— RELOAD —
「──残念でしたねえ」
そう呟いたのは運転していた八戒。
「あともう少しで何事もなく町に入れたんですけど」
「町に着いてから来られた方が厄介だろ」
「ある意味今のタイミングで良かったかもだね」
「腹減った~~~~」
「山ふたつ分も走ってケツが痛えっちゅーー事よりも だ」
見る先にはいつもの如く妖怪軍団。
「腹減った~~~~」
「猿のこの台詞を聞き飽きたぜ俺は」
「食べ物を詰めればしばらくは止みますよ?」
「三蔵一行!!貴様らの命とその経文 俺達がもらい受けるぞ!!」
毎度毎度飽きもせずむさ苦しいまでの人数にため息をこぼしたくなる。
「…この台詞も大概聞き飽きたけどな」
「腹減ったーー」
「そうですねえ じゃ何か適当に詰め込みますか?」
「八戒さっきから怖いよ…」
「――お坊さん方!!」
ふいに誰かの声が聞こえてきた。
「そやつらの相手をする必要はありません、こちらの敷地内にお入り下さい!!」
町の住民と思しき中男性が妖怪達を見ても特に焦った様子もなく、一行を町へと誘導しようとしていた。
「おい、この先は……」
「命拾いしたな三蔵一行、次こそは必ず経文を頂くぞ!!」
男性の誘導に従い一行が完全に町の中へと踏み入れれば、捨て台詞を吐いてその場を走り去って行く妖怪達。
「え?引き返しちまったぜアイツら……」
「どういうこと…?」
呆気にとられながら、去っていく妖怪達の背を見つめる双葉と悟空、悟浄。男性にこの状況の説明を求める八戒。
「ありがとうございました これは一体…?」
「この町は聖なる力に守護されておるのですよ。さぁどうぞこちらへ」
「聖なる力?」
「……胡散臭っ」
「こら双葉」
男性の案内で町に入れば行き交う人は多く露店やそれを楽しむ人達で溢れる活気のある町だった。
「でっかい町だーっ」
「石畳か。そういや山越えた辺りから微妙に景色も変わったな」
「それだけ僕らも遠くへ来たって事ですよ」
ある意味この世界で言うところの都会に分類される方の大きな町なのだろうと納得が行く。
双葉は人が多いため八戒を服を掴みながら一行たちと町の中を歩く。
「……聖なる力ってのはどういう事だ」
三蔵が男性に尋ねると
「この町も以前は妖怪に脅えとりましたがね。数年前、蒼真様がこの町の長になってから妖怪はこの敷地内に足を踏み入れる事ができなくなりました。長の張った結界がこの町を護っているのですよ」
「結界?でも俺達、この町に入ってもなんともな――」
純粋無垢な悟空は素直に言おとしていたがそれを察知した三蔵の見事なハリセンと、悟浄の蹴りが飛んでいく。
「悟空…」
「?」
「そういう事ですか。それなら何の心配もありませんね」
「ええ 本当に」
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「妖怪が立ち入る事のできない町……か。」
宿屋で取れた大部屋でひとまず休憩を取る一行。
「眉唾モンだろ?現に俺ら三人はアッサリ入れちまったじゃねえの」
「だから胡散臭いって言ったじゃん」
「でも実際 僕らを襲った妖怪達は足を踏み入れて来ませんでしたよ」
先程ほどの妖怪達の様子や男性の言っていたことを整理しながら話をする。
「…まぁお前らは妖怪としては規格外だからな。微弱な結界には引っかからんのかもしれん」
「ま、どーでもいいじゃん!!今日はゆっくり寝れるって事だろ?毎日毎晩『経文よこせ~』で もうウンザリだもんな」
ベッドに寝転がる悟空だったが何かを考える素振りを見せる八戒に声をかける
「八戒?どうかした?」
「いえ……少し気になる事があって…三蔵 ものすごーく今更な事聞いてもいいですか?」
「……何だ」
「『天地開元経文』についてです。牛魔王サイドは執拗にその経文を狙ってきますよね。一体あちらは何を目的として経文を集めているんでしょうか」
八戒の言葉に確かにと言うような表情を見せる悟空と悟浄。
「そーいや考えた事もなかったな」
