— RELOAD —

十三輪

「じとぉーーっ」
「は?なんだそりゃ」

湿度が高い。
やる気というやる気を根こそぎ奪われそうな暑さだ。
そんな中、余計に蒸し暑くなるような効果音を悟空が発した。
 
「効果音。今日の天気と悟浄の顔に効果音。ジメ〜」
「俺の顔見て効果音出すならキリッとか爽やかのにしろ」
「キリッとか自分で言っちゃうんだ…」
「ムリ〜」
「キリ」
「ムリィ」
「キリ」
「ゴキ」
「ブリ…っておいてめぇ!!?」
「うるせぇ!!!静かに出来ないなら死体にして放り出すぞ!!」
「あははっこれだけ湿度が高いと腐乱も早いでしょうね」
「だからそれが1番怖いんだってば」
「…お前涼しい顔して不快指数90%だろ実は」

砂漠の時のデジャブを感じながら悟浄とツッコミを入れる。こうも湿度が高いと息がしにくい暑さを感じてくる…
 
「うあ、ベトベトする〜。川かなんかで水浴びしてえ〜」
「…川……ですか」
「八戒?」
「どうした八戒?」

徐ろにジープを止めるやいなや地図を広げた後どこかへと向かう。そして──

「すっ…すっげーーーッ!!」
「大きい……海みたい…」
「こんな大きい川、僕も初めて見ますね」
「よかったじゃねーか猿。泳げ泳げ」

到着した場所は大きな川。
湖にも見える程の大きさの川を眺める。

「泳ぐかよッ!ガキじゃあるまいし」
「お?ナマな口きくよーーになったじゃねーーか」
「うっせぇな!この湿気ゴキブリ!!!」
「なんだとこの湿気ザル!!」
「マネすんなよッ」
「もう喧嘩しないの!暴れたら余計に暑くなるよ!」
「…橋はないのか」

いつもの如く悟浄の茶化しを合図に喧嘩を始める二人を止めるもまぁ聞くことはなく。
そんな二人に怒りも露に八戒にそう問う三蔵。

「地図には載ってませんけど、舟渡しくらいはあるでしょう」
「普通はな。だがどうもさっきから、船らしき物が見当たらん」
 
二人の喧嘩を止める横で三蔵と八戒が地図を見ながら話をしていると
 
「――渡れないよ。この向こうへは渡れないんだ」
 
声に振り返ると少年がこちらに話しかけて来たかと思えばどこかへと走り去ってしまった。

「…何だありゃ」
「悟浄の顔が怖くて逃げ出したんじゃない?」
「~~~おめぇ最近 三蔵に感化されてきたろ!!?」
「はぁ?俺のどこが三蔵に似てんだよ!!?あんなに口悪く」

スパーーン!!

話の途中でハリセンが悟空と悟浄の頭目掛けて飛んで行きそのまま地面に伸びる二人を他所に先に進もうとする三蔵。
 
「…川を越える方法を村で聞いてみるか」
「三蔵この二人は?」
「重しでも付けて沈めておけ」
「本当にいい加減にしとかないと沈めるってよ二人とも」

─────────────────────

近くの村で川を渡る方法を聞きに行く。
──しかし、先程の少年の言う通り返ってきた返答は“舟は出せない”その一言に尽きた。
一年前から妖怪が川に住み着いてしまい通るものなら襲われてしまい誰も舟を出さなくなってしまったのだ。
川辺で話しかけてきた坤も元々は川の向こうから親の使いでこちらに来て帰れなくなってしまった子だった。川を渡らずに進むとなれば二ヶ月かけて山を超える方法しかないと言われてしまえば…

「まぁ素直に二ヶ月かけるて山越えるより舟買って渡る方が早いよね…」

一行と坤を乗せた小舟はあの大きな河を渡る。
舟が出ないなら舟を買って出せばいいじゃない方式

「うっわ、すげぇすげぇ!!」
「あははは。悟空、乗り出してると落ちますよ」
「風、気持ちいい〜」
「わん!」
「ったく人に労働押しつけていい気なモンだぜ」

舟を漕ぐのは不満そうにしている悟浄。
坤が三蔵にお礼を言うのを横目にゆらゆらと動く舟に揺られながら心地の良い風に当たる。

「しっかし案外早く渡れそうだな」
「この辺は流れもゆるやかなんだ。よく父さんと釣りもしたよ」
「釣りですかぁいいですね」
「釣り…したことないなぁ」
「へえーっじゃあ魚とか見えっかな……ん?」

