— RELOAD —

十輪

「…寒ッ。」
「寒いですねぇ」
「……」
「寒いーーーー!!」
「うるせえ。」

歩く度にぼす、ぼすと音を立てながら歩いたことのない感触を感じ一歩一歩進む
 
「ホンっっとーーーに、この道でいいんだろうな八戒!!」
「僕に言わないで下さいよ。西へ向かうにはこの山をこえるしかないと麓の村の方が」
「そりゃ雪降ってるとは聞いてたけどよ……限度があんだろ限度がーーーー!!!」

悟浄の叫び声と共にビュオオオと吹雪く。しかも目の前はほぼホワイトアウト状態で前にちゃんと進めているのか心配になるレベル。

「おッスゲえ!!ここ雪深えーー!!」
「いやー悟空は熱量が高いですねぇ」
「猿は喜び庭かけ回るってな」
「……」

嬉しそうにはしゃぐ悟空とは対象的に今だ全く喋らずひたすらぼす、ぼすと歩き続ける双葉だったが雪に足をすくわれ前のめりに倒れる。

「双葉!?」
「何やってんのお前!?」

倒れるのに気が付いた八戒と悟浄が慌てて両腕を引っ張りあげ、自分でも雪へ顔面ダイブしそうになったことに驚いたのか二人の方に向く。

「あ、ありがとう二人とも」
「どうしたんです?さっきから何も喋らずに」
「…私、元の世界で西の方に住んでて雪が降っても10cmぐらいしか積もってるの見た事なかったから……内心はしゃいでいました」
「はしゃいでたのかよ」
「分かりづらすぎるだろ」
「まぁまぁ、年相応で可愛いじゃないですか」

恥ずかしそうに明後日の方を向く双葉に、悟浄と三蔵は思わずツッコミを入れた。
何せ山に入ってからほとんど喋らず、具合でも悪いのかと思っていたのだから。
 
それを他所に今だはしゃぎまくる悟空は三蔵によって蹴飛ばされ制止していた。

「突然吹雪だもんな。──どっか村とか宿とかねーのかよッ」
「この山に人は住んでいないと聞きましたけどね」
「住めねぇだろ。こんな土地」
「でもジープとクロの為にも山小屋なり探さないと」

ローブの下に抱き抱えているジープとクロを覗けば寒そうに2匹とも身体を寄せあっている。
1歩足を踏み出した瞬間──
どこからか、1本の矢が真っ白な雪に突き刺さる。
気が付けば足元に1本だけではなく何本も放たれる

「な…何だァ!?」
「刺客か!?」
「でも今、全然妖気なんて……ッ!!」
「矢の次は石かよ!?」
「──上か!!」

頭上を見上げれば小さな子どもが数人…

「帰れ!!この山に近付くな!!」
「子供……?」
「物騒な子供だな…」
「何すんだよお前ら!!危ねーだろッ」
「うるさい!!」
「うわッ」
「本当に危ないってば!」
「村の奴らは山に入ってくるなって言ったろ!!」
「おいどーゆー事よ?」
「どうやら人違いされてるみたいですね」
「人違いでやられていいレベルじゃないけど」
「何だか判んねーが俺達は村の人間じゃ……」
「うるさい帰れ!!」
「帰れーーー!!」

悟空が叫んで止めるも全く聞く耳を持たず攻撃してくる子ども達

「どうします?」
「無駄だ関わるな!!」
「走るにしたって限度が!」
「うっわ!走れる環境じゃねぇって!!」

踵を返して駆け出した瞬間、ズッと嫌な音とともに足元が、大きく陥没

「うわあああぁぁ!!」

そのまま五人は真っ逆さまに落ちていく。
双葉は落下直後来るであろう衝撃に耐えるようにぎゅっと構えているとそれとは違う誰かに守られるように引き寄せられた感覚がした。
しかしそれからの記憶はない……
 

