-無印篇-
あれから一行は以前、三蔵と悟浄が情報収集のために立ち寄った酒場にいた。カミサマと再会し、戦ったものの双葉を置いて命からがら逃走を果たした三蔵一行は真夜中に酒場へと傷だらけなまま転がり込み、治療をして面倒を見てもらっていた。
「…悟浄、少し休んだらどうです?昨夜から寝てないでしょう」
「冗談。目ェ覚ます度に這いずり回るゾンビ野郎がいたんじゃオチオチ寝てもいらんねーよ」
ゾンビ野郎とは四日ぶりに目が覚めたかと思えば暴れ出す三蔵。あれから意識が戻ればどこかへの向かおうとするのを止めてはベッドに戻しを繰り返している。
まだ皆傷は癒え切っていないままだった。
「しかし…どーなんのかね。これから」
「そうですね…まぁ本来なら、あの『カミサマ』という男を無視してこのまま西へ進むという手もあるんですけど…経文を取られた以上そうはいかないでしょうね。何より双葉の事もあります。」
「…俺だってこのまま逃げて終わり、ましてや双葉ちゃんをあのまま置いて行くなんてゴメンだしな」
「僕だって同じですよ。できれば八つ裂きにして死体を犬にでも喰わせたい処です。でも現実問題、あの男の力を考えたならば……僕らは勝てません」
八戒から吐き出された言葉。
勝てない。それでも……
「…でも、行くんだろ?“俺達は”」
「ま、そーでしょーねぇ」
「あーあ。パッと潔く散りますかぁ」
冗談めかして本気とも取れる悟浄の言葉に反応したのは寝かされていたはずの三蔵だった。
「……勝手な事抜かしてんじゃねぇよ。俺の問題だ。てめぇらにゃ関係ねえ」
ギシリとベッドが軋む音と共に三蔵がゆっくりと起き上がった。
「勝手抜かしてるのはどっちですか。三蔵」
「ここまで来たら誰の問題もクソもねぇだろうが…って聞けよこのバカ!!」
治りきっていない傷を押さえながら、立ち上がる三蔵の腕を掴み悟浄が怒鳴るも
「うるせえ退け、殺すぞ!!」
その一言に……
「じゃあ殺せよッ!!」
「悟浄ッ」
キレて三蔵を殴り倒す悟浄を止めに入る八戒。
「っせえ!!気絶でもさせときゃいいんだ。こんなクソ坊主。頭イカレちまってて使い物にもなりゃしねぇ!!」
そう言い放つ悟浄の腹を、起き上がった三蔵が殴る。
「もう一度、言ってみろ」
「ああ。何度だって言ってやるよ。てめぇみてぇな腰抜け坊主に誰が殺されるかってんだ!」
売り言葉に買い言葉で取っ組み合い殴り合う。
そんな二人を止めようと、八戒が声をあげた。
「三蔵!!自分の身体を少しは考えなさい!三蔵」
「呼ぶな!!」
「三…「その名を呼ぶなァ!!!」
バンッ!!
叩きつけるように物凄い音。
一瞬にして部屋は静寂に包まれた。
「悟空、お前…今まで何やって…ッ」
悟浄からの質問に答えず、立てかけてある卓を設置し、抱えていた物一式を置く。
「麻雀やろ。」
ハッキリとそう話す悟空に当然、その場の空気が一変した。驚きというよりも呆れに近い反応だろう。
「何言ってんだコイツ」と今にも言いそうな雰囲気。冷え切った空気すら感じる。
「~~~はぁあ!?お前何言って…「いいでしょう。ここ失礼しますよ」
「八戒!?」
抗議の声をあげる悟浄だったが意図を汲み取った様に、八戒がそう言って卓についた。
「ホラ、悟浄も」
「なッバカかぁ!?何悠長な事言ってんだよ!!何で今そんな……ッ!」
反論しかけた悟浄だったが有無を言わさない真剣な瞳に威圧されて、舌打ちと共に仕方なく座る。
「三蔵」
「…ふざけるな。しかもドア塞いでんじゃねぇよ。どけろ」
応じようとしない三蔵に、八戒はクスリと挑発してみせる。
「おや、無理が祟ってここまで来れませんか?」
「ッ貴様…!!」
「てめぇも道連れだ」
「ッ!!」
三蔵の頭を悟浄が鷲掴み強制的に座られた。
「ばッ…放せ!!」
「はい開始ー」
三蔵の異論など無視しゲームが開始される──
朝から悟空により強制開催された麻雀大会は空が赤く染まり出した頃も続いていた。
半チャン10回連続悟空がトップと悟浄が呟くほど勝ち越していた。
しかも三蔵の捨て駒ばかりで上がって見せるため三蔵は不機嫌さに拍車がかかり、八戒も機嫌がいいとは言えない。むしろ不機嫌である。
悟浄も吸い殻の数は溜まっている。
日が暮れても続くゲームの勝ち越しは未だ悟空のまま
「ツモ!!」
「チャンタサンショクマンガン~~!?おめー、一体どんな手使ってんだよ!?」
我慢の限界に達した悟浄が声をあげる。
しかし、キッパリとはっきりと告げた。
「別に俺が強いんじゃないよ。みんながいつもより弱いんだ」
真っ直ぐな瞳で彼らを見据える。
「負ける顔でいる奴らに勝つのなんて簡単だもん。……俺もう、負けるつもりないから」
そう言いのけた悟空からは強い意志を感じる。
「エラソーな事抜かしてんじゃねぇよ!!お前だってあの男の強さ、身体で判ってんだろ!?勝てる勝てると思ってるだけじゃどーにもなんねえ事だってあんだろが!!」
悟浄の中で我慢していたものが爆発した。
カミサマを倒すためにわざわざ一人で向かったのに、最後は一人の少女を置いて自分たちはおちおちと傷の手当てをしている。
自分が最初の元凶なはずなのに……
「──勝たなきゃ意味ねーじゃん!!」
バシッと牌を机に叩き付けて、悟浄に反論する。
「わっっかんねーよ俺!!!あの男の言ってた事だって判んねーし判りたくもねぇよ!!『生きたい』と思って何が悪ィんだよ。そんなん当たり前じゃん!!!死ぬのが『負け』なら勝たなきゃ意味ねーよ!!」
悟空の叫びが響き渡る。
「無理して『生きてる』つもりねぇし、カッコイイとも思ってねぇしッ!?俺達は俺達のやり方があんじゃん!!ガキでバカだから判んないってんならガキでもバカでもいーよッ!でも俺間違ってるとかぜってー思わねぇかんな!!」
ただ単純な思いが響く。
「ここで負けたままじゃアイツの言った事に負けるみたいで悔しーじゃんか!!……あんなヤツにッ!アイツにだけはもうぜってー負けたくねぇ!!!だからっ…て…あーーもーー!!何言ってんだか判んなくなってきた!!」
ぜぇ、ぜぇと全てを吐き出した後、息を整える。
「……双葉、言ってたんだ。」
それはなんの時だったか忘れた。
でも本当にいつもの光景で、三蔵と悟浄が些細なことで言い合いをしだしたのを止める八戒。少し離れた所でジープとクロガネとジャレながらその様子を見ていた悟空と双葉。
『あーあ。また始まった。悟浄もキレるの分かってんだからやめときゃいいのに』
『……悟空って時折大人な時あるよね』
『ん?そうか?』
『うん。』
『へへ三人より大人?』
『そうだね。』
『そっか。じゃあ俺がなんかの時はしっかりしないとだな!』
『それは凄く頼もしいね。…でも私からしたら皆、頼もしいし凄くかっこいいよ。』
『かっこいい?』
