— RELOAD —

十二輪

「困りましたねぇ…町まで2日はかかりそうですよ…」
「マジか!!?」
「それまで野宿ってことか!?」
「ちっ」
「仕方ないよ。だってここ」

そう。
一行を乗せたジープが走っているのは夕日が照らす山の中。異変のせいで地形が変わっている事もあり若干地図とは違った道になっているのだ。
変わらない山の景色に悟空が項垂れていると遠くの方に建物があることに気が付き声を出す。

「ん?なぁあれって!」
「あ?寺だな…」
「本当だ」
「…三蔵法師の権力でお邪魔する事できないですかね」
「ちっめんどくせぇ…」

しかしこのまま進んでも野宿は確定なのでとりあえず進路変更し寺院へと向かった。
ジープを止め階段を上がれば少し古びた寺院が姿を見せた。

「すみません。どなたかいらっしゃいませんかー?」
「……はい…?」

八戒の呼びかけに出てきたのは修行僧ではなく若い女性。寺院は女人禁制のはずなので驚くも、事情を説明すればすんなりと寺院内にある大広間へと案内された。責任者を呼んでくると言われ待たされている間、悟空は疑問に思ったことを口にする。

「なぁなぁここって寺院だよな?なんで女の人がいるんだ?」
「ここは女院寺となります。」
「女院寺?」

悟空の疑問に答えたのは僧侶の服を着て頭には尼頭巾を被った老婆。どうやらここの尼さんのようだ。

「はい。身寄りのない娘や何かしらの事情がある娘、ここは村から離れていますので駆け込み寺のようなものになっています。通常であれば男の方は禁止していますがこの世界の為に旅をなさっている三蔵法師様御一行となれば話は別です。どうぞこちらでごゆっくりとお過ごしください。」
「…ああ。」

ひとまず休めるところに案内をしてもらう事に。
部屋までの間すれ違うのはやはり女性ばかり…

「綺麗な姉ちゃんいっぱいだな」
「ダメだよ。悟浄」
「悟浄、教育的指導」

悟浄が反応しない訳もなく。
しかしここは訳ありな女の人ばかりのいるところ。
そんなところで見境なくナンパされては困ると双葉と八戒によって手綱を引かれる。
案内に着いていく中、双葉は大荷物を持った一人の少女とすれ違いざまでぶつかった。ぶつかった衝撃でフラりと倒れそうになる少女の手を引っ張る。

「きゃっ!」
「わっと!すみません!大丈夫ですか?」
「は、はい…ありがとう、ございます」
「これ、どこかに運ぶんですよね?手伝います」
「え!そんな悪いですよ」
「ひとりじゃ持つの大変でしょ?」
「うっ……ではお願いします。」
「はい!ってことだから皆先に部屋で休んでて!」

そう言い残すと少女と一緒に行ってしまう双葉の後ろ姿を見て悟浄と八戒は顔を見合せ笑った。
自己紹介をしたり他愛もない話をしたりして並んで歩く。
 
「香鈴さんっていくつですか?」
「今年17歳になります」
「えっ!同い年ですね!私たち」
「そうなんですね!……私、まだここに来たばかりであまりお話出来る方がいなくて……」
「……多分明日にはここを出発すると思うのでそれまでで良かったらお話相手になってくれませんか?」
「!!はい!喜んで!」

──────────────────────


「──あれ?双葉まだ戻って来てねぇの?」
「一瞬帰ってきたんですけど厨房の手伝いをすると先程元気に出ていきましたよ」

風呂から上がって来た悟空がまだ濡れた髪を拭きながら部屋へと入ってくる。
ちょうど悟空が戻る少し前に戻ってきたかと思えば香鈴と一緒に厨房へと向かった双葉。

「なんか双葉楽しそうだな!」
「確かに双葉ちゃんこっちに来てから同性と話すことなんてほぼねぇからなぁ」
「なんせ僕達と旅をしてますから」
「きゅーきゅー!」
「わん!わん!」