坤の話を聞き悟空が水面を覗き込んだその時、ゴポッと音を立ててながら気泡が現れる

「!!?…な、何だ!?」

現れた気泡とともにいつの間にか渦の中心となった舟が不安定に横揺れを繰り返す。

「うぉあ!?」
「きゃッ!!」
「悟浄ッ…」
「来やがったか…!」
「皆さん振り落とされないよう気をつけて!!水の中に落ちたら敵の思う壺です!!」
「そんな事言ったっ…!!?」

八戒の叫びに水の中から手が出て来たかと思えば

「な……!」
「餌だ…餌だァああ!!」

そのまま妖怪が皆が乗っている反対側に勢いよく飛んできてその反動で舟がシーソーのようになり水面から離れたその時、グラリと坤がバランスを崩して川へと落ちていく

「ぅわあぁあ!!!」
「──坤!!」

慌てて悟空が坤の腕を掴み、ザバン!!と二人が川に水音を響かせる。

「──悟空!!坤君!!」
「っぷはァ!!」
「ヒャはッバカめ!!全員まとめて餌になりやがれぇ!!」
「──っせぇこの半魚人ッ!!」
「ちょっ!?悟浄そんなの振りかざしたら!!」

飛んできた妖怪に悟浄が振りかざし、双葉の忠告通り櫂は見事に壊れてしまう。

「げッ」
「──どけ悟浄!!」
「がッ…」

ガウン!!

三蔵の銃が妖怪を捕えて打ち抜きそのまま水の中に落ちて行く。

「悟空大丈夫ですか!?」
「なんかッ…ダメだ…流れが急すぎて泳げねぇッ クッソ…伸びろッ如意棒ォオ!!」
「クロ!大きくなって二人を助けて!!」

悟空は坤を抱えて流されるのを如意棒で止める、クロが崖の岩肌に爪を立て二人を咥えて救助する。
しかし舟との距離は大分空いてしまっていた。

「クロ!!二人をお願い!!」
「悟空!!」
「…八戒!」
「とりあえず後で合流しましょう!坤君を頼みますよ!!」
「──おう!」

悟空達と離れてしまった後、櫂も壊れてしまい川の流れに任せるようにどんどん流されていく舟

「おいどーするよ。随分流されてるぜ」
「貴様が櫂を壊したのが運の尽きだな」
「俺のせいかよ」
「こら!こんな時まで喧嘩しないの」
 
言い合い始める二人を止めていると八戒が口を開く

「……まだまだこれからみたいですよ」

水面からは大勢の妖怪達が顔を出してこちらを睨んでいる状況。
 
「おいおい 大漁だな」
「大漁っていうかこれじゃあホラーだよ」
「仲間を殺されて、かなりお怒りの御様子です」
「チッ足場が不利だ」
「落ちたらもっと不利ですけどね」
「…悟浄、八戒。今更言うけど、私泳げない」
「マジか!?おまっ!舟に乗る前に言えよ!!」
「…双葉もしもの事ない様に僕から離れないで下さいね」

八戒と悟浄の間にいた双葉が突然の告白を耳打ちしたのを聴きながら襲いかかってくる妖怪を足場の悪い中、何とか次々と倒していく

「くっそ団体様だなんて聞いてねーぞ!!どけコラ!!」

しかし妖怪が舟の縁を掴みそのまま不安定な舟をひっくり返しそのまま四人は綺麗に川へと落とされる

「!!? うわッ…だーーッ!!」

急いで水面に上がろうとするも

「ッ!?」
「けほッ…!!」
「ふっざけ…離しやがれ畜生!!」

妖怪に体を掴まれて身動きができず、そんな中

「……クソったれ…!!魔戒天浄!!」
 

────────────────
──────────
────

 
「…あ"ーー 死ぬかと思った…」
「いやーー 久々に泳ぎましたねぇ」
「おい双葉ちゃん大丈夫か!?」
「ごほごほッ!…はぁ…八戒のおかげでなんとか」
「てゆーかどーやって登るんだよコレ」