『うん。皆かっこよくて素敵。だからその背中を追いかけたいなっていつも思ってる。』
『双葉からそう言われると嬉しいかも』
『そうなの?』
『うん!』
そう言ってくれた彼女はここにいない。
目が覚めた時、あの後の話を聞かされた。
自分たちを逃がすために一人あの場に残った事。
あの時、自分たちと同じように攻撃を受けて満身創痍だったはずなのに置いてきてしまった事。
悔しかった。腹が立った。
でももし双葉と同じ立場に自分がいれば、きっと同じ事をしていた。そして双葉の事だ。きっと負けっぱなしで終わらせたくなかったのだと分かった。
──だからこんな所で立ち止まってなど居られない。
「今のままじゃ俺らかっこわりぃままじゃん。」
冷静に話す悟空に八戒は優しく返す。
「そうですね…今の僕らに必要なのは……ツモです。」
「あ?」
突然の場違いな発言にさすがに呆気に取られた声を出す悟浄。
「『大車輪』…はもう古いですよね。メンチンタンピンリャンペーコー」
そう言って笑ってみせる。
「つまり、勝利を前提にその手段を考えるべきだって事ですよ。」
「ゲッ!いつの間に!!」
「三倍満、二万四千点です」
不意をつかれ声を上げた悟空に先程までとはうって変わって話す。
「フン…大体よォ。誰も死ぬ覚悟があるなんざ言ってねぇだろがッ」
悟浄が悪態をつくも、「あれ?さっき何か言ってませんでしたっけ?」と八戒が突込む。
「うっせーな。忘れた!!…リーチ!!」
そう言って今度は悟浄が卓を叩きつける。
「オラ来たァツモ!!リー即ツモオモテ3ウラ3親バーーイ!!!勝負はまだまだコレカラってな」
楽しそうに声をあげる。
「はいカモン二万四千点~~~」
「うわぁ何だよ!みんなして突然~~~!!」
「ま、人間開き直りが肝心って事じゃないですか?」
悟空が嘆くも八戒からそう言われてしまう。
そんな状況にクックッと低い笑い声
「三蔵?」
「オイ負けすぎて壊れちまったんじゃねーの」
二人の少し引いた声の後、笑い声はフッと消える。
「どうした、続けるぞ。次は勝つ」
揺るぎない芯の通ったの瞳は、綺麗でそんな三蔵に悟空が穏やな表情で笑う。
それからもゲームは続き
「リーチ!!」
「リーチっ」
「リーチ。」
悟浄、悟空、八戒と同時に声が部屋に響く。
「トリプルリーチですね」
「三蔵っアレ捨てて!!」
「……貴様ら甘ぇんだよ」
そう言って今度は三蔵が卓に叩きつけた──
翌朝、酒場のマスターが毛布を持って部屋へと訪れた。部屋にはそれぞれがそれぞれの寝方で眠っている。そんな彼らに毛布をかけながら卓に目を向けた。
「国士無双…アガっとるよ」
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それぞれ傷を癒しながらも戦力を付けるべく体を動かしたりとしていた。
夜、一人外で月を見上げていた八戒の背後に悟浄が近づく。
「何やってんだ?こんな所で」
「…悟浄」
振り返ると悟浄がタバコを加え隣にしゃがみ込む。
「双葉は、今何をしているんですかね…」
あの時置いて来てしまった彼女のその後は分からないまま。ただただ生きていることしか願うしかなかった。
あれから八戒の中で気づいたことがあった……
「ねぇ悟浄…」
「ああ?」
「僕ね…双葉のこと好きみたいなんです。」
「………はぁ!?」
突然のカミングアウトに黙って聞いていたが驚きの声をあげる。そんな悟浄を他所に呑気な八戒は
「ああ、好きって仲間としてとかじゃないですからね」
「…いや、何となくそうかなっとは思ってたけどよ……いつから?」
「いつから、なんでしょうか…多分最初からなんだと思います。」
「……ああ、そう…」
──そう。何となくそうかな程度では勘づいていた。
元が世話焼きな方と言うのもあるが特に双葉に対しては気にかけていた。だからそうかな程度だったのだ。
それに八戒には今は亡き大切な想い人がいたからそこまで深くは考えずにいた。
「花喃を目の前で失ってから、もう誰かをそんな風に想うことはないと思っていたんですけどね……まさか双葉がいなくなってから気が付くなんて遅いですよね。いや、気が付いていたのに気が付かないフリをしてたのかもしれません……」
この手の話は八戒にとってはとてもデリケートな話で、だからこそ双葉に最初の頃は過去の事を話せずにいたのだ。でも今八戒に言えることは
「……遅くねぇよ」
「え?」
「生きてりゃいくらでも伝えられるだろ」
「!……そう、ですね」
「そいじゃあま、お姫様をかっこよく救いに行かないとな」
「えぇ」
そう言いながら立ち上がり二人して見上げた月は大きく綺麗な満月だった。
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──────────
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またあの神殿までの階段を駆け上がる。
「……うあ、腹減ったかも」
「お前ホント燃費悪ィな。出掛けに食ったばっかじゃねぇかよ」
「あ、俺ラーメンがいい!!最近食ってなかったし」
「あはは、ひと段落ついたら何か美味しい物食べましょうね」
「……お前ら、食い物の話はやめとけ。こっちまで腹減ってくるだろうが」
あの日、逃げた道のりを再び歩む。
「チャーシュー麺か味噌コーンがいいなッ」
「いーや豚骨だろー」
「僕はシンプルに醤油がいいですねぇ。三蔵は?」
「……塩」
「あっ!双葉も醤油が良いって前言ってた!」
「いや、変化球で坦々麺とか言ってくるぞ?しかも胡麻のやつ。」
「アイツの場合、ミニサイズとか言うぞ。5歳児以下の食事量だからな。」
「どちらにしろ、小籠包は絶対に頼むでしょうね」
「ああ。んで一個食っただけで腹いっぱいとか言い出す」
「燃費良すぎだろ……」
「残りは俺食うー!!」
呑気にラーメンの話で盛り上がる一行。
「ラーメンといえば、悟浄の作る物はラーメンとは呼び難いですよ。冷蔵庫の中の物全部ブチ込んでごった煮状態ですから」
「げーーー食いたくないかも」
思い出したかのように話す八戒。
そんな話を聞かされてドン引きする悟空に、本人曰く、「いーんだよ。旨けりゃ何でも」と呟く。
「お前だって沢山具とか乗ってんの好きだろ?」
「俺はねー、チャーシューと角煮とハムと……」
「肉ばっかりじゃないですか」
好みの具材を上げる悟空だったがさすがに突っ込まずにいられなかった。しかしそれよりも突拍子のない具材が上がる。
「マヨネーズ。」
ラーメンとは合わない単語に三人が固まる。
「…入れるだろ、普通」
「…入れねーだろ、普通」
今度は悟浄が突っ込むも三蔵は至って真面目だ。
そんなやり取りを見て思い出したのか声を出す