いつも面倒を見ている双葉がいないことにジープとクロも声をあげる。
 
「ジープとクロガネも飼育員がいなくて抗議してるぞ」
「はいはい。終わったらすぐに帰ってきますから、それまでは僕達と一緒にいましょうね」
「三蔵?ずっと黙ってるけどどうしたんだ?」
「……いや、なんでもない。」

二匹を宥める八戒を横目に先程から黙ったままの三蔵。それに気づき声をかける悟空に返事をするも三蔵の中でこの寺に対してどこか違和感を感じていた。

──────────────────────

「…双葉さん。調味料が切れているものがあってすみませんが、裏山に備蓄倉庫があるので着いてきて頂いてもいいですか?」
「はい!」

厨房で数人と調理している中、香鈴と共に寺の裏山へと向かう。裏山の備蓄倉庫と言う割には一向に見えてこないのを不審に思い香鈴に問いかける。

「…あの、香鈴さん?倉庫ってどこまで行くんですか?」
「……ごめんなさい」
「え?」
 
先を歩いていた香鈴が振り向き双葉へと抱きつく。
腕に鋭い痛みが走った後、クラリと歪む視界と共に意識を失った──
 
 
────────────────
──────────
────

 

「へへこりゃまたいい女じゃねぇか!」

男の下品極まりない声に意識が覚醒する。
腕と足は縛られ床に転がされて居た。
ぼーっとしたまま目を向けると複数の男と香鈴の姿が見えた。回らない頭で何とか口を開く。
 
「こー、りん…さん……?」
「ッ!!…約束通り連れて来たわ!これで私は見逃してもらえるんでしょ!!?」
「はっ約束だぁ?なんの事だか。とんだ馬鹿な女だな」
「え……?」
「お前諸共売り捌くに決まってんだろ!!」
「きゃ!!」

男が香鈴の頬を叩き、叩かれた衝撃で床へと倒れ込む。そんな香鈴にニヤニヤとした顔で跨る。

「…でもその前に二人まとめて味見でもするか」
「や、やめて…来ないで……!!」
「ッ!!」

服に手を伸ばそうとするのが視界に入り、香鈴を襲おうとする男に向かって空間からクナイを飛ばす。軌道は手の甲にクナイに刺さりその痛みで男が床にのたうち回る。

「このクソアマ!!!」
「逃げて!!香鈴さん!!!」
「ッチ!!押さえつけろ!!薬だ!薬を使え!!」
「ぐっ!!逃げて!!!!…あ……」

腰を抜かしている香鈴に向かって必死に叫び、入口から走っていくのを見送った。
双葉は手足を縛られたまま男三人に押さえつけられ首元に向かって何かと刺された。先程と同じように歪む視界と近づいてくる男達。

あ、ダメだ……意識が、…
ごめん……八戒……

双葉の中にある「殺意」が初めて表に出た瞬間

── こんな奴ら…こんな奴ら死んじゃえばいいのに…

───────────────────────

「…」
「どーした?」

悟浄の視界に珍しく浮かない顔で荷物を畳む八戒が見え声をかける。
 
「あ、いえ…なんだか胸騒ぎがして」
「胸騒ぎだぁ?何の?」
「僕にも分からな『バンッ!!!』
「!!?」

話の途中に突然ノックもなく勢いよく開いた扉に警戒するもそこに居たのは先程まで双葉と共にいた少女。
息も切れ切れな様子に只事ではないことは見てわかる
 
「どうしたんですか香鈴さん?」
「あんた確か双葉と厨房に行かなかったか?」
「ッこんな事あなた達にお願いするの間違ってるかもしれない…でもお願い!双葉さんを助けて…!!!」
「「「「!!!?」」」」