三蔵の大技で妖怪達は吹き飛んだ。
しかしその余波で、一行も大きく流されてしまう。
必死に泳ぎ着いた先は、倒木の幹と岩場だった。
泳げない双葉も八戒のおかげでなんとか二人で岩に掴まることが出来ていた。

「…おい近寄るな。離れろ」
「~~あのなぁ、てめぇがあんなトコで大技ブチかますから、こんな流されちまったんだろが!!?」
「じゃあ心置なく沈んでろ。二度と浮かんでくるなクソ河童!!」

急に三蔵と悟浄は言い合いながら水面下で蹴り合いまで始める始末…

「まぁまぁ」
「こんな状態でも喧嘩できるのすごいね…」
「──あのッ」

宥める八戒の後、急に上から声をかけられ見上げると

「三蔵さん達…?」
「何やってんだ。お前ら」
「あ…」
「!? 独角…八百鼡!?」
「あ、どうもお久しぶりです」
「こんにちは〜」
「チッこんな時に…!!」

岸からこちらを見ていたのは紅孩児ご一行の二人

「つかぬ事をお尋ねしますが、紅孩児様にお会いしませんでしたか?」
「え?いえ……最近はお見かけしてませんけど」
「なに、どうしたのあの王子様」
「いえ…そうですか、失礼しましたっ」

悟浄のそんな質問には答えずクルリと踵を返す。
その後ろ姿に……

「おい!ちょっ…待てッ助けてけ!!」
 

──────────────────────

 
「びぇっくしッ!!ッかーーーッ!!さみーーっ」
「いや、どうも助かりました」
「天下の三蔵一行が転覆一行じゃあ情けねぇな」
「上手い事言うねお宅」

なんとか引き止めた二人にやっとの事で岸まで上げてもらい焚き火を焚いて服を乾かす為に既に上を脱いでいる三人。双葉も上の制服を脱ぎ重くなったスカートを持ち上げて水を絞る。そんな双葉にすかさず八戒が近づいて来たかと思えば持っていたスカートを下ろされる。

「どうしたの八戒?」
「双葉ダメですよ。女の子がそんな」

八戒の言葉に三蔵と悟浄と独角兕に目をやるとそれぞれ明後日の方向を向いている。
その行為にああっと理解を示す。

「大丈夫だよ?ほら短パン履いてるし」
「こら捲らない。短パン履いててもダメです。」

スカートを捲って短パンを見せる双葉に頭を抱えながらもう一度スカートを下ろす。
納得の行っていない双葉を焚き火の近くに座らせ話を続けることに
 
「──ところで急いでらっしゃったようですが、紅孩児さんがどうかなさったんですか?」
「あ…いえ、その…はぐれてしまったもので──」

八戒の問いに言い淀む八百鼡。
悟浄が経文を焚き火に翳しながら

「…つってもよ。目的はこの経文なんだろ?放っといてもその内こっちにくんじゃねぇの」
「悟浄、それ大丈夫?燃えない?」
「──おいッ手荒に扱うんじゃねぇよ」
「っせーーーな 乾かしてやってンだろがッ」

焚き火の近くでピラピラ揺らしながら乾かす行為に燃えそう…などと考えていると、神妙な面持ちで独角兕が話し出す。

「……お前ら、もし紅に会ったらその経文を置いて逃げてくれ」
「…はぁ?何だそりゃ。ハイそーですかって渡すわけ…「──違うんです……ッ」

悟浄の言葉に被せて来た八百鼡の表情からは焦りが見えた。そんな様子に三蔵が「どういう事だ」と問いかけるも何かに気が付いた独角兕が「悟空はどうした」と口を開く。

「え?ええ…僕らも実ははぐれてしまった処なんですけど」
「ヤべぇなそりゃ…」
「ええ。もしお二人が一対一でかち合うような事があったら…!!」

八戒の返答に独角兕と八百鼡は二人にしか分からない事を話し出し、こちらには全く何が何か分からない。

「──おいって!!さっきから聞いてりゃ何だってんだ一体。そりゃ俺ら一応敵同士だから戦いもするだろーよ。そんなん普通通りじゃねーか、何慌ててんだ?」
「紅孩児に…いえ、貴方達に一体何があったんですか」