────────────────
──────────
────

「……ん」

パチパチ何かが弾ける音と小さな話し声が聞こえてきて意識が引き戻される。ゆっくり瞼を開けて身体を起こす。

「起きたか」
「……誰?」
「嬢ちゃんが先だな」

寝ぼけ眼な目を擦りながらその言葉に周りを見れば四人が眠っていた。どうやら洞窟のようなところに運ばれたようだ

「心配はいらないぜ。皆気を失ってるだけだ」
「…良かった」

やっと目覚めてきた意識を声の主に向けるとそこには短髪でゴーグルをつけ、耳が尖っている男の姿……

「あ、わりぃ。人間の嬢ちゃんには俺が怖いか…」
「大丈夫。優しい妖怪がいることを知ってるから怖いとかないよ。それよりも助けてくれてありがとう。」
「そうか……スープ飲むか?」
「うん」

注がれたスープを1口飲めば体全体に染み渡る

「美味しい…」
「それは良かった。俺は耶雲ってんだ」
「私は双葉」
「そっちの兄ちゃん。雪崩から嬢ちゃんを守るように倒れてたぜ」
「え?」

兄ちゃんと言われ指した指を追えば今だ気を失っている八戒。確かに気を失う前引き寄せられる感覚をしたのを覚えていたので急に頬が熱くなるのを感じた。

「……どこだここ?」
「ん……あれ?」

気を失っていた悟浄と八戒が順番に目を覚ます。

「八戒!悟浄!」
「ん?双葉ちゃん」
「おはようございます……双葉、顔赤くないですか?」
「へ!?」
「あ、ほんとだ」
「ちょっと失礼しますね」

なんて言いながら顔近くまで近づいてきたかとお思えば、おでこに手を添えられる。

「だ、大丈夫だよ!これそう言うんじゃないから」
「……いや、少し熱ありますよ」
「まじかよ」
「え、嘘」

確かに言われてみれば体全体が熱いようななどと、自覚してしまうとどっと来るだるさ……

「嬢ちゃん熱があったのか!?」
「おたく誰よ」

急に聞こえた声に目を向ければ妖怪
警戒する二人に慌てて耶雲の紹介をする
 
「この方は耶雲さん。私たちをここまで運んで助けてくれた方だよ」
「ああ、ありがとうございます」
「いや、礼は後でで良い。それよか嬢ちゃんだ」
「寒さにやられてしまったのかもしれませんね。すみません気が付かずに……」
「どうして八戒が謝るの?私は大丈夫だよ」
「双葉ちゃん痛い時とかきつい時とかは何て言うんだ?」
「うっ……少しだるいです」
「素直でよろしい」
「ははっ嬢ちゃん可愛がらてんな」
「そりゃうちの最年少の末っ子で紅一点だからな。可愛いに決まってら」

本当のことを言わない双葉に詰め寄れば素直に答えるのでくしゃくしゃと頭を撫でる。
一連の流れを見ればそう思われるのは当たり前だろう。

「耶雲さん、双葉を休ませんても?」
「奥に寝れるスペースがあるからそっちで休んでろ」
「ありがとうございます。立てますか?」
「大丈「双葉?」夫、じゃない、けどやだ。皆と一緒にいる。」
 
八戒にまで詰められれば嘘はつけない。
と言うか基本四人から言われてしまえば素直に言うことを聞くが今回は珍しくわがままを言う双葉。
いやいやと顔を振りながら悟浄の腕にしがみつく。

「珍しい。そんなに俺たちと居たいの?」
「うん。だからひとりで向こうに行くのやだ」
「…だそうですよ、彼氏さん」
「っ……分かりました。でも無理はしないでくださいね?」

