高な口説き文句ですね」

なんて観世音が言っていたものだから金蝉の所に遊びに、しかもこの日初めて天蓬と二人揃って向かうことにした。天蓬が金蝉の昔馴染みと言うことを知っていたので誘ったのである。

「…暫く来ないうちに随分とにぎやかになりましたね──」
「ふふふ 確かに」
「……まぁな…」
 
訪れた金蝉の自室は今までに見たことない程の荒れ具合だった。それでも天蓬と違って可愛らしい散らかりではある。金蝉自体もどこか疲れきっていてその様子がなんだか面白かった。

「金蝉──…あれ、お客さん?」
「構いませんよ どうぞ」

入口から現れたのは茶色の髪に金晴眼の小さな子ども
は初めて見る二人に無邪気に近寄って来る。

「俺ッオレねッ悟空っての!!おじさんは?」
「おじっ…ぷっ」
 
まさかのおじさん呼ばわりに必死に笑いを堪えようとする秋霖。今にも腹を抱えて笑いだしそうな勢いである。そんな秋霖を笑うなとでも言うように釘を刺す。
 
「秋霖………お兄さんは天蓬です。金蝉とは古くからの知人といったところでしょうか。天ちゃんって呼んで下さいね♡」
「わーい 天ちゃんだー」
「…天蓬…何が天ちゃんだ。」
「姉ちゃんはなんて名前?」

服を小さな手で引っ張られ同じ目線になるように悟空の前にしゃがみ込み、掴まれていた手をそっと優しく握る
 
「その歳で女の人に姉ちゃんなんて言えるとは、将来は大物になりますね。私は秋霖と言います」
「し、ゆ?」
「クスクス 言いづらい名前でしたね。うーん…それではリンと呼んでいただいて構いませんよ?」
「えっとね、じゃあ!リン姉ちゃん!」
「はい。」
「リン姉ちゃん!こっち来て!」

腕を引っ張って自分の描いた絵を見せる子ども特有の無邪気な悟空と二人の世界へと入っている。
そんな二人を眺めながら口を開く。

「…お前らが子ども好きだったとは知らんかったな。天界西方軍元帥の軍事オタクが」
「僕らも貴方の生き生きとした表情を初めて見ましたよ」
「はぁ?」
「悟空……ですか」

“空”『目には見えぬ物』を“悟る”ことのできる者──

「良い名前ですね」と告げると「うるせぇよ」と返す

「お前の軍にも一人いるんだろ。手のかかるのが」
「あーーいますねェ。この子に較べて図体はでかいですけど」
「捲簾とか言ったな。その辺の闘神なんかよりよほど腕が立つと聞くが」
「好き勝手やってるクセしてそれなりに頭がキレますからね。その分、敵は多い」
「軍の上層部にも煙たがられているらしいな」
「それは上層部に何かやましいことでもあるからじゃないんですか?」

紫煙をふかせながら吐き捨てる天蓬の言葉に、金蝉は「気付いていたのか」と問うと「それなりに」と返答し目線は悟空と遊ぶ秋霖に向いていた。
 
「ここ最近の出陣の多さには作為的なものすら感じますね。戦もない死さえも存在しないこの天界で、下界の治安と秩序を乱す輩を討伐する為だけに軍は造られた……僕は確かに下界の戦国史には興味がありますけど、戦とは本来自分の理念を貫く為のものですよ──って貴方に愚痴っても仕方ありませんね。出直してきます」

扉に向かおうと踵を返した彼に金蝉は「…天蓬」と呼び掛ける。

「元帥は大将より階級が上のはずだ。何故 今あえて副官に甘んじている?」
「…目立つのが苦手なんですよ。秋霖 帰りますよ」
「はい」

天蓬に呼ばれ立ち上がろうした秋霖の手を悟空は握り縋るような眼差しを向けられる。
 
「リン姉ちゃん帰っちゃうの?」
「はい。でもまた悟空に会いに伺います。その時は一緒に遊んでくださいますか?」
「うん!!じゃあばいばいリン姉ちゃん!天ちゃん!」
「はい、さよーならーまたねーー」
「またね」

秋霖の言葉がよっぽど嬉しかったのか大きく手を振る悟空に二人で手を振り部屋を後にした。

「楽しかったですか?」
「はい!悟空に紙飛行機の折り方を教えて頂きました!」
「良かったですねぇ」

悟空と一緒に作った紙飛行機を手にする秋霖は子どものように嬉しそうにしていた。
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