八戒の問いに八百鼡が口を開く

「……それは…ッ」
「──そこまでだ。寝返るつもりか?独角 八百鼡」
「!!! てめぇは…!!」

突然現れた黒服の妖怪によって制止された。

「何故貴方がここに…!?」
「…また何か出てきやがった」
「…変なのが増えたよ」
「お知り合いのようですね」

黒服の男を見るやいなや独角と八百鼡は驚いた様に声を上げる。反応を見る限り仲間なのだろうと想像はつく…

「ふ…所詮、玉面公主様は貴様らの事などハナから信用していない、という事だ」
「──ッ」
「……おいおい。何だか知らねーけどさ仲間割れなら余所でやってくんない?」

悟浄が呆れたように言うとその男が呟く。

「──それもそうだな。俺の目的はコイツらではない…貴様らの抹殺だ。三蔵一行」
「へぇ面白いじゃん」

「!! いけない……目を見ちゃ駄目です!!」
「「「「え?」」」」


八百鼡の声に反応するが、既に遅く。
次に瞬きをした瞬間、目の前の森の景色は無くなり大漁の骸の上に立っていた四人。

「な…何だここは!!?」
「ふふははははっ捕えたぞ三蔵一行!!貴様らはもうここから逃げ出せん。この雀呂様の幻覚世界からはな……!!」
「…幻覚…これが!?」
「こんなに鮮明な…!」
「何この骸!!趣味悪すぎッ」
「チッ」

舌打ちをした三蔵が銃口を雀呂に向けるが

「無駄だな。そんな溶けた銃じゃ」
「──!!な…?」

雀呂の言葉通り、異変に気づいた三蔵は銃を落とす。そして落とした銃は溶けて行く。

「判るだろう。貴様らはすでに俺の手の中に落ちたんだ。フ…ほらボサッとしてると蛇に噛まれて動けなくなるぞ」
「うわッ…どうなってんだこりゃ…!?」
「ヒッ!?無理すぎる!!!」

またしても雀呂の言葉通り四人の身体に本物に見える無数の蛇が突然絡みついてくる。

「──そうか。これは…この世界での肉体的ダメージは精神のダメージに繋がる。つまり肉体的の『死』は精神の死だ」
「──これは一種の催眠術です。彼の言葉をきいちゃいけない……!!」
「き、聞くなったって…!!」
「こんな状況じゃあ耳も塞げないよ!」
「なんだ。よく見たらそれは蛇じゃないな……人間の手だ」
「ッしまった…!!」

絡みついていた蛇は今度は沢山の人間の手に変わり四人にすがり付いてくる。

「ははは!!どうした?もう動けまい!!」
「……ど、どうなってんだ一体!?」
「…これが雀呂の能力、言葉による幻覚誘導よ。催眠暗示により脳に直接語りかけて精神的にダメージを与えるの。彼の言葉を脳が受け入れると、幻覚を引き起こす…つまり精神で体感してしまうんだわ」
「待てよ雀呂!!三蔵一行の抹殺は紅に一任された筈だ。元々の目的は経文を奪うだけだろうが!?」

八百鼡の説明で現状を理解した独角は雀呂を制止しようと声を上げる。

「ふん、甘い事を。そんな事だから主君の一人も守れやしないんだろう。この役立たずどもが」
「ッてめぇ…!!」

眉根を寄せる独角兕に何かを思いついた雀呂は「そうだ」と呟いて悟浄を見る

「──こいつはお前の弟だそうだな」
「!!よせ…!!」
「なぁ沙悟浄、見てみろよ。お前の右手は──よく燃えるなァ」
「…うあぁあぁあ!!?」
「「悟浄!!」」
「チッ単細胞が!!」
「ガッぁあ…くそ…」
「悟浄 手は燃えてないよ!無事だよ!」