「何か大事な物らしいから取られちゃマズイのかなーーーって」
「その存在ぐらいは耳にしていましたが 詳しい事は何も……」
「……マジに今更だな、お前ら。……まあ本来ならば『天地開元経文』についての詳細は、三蔵を継ぐ者しか知り得ない話だがな…双葉。お前はやつから話聞いてんだろ。」
それまで4人をベッドに腰掛けクロガネを撫でながら話を聞いていた双葉だったがまさか経文の話を振られるとは思っていなかったので驚く。
「え!?……ああ!最初に菩薩様から聞いたけど……まさか説明するのがめんどくさくて私にさせようとしてる三蔵?」
「分かってんならこいつらに説明してやれ」
「はぁ横暴なんだから……
『天地開元経文』は三蔵の魔天経文と聖天経文の他に『有天』『無天』『恒天』計五つ存在してその経文の“守護者”に選ばれし者を『三蔵法師』と呼ぶ。
まず ──
『魔』や『陰』を司る魔天経文
『聖』や『陽』を司る聖天経文
『未知』や『無限』を司る恒天経文
『生』や『在』を司る有天経文
『死』や『虚無』を司る無天経文。
魔天経文が『魔を浄化する力』を持つように、他の経文もそれぞれ異なった能力を備えててひとつでもその力は強大な物だけど組み合わせによっては更に高度な術を生み出す……だったよね?」
「ああ。100点だな。」
説明を聞いた悟空が「何か面白えな」と
「そうでもねぇよ。『天地開元経文』はこの世界の創世に用いられたと言われる、五つが揃えばどんな事が起こるのか想像も及ばん。だから三蔵法師は意識的に各地に散って行動しているんだ。不意に五つが揃う事のないように、な」
「成程 そういう理由ですか。三蔵法師組合がないのは」
「ふふっ三蔵法師組合って何」
茶化すように言う八戒の言葉に笑ってしまう双葉。
「…そんな危ねーモンをこんな生臭坊主に二つも持たせていいってか?」
「てゆーか エライのは三蔵法師じゃなくて経文の方だったんだな」
「…聞こえてんだよ。」
ヒソヒソと話す悟空と悟浄に対して三蔵がイラついた様で口を開く。
「そもそも『天地開元経文』の力は三蔵の任を継いだ者にしか……」
「………?どうしました三蔵」
「三蔵?」
「……いや 何でもねえ」
何かに気がついたかのような三蔵に八戒と双葉は顔を見合せて首を傾げた。
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「~~~てめコノクソ猿ッ!!マジに一人で全部食いやがった!出せコラ!!」
「なんだよッ最初に横取りしたのてめーの方だろ!?」
食べ物の奪い合いでやいのやいのと騒ぐ悟浄と悟空。
その光景を呆れながら三蔵が「追加の注文をすればいい」と話をするもそれを八戒が止める。
「ダメですよ、甘やかした。この二人がふた目と見られぬ中年太りでもしたら どう対処するんです?後部座席に積みきれませんよ。」
「そうなったらジープが可哀想…」
「荷物か俺たちゃ」
太ってしまう2人の心配をするよりもジープの心配を優先する双葉。
「逆に双葉は食べてくださいね。」
八戒にそう言われた双葉の目の前には半分しか食べていない子ども用ラーメンが残されている。
「……もう無理」
「お前らもこいつの低燃費を見習え」
「双葉の場合まじでもうちょい食わねぇと死んじまうぞー?」
「食べた。」
本当に満足そうにする双葉を見て八戒と悟浄がため息をこぼした。
「しかしアレだ。お前らが霞んで見える程 騒がしい町だなここは」
一行の話し声もかき消されるぐらいに賑やかな町に三蔵がそう呟く。
「ええ本当に 例の結界とやらのお陰で妖怪への恐怖におびやかされる事がないんでしょうね」
「…でもさ 一歩町の外に出ればああやって妖怪がウヨウヨしてんじゃん?」
「おそらくこの町は完全に外界を遮断しているのだと思いますよ。周囲も山々に囲まれていますしね。この町自体が自給自足の体制を整えてるんじゃありませんか?」
「確かにな こんなデカイ町なのに宿屋は俺らが取ったあの一軒だけだって言うし?」