熱のせいかいつもしないわがままも可愛く思えてしまうので無理をしないことを約束し一緒にいることに。
それから少しして三蔵が目を覚まし、耶雲と話をしていた

「ま、ゆっくりしてけや。……それにしても、ウチのガキどもが早トチって襲っちまって悪かったな」

その言葉に仕切りの向こう側から現れた子どもたち。

「な、何だァ!?まさかこいつら全部おまえの!?」
 
やっぱりこういうときに囲まれやすいのは悟浄だ。
頓狂な声をあげながら言う彼の言葉に、耶雲は「俺は立派な独りモンだ」と笑う。
 
「ホラ、兄ちゃん達に謝りな」
 
耶雲にそう促された子どもたちは、「ごめんなさーい」とぺこりと腰を折る

「全員妖怪の……?」
「…ああ。妖怪達が暴走をはじめてからも一部の大人や、主に子供は自我を保っている。妖怪として未熟だからかその辺りはよく判らんが、少なくともこの辺で残ってる大人は俺一人だ。この子達は親が暴走して遺された…いわば孤児だな、そーゆー奴らを集めてここで生活しているってワケよ」
「…だからこんな山奥に隠れ家を」

話の途中で寝ていたはずの悟空が悲鳴をあげ目を覚ます

「なんだなんだ!?いででで!乗るな引っぱんなーーー!!」
「ははは、床に転がってるとオモチャにされるぞ」
「いいぞーーオモチャにしちまえーー」

寝起きの悟空のお腹の上に群がる子どもたちはとても楽しそうに笑っている。

「ヤクモーーこの人達お客さん?」
「…ヤキイモ?」
「耶雲だ。」
「…悟空」

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三蔵と八戒が耶雲と話の続きをしている間、悟空は子ども達に遊ばれていた。

「~~~おいオッサン!!こいつら何とかしてくれよーーー!!」
「オッサンだぁ?おい、この兄ちゃんがもっと遊んでくれるってよ」
「ぎゃーーー!!!」
「ははっやっぱガキはガキと遊ぶのが一番だな」
「悟浄…」
「は、」

耶雲の言葉を合図に子ども達が悟空に襲いかかりそれを見て笑っていた悟浄だったが子ども達によって髪の毛を遊ばれ三つ編みにされていた

「ぎゃはははは!!だっせーーーー!!モテモテじゃん悟浄!!」
「っせえ!!俺はな未来のいい女も大事にするんだよっ」
「てめぇらこの狭い空間でぎゃーぎゃー騒いでんじゃねぇよ!!」
「おめーの声が一番でけぇよ三蔵」
「…スミマセン。うるさくって」

懐から出したハリセンで騒ぐ二人を叩くのを背景に謝罪の言葉を述べる八戒。
そんな光景を悟浄の背中からこっそり見る双葉の様子に疑問の声を出す。
 
「あーたはどったのよ?」
「どうしたんです?身体辛いですか?」
「……違う…子ども」
「双葉ちゃん子ども苦手なのか?」
「……どう接したらいいか、分かんなくて…」

悟浄の大きな身体を盾にし、子ども達から見えないように背中に隠れて沈黙を決め込んでいた双葉。
最早気配まで綺麗に隠してしまっている。
八戒も不思議に思い覗き込み問いかければ二人にしか聞こえない声で小さく呟いた。
 
「うまくやってんだな。あんたら」
「あははは。まあ一応は」
「……こんな御時世に人間と妖怪が旅をしてるなんてな。驚いたぜ」
「……耶雲さん?」

遠くを見つめるかのような物憂げな顔に、八戒が彼の名を呼ぶも耶雲が返事をすることはなかった。

「お前ら奥に入ってろ」

何かに反応した耶雲が傍に置いていた猟銃に手を伸ばし、子ども達を布の掛かった奥へと向かわせた。
そのすぐ後に、洞窟の入口に掛けられていた布が引き裂かれる。

「…やっと見つけたぞ。こんな所で妖怪の子供を匿っているとはなぁ……耶雲」
「人間……?」
「麓の村の連中だ。俺達、妖怪を狙ってる」

ズカズカと洞窟に入って来たのは農具を持った人間達
双葉も只事ではない様子に子ども達が隠れている布の前に守るように立つ。

「当然だろうお前らは妖怪なんだからな」
「放っといてくれ!!俺達はあんたらに何の迷惑もかけてない筈だ!!子供達だって…」
「例え今はそうだとしてもな妖怪が近くに住んでるってだけで俺達は気が気じゃねぇんだ。いつかお前らが他の妖怪どもと同じように暴走して村を襲うか。お前ら自身にだって保証はできねぇんだろうが!!」