催眠術だと推測出来ればそれの対抗手段は分かりきっている。しかし悟浄の耳には既にこちらの声は聞こえておらず

「──無駄だ。その火は消えない」
「ックソ…!!」
「!! 幻覚です彼の言葉を聞いちゃいけない!!」
「幻覚なものか、熱いだろう?沙悟浄、ほらどんどん燃えひろがって」
「…駄目です悟浄ッ──聞くな!!」
「焼け落ちてゆくぞ」

もはや完全に幻覚に当てられているせいで珍しく焦っている八戒の声など今の状態で聞こえる訳もなく、蹲る悟浄にさらに暗示をかける

「ふ…どうした沙悟浄。攻撃して来ないのか?その錫杖で」
「!!てめぇッ…!!」
「よせ罠だ!!!」

もう誰の声も悟浄には届かない

「ははッ どこを狙っている!?仲間が死ぬぞ。」
「え」
「はははは、バカめが!!皆死んだぞ お前が殺した!!」
「…そだ。嘘だ違う…ちが…「殺した。」
「──悟浄!!?」
「こいつ今 俺達を殺しやがったな」
「冗談じゃない僕らは生きてますよ悟浄!!全部まやかしなんです!!!」
「悟浄!!しっかりしてってば!!」

雀呂の言葉のせいで悟浄の中では完全に“悟浄が三人を殺した”と思い込まされ混乱していた。

「言っただろう。俺の幻覚世界からは抜け出せないとな!!貴様らはこのまま──」
「!!? あ…?」

そのタイミングで幻覚の外の世界で独角兕が悟浄の鳩尾に拳を入れて気絶させた。

「!? な…悟浄が消えた…?」
「チッ独角!余計な真似を……!!」
「どういう事!?」
「雀呂の幻術から逃れる方法があるとするなら、与えられた幻覚のショックで死ぬか気がふれるか。あるいは…」
「…そうか。気を失ってしまえば抜け出せるんですね…」

八戒の台詞に図星の様で雀呂は「それが判った処で何だというのだ?」と言う。

「確かに、敵前で揃って気絶するわけにもいきませんしね」
「つまり、貴様らにはもう逃げ道はないという事だ」
「俺達はあのバカ程単純じゃねぇからな。そう易々とてめぇの誘導にはのらんぞ」
「すみませんねぇ。僕ら知性派なんです」
「からくりが分かってしまえばねぇ…」

今この状況で幻覚を解く策などないにしろ、その策を考える時間を稼ぐ。

「……ふ、強がりだな。それで自己暗示のつもりか?──知っているだろう。脳には“海馬”がある」
「海馬?セイウチの別称ですね」
「へぇー八戒物知り〜」
「逃げるな。海馬は比較的近い記憶を収める部位だ。そこに呼びかければ簡単に引き出せるぞ。頭の良い人間ならより鮮明にな」
「昨日の夕食は炒飯だったな」
「そうそう。セットのスープが美味しくて」
「私は半炒飯が良かったのに…」
「お前はまじで食え」
「でも結局、半炒飯の量ぐらいしか食べなくて悟空が全部食べちゃいましたけど」
「今日は?」

雀呂からの言葉を全て無視するかのように会話を続けていたが…

「今日は──そうだ 川で溺れたな」

分かっていたはずなのに「しまった!」と思った瞬間にはもう雀呂の言葉はどんどん追い討ちをかけられて行く。

「どんどんと沈んでいく。もがいても出口の見えない深い深い川の底だ!!」
「…水なんて無い幻覚です!!」
「そうだよ!幻覚だって分かってさえいれば!」
「水中で喋るとどうなる?」
「「!!」」
「もう息が続かないだろう…さあ、肺まで水が入っていくぞ」
「あ……」
「けほッ……」
「八戒ッ!!双葉!!」
「おわりだな。猪八戒、林崎双葉」

八戒と双葉の影が三蔵の目の前からスッと消えてしまう。残るは…

「お前もだ。玄奘三蔵」

……水の音……川……闇だ
 


三蔵が諦めかけたその時…

『声が』

『声が聞こえたんです』

一瞬……

「……!!! な…?」
「『川流れの江流』……か」
「なんだと…?」
「イメージの選択を誤ったな。俺が見たのは光だ」
「そ…その銃は溶けていると言っただろう!!無駄だ!!」
「溶けてねえよ」
「…そうだ弾が詰まったんだ。引鉄はひけない!!」
「うるせえ」
「撃てるはずがない!!」
「…だから撃てると」


深い闇をも取り払う神々しいほどの光が三蔵には見えていた。

「俺が言ってんだよ」

ガウン!!