「そー言えば三蔵、伸びたラーメン好きだよな」
「ああ、いますよね。しけった煎餅とか気の抜けた炭酸とか好きな人」
「爺くせーー」
「うるせえ。黙れ」
「そう言えば双葉、ぬれ煎餅をレンジで焼いて食べるって言ってましたね」
「それぬれ煎餅じゃなくなるんでない?」
「食感がって言ってました」
「もう普通の煎餅食えばいいのに」
そんな事をしていると霧の中から無邪気な笑顔で現れたカミサマ。
「また来たんだ?物好きだネ。お兄さん達、僕の言った事判らなかった?ちょっと難しかったのかな。でも何度やったって君達じゃあ僕にはか…」
ガウンッ
続きを言わせずに一発の銃声で幻影を撃ち抜く。
バラバラと『カミサマ』は数珠に変って消えていく
「…『黙れ』と言っただろうが」
ノールックで撃ち込まれた弾丸。
それは宣戦布告の合図。
「…取り戻す。」
悟浄が足で重い鉄扉を蹴り開ける。
中からは誰の気配も感じず、あるのは先日の壊れた壁やクレーターのみ。
「…留守だったり?」
「いや、俺達が来た事には気付いてるだろう。となると」
悟空の問いに三蔵がそう呟いた時
「イラッシャイマセ」
「!!」
「ココより先は禁煙となっておりマス。お煙草は御遠慮下さい。また、銃器類の持ち込みも認められておりません」
どこかの遊園地で流れるているような文句に、二手に別れて扉の端にかまえる。
「この奥は本館ですかね」
「お入り下さいってか?煙草も銃も駄目なら三蔵はアウトだな」
「知った事か。貴様が言うな」
その言葉が合図かのように三蔵はガンッと扉を叩き開ける。その中にあるのは
「ウエルカム!!」
一つの胴体に、ウサギとクマの頭がついた気色の悪い人形が立っていた。
「『カミサマのお城』へヨウコソ!!貴方がたハ48組目のお客様デス。当アトラクションは時間無制限となっておりマス尚、途中棄権は出来かねますのでお気を付け下サイ」
「何コイツ~~ きしょいっ」
「『カミサマ』は?」
「ここがアトラクションならゴールにいるんじゃねぇの?」
八戒の問いかけに答えていた悟浄だったが人形は『お客様』と声をかける
「お煙草は御遠慮下さい」
「ああ!?何だようっせーな」
「先程も申し上げましたが、銃器類も………あ」
再度注意を繰り返す人形は何かに気付いた様に声を上げると悟空、八戒に向き直す。
「それから、お子様とペットの御同伴も禁じられております」
「おや、それは困りましたね」
「なッてめぇ今、俺の事お子様呼ばわりしやがったな!?」
呑気に返す八戒とは対照的に、悟空は人形の胸倉を掴み激しくガクガクと揺らす。
「お、お止めくださいお客様ッどうしても規則を守って頂けない場合…」
人形がそう呟いた途端、天井から……
「この様な事が起こりますので」
「どわ!!?」
降ってきたのは棒状のコンクリートの柱のような物
「何だァこりゃあ!?」
「ちょっ……!!うぉあ!?」
「三蔵、悟浄!!とりあえず煙草と銃捨てろよ!!」
「ざっけんなよ!何でこんな奴の言う事聞かなきゃ……だッ!!?」
次々と降って来る柱を避けながら走り続ける。
「また随分な歓迎ですよ」
「チッふざけやがって…!おい上だ!!」
先頭を走っていた三蔵が隠れていた小さな階段を見つけ、そこへ崩れ込むように飛び込んだ。
ひとまずのチェックポイントの様で1回息を整える。まさに危機一髪だ
薄暗い階段を再びただ全速力で駆け抜ける。
「最上階でお待ちなんでしょうかね?」
「フン、バカと煙は高い所が好きだからな」
「くっそ!意地でも煙草吸い続けてやる」
それから何気なく壁に目をやる八戒。
『↑2F/13F』
と表記されたその表示を眺めていた。
それから色々なトラップを掻い潜りなんとこさ最上に着いたものの、そこにカミサマはおらず居たのはあの気色の悪い人形のみ。
そこで半ギレな悟空がカミサマの居所を詰めた所、一行の立っていた床がガコンと音を立てて開くと同時に「1階でございます」と告げられ高い場所から下へと落とされた。
「うわぁぁぁああ!!?」
勢いよくほぼ真っ逆さまに落とされ、底は見えない真っ暗闇。
「誰だよ!上だって言ったヤツっ!?」
「底が針山じゃない事を祈ってくださいねッ」
「ッ如意棒ォ!!!」
悟空の叫びに如意棒が現れ壁に突っ返させるも止まることを知らず、落下の速度を少し落とすだけ。
「……って止まんねぇよオイ!」
「ぎゃーッ!!」
「底……ぶつかりますよ!!」
見えてきた光に逆らうことも出来ず自由落下で投げ出される。それから衝撃とともに全身に打ち身のような痛みが走る。
「…生きてます?」
「てて…腰打ったァ」
「………~~~ッ」
ガラガラと音を立てるそれらをかけ分けながら起き上がる。
「…な、何だこりゃ……!!?」
驚嘆の声をあげる。それもそのはず自分たちが落とされた場所に目を向けると、そこに広がるのはまるで子どもの玩具箱。
大きなクマのぬいぐるみ、ミニカー、サイコロに鍵盤ハーモニカ。足の踏み場もないと言うよりもそれらがもう床と化している。
──あははははは!
楽しそうな笑い声が響いて見上げて見れば教会にあるような大きなステンドグラスを背にして現れた『カミサマ』。高い場所から不遜にこちらを見下ろしてくる。
「すごいすごい!!こんな速さでここに辿りついた人達、初めてだよ!てゆーかこの『オモチャ箱』に来たお客さんは初めてかな」
「…逢いたかったぜェ“カミサマ”」
「ホント?嬉しいなあ」
悟浄の挑発した所であいも変わらず、カミサマはくすくすと微笑んでいる。
『三蔵一行』とカミサマの喧嘩のやり直し。
いや喧嘩の売り直しの開始だ。
「…遊んでやろうじゃねぇか。思う存分なァ!!」
玩具を蹴り飛ばし悟浄の台詞を合図にカミサマ目掛けて突っ込んでいく彼を援護するように、三蔵が発砲。
「それじゃ前と変わんないよ?」
彼らに“もう負け”の字はない。
悟浄や三蔵の攻撃をヒラリと避けるカミサマ。
三蔵の背後へと回り込んでいたカミサマ目掛けて悟空の如意棒が叩き割る勢いで振り下ろせば、さすがにカミサマの表情に焦りが見えた寸前で空を切る。
しかし回避直後に悟浄の蹴りが再び襲いかかった。
「わッこの…!!」
あまりにも綺麗な攻撃な流れに悟浄の蹴りをギリギリでかわすも、その後ろに控えていた八戒には気付かなかった様でそのまま気功を受ける。
「!! なッ…何で…ッ!?」
今までの余裕がいとも簡単に崩れ、動揺する『カミサマ』の前に立つ八戒。
「ちょっかいを出して近づく。怖くなると逃げる。癇癪おこして暴れる。子供の行動パターンを読むのは造作もない事です。現役保父さんをあなどらないで下さいね?」
ニコリと笑う八戒。台詞は挑発全開。
「…くっ…そぉお!!死んじゃえ!!」
お得意の数珠が八戒の首を絞めるものの、
ガウンッ!