ヒートアップする言い争いに悟空が間に入ろうと声を出す。

「ちょ…ちょっと待てよオッサン達!!耶雲達には耶雲達の言い分があんだろ!?あんたら自分勝手だよ!!」
「何だてめぇ人間か?部外者は引っ込んでろ!!」
「悪いけど部外者だろうと言わせてもらうよ。今のあなた達は冷静さに欠けてる。第三者の目から見たら一方的にしか見えない。」
「っ部外者のしかも女に何が分かる!!」
「黙ってろ!!」

その一言に双葉の表情がスッ…と絶対零度の無表情になり首を傾げて口を開く。
 
「……そうやって人間とか妖怪とか部外者だの女だの何もかも括り付けて大体何様な訳?あんたら自分たちが中心に世界回ってるとでも思ってんの?そう思ってんならとんだご立派なもんね。てかそもそも妖怪だからって被害に遭う前から殺そうとするってそれ、暴走してる妖怪と何が違うの?説明してくんない?」
「な、なんだと!!?」
「やべぇ双葉ちゃんが」
「キレてる」

双葉からの冷気に悟空と悟浄が怯え震える。

「この土地を出て行ってもらえねえならば──死んでもらうまでだ!!」
「──ッ!!」
「きゃあぁあ」
「ヤクモ…!!」

農具を振りかざそうとする様子に耶雲が銃を構え、子ども達もその様子を怖がって悲鳴をあげる。
しかしスッと三蔵の手が耶雲の銃口を下げた。

「……お前…」
「僧侶……あんた人間か?何で人間が妖怪と一緒にいる?」
「成りゆき上な…あんたら人間の言い分ももっともだ。先の安全を考えるなら、その行動は適切な判断だろう」
「さ…三蔵!?何言って…」

三蔵の台詞に悟空が焦って尋ねようとするも、三蔵の言葉には続きがある

「ただし、耶雲はともかく今ここにいるのは『ただの子供達』だ。あんたらの村にいる人間のガキどもと何ら変わらんな…それが判っていて尚、このガキ達を始末できるというなら──てめぇらは妖怪でも人間でもねえ」

その言葉に人間たちはお互い顔を見合せるも
 
「…だが、やはり妖怪達とは共存できねぇんだ。いいか、この土地を出て行ってもらうまで俺達は納得しねぇからな。何度でも来るぞ……俺達だって、生きんのに必死なんだ」

捨て台詞を吐いて男達が去って行く。
緊迫した空気が緩いだ瞬間「梁!!」と耶雲が声をあげる。梁と呼ばれた少年はガタガタと震える怯えていた。

「大丈夫だ梁!!もう大丈夫だお前らは俺が守るから……」

梁を抱きしめて落ち着かせようとする耶雲

「畜生なんで……そっとしといてくれねぇんだよ……ちくしょう……っ!!」

絞り出すかのような悲痛な声が響いて聞こえた──
 

──────────────────────
 

翌朝──
すっかり吹雪は止み、当たり一面銀世界が広がる。
夕方からまた吹雪くと言う耶雲の見立てを信じ、明日まで一宿一飯の恩を返すべくそれぞれ薪割りや枝集めをしていた。……っと言っても三蔵はタバコをふかしながらサバり中である。
双葉もすっかり熱が下がり八戒と一緒に枝集めに勤しんでいた。
なるべく子ども達から姿を隠していたが、枝を拾っている最中に服を引っ張られ振り向くと数人の子どもが、