一発の銃声が響く

「…これが現実だ」

三蔵の声がはっきりと聞こえた。
肩に銃弾を受けた雀呂がゆっくり立ち上がる。

「──フッ それで俺に勝ったつもりか?」
「何…!!?」

一瞬視界が黒く染まったかと思うと……

「チィッ!!」
「ふははは!!また会おう三蔵一行!!」

一瞬、黒が視界を覆った。
翻る外套。
次の瞬間には雀呂の姿は消えていた。
 
「なんちゅう逃げ方!?」
「……随分セコイ退場の仕方でしたね」
「なァにが『ふはは』だ。新手の劇団員かアイツは」
「『バカめ!!』とか言いませんよねぇ普通」
「とんだ茶番につき合わされたな。バカらしい」

口々にそう言いながら、幻覚にかかっている間に乾いた服を着る。

「よォ独角。悪ィな助かったわ──独角?」
「洗脳…いや 催眠状態ってのはそう簡単に抜け出せるもんなのか?」
「……どういう事だ?」

独角兕の言葉に雀呂が現れる前にその話をしている最中だったことを思い出す。

「──洗脳だ?」
「…ええ…」
「今のアイツはまるで血も涙もねえ殺戮マシンだ。あんなのは…あんなのは紅じゃねえ」
「しっかしそこまでやるかね。自分とこの王子様だろ一応」
「……」
「──でわざわざ俺達に忠告を寄こしたワケだ。経文置いて逃げろって?御親切にありがとよ」

三蔵が濡れてしまい使い物にならなくなった煙草を握り潰す。

「ナメてんじゃねーぞ」
「──ッ勘違いすんな!てめえらの身を案じてるワケじゃねえ」

そう言った三蔵の胸倉を掴む独角

「紅が…アイツがこんな状態で勝つ事を望むとは思えねえからだ!!」
「……尚更、俺達には関係ねぇな 俺の邪魔をする者は容赦なく殺すそれだけだ。それこそ貴様らの大将が同情や降伏を望むとも思えんがな」

三蔵の言葉に返す言葉もないのか黙ってしまう

「な?ウチの大将なんざ、元々が冷酷無比の殺戮マスィーンよ?」
「てめぇが一番邪魔だ」
「やめなよ悟浄…」

悟浄が三蔵を指して言うと、そのまま後ろから銃口を向ける三蔵…

「三蔵さんの仰る通りです。」
「ああ判ってるよ。何とかしてアイツを元に戻す方法を探さなきゃならねえんだ」
「──にしても……方法は定かではないにしろ 脳を直接いじったとしたら催眠のように簡単に解ける暗示じゃあないかもしれませんね」
「…もし、もし紅が戻らねぇならその時は──」

────────────────
──────────
────

「あの八百鼡さんって薬師の方なんですよね?」
「えぇそうですよ」
「実は聞きたい事があって…」

向かう目的地は一緒ということで独角兕と八百鼡も一緒に悟空達を探すことに。
前を歩く男子達の後ろで双葉が隣を歩いていた八百鼡に声をかけ、それから何やら盛り上がっている女子二人に悟浄が反応した。

「双葉ちゃんのやつ薬師の姉ちゃんと仲良さげだね〜」

しかし会話の内容に耳を傾けると…
 
「わぁ!ほんとですか!?じゃあチョウセンアサガオからも神経毒が作れるんですね!」
「そうですよ!あっ彼岸花の根も毒として使えるんですよ?」
「それってやっぱり1回干した方がいいんですか?」