その数珠さえも三蔵の銃でを断ち切られる。
気が付けば『カミサマ』を囲んで立つ四人。
「……何だよ。その眼、弱いくせに…弱いくせにッ!!」
「!!」
癇癪を起こした子どものように周りに当たり散らしても、彼らはもう倒れることを知らない。
「ごちゃごちゃうるせぇなッ!まだ負けてねぇ…もう負けねぇ!!」
振りかざした如意棒によって数珠は引きちぎられる。
「くっ……そぉおォ!!しつこいなぁッ!!」
どんなに攻撃した所で何度も何度もたちが上がる。
「~~~もうつまんないよこんなの!!さっさと降参しちゃえよっ!!?」
「…やっぱりウマが合わねぇな。貴様にとっては生き死に事態がゲーム感覚のつもりなんだろうが」
ふらり。血に塗れた三蔵がゆっくりと起き上がる。
そんな彼に続くように悟空が、悟浄が、八戒が起き上がる。無様に倒れても何度でも。
「生憎俺達がやってんのは『賭け事』でな…。賭けてる物は──命じゃねぇんだ」
「っ!いい加減にしなよもーー!!しつこいと女の子に嫌われるって、先生が言ってたぞ!!……あっそうか。」
「あ?」
癇癪を起こしたかと思えば、何かを思い出したかのように再びニヤリと笑みを浮かべ出す。
「女の子で思い出した。君たちに良いものを見せてあげる。──おいで、僕の可愛いお人形さん。」
「は?ッ!!」
1歩踏み込んだ悟浄の頬に向かって一線、何かが飛んで来た。足元に目を向ければ見慣れたクナイが刺さっていた。カミサマの隣にゆっくりと現れた人物に4人は息を飲んだ。
「紹介するね。僕の可愛いお人形さん。あの日君たちが置いていった女の子だよ。」
そこに立っている一人の少女は見知った綺麗なエメラルドグリーンは光を浴びない深い闇を帯びた瞳へと変わり見たこともない黒のドレスに身を包み、まるで精巧なビスクドールのようだった。
「嘘だろ おい…」
「双葉ッ!!!」
虚ろな表情でこちらを見つめる双葉。
あの日から安否が分からず、無事を祈っていたはずがこんな再会を果たすなど誰が想像していただろうか…
「君たちに置いていかれたのにさ、必死になって1人で僕に立ち向かってくるの。だんだん僕も飽きてきちゃって最後に手足を動かなくしてあげたんだけど、泣き叫ばずに我慢してるあの表情がとても良くてね。気に入っちゃって僕の新しい玩具にしたんだ」
無抵抗な双葉の頬を触りながら吐かれる台詞は胸糞悪いもので、腸が煮えくり返る思いだった。
「てめぇ!!」
「おっとやめた方がいいよ。僕に何かしようとすると…その子が襲って来ちゃうよ?そうするように教えてあげたんだぁ」
気がつくと四人の周りには双葉の武器である暗器が複数囲んでいた。少しでも動けば先程の悟浄のように攻撃されることは目に見えて分かる。
動けずにいる一行に対して楽しそうにニッコリと笑みを浮かべ形勢逆転と言わんがらりに優位な立場に立つカミサマ。
「この子異世界から来たんだって?面白そうだったから記憶見せてもらったんだぁ。…ねぇ君たち知ってる?彼女可哀想な子なんだよ。子どもの頃に目の前で父親が自殺しちゃうし、数ヶ月前には育ての人が事故で死んじゃうしさ」
「は…?父親…?」
「なんだよ、それ…」
今まで彼女から聞かされた事のなかった過去の話。
異世界から一人飛ばされた少女に対して、育った向こうでの話をあまり聞こうとしてこなかった。
自ら話をしようとしないのに思い出させるような事は酷だと思った彼らなりの優しさだったからだ。
しかしそんな思いすら踏みにじるかのように嘲笑う。
「あれやっぱり知らなかったの?5歳の頃に父親が目の前でわざと首に刃物を立てて自殺したんだよ?父親の血を浴びても全く表情1つ変えずに感情も何も無くその亡骸を長い間眺めてた。それに育ての親が死んだ時だって泣かなかった。信じられる?気持ち悪いよね!」
「…」
つらつら話される双葉の過去。
きっとこんな風に知られる事は望んでなどいなかった。いや、話す事などこの先なかったであろう事をこの男は軽薄に告げてくる。
「今だってそう。平和な世界で暮らしてたくせに、毎日毎日妖怪に襲われて殺してても血に染ってもなんとも思ってない。この子に感情なんて「おい。」」
「その減らず口を閉じやがれ。たかがこいつの記憶覗いたぐらいで知った気になってんじゃねぇよ。」
「双葉は泣かなかったんじゃねッ!泣けなかったんだ!!泣き方を知らないから、そうやって今まで生きてたから!!!」
「…感情がないわけねぇだろ。表情が動かなくたってこんなに分かりやすくてそんで喜怒哀楽が誰よりもあんだよ」
「血に染っても何も思ってないわけじゃありません。血に染まっても洗い流せることを知ったから、今も前を向いて僕たちと進んでるんです。…何も知らないあなたが双葉のことを知ったような口で話さないで頂けますか?」
「…ッ」
「──それに『本人から聞いた話以外信じない』ので」
自分が思ったように行かない状況に笑みは再び崩れるカミサマを他所に、彼らの声が聞こえたのか虚ろな表情のまま一粒の涙が流れた。
「ッ!!!あーもーーー!!!こんな奴ら殺しちゃえ!!!」
カミサマの命令に双葉はふらっと動き出す。
そんな双葉を見ても彼らは構えない。
振りかざされたクナイの軌道は四人に向かってではなく隣に立つカミサマへと向かう。
「ッ!!?」
「ひ、との過去を、…ぺらぺら、と……クソ野郎」
「双葉!!!」
無理やり催眠術を解いたせいで、ふらつく双葉を慌てて支える八戒。
「あり、がと八戒」
「いいえ。おかえりなさい双葉」
「!!…ただい、ま」
サッと双葉の傷を見たところあの日受けた傷は綺麗さっぱり治っているようで、カミサマがそうしたのだとすぐに分かった。
「――『うこく』……だったな」
三蔵の呟きに驚愕に目を見開くカミサマを無視してそのまま続ける。
「ようやく思い出せたぜ。ムカつく事は忘れる性分なんで随分手間取ったがな」
10年前もこんな風に遊び相手を探してただろう。そう語られる紐解かれる真実。
――烏哭三蔵法師
額に印チャクラを持たない異端の三蔵法師。
天地開元経文『無天』の所有者。
ざっくりとはこちらの世界に来る前、観音菩薩から聞かされた話に出てきた。
「じゃあこの男も本物の『三蔵』だってのか!?」
「そうだよ。僕の先生はすごい人なんだ。何でもできるし、何でも知ってる。このお城を造ったのも先生なんだもん。先生は僕に全部託して三蔵の任を降りた。だから僕は本物の三蔵法師だ」
そう自慢げに話す『カミサマ』。だがそんな彼に向かって三蔵は「それはどうだろうな」と呟いた。
「確かに貴様の師匠は三蔵だったかもしれん…だが、貴様が本当にそれを継いだとしたなら……経文はどうした?」
「っ!!」
そう。今『カミサマ』が肩にかけている経文は
「わざわざ俺の物を奪い身につけているのは、三蔵法師の証である経文を貴様が所有していない証拠だ」
玄奘三蔵の『魔天経文』だ──