「おねーちゃんも一緒に遊ぼ?」
「え!?…あ、えっと…そ、の……」

突然のことにどうすればいいかわからず慌てて隣に居る八戒に助けを求める。
あまり見ない双葉の様子にくすくすと笑って見せる

「どう遊べばいいか分からなければ何かお話等してはどうですか?」
「お話…?」
「例えばおとぎ話や昔話など」
「…うん」

八戒のアドバイスを聞き、子ども達を連れて近くに腰がけ元の世界でのおとぎ話を聞かせることにした。
話し始めた物語は竹取物語。竹から生まれた女の子が美しい少女へと成長し、沢山の男に求婚され決して手に入らない5つの宝物を持ってくることを結婚の条件に。しかし誰一人として本物を持ってこずに偽物ばかり渡し、最後には求婚してきた時の帝からの求婚を断り月からの使者とともに月に帰るお話。
子ども達は初めて聞くおとぎ話に興味津々で聞いていた。その様子を微笑ましく見守る八戒の隣に悟浄が並ぶ。

「苦手って割にはちゃんと子どもの相手できてんじゃん」
「ですね。まぁ過去の双葉の話を聞く限り子どもと関わることをしてこなかったから接し方が分からないっていうだけでしょうからね。」
「にしても聞いた事ないおとぎ話だな。」
「双葉の世界のおとぎ話なんでしょうね……月に帰る…」

暗い表情を浮かべ小さく呟く八戒の様子に気がつき声をかける。
 
「八戒?」
「双葉はこのままこちらにずっといられるんでしょうか…」

今まではいつかは帰ってしまうと思っていたが先日話された双葉の話を聞く限り死んだらしくそのままこちらの世界に来たとのことだったが“らしい”という言葉に少し引っかかっていた。
もし本人も知らずに生きてこちらに来ているとしたらいつか本当に自分たちの手の届かない場所へと行ってしまうのでは。今、話していたおとぎ話のように…

「…なにおセンチになってんだよ。そんなこと今考えたってしょうがねぇだろ。もし帰りそうになった時は手を引っ張って連れて帰ればいいだけだろ」
「!!…あなたって本当に……」
「ああ?」
「いえ…そうですね」

─────────────────────

やはり、山に住んでいる耶雲の言う通り夕方になり外は再び吹雪いていた。

「うっわー、マジで吹雪だ」
「すごいね」
「山の天気は変わりやすいんですね。本当」
「朝には晴れるさ。午前中に発てば西側の町に着けるだろ。」
「──ヤクモ。ねえヤクモ、大変!!梁がいないの!!」
「!」
「梁、昨日から……人間が来た時から少し変だったの。なんかボーっとしてて怖くて……」
 
女の子の言葉に耶雲が静かに息を呑んだ後、彼は猟銃を掴んで、洞窟を出て行こうとする。
 
「耶雲?」
「探してくる」
「一人じゃ無理だ、俺達も……」
「いや、いい」
「耶く、」
「――いいからここにいろ!!」
 
悟空や悟浄の申し出を凄い剣幕で跳ね除け、吹雪の中に飛び出して行ってしまう。
その様子に引き留めることなど出来なかった。

「おい……!!…どうしちまったのアイツ」
「──三蔵?」
「行くぞ…気になる事がある」
「気になるって…梁じゃなくて?」
「いや……」

珍しく口をつぐむ三蔵の様子に不思議がる悟空。
しかしこの時、双葉自身も何か嫌な予感がしていた。
外へ向かう三蔵に四人が着いていこうとする中、腰をあげようとしない双葉。

「双葉?」
「…皆、私ここに残ってるね。子ども達の事も心配なんだけど……嫌な予感がするから」
「…双葉のその勘はあまり当たってほしくはないですね。」

双葉の勘は今まで外れた事がない。
この状況で嫌な予感がするともなれば最悪の事が起こるという事だ──
 
「大丈夫だよ。何かあればクロを向かわせるから」
「わん!」
「……無理はするなよ」
「うん」

後ろ髪引かれる思いで四人は洞窟を後にする。
皆が出て行ってからどんどん嫌な予感が双葉の中に膨れ上がってくるのを抑えるように子ども達を集め、できるだけ奥に隠れて音が鳴っても出てこない事を伝えた。
子ども達が隠れるのを確認した後、タイミングよく外から雪を踏みしめる複数の足音が聞こえてくる。
多分足音を鳴らしているのは昨日の村の人間だろと察しは付いていた。人間相手に暗器を出すわけにも行かず前の町で買った鉄砲棒を手に握った。
掛けられていた布を激しく剥ぎ入ってきたのはやはり昨日の村人の男達。手には昨日と同じように農具や猟銃が握られていた。