「完全な陸の孤島だな」
そんな話をしている最中に人当たりの良さそうな男が声をかけて来てきた。
「三蔵法師様とおっしゃるのは そちらのお坊様の事でしょうか」
「人違いだ。」
「めんどくさがるなよ。おめーは…」
「あははは…」
尋ねられるもめんどくさくさが勝ち要件も聞かずにキッパリとそう返した三蔵。
そんな三蔵の代わり八戒が尋ねると
「はい、ええ 名高いお坊様がこの町にいらしたと聞いて、是非御挨拶したいと……蒼真様が」
「蒼真……?」
「ええ 我々民衆を妖怪から救って下さった道士様……この町の長にございますよ」
そう話され食事後、町長の部屋へと案内されることになった一行だったが店から出て向かおうと足を伸ばした時、双葉は立ち止まって八戒の服を掴む。
「私、部屋に戻っててもいい?クロガネとジープもいることだし」
「…えぇ。一人で戻れますか?」
「うん 大丈夫。」
そういうとごはん屋から宿屋への帰り道を歩き出した。
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宿屋の部屋へと戻ればクロガネとジープのお出迎え。
2匹を抱き抱えながら窓辺で月へと視線を向ける。
ぼんやりの眺めながら両手を見ればやはり透けている自身の手。
「はぁ……どうなってるんだろこれ…」
そう呟く双葉を心配そうに眺める2匹に気が付き頭を撫でる
「この事はみんなには秘密だからね」
そう話す双葉は、困ったように眉を下げながらも、2匹を安心させるように微笑んでみせた。
それからしばらくして三蔵だけが宿屋へと帰ってきて一緒に皆の帰りを待つことに。
しかし──
「遅せぇ……」
「確かに、もう結構いい時間だけどね」
一向に帰ってくる気配のない3人を心配し探しに行こうかと考えているとノックとともに現れた町の男性。
「失礼します。三蔵様、ちょっとよろしいですか?」
「何の用だ、こんな時間に」
「それがその、お連れの御三人が急に町中で倒れられまして、どうしたものかと……」
「……」
そう話す男性に3人の心配とは別に嫌な予感が働いた。
三蔵と2人、男性の案内に従って歩みを進めると、そこは町の長・蒼真導師の屋敷だった。中に入れば、八戒たち三人の姿はなく、蒼真導師だけが待っていた。
「御足労をわずらわせて恐縮です」
「どういう事だ」
「……三蔵…」
「三蔵法師様。この町の為に、御協力いただけますか」
「アンタの為に、の間違いじゃねえか?」
「……それこそが延いては町の為になる」
三蔵と双葉の足元の床が抜けて、そのまま下へと落ちていく。突然のことに着地の体制も整えられず地面との激突を覚悟していたが…
「ッ……って三蔵!!大丈夫!!?」
バッと起き上がれば三蔵が双葉を庇い体ごと地面に着地した形となっていた。
「ッ…ああ。お前になにかあると使い物にならん奴がいるからな」
「それを言うと三蔵にも何かあれば使い物にならない人いるけど?」
2人で落とされた周りを見渡せば屋敷の下にある地下道のような場所だった。
「――待ってたぜ、玄奘三蔵」
「……タイミング悪っ」
現れたのは妖怪の群勢に銃とクナイを構える。
「……そんな事だろうとは思ったが。貴様ら、あの道士とグルか」
「経文は頂くぜ。ついでにアンタらの命もな」
武器を構える2人を見て妖怪が嘲笑う。
「こんな場所で下手に撃ったら跳弾でてめえがくたばるぞ? 大人しくこっちに経文を……」
妖怪が言いかけたところで三蔵と双葉はそれぞれ照明を撃ち抜く。灯りを失った暗闇に一瞬怯んだ妖怪達を蹴り飛ばし2人で地下道の先へと駆け出した。
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最初に鉢合わせた妖怪たちを何とか撃破したものの、2人とも無傷とは行かず全身がボロボロになっていた。
それでも尚、目の前にはまだまだ現れる妖怪達。
「はぁはぁ…ッ三蔵 銃弾って後どれぐらい?」