「~~~うるさ「三蔵としての法名も持たないから名乗れないんじゃないのか?」
「うるさいなぁっ」
「貴様は師から法衣も法力も城も譲り受けたが『三蔵』だけは与えられなかった「うるさぁあい!!」
三蔵の言葉を必死に否定するように叫んだ瞬間。
「!!? な…ッ」
「うわっ ちょ…!!?何だよコレ!!?」
五人の体に人形が絡み付く。
「あはは 僕のオモチャの兵隊だよ。普通のオモチャじゃないんだ。その子達が何でできてるか判る?魂を物質に変えた物なんだ 媒体は君達が壊しちゃったけどね」
「まさか…じゃあこれは全部…」
「……てめぇ、こんなモンの為に…!!」
そんな光景に楽しそうに笑う『カミサマ』に攻撃しようにも人形たちが阻んでくる。
「ば…クソッ!!」
「うわ!」
玩具や人形たちに足元を取られた悟空が座り込む。
「悟空ッ!!」
『カミサマ』はもう悟空の前にいてそのまま蹴り飛ばす。
「がはッ」
「ねぇ?すごいでしょ先生は。こんな事まで僕に残してくれたんだ。全ての生命は神様の玩具なんだって」
どこまでも命を軽く見ているカミサマに双葉は産まれて初めて堪忍袋の緒が切れる。
「ふざけんなッ!!!命は玩具なんかじゃない!!!お前なんか、神様にも三蔵法師にもなれないただの中途半端でちっぽけなクソ野郎だ!!!」
近くに居た三蔵がオン マ ニ ハツ メイ ウンと唱え終わると同時にカミサマの肩に掛けられていた経文が光り出す。
「ッ!!魔戒天浄!!!」
三蔵がそう叫ぶと、人形達は吹き飛ばされ『カミサマ』が驚いて後ずさった。
「そんな…!!」
「玩具が何だって?クソが。てめぇにくれてやるモンなんざねぇんだよ。何ひとつな」
三蔵の手元には魔天経文が戻る。
「…返せよッ返せぇえ!!」
叫び攻撃しようとするカミサマの腕を悟浄が掴む。
それを拒むように数珠が胸に埋る。
「長ぇ『鬼ごっこ』だったな。つかまえたぜ」
渾身の一撃が、カミサマの腹にぶち込まれる。相打ちのように繰り出された数珠により悟浄は倒れたが、その背後からクナイと千針を手に持つ双葉と如意棒を構えた悟空が飛び出す。
「くッ…来るなぁ!!」
もう『カミサマ』の攻撃になど物ともせず、如意棒はしなるように曲がり、男の体を容赦なく壁へ叩きつけ、その隙をクナイと千針が襲いかかる。
全てを出し切った悟空と双葉はバタリと倒れ込む。
「よくも…よくもっっ!殺してやる!!殺してやるから!!!」
「どうぞ御自由に?」
叫んで振り返った目の前には気功を発動しようとしている八戒。『カミサマ』は咄嗟に反撃に転じる。
攻撃が放たれるその刹那……
バッと気功を解除し、何かを庇う様に両手を広げた。
「ッ!!」
『カミサマ』の攻撃がもろに入っても八戒はその場に立ち続けていた。
「何で!?何で今バリアも張らずに攻撃やめたの!?」
「…良いんです。“もう済みましたから”」
「え?」
動揺を見せた後、その言葉に初めて己の身に何が起きたのかを理解した。自身の身に纏う白い法衣の胸元は撃ち抜いた複数の弾丸によって赤に染まる。その現実を「信じられない」と震え出す。
胸に空いた穴に掌を這わせながら、血を吐き出す。
「仲間を盾に……?」と呟いて。
倒れる八戒の後ろから現れた三蔵の姿を凝視する。
「あ、う、あ……あ、あぁああぁあ!!!」
絶命の声が響き渡る。
「……な、……何……で」
喘鳴混じりの声で問いかける。
血溜まりで伏せる男は憎らしげに三蔵を見上げる。
三蔵は静かに呟く。
「……『無一物』――という言葉がある。師が俺に残した言葉だ」
『カミサマ』も知っているその言葉。
しかしそれは決して同じであって同じものではない。
「何物にも捕らわれず縛られずに生きろ、と。……だが全てを捨てて生きる事が正しいのか、俺は俺なりの解釈でここまできたつもりだったが……むしろ、俺が何よりも捕らわれていたのは、『無一物』という言葉そのものだったんだ」
シリンダーから空薬莢を捨て五発の弾丸を装填する。
「迷いはない。俺には俺の生き方が――玄奘三蔵の称 となえる『無一物』がある」
ガチャとリロードした銃を手に己が信じた道を進む。他の誰でもない、それが玄奘三蔵と言う人物なのだ。
「……わかんない。わかんないよ、そんなの。俺にはなんにもないのにッ君は色んな物持ってるじゃんか……あんなに沢山。ズルいよそんなの…ねぇ俺に頂戴?」
その懇願に、フッと笑い穏やかな声で答える。
「やらねぇよ」
「……ケチ。」
――パラ。
喧嘩の決着が着いた直後、天井から砂埃が落ちてくる。そしてその後城全体が大きく揺れ出す。
「な……何だ!?」
「…地震?」
大きな音を唸られる城。
何とか立ち上がった彼らに血溜まりに伏せた男が告げる。
「違うよ。全部壊れて消えちゃうんだ。……ゲームはもう、終わったんだから」
「ゲーム…?」
「先生と僕との約束 俺が負けるまでのゲームなんだ 先生の遊んでるゲームなんだ」
彼もまた誰かの玩具に過ぎなかったのだ。
「何だよソレッ……おかしーだろそんなの!!」
「早く逃げないとお城ごとペシャンコだよ?」
こんな時でさえ笑うカミサマ。そんな彼のその手を、悟浄がグッとつかんだ。
「――何、勝手な事抜かしてんだよッ!!」
「!? 何でッ……」
「何でじゃねぇっ!てめぇそれじゃあ金閣銀閣と何も変わんねぇだろが!!振り回されたこっちはいい迷惑なんだよッ!行くぞオラ!!」
かけられた言葉にその瞳が大きく揺れる。
しかし悟浄を突き飛ばす。
「お前…っ」
「ごめん、いいんだよ。俺、ここで待ってるんだ」
「え?」
「悟浄!天井が!!」
崩れた落ちてきた天井が『カミサマ』と悟浄を引き離す。
「っぶねぇ!」
「おい行くぞ!時間がない」
振り返る悟浄に
「……優しーじゃん」
「ケッ 言ってろよ」
カミサマを背を向け崩れる城から脱出するため走り出す。双葉もドレスの裾を太もも辺りまで破り駆け出す。
ガラガラとどんどん原型を止めれなくなってきた城は行く道すらも阻んでくる。それらをひたすらに回避しながら走り続ける。
「頭上に気をつけて下さい!」
「おいっ出口って本当にこっちでいいのか!?」
「どっちにしろ走るしかない!!」
「つったってこっちしか道ねーじゃん!」
「ここは1階みたいですから 階段の昇り降りはないと思いますけど……ッ!!」
皆が全速力で走る中、傷が傷んだのか八戒がフラつく
「八戒!!」
「おい平気か八戒!?」
「えぇ…すみません」
倒れる寸前で悟浄と双葉に支えられ何とか持ち直す。
「三蔵!!ここカギかかってて開かねぇよ!?」
「どけ!!」
南京錠を銃で壊し扉を開けるも目の前を瓦礫の山と崩れる障害物だらけ
「うっわ」
「走り抜けるぞ!!」
「八戒、大丈夫?」
「えぇ…なんとか」
「だーックソォ!!」
「チッ出口はすぐそこだってぇのに…!」
落ちてくる瓦礫を叩き壊す悟空を先頭に走っている最中、悟浄と八戒、双葉の上に大きな瓦礫が落ちてくる
「!!」
ガウンッ!!ガウン!!
