flower bud

2つ

「こーんぜん!」

今日も書類の山に目を通しては判を押す作業をしていると、ここで聞こえてくるはずがない声に驚き顔をあげる。部屋の扉の前には塔に閉じ込められていたはずの秋霖の姿。

「お、まえどうしてこんな所に」
「はい。抜け出して来ちゃったんです!」
「抜け出したって……」

どこか嬉しそうに憑き物が取れたような顔をして、金蝉の部屋を興味津々に見て回る秋霖に未だ呆気に捉えていると
 
「今ね、天帝?の前で啖呵切って来たんですよ私。」
「…は?」
「外に出してくれなきゃこの場で力を使って道ずれにして死んでやる!って」
「………は?」
「だから私、秘書官として西方軍に入ることになりました。」
「…………はぁぁぁあ!!!?」
「もぉぉ金蝉うるさいですよ」

驚きのあまりあげたこともない声をあげる金蝉に耳を抑える秋霖。ことの説明はやりたい事を見つける為に外に出ると決め天帝の前で啖呵切ったら、渋々と言った風になら軍に入るのであればと許されたと言う。
その話を聞かされ第一に思った事は、やはりどうにかしてこいつを処分したいと上は思っているのだと感じた。軍に入り戦いの中で命を落とせば無殺生が掟の天上人では直接的に殺したことにはならないからだ。
それをこいつが分かっていない訳がない……

「…いいのか?お前はそれで」
「いいですよ?これでも私強いので!」

金蝉の心情を知ってか呑気に答える秋霖。
しかしそうある様に造られたのだから。その言葉は言わずとも金蝉に伝わっていた。

「あっそれじゃあ今から軍の手続きがあるので行ってきますね!」
「あ、あぁ」

慌ただしい嵐のように去っていく秋霖を見届けた後、思考がやっと追いつき先程言っていた軍の名前を思い出す。

「あ?…そう言われたらアイツも西方軍って言っていたはず…」

先日、手土産片手にフラッと現れた昔馴染み。その時に言っていた軍と同じ名前だったことを思い出し、あの減らず口に対して仕返しが出来るとでも言うように鼻で笑う。
 
「──ふん。次は自分で渡すんだな。」

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天界の守り人─
 
そう言われる人物が天界で一際高い塔の上に住んでいると噂を聞き、好奇心からその塔に近づいたのはもういつの頃だっただろうか…
少しでも近くで見てみたくて塔に近い桜の樹を登り見上げたその時、そこにいた人物に目を奪われたことを今でも覚えている。大きな窓辺から遠くを見ている自分と歳が同じぐらいの一人の少女。綺麗な紫髪を靡かせ美しい翡翠の瞳。
彼女が天界の守り人と言われている人物なのかと驚きもした。それと同時になんて…
なんてこの世界を寂しそうに羨ましそうな顔で見つめているんだろうと思った。
この時彼女に一目惚れし、長年に続く片思いをすることとなる。

それから何度もそこへ立ち寄っては大きな窓辺から外の世界を見つめる少女の様子を見に行っていた。 本当はちゃんと会ってみたかったがそんな勇気もなく。でもひとりぼっちじゃないよ、君もこの世界に居るんだよ。なんてことを伝えたくてあの長い長い階段を登り、ノックも出来ない扉の前にそっと1輪の花を置いては去っていた。その花は彼女を見た時によく似合うと思い毎回同じ花を贈っていた。
そんな事を大人になっても続け、終いにはそこへ通っている昔馴染みに、やれ手土産だやれ茶菓子だなどと理由を付けては物を渡していた。

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──────────
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「本日付で西方軍 第一小隊 部隊秘書官として着任致しました。秋霖と申します!」

背筋を伸ばし綺麗な敬礼をみせる彼女に驚いた事は言うまでもない。長年あの高い塔に一人閉じ込められていた彼女は先日、天帝に外に出さなければ死んでやると啖呵切って軍配属になったと言う話を風の噂で聞いていた。がまさかその彼女が自分の部隊に、しかも秘書官として現れるとは思ってもみなかった。

「……貴方が天界の守り人、ですか」
「ああそれ。ただの肩書きに過ぎないので気にしないでください。」

そう言うとそんな事よりと言うように着任の為に提出する用紙に認印を押すように目の前に出すが……

「ハンコ、ですよね…えっと、ちょっと待ってくださいね……」

普通ならばすぐに出すところだがこの男、なんせ部屋を散らかしまくっているせいでそうもいかず。あちらこちらと部屋のあちこちを掘り返して探し出す始末。
終いには拇印じゃ駄目かと聞いてくるのだ。
そんな自分の上司になる人物に抱いた第一印象は…

(なんて、いい加減な人…)
「…ハンコでの提出が絶対ですよ。」
「ですよね…」
「……差し支えなければ、一緒に探すついでに片付けてもいいですか?」
「はい。お願いします」

そう言うと床に散らばる本や巻き物を拾い上げ片付ける。やっと床が見えてきた辺りで転がるハンコを見つけ男に見せると、あはははっなど笑うものだから腹が立ったことは言わずとも分かるだろう。
やっと片付け終わり綺麗になった部屋を見ていると横から用紙を渡された。

「ありがとうございました。用紙にハンコ押したので提出してきてください」
「……こちらこそ、ハンコありがとうございます。」

そう言うと部屋を後にし、提出に向かう。
あれがこれから上司になるのかと頭を抱えたくなった。そのことを帰り道に寄った金蝉に話すと鼻で笑われ

「ふん。まさかアイツの秘書官になるとはな」
「金蝉、天蓬元帥のこと知ってるんですか?」
「……昔馴染みだ」
「昔馴染み……あぁ!いつも手土産に茶菓子をくれるって言う人ですか」
「ああ。」
「そっかぁ〜…」

そう言うとひとつ伸びをしたかと思えば、また来ますねと言い残し部屋から出て行く。
秋霖のことも天蓬のことも知っている金蝉からすれば二人が揃うとは面白いこともあるものだと純粋に思えた。
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