女子がキャッキャして話す内容ではないワードばかりが飛び交うのを三蔵がツッコミを入れる。

「おい 会話が物騒だぞ…」
「とてもじゃねぇがキャッキャして話す内容じゃねぇよ」
「あははは……」

──────────────────────

ある程度目星をつけていた場所まで進む。
進み続けてついに悟空の姿を発見。
紅孩児が悟空渾身のパンチで吹っ飛ばされ荒れ地へと勢いよく転がっていく。一方悟空も肩で息を吐きながら何とか立っている状態。

「……へ…へへッ 楽勝じゃん」
「紅孩児様!!?」
「紅!!」
 
独角兕と八百鼡が紅孩児の元へ駆けていく。
そして4人は比較的のんびりとした足取りで悟空の背後に近づいていく。
ゆっくり片手をあげた悟空と悟浄がハイタッチを交わしたのを合図に悟空の体が崩れ落ち、双葉が受け止めて地面に横たえさせる。
ザッと三蔵たちが立ちはだかり倒れていた紅孩児はその気配にピクリと身じろぎして、臣下二人を振り払って起き上がる。
 
「玄奘……三蔵。魔天経文を渡、」
「断る」
 
その発言に「ならば奪い取るまでだ」と立ちあがろうとするが紅孩児を独角兕が慌てて引き留める。
見たところ満身創痍なのはあちらも同じ

「黙れ。邪魔をするようなら貴様らも殺すぞ」

そう言われた独角兕と八百鼡の表情が強張る。

「うわー、何だか」
「すっごく身近に感じるキャラですね」
 
あまりにもどっかの誰かさんにそっくりな状態に悟浄と八戒は見ながら引いているし、言われたこちらの誰かさんは不機嫌そうにガン飛ばしている。
 
「……覚悟はできてんだろ独角。本気でやるぜ」
 
悟浄が錫月杖を構え、それを合図にそれぞれがぶつかり合う。

「……あれ…」
「悟空大丈夫?応急処置程度には手当するね」
 
倒れると同時に気絶していた悟空に声をかけ手早く手当を進める。その横から大きな狼姿に変身したクロガネが双葉に突撃する。

「わふ!」
「うわっ!?クロガネもお疲れ様!ありがとうね」
「わん!」
「…さんきゅー、双葉」
「どういたしまして。もう一戦行くんでしょ?」
「当たり前」

満身創痍になりながらもいつもの笑みを浮かべている悟空に双葉も笑ってみせる。
先程から呆然と立ち尽くしている独角兕と八百鼡。
2人は紅孩児と三蔵たちの戦闘を、固唾を飲んで見守っていた。
 
「こいつ痛覚ってモンがねぇのかよ!?」
「どうやら止める方法は本当にひとつしかない様ですね」
 
悟浄と八戒の言葉に、二人が息を呑んだ。
つまり、それは死と同義だ。
何かを決意した瞳を持った独角兕と八百鼡が戦場へと駆け出していくのを見送り。
悟空は笑みを浮かべながら起き上がる。
 
「ふっかぁあつ!!手当てサンキュー双葉!」
「あんまり無理したらだめだよ?」
「おう!じゃあ行ってくる!!」

悟空を見送ると双葉はその場に留まった。
これは自分が出る戦いではない
 
「悪ィな、やっぱ俺らはこっち側・・・・だわ!!」
「私、紅孩児様のお側にいないと嫌なんです。望まれなかろうがそんなの知ったこっちゃないんです」
 
自分たちの主君の救援に駆けつけた2人の顔は晴れやかで、剣と爆薬それぞれの武器を携えた独角兕と八百鼡は、一行の前に立ちはだかる。
 
「そーそー 俺達ブッちゃけ玉面公主の命令も…悪ィけどお前の母親ですらどーでもいいんだ。紅、お前がいる。それがすべてだ」

悟空も復活したにも関わらず、三蔵一行と紅孩児一行の攻防は一進一退。それぞれが武器を交わす相手が入れ替わり立ち替わり混戦が続いていた。
ふいに、独角兕に向かった攻撃を紅孩児が庇い駆け寄る2人。
 