「さっさと走れ!!」
落ちてきていた瓦礫を三蔵が銃で綺麗に撃ち砕く。
「いやん、三蔵サマ優しーーっ♡」
「三蔵、すごい!」
「悟浄。ここを出たら真っ先に殺してやる」
いつもの調子な悟浄に三蔵はそう言うと先を急ぐ。
そして見えてきた出口付近で「伏せて!!!」と言う八戒の声とともに木っ端微塵に吹き飛んだ城。
凄まじい爆風を肌で感じながら、崩れた城を見届けて五人は倒れ込む。
「あーー…終わりましたねぇ…ひとまず」
「……だな。」
やっと終わった戦いに気が抜けて力が出ない。
「…生きてっか?」
「ええまあ、何とか」
「……生きてる…」
「いでででで…あーー気ィ抜けたら急に痛みが来やがった」
「なぁなぁ八戒さっきマジで三蔵に撃たれたの?」
「撃ってねぇよ。ちゃんと脇から狙ったからな」
「あはは でも二発ほど掠りましたよ。実は」
「当たってたんだ…」
仰向けに寝転がればあの霧に覆われていたのが嘘かのように綺麗な澄み切った大空。
「…でもさアイツ結局、何者だったんだろ」
「…さぁな。興味ねぇよ」
「いいんじゃないですか?『カミサマ』って事で」
悟空の疑問に八戒が答えて、
「…だな。」
「…そうだね」
「ま、いっか」
「ですよね」
「……」
個々それぞれに納得して、溜め息を吐く。
「あ~~何かもォ……」
悟空がいつもの言葉を言おうと身体を起した…が、
「は…「「「「腹減った。」」」」
いつもの台詞を吐こうとした瞬間、見事に四人に先を越された。
「~~~なッ…」
「さて、行きますか」
「ちょっ…オイッ!!」
「フン」
「オイってば」
「行きまショ行きまショ」
「~~~俺のセリフ取んなよッ!!」
皆起き上がり先に進む。
やっぱり皆、かっこよくて頼もしくてその背中をいつまでも追いかけていたい。改めてそう思えた。
だから──
「みんな」
双葉の声に4人は振り返ったものの驚きの顔を見せる。
「ありがとう」
ずっと無表情だったはずの少女が初めて綺麗に笑って見せていたのだ。
「!!」
「双葉…!」
「ふ、双葉ちゃん 今…」
「わ、わ、笑ったぁぁぁあ!!!!」
この日初めて見せた笑顔は一行にとって忘れることのない日なるのだった。
────────────────
──────────
────
「……どうした。乗れ」
綺麗な日暮れの空の下、ジープの運転席に座ったのは三蔵。そんな滅多に見れない光景に固まらない訳もなく思考回路が一時止まっていた。
「うっわ、どーしたの三蔵様?どーゆー風のフキマワシ!?」
「うるせぇよ。てめーらみたいな死にぞこないどもに運転されちゃかなわんからな」
これはぶっきらぼうな彼なりの優しさなのだろう。
「じゃあお言葉に甘えまして」
「えっと…お邪魔します」
「早く行かねーと夜んなっちまうしな」
「安全運転でお願いシマス。」
「地図いります?」
「いらん。進む方角はひとつだからな」
八戒は助席へ後の三人はいつもの定位置に乗り込む。
「ただでさえ死にそーなのに腹減っててかなりピーンチ」
「じゃあ賭けましょうか?」
「次の街までに死んだ奴が負けってか?」
「罰ゲームはどうするんだ」
「全裸にむいて大通りに転がします」
「乳首にニップレスつけてな」
「死ねねぇ~!!」
「じゃあ死なないようにしないとだね」
4人の話に何故か気合いを入れている双葉に悟浄が声をかける。
「いや なーんで双葉ちゃんまで全裸転がしされるつもりでいんの」
「えっ?違うの?」
「双葉は女の子なんですから他のことをさせます」
「大盛りラーメン食べさせるとか?」
「あぁそれがいいかもな。」
「ぐっ…それはやだ…ミニがいい、子ども用がいい」
「それ罰ゲームになってねーじゃん!!」
「双葉の場合そっちの方が死活問題なんだろ」
「うん。」
「……おい、アクセルはこれか?」
急にガクンと振動があってアクセルベタ踏み猛発進。踏んだ石で車体が跳ね上がる。
「え…うおあ!!?」
「ちょ…ちょっとタンマぁ!!うわッ」
「さ、三蔵ッ!?貴方免許は…」
「さぁな。」
「死ぬって!」
「あはは!!すごいすごい〜!!」
「何かめっちゃ双葉のテンション高んだけど!!?」
危険な運転で笑い声や叫び声を乗せて西に走りだす。
❉あとがき❉
次回、カミサマ篇のエピローグとなります。
今はストックを貯めるべく、ヘイゼル篇の執筆を開始しました。
今回のカミサマ篇のイメージソングはLiSAさんの『oath sign』とAimerさんの『六等星の夜』です。
どうぞ引き続きよろしくお願いします。
「…悟浄、少し休んだらどうです?昨夜から寝てないでしょう」
「冗談。目ェ覚ます度に這いずり回るゾンビ野郎がいたんじゃオチオチ寝てもいらんねーよ」
ゾンビ野郎とは四日ぶりに目が覚めたかと思えば暴れ出す三蔵。あれから意識が戻ればどこかへの向かおうとするのを止めてはベッドに戻しを繰り返している。
まだ皆傷は癒え切っていないままだった。
「しかし…どーなんのかね。これから」
「そうですね…まぁ本来なら、あの『カミサマ』という男を無視してこのまま西へ進むという手もあるんですけど…経文を取られた以上そうはいかないでしょうね。何より双葉の事もあります。」
「…俺だってこのまま逃げて終わり、ましてや双葉ちゃんをあのまま置いて行くなんてゴメンだしな」
「僕だって同じですよ。できれば八つ裂きにして死体を犬にでも喰わせたい処です。でも現実問題、あの男の力を考えたならば……僕らは勝てません」
八戒から吐き出された言葉。
勝てない。それでも……
「…でも、行くんだろ?“俺達は”」
「ま、そーでしょーねぇ」
「あーあ。パッと潔く散りますかぁ」
冗談めかして本気とも取れる悟浄の言葉に反応したのは寝かされていたはずの三蔵だった。
「……勝手な事抜かしてんじゃねぇよ。俺の問題だ。てめぇらにゃ関係ねえ」
ギシリとベッドが軋む音と共に三蔵がゆっくりと起き上がった。
「勝手抜かしてるのはどっちですか。三蔵」
「ここまで来たら誰の問題もクソもねぇだろうが…って聞けよこのバカ!!」
治りきっていない傷を押さえながら、立ち上がる三蔵の腕を掴み悟浄が怒鳴るも
「うるせえ退け、殺すぞ!!」
その一言に……
「じゃあ殺せよッ!!」
「悟浄ッ」
キレて三蔵を殴り倒す悟浄を止めに入る八戒。
「っせえ!!気絶でもさせときゃいいんだ。こんなクソ坊主。頭イカレちまってて使い物にもなりゃしねぇ!!」
そう言い放つ悟浄の腹を、起き上がった三蔵が殴る。
「もう一度、言ってみろ」
「ああ。何度だって言ってやるよ。てめぇみてぇな腰抜け坊主に誰が殺されるかってんだ!」
売り言葉に買い言葉で取っ組み合い殴り合う。
そんな二人を止めようと、八戒が声をあげた。
「三蔵!!自分の身体を少しは考えなさい!三蔵」
「呼ぶな!!」
「三…「その名を呼ぶなァ!!!」
バンッ!!