香鈴から詳しい話を聞かされ八戒が飛び出しそれを追いかける悟浄。二人は先程香鈴が話していた裏山の奥にある小屋へと急いで向かった。

「双葉ッ!!!」
「ッ!!!?」
 
たどり着いた小屋の扉を勢いよく開ける。
 
──そこに広がる光景に息を飲む。
部屋全体にむせ返る程の血の匂いと飛び散った血痕、人だった“何か”の死体が沢山散乱していた。
その死体の中で返り血を浴び、1人呆然と立ち尽くす少女……
いつも着ている制服は破られ役目を果たせていないような状態。それを見て動けなくなる八戒。双葉にそっと近づこうと踏み出した悟浄。
しかし双葉の間合いに入った瞬間──
 
「!!!?」
 
今までに見た事のない目にも止まらない速さで悟浄の首元に刀をギリギリに近づけ殺気立つ双葉
 
「ふ、たば…?」
「……ぁ…捲、簾…?…天蓬、様まで…すみません…もう意識が、保て、そうにありま…せん……」
「お、おい!!」
「双葉!!」
 
正気に戻った直後、緊張の糸が切れたかのようにぐらっと倒れる双葉を慌てて受け止める。
悟浄が双葉を抱き抱え小屋から出ると悟空と三蔵の姿。二人も双葉を見て驚いた表情を見せた後、2日かかると言っていた街まで向かうことに。
街へと向かった車内では必要最低限の会話しかなく、ただただ沈黙だけが続いた。珍しく妖怪に襲われることもなく無事街に着き宿屋へと足早に向かった。
街に着く途中で双葉の身なりを整えていたのでそのままベッドへと寝かせる。

「双葉大丈夫かな…」
「…2日間眠りっぱなしだしな」

三蔵の言う通りこの2日間、目を覚ます様子のない双葉。見つけた時は真っ青な顔色をしていたが今は血色も戻ってきていた。
ジープとクロガネも目覚めない双葉を心配して枕元から離れようとしない。八戒もこの2日間運転の時以外は離れずに傍に居た。

「悟浄…倒れる前の彼女は本当に双葉だったんでしょうか……」
「分かんねぇ…そう言えばよ。何か知らねぇ名前言ってたな」

倒れる前に呟かれた名前が聞いた事のない名前なはずなのに、知っているような懐かしいような気持ちだった。

「ッ…ん」
「双葉!!」

小さく声を発しゆっくりと瞼を開ける双葉に四人が近くに駆け寄る。

「…ぁ……眠ってしまっていたんですね…薬を打たれてしまい状況説明も出来ずすみません…」
「い、いえ…それよりも起き上がって大丈夫ですか?」
「はい。薬ももう抜けているので大丈夫ですよ」

上体を起こす双葉の話し方はいつもとは違っていて違和感を感じる四人。
その違和感に対して異を唱えたのは三蔵だった。

 
「…おい。お前何者だ?」
「申し遅れました。私は秋霖といいます……信じていただけないと思いますが、簡単に言うと私は双葉さんの前世…っと言うところでしょうか」
「前世だァ!?」

驚きの声をあげるのも無理はない。
目の前にいるのは双葉なのに中身は別人。
しかもそれが双葉の前世などと言われても信じ難い話である。
 
「…本当は何もせずに見守るだけのつもりだったんですが、あの時彼女がくそ野郎さん共を死ぬことを願った瞬間に暗器が暴走するのを感じて出てくるしかなかったんです……あの宝物はちょっと扱いづらくて感情によって勝手に暴れ出すことがあるんです」
「寺院の文献にも双葉の使っている暗器については詳しく書かれていなかった。あれはなんだ?」
 
双葉の使っている暗器。それは三蔵のいた寺院で保管されていた代物だったが悟空と悟浄が蔵の掃除中に誤って割ってしまいその後の行方が分からなくなっていた。
一緒に入っていた如意棒や錫月杖に関してはそれなりに文献もあったが暗器に至っては何もないに等しかった。
 
「あれはその昔、とっても偉い神様が使っていた武具なんです。使い勝手は双葉さんが使っている通りですね…元の形状も名前もなく暗器なら何にでも形を変えられる代物です。」