「うぉおおぉ!!」
 
その後すぐにまるで仇だと言わんばかりに吼えながら独角兕が4人の元へ突っ込んでいく。
突然のことに悟空は咄嗟に如意棒で迎撃し、悟浄も「何だ!?」と身構えたがその奥で呪文を唱える紅孩児の姿に気がついた三蔵が「散れ 罠だ!!」と叫び
 
「―― 開カイ!!」
 
その言葉と共にゴッ――と音を立てながら召喚魔・炎獄鬼が一行へと襲いかかる。
さすがに応戦に向かおうとした双葉だったが八百鼡から腕を引っ張られ、気がついた時には八戒が出した防護壁と召喚魔がぶつかった衝撃で凄まじい爆風が巻き起こる。そして4人の立っている足場はそのままガラガラと音を立てて崩れて行き下の川へとドボンッ!!っと落ちてしまった

「皆!!!」

慌てて崖から下を除けば4人の無事な姿に安堵する。

「召喚術は使えないんじゃなかったのか!?」
「という事は…」
 
崖の上を見上げる一行。
夕焼けの光を背負って立つ紅孩児の表情は緩やかな弧を描いており。
 
「……どうやら、また借りができたようだな。今日は見逃してやる。次こそはかならず経文をもらい受けるぞ」
 
声音さえも穏やかで元に戻った紅孩児だとすぐに分かった。
 
「何だそりゃふざけんなー!!」
「……殺す」
「あははは。ナメてますねー」
「そっちこそ次は憶えてやがれ、聞いてっかコラバカ王子!!!」
 
4人に対して言いたいことだけ言いそのまま身を翻す紅孩児。
 
「紅孩児様…」
「…どうした ついて来るんだろう?八百鼡 独角」
「……はは バカお前…そんなの決まってんじゃねえか」

そう主君から声をかけられ嬉しそうな表情を浮かべる2人を見送るのだった。
 
────────────────
──────────
────
 

「……ひ、ぶぇっくしッ!!っだーこんちきしょー」
「ムチャクチャオヤジくしゃみですね悟浄」
「何度も川に落ちて風邪でもひいたか。漫画みてぇなヤツだな」
「鼻すすりながらよくそーゆー悪態がつけるなてめーわよ」
「ほら、悟浄も三蔵もティッシュ」
 
夕闇の空の下。
ジープに乗りながら荒れ地を弾みながら進んでいく。
紅孩児達が去った後、大きくなったクロガネと双葉で川に落ちた男4人を引っ張りあげるのに大変だったのは言わずとも伝わるだろう…

「しっかし散々だったぜ。変な劇団員にはからまれるしよ」
「あれ でも悟浄全然役に立たなかったって聞いたけど」
「ブチ殺す!!てめーなんざ その場に居もしなかったクセに!」
「ぎゃーー!!」
「あはは でも悟空は悟空で頑張ってたみたいですしね」
「…へへ」
「なァに ニヤニヤしてんのよ小猿ちゃん?」
「してねーよッ お前なんか元がニヤケ面のくせにッ!!」
「オイ コラ聞き捨てなんねーーぞ」
「はいはい。喧嘩して暴れないで誰か確実に落ちるよ」

後ろのがやがや等気にせず三蔵は独角兕からの情報を思い出していた。

『吠登城に人間がいるのか』
『ああ、その男だけだがな 話によりゃ天才的な化学者らしいが、どうもそれだけじゃねえ得体の知れない処がある 何もかも小馬鹿にしきった様ないけ好かない男だ』

“ニイジェンイー”か

難しい顔をする三蔵に八戒が横から声をかける。

「……蔵 三蔵?」
「何だ」
「次の町まで三日ほどかかりますが、このまま進みますか?」
「…当たり前だったく。行く先々で余計な手間取らされやがる」
「何だか牛魔王サイドも色々大変みたいですしねぇ」

三蔵と八戒が話をしている最中、悟空が思い出したかのように「そういえばさ」と話し出す。

「紅孩児の奴 何であんなに機嫌悪かったんだ?」

紅孩児の状態など知らない悟空に対して一瞬の沈黙

「…そりゃアレだ 夢見が悪かったんじゃねーーーの?」

その問いに悟浄がそう返しながらジープは西へと進んでいく。
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