叩きつけるように物凄い音。
一瞬にして部屋は静寂に包まれた。
「悟空、お前…今まで何やって…ッ」
悟浄からの質問に答えず、立てかけてある卓を設置し、抱えていた物一式を置く。
「麻雀やろ。」
ハッキリとそう話す悟空に当然、その場の空気が一変した。驚きというよりも呆れに近い反応だろう。
「何言ってんだコイツ」と今にも言いそうな雰囲気。冷え切った空気すら感じる。
「~~~はぁあ!?お前何言って…「いいでしょう。ここ失礼しますよ」
「八戒!?」
抗議の声をあげる悟浄だったが意図を汲み取った様に、八戒がそう言って卓についた。
「ホラ、悟浄も」
「なッバカかぁ!?何悠長な事言ってんだよ!!何で今そんな……ッ!」
反論しかけた悟浄だったが有無を言わさない真剣な瞳に威圧されて、舌打ちと共に仕方なく座る。
「三蔵」
「…ふざけるな。しかもドア塞いでんじゃねぇよ。どけろ」
応じようとしない三蔵に、八戒はクスリと挑発してみせる。
「おや、無理が祟ってここまで来れませんか?」
「ッ貴様…!!」
「てめぇも道連れだ」
「ッ!!」
三蔵の頭を悟浄が鷲掴み強制的に座られた。
「ばッ…放せ!!」
「はい開始ー」
三蔵の異論など無視しゲームが開始される──
朝から悟空により強制開催された麻雀大会は空が赤く染まり出した頃も続いていた。
半チャン10回連続悟空がトップと悟浄が呟くほど勝ち越していた。
しかも三蔵の捨て駒ばかりで上がって見せるため三蔵は不機嫌さに拍車がかかり、八戒も機嫌がいいとは言えない。むしろ不機嫌である。
悟浄も吸い殻の数は溜まっている。
日が暮れても続くゲームの勝ち越しは未だ悟空のまま
「ツモ!!」
「チャンタサンショクマンガン~~!?おめー、一体どんな手使ってんだよ!?」
我慢の限界に達した悟浄が声をあげる。
しかし、キッパリとはっきりと告げた。
「別に俺が強いんじゃないよ。みんながいつもより弱いんだ」
真っ直ぐな瞳で彼らを見据える。
「負ける顔でいる奴らに勝つのなんて簡単だもん。……俺もう、負けるつもりないから」
そう言いのけた悟空からは強い意志を感じる。
「エラソーな事抜かしてんじゃねぇよ!!お前だってあの男の強さ、身体で判ってんだろ!?勝てる勝てると思ってるだけじゃどーにもなんねえ事だってあんだろが!!」
悟浄の中で我慢していたものが爆発した。
カミサマを倒すためにわざわざ一人で向かったのに、最後は一人の少女を置いて自分たちはおちおちと傷の手当てをしている。
自分が最初の元凶なはずなのに……
「──勝たなきゃ意味ねーじゃん!!」
バシッと牌を机に叩き付けて、悟浄に反論する。
「わっっかんねーよ俺!!!あの男の言ってた事だって判んねーし判りたくもねぇよ!!『生きたい』と思って何が悪ィんだよ。そんなん当たり前じゃん!!!死ぬのが『負け』なら勝たなきゃ意味ねーよ!!」
悟空の叫びが響き渡る。
「無理して『生きてる』つもりねぇし、カッコイイとも思ってねぇしッ!?俺達は俺達のやり方があんじゃん!!ガキでバカだから判んないってんならガキでもバカでもいーよッ!でも俺間違ってるとかぜってー思わねぇかんな!!」
ただ単純な思いが響く。
「ここで負けたままじゃアイツの言った事に負けるみたいで悔しーじゃんか!!……あんなヤツにッ!アイツにだけはもうぜってー負けたくねぇ!!!だからっ…て…あーーもーー!!何言ってんだか判んなくなってきた!!」
ぜぇ、ぜぇと全てを吐き出した後、息を整える。
「……双葉、言ってたんだ。」
それはなんの時だったか忘れた。
でも本当にいつもの光景で、三蔵と悟浄が些細なことで言い合いをしだしたのを止める八戒。少し離れた所でジープとクロガネとジャレながらその様子を見ていた悟空と双葉。
『あーあ。また始まった。悟浄もキレるの分かってんだからやめときゃいいのに』
『……悟空って時折大人な時あるよね』
『ん?そうか?』
『うん。』
『へへ三人より大人?』
『そうだね。』
『そっか。じゃあ俺がなんかの時はしっかりしないとだな!』
『それは凄く頼もしいね。…でも私からしたら皆、頼もしいし凄くかっこいいよ。』
『かっこいい?』
『うん。皆かっこよくて素敵。だからその背中を追いかけたいなっていつも思ってる。』
『双葉からそう言われると嬉しいかも』
『そうなの?』
『うん!』
そう言ってくれた彼女はここにいない。
目が覚めた時、あの後の話を聞かされた。
自分たちを逃がすために一人あの場に残った事。
あの時、自分たちと同じように攻撃を受けて満身創痍だったはずなのに置いてきてしまった事。
悔しかった。腹が立った。
でももし双葉と同じ立場に自分がいれば、きっと同じ事をしていた。そして双葉の事だ。きっと負けっぱなしで終わらせたくなかったのだと分かった。
──だからこんな所で立ち止まってなど居られない。
「今のままじゃ俺らかっこわりぃままじゃん。」
冷静に話す悟空に八戒は優しく返す。
「そうですね…今の僕らに必要なのは……ツモです。」
「あ?」
突然の場違いな発言にさすがに呆気に取られた声を出す悟浄。
「『大車輪』…はもう古いですよね。メンチンタンピンリャンペーコー」
そう言って笑ってみせる。
「つまり、勝利を前提にその手段を考えるべきだって事ですよ。」
「ゲッ!いつの間に!!」
「三倍満、二万四千点です」
不意をつかれ声を上げた悟空に先程までとはうって変わって話す。
「フン…大体よォ。誰も死ぬ覚悟があるなんざ言ってねぇだろがッ」
悟浄が悪態をつくも、「あれ?さっき何か言ってませんでしたっけ?」と八戒が突込む。
「うっせーな。忘れた!!…リーチ!!」
そう言って今度は悟浄が卓を叩きつける。
「オラ来たァツモ!!リー即ツモオモテ3ウラ3親バーーイ!!!勝負はまだまだコレカラってな」
楽しそうに声をあげる。
「はいカモン二万四千点~~~」
「うわぁ何だよ!みんなして突然~~~!!」
「ま、人間開き直りが肝心って事じゃないですか?」
悟空が嘆くも八戒からそう言われてしまう。
そんな状況にクックッと低い笑い声
「三蔵?」
「オイ負けすぎて壊れちまったんじゃねーの」
二人の少し引いた声の後、笑い声はフッと消える。
「どうした、続けるぞ。次は勝つ」
揺るぎない芯の通ったの瞳は、綺麗でそんな三蔵に悟空が穏やな表情で笑う。
それからもゲームは続き
「リーチ!!」
「リーチっ」
「リーチ。」
悟浄、悟空、八戒と同時に声が部屋に響く。
「トリプルリーチですね」
「三蔵っアレ捨てて!!」
「……貴様ら甘ぇんだよ」
そう言って今度は三蔵が卓に叩きつけた──
翌朝、酒場のマスターが毛布を持って部屋へと訪れた。部屋にはそれぞれがそれぞれの寝方で眠っている。そんな彼らに毛布をかけながら卓に目を向けた。
「国士無双…アガっとるよ」