「何か用ですか?」
「お前は昨日のッ!!?」
「ガキが村の人間を殺しやがったんだよ!!」
「(……やっぱり、か)だからって他の子達は関係ないですよね?」
「このままじゃあどの道時間の問題なんだよ!!!」
「今やらねぇと俺達まで殺されちまう!!」
「お前も殺されたくなけりゃガキ共を出しやがれ!!!」

相変わらず全く聞く耳を持たず血走った目をする村の人間達。交渉決裂になる事は分かっていた。どこうとしない双葉に向かって大きく振り下ろされた斧を鉄砲棒で振り払う。

「もうやめて。これ以上どちらも犠牲を出さなくてもいいでしょ」
「うるせぇ!!!」

バン!!っと猟銃で撃たれた弾を空間から出したクナイで弾く。

「ひ、こ、こいつ化け物だ!!」
「お前人間のフリした妖怪かよ!!」

化け物──
この世界に来てからは呼ばれる事のなかった言葉。
でもいい。化け物と言われようとここから先、通す訳には行かない。

「そうよ…私は化け物。だから子ども達を殺したいなら私を殺してからにしなさい」
「ッ!!!やっちまえ!!!」
「うぉぉおおお!!!!」

数人がまとめて農具を振り回す。
それを交わし、鉄砲棒で薙ぎ払ったり体術で応戦する。しかし、今まで襲ってきた妖怪たちとは違い殺さずに仕留めると言うのは難しく一瞬のスキを突かれ猟銃の弾が肩をかすみ痛みでしゃがみこむ。

「ッ!!?」
「今だ!!子ども達を殺せぇ!!!」
「させないッ!!」
「お前は邪魔だ!!!」

奥へと向かう男たちを止めようとするも一人の男に馬乗りにされてしまう。鎌が振り下ろされる瞬間、何かによって男が外へと吹き飛ぶ。
突然のことに驚きながらゆっくり身体を起き上がらせると隣から見たことのない黒い毛並みの大きな狼が現れた。心配した顔をしながら覗いてくるその顔に見覚えがある

「……あなた、もしかして…クロ?」
「くぅーん」

撃たれた傷を優しく舐める。

「きゃぁああ!!!」
「あっ」

子どもの叫び声で痛む肩を庇いながら奥へと進む。
しかしそこには子ども達の屍が転がっていた。

「……う、そ」
「……ぁ」

突然の声に振り返るとそこには飛び出して行った耶雲の姿が。目の前に広がる子ども達の惨状に耶雲の中で何かが切れる音がした。

「……アアァァア゛ア゛ッ!!」
「待って耶雲さん!!!ッ!!?」

双葉の静止も虚しく、子ども達を殺した一人の人間の首元を思いっきり噛みちぎり血が吹き出し目の前が赤に染まる。それをやったのは他でもない耶雲だ。

「ひ!!?」
「う、うわぁぁあ!!」

目の前で殺される様を見て、他の人間達は血相を変えて悲鳴を上げながら逃げ惑う。
許しをこう人間も容赦なく殺していく──

「まって…こんなの、ダメだよ……!!」
「た、助けてくれぇ!!──仕方ねぇじゃねぇか!!俺達だって本当はこんな事したかなかったんだ!!殺らなきゃこっちが殺られちまう。あんたらさえいなけれけりゃ俺達だって静かに暮らしてこれ──が」

無惨な音と共に首を掻っ切られ血が吹き荒れる。
子ども達と楽しそうに雪合戦をしていた耶雲はもうそこにはいない。殺した人間を引きずりながら外へと向かう耶雲を大きくなったクロに支えられながら追いかける。