三蔵からの質問に答えを返す秋霖の横でずっとうずうずした様子だった悟空が口を開く

「あ、あのさ!双葉本当に大丈夫なんだよな!!?」
「!──はい、大丈夫ですよ…でも記憶をいじらせて頂いてあの女性を守りながら戦って意識を失ったという事にしていますので口裏を合わせてください。私の存在は知られない方がいいので」
「…双葉を守ってくれただけでもありがてぇよ」
「貴方がいなかったらと考えるのも嫌になります。」
「!……先程はすみません。知り合いに似ていたものでついその方たちの名前を呼んでしまいました」
「いや、気にするな」
「ありがとうございます。…そろそろ双葉さんも目を覚ましそうです。……最後に悟空さん。」
「ん?なんだ?」
「すみませんがこちらに来ていただいてもいいですか?」
「え?…う、うん」

手招きをされ近づくとそのまま悟空を優しくぎゅっと抱きしめた。
 
「うへ!?え!?」
「…悟空さん。あなたは今、幸せですか?」
「え?えっと…うん!」
「そうですか…無事にここまで大きく立派になられて本当に良かった…!!また会えてお顔を見れただけで十分です……」
「え…姉ちゃん一体ってちょ!?」

自分の事を知っている様な口ぶりの秋霖に聞き直そうとしたが双葉の身体から力が抜ける。
慌てる悟空を見かねて双葉をベッドへと再度寝かせた。そのすぐ後目を覚ました双葉はいつもの双葉に戻っており秋霖の言う通りの記憶になっていた。
その日の夜。八戒と双葉は同室で休息を取ることに。
双葉を小屋で発見した時から八戒の顔色はあまり良くなかった。
もし秋霖が表に出てきていなければ花喃の時の様になっていたかもしれないと頭をよぎってしまっていたからだ。

「八戒?……八戒!!」
「!?…すみません」
「大丈夫?…ごめんね、悟空と悟浄から聞いた。私が寝てる間ほぼほぼ寝ずにずっと看病してくれてたんでしょ?」
「気にしないでください。したくてしてただけですから」
「それでもだよ。」

ぼーとしたままベッドに横になる八戒を呼んでも反応の鈍いことに心配した様子で顔を向ける。
力なく笑顔を見せる八戒に意を決して伝える。

「八戒。そっちに行ってもいい?」
「え?…どうぞ」
「ありがとう。」

開けられたスペースに入り込みそのまま八戒の手を自分の胸へと置く。その行為にさすがの八戒も慌てた様子を見せる。

「双葉!?」
「ねぇ八戒。私ちゃんと生きてるよ。無事に八戒の隣にいるよ?…だから安心して」
「!」

秋霖に記憶をいじられているのであの状況を覚えている訳ではない

「……双葉。抱きしめてもいいですか?」
「いいよ。八戒がそれで安心してくれるなら」

双葉を腕の中へ閉じ込めるように抱き締める。
温かい。ちゃんと息をしている。
背中に回した腕へ伝わる鼓動に、張り詰めていた何かが少しずつほどけていく。

「……よかった」

絞り出すような声だった。
その後聞こえてきたのは規則正しい寝息。

「……八戒?」

小さく呼んでみるが返事はない。
どうやら安心した途端、眠ってしまったらしい。
双葉は少しだけ身体を離し、そっと八戒の顔を見上げた。
穏やかな寝顔だけど…

「……」

目の下には薄っすらと隈ができている。
悟空と悟浄が言っていた。
八戒はこの二日間、ほとんど眠らず自分の傍についていたのだと。

「……ばか」

小さく呟く。
心配しすぎだなんて言ってしまいたいのに、胸の奥が少しだけ温かい。
双葉はそっと手を伸ばし指先で目元の隈に触れる。
起こさないように。
壊れ物を扱うみたいに。

「……ありがとう」

聞こえるはずもない言葉を残して。
双葉は八戒の肩へそっと額を預けた、そっと目を閉じた。
今夜だけは何も考えずに眠ろう。
大切な人の温もりを確かめながら。
4/5ページ
スキ