「はぁ…ッち!そんなにねぇよ…こっちはお前と違って消費するからな」
「……それが私の暗器もこの状況あんまり良くないんだよね…」
「どういうことだ?」
荒い息を整えながら自分の暗器の説明をする双葉
「ほら私の暗器って投げた後って物自体は消えてるでしょ?で、次の出すまでにタイムラグが発生するの。しかも同時展開出来るのは10個まで…」
「ってことは同時に投げれば……」
「その間その個数だけ出せなくなる」
「ッチ!!めんどくせぇ!!」
盛大な舌打ちと共に銃声が鳴り響く。
落ちてからどれぐらいが経ったのか分からず、2人で必死に森の中まで走ってきたものの気が付けば妖怪達に囲まれる状態のなっていた。
「……まるで、あの頃みてえだな。いや……違うか」
「……やめてよ 三蔵。なんかのフラグ立てるみたいな事言うの」
「ただの独り言だ……」
「――そろそろ観念して念仏でも唱えてな!!」
そう言って遅いかかってきた妖怪に残り少ない銃弾を撃ち込んだ。
ここまで2人とも必死だった。限りと制限のある中あれだけの群勢を相手してのけたのは大いに褒めて欲しいところだ…と考えながらボロボロの体を引きずりながら、二人はどうにか蒼真道師の屋敷まで戻って来た。
沢山の住民で群がる中で三蔵が最後の弾を空へ放つ。
霞む目で前を見れば、そこにはいつもと変わらない三人の姿があった。
その姿を見て、双葉はようやく安堵する。
「三蔵!?」
「ッ双葉!!」
ボロボロで傷だらけの三蔵と双葉の姿に住民達は動けずにいた。そんな住民達に向けて三蔵が一言放つ。
「――退け」
放たれた言葉に住民達はゆっくりと道を開ける。
その道を三蔵の後を追いながら3人の元へと向かう。
「ど、どうした!早く捕まえんか!今こそ奴を差し出せば、まだ間に合うかもしれん!……なぜ誰も動かんのだ!?」
さすがに体力も尽き、傷の痛みも限界に達していたのか、二人は同時によろめいた。
その瞬間三蔵は悟空に、双葉は八戒と悟浄に支えられる。
「……やっぱり違ったな、あの頃とは」
「え?」
三蔵の呟きに悟空が首を捻るも支えられながら、ゆっくりと蒼真へと振り向いた。
「……まさか……生きて戻る筈が……」
「生き延びるさ。胸張って死ぬ為に」
「……欺瞞だ。人はそこまで強くはない」
「そうかもな。……だが、これが俺達の選んだ道だ」
それだけを言い残し、彼らは偽りの平和に包まれた町を後にした。
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町を離れ、森の中で休憩を取る一行。
八戒に傷の手当てをしてもらっていた双葉の隣で、三蔵がおもむろに懐からハリセンを取り出した。
「痛っ!?」
次の瞬間、容赦なく双葉の頭へと振り下ろされる。
傷も痛むのに頭まで叩かれ、双葉は涙目でそこを擦った。三蔵は「ふん」とだけ言って、そっぽを向く。
「怪我人同士で何やってんだよ……」
「なんで今叩いたの!?」
双葉が抗議すると、三蔵は横目で睨んだ。
「自分の武具のことを分かっているなら、最初から説明しろ。こっちが無駄に動きを合わせる羽目になっただろうが」
「ぐっ……それは、ごめん」
言い返せずに小さく謝る双葉を見て、悟空が吹き出す。
「ははっ! 双葉が珍しく三蔵に怒られてるー」
「三蔵も、戦っている最中は随分と双葉のことを気にしていたようですからね」
八戒がにこやかにそう続けると、三蔵の視線が鋭く向けられた。
「余計なことを言うな、馬鹿」
低い声で吐き捨てられ、八戒は肩をすくめながらも楽しそうに笑う。
「失礼しました。ですが、双葉が無事で安心したのは皆同じでしょう?」
その言葉に、双葉は少しだけ目を丸くした。
「……ありがと」
小さく零れた言葉に、三蔵は返事をしなかった。
ただ、いつもより少しだけ乱暴に煙草を咥え直していた。
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