「なんでだよぉおおお!」

洞窟から出ると外には耶雲と対立するかのように並ぶ四人。耶雲の血塗られた姿に悲痛な叫び声をあげる悟空に向かって行き吹き飛ばす。
そのまま次に悟浄に襲いかかり、三蔵が耶雲の肩を撃ち抜いても動きは止まらない。
双葉もその光景に舌打ちをし、足元に向かってクナイを投げる。クロが双葉を背に乗せ四人の元へと向かう
 
「双葉!!」
「な、何そのでけぇ狼!!?」
「話しは後!今はッ!!?」
「!!怪我してるじゃないですか!!?」
「今は大丈夫、だから」
 
見知らぬ大きな狼に乗った双葉の肩口からは出血を見て治療をしようとする八戒を止める。
 
「……雲、耶雲ッ! 何でだよ!!?」

この状況でも悟空は耶雲に呼びかけるも本人の耳にはもう届いていない。悟浄が錫月杖を構え隣に八戒も立つ。

「…八戒……?」
「──悟浄。接近戦は避けましょう」
「力じゃ敵いそーにねぇからな」

2人がしようとしている事は悟空も理解出来ている。
でも、嫌だと言うように二人のローブを掴む。
 
「「!」」
「…悟空」
「──わかってるよ。わかるけど」
「……どんな気持ちだったんでしょうね。子供達のお墓を作り続けて。たったひとりで」
「……あいつの墓は、誰がたててやりゃあいい」

それでも耶雲を救うには、これしか方法がなかった──

 
────────────────
──────────
────


夜が明け、耶雲が言っていた様に吹雪は止み朝日が五人を照らす。
耶雲と子ども達の遺体を運び一緒にそばにいられるように元からあった小さな墓石の隣に大きな墓石を建てた。その墓石に野草として咲いていた真っ白な水仙の花を置き目を閉じ両手を合わせる。
もっとどうにかしていれば子ども達が死ぬ事も耶雲が暴走する事もなかったかもしれない。そんなきりのないことばかり考えてしまう。

「──双葉。行きましょう」
「……うん。」

どうか向こうでは皆仲良く遊べますように──

「西から帰る時またここに寄ろう。その時は綺麗な花を添えてあげたい。」
「そうですね…」

ゆっくり立ち上がり最後の挨拶をした後、八戒のそばに行き伸ばされた手を握る。クロガネも大きな身体を双葉に擦り寄って鼻を鳴らす。

「三蔵……あのさ、もし俺が……やっぱりなんでもねーやっ」
「殺してやるよ」
 
悟空が紡いだ言葉は何かを考えた後、続きを言うことはなかった。そんな彼の心情に気づいてか三蔵が呟く。

「殺してやる」
「――ん」
(私は、何かあってもきっと手を下すことなんてできない。……八戒がもし暴走したらその時は──)
 
考えていることが本当になることがないように祈りながら真っ白な世界で西へと進んでいく。

「……足かゆ」
「悟浄しもやけ?」
「寄るな伝染る」
「…それ違うよ。」
「それは水虫……。」
「ってかよ。クロガネそのままじゃジープに乗れなくね?」
「確かに」
「ワン!!!」

悟浄の疑問はその通りで今だに大きな狼の姿のままのクロガネ。元々妖怪なので何かしらの妖術はあるとは思っていたがまさかここまで成長するとは思ってもいなかった。自分の話をされていると分かっているのかお座りをして大きく尻尾を振っている。

「子犬姿ならいつもみたいに抱っこ出来るけど…」
「わん!」
「ってえ!!?」
「どうなってんの!!?」
「…子犬の姿に戻りましたね…」

その声に答えるように大きな身体が縮み子犬の姿に戻り双葉の胸へと向かってジャンプしてくる。

「元々こいつも妖怪なんだ。それぐらいの芸当もできるって事だろ」

タバコをふかしながら言う三蔵の言葉に確かにと納得を示し、もふもふなクロガネを抱え直し再び歩き出す──
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