────────────────────────
それぞれ傷を癒しながらも戦力を付けるべく体を動かしたりとしていた。
夜、一人外で月を見上げていた八戒の背後に悟浄が近づく。
「何やってんだ?こんな所で」
「…悟浄」
振り返ると悟浄がタバコを加え隣にしゃがみ込む。
「双葉は、今何をしているんですかね…」
あの時置いて来てしまった彼女のその後は分からないまま。ただただ生きていることしか願うしかなかった。
あれから八戒の中で気づいたことがあった……
「ねぇ悟浄…」
「ああ?」
「僕ね…双葉のこと好きみたいなんです。」
「………はぁ!?」
突然のカミングアウトに黙って聞いていたが驚きの声をあげる。そんな悟浄を他所に呑気な八戒は
「ああ、好きって仲間としてとかじゃないですからね」
「…いや、何となくそうかなっとは思ってたけどよ……いつから?」
「いつから、なんでしょうか…多分最初からなんだと思います。」
「……ああ、そう…」
──そう。何となくそうかな程度では勘づいていた。
元が世話焼きな方と言うのもあるが特に双葉に対しては気にかけていた。だからそうかな程度だったのだ。
それに八戒には今は亡き大切な想い人がいたからそこまで深くは考えずにいた。
「花喃を目の前で失ってから、もう誰かをそんな風に想うことはないと思っていたんですけどね……まさか双葉がいなくなってから気が付くなんて遅いですよね。いや、気が付いていたのに気が付かないフリをしてたのかもしれません……」
この手の話は八戒にとってはとてもデリケートな話で、だからこそ双葉に最初の頃は過去の事を話せずにいたのだ。でも今八戒に言えることは
「……遅くねぇよ」
「え?」
「生きてりゃいくらでも伝えられるだろ」
「!……そう、ですね」
「そいじゃあま、お姫様をかっこよく救いに行かないとな」
「えぇ」
そう言いながら立ち上がり二人して見上げた月は大きく綺麗な満月だった。
────────────────
──────────
────
またあの神殿までの階段を駆け上がる。
「……うあ、腹減ったかも」
「お前ホント燃費悪ィな。出掛けに食ったばっかじゃねぇかよ」
「あ、俺ラーメンがいい!!最近食ってなかったし」
「あはは、ひと段落ついたら何か美味しい物食べましょうね」
「……お前ら、食い物の話はやめとけ。こっちまで腹減ってくるだろうが」
あの日、逃げた道のりを再び歩む。
「チャーシュー麺か味噌コーンがいいなッ」
「いーや豚骨だろー」
「僕はシンプルに醤油がいいですねぇ。三蔵は?」
「……塩」
「あっ!双葉も醤油が良いって前言ってた!」
「いや、変化球で坦々麺とか言ってくるぞ?しかも胡麻のやつ。」
「アイツの場合、ミニサイズとか言うぞ。5歳児以下の食事量だからな。」
「どちらにしろ、小籠包は絶対に頼むでしょうね」
「ああ。んで一個食っただけで腹いっぱいとか言い出す」
「燃費良すぎだろ……」
「残りは俺食うー!!」
呑気にラーメンの話で盛り上がる一行。
「ラーメンといえば、悟浄の作る物はラーメンとは呼び難いですよ。冷蔵庫の中の物全部ブチ込んでごった煮状態ですから」
「げーーー食いたくないかも」
思い出したかのように話す八戒。
そんな話を聞かされてドン引きする悟空に、本人曰く、「いーんだよ。旨けりゃ何でも」と呟く。
「お前だって沢山具とか乗ってんの好きだろ?」
「俺はねー、チャーシューと角煮とハムと……」
「肉ばっかりじゃないですか」
好みの具材を上げる悟空だったがさすがに突っ込まずにいられなかった。しかしそれよりも突拍子のない具材が上がる。
「マヨネーズ。」
ラーメンとは合わない単語に三人が固まる。
「…入れるだろ、普通」
「…入れねーだろ、普通」
今度は悟浄が突っ込むも三蔵は至って真面目だ。
そんなやり取りを見て思い出したのか声を出す
「そー言えば三蔵、伸びたラーメン好きだよな」
「ああ、いますよね。しけった煎餅とか気の抜けた炭酸とか好きな人」
「爺くせーー」
「うるせえ。黙れ」
「そう言えば双葉、ぬれ煎餅をレンジで焼いて食べるって言ってましたね」
「それぬれ煎餅じゃなくなるんでない?」
「食感がって言ってました」
「もう普通の煎餅食えばいいのに」
そんな事をしていると霧の中から無邪気な笑顔で現れたカミサマ。
「また来たんだ?物好きだネ。お兄さん達、僕の言った事判らなかった?ちょっと難しかったのかな。でも何度やったって君達じゃあ僕にはか…」
ガウンッ
続きを言わせずに一発の銃声で幻影を撃ち抜く。
バラバラと『カミサマ』は数珠に変って消えていく
「…『黙れ』と言っただろうが」
ノールックで撃ち込まれた弾丸。
それは宣戦布告の合図。
「…取り戻す。」
悟浄が足で重い鉄扉を蹴り開ける。
中からは誰の気配も感じず、あるのは先日の壊れた壁やクレーターのみ。
「…留守だったり?」
「いや、俺達が来た事には気付いてるだろう。となると」
悟空の問いに三蔵がそう呟いた時
「イラッシャイマセ」
「!!」
「ココより先は禁煙となっておりマス。お煙草は御遠慮下さい。また、銃器類の持ち込みも認められておりません」
どこかの遊園地で流れるているような文句に、二手に別れて扉の端にかまえる。
「この奥は本館ですかね」
「お入り下さいってか?煙草も銃も駄目なら三蔵はアウトだな」
「知った事か。貴様が言うな」
その言葉が合図かのように三蔵はガンッと扉を叩き開ける。その中にあるのは
「ウエルカム!!」
一つの胴体に、ウサギとクマの頭がついた気色の悪い人形が立っていた。
「『カミサマのお城』へヨウコソ!!貴方がたハ48組目のお客様デス。当アトラクションは時間無制限となっておりマス尚、途中棄権は出来かねますのでお気を付け下サイ」
「何コイツ~~ きしょいっ」
「『カミサマ』は?」
「ここがアトラクションならゴールにいるんじゃねぇの?」
八戒の問いかけに答えていた悟浄だったが人形は『お客様』と声をかける
「お煙草は御遠慮下さい」
「ああ!?何だようっせーな」
「先程も申し上げましたが、銃器類も………あ」
再度注意を繰り返す人形は何かに気付いた様に声を上げると悟空、八戒に向き直す。
「それから、お子様とペットの御同伴も禁じられております」
「おや、それは困りましたね」
「なッてめぇ今、俺の事お子様呼ばわりしやがったな!?」
呑気に返す八戒とは対照的に、悟空は人形の胸倉を掴み激しくガクガクと揺らす。
「お、お止めくださいお客様ッどうしても規則を守って頂けない場合…」
人形がそう呟いた途端、天井から……
「この様な事が起こりますので」
「どわ!!?」
降ってきたのは棒状のコンクリートの柱のような物
「何だァこりゃあ!?」
「ちょっ……!!うぉあ!?」
「三蔵、悟浄!!とりあえず煙草と銃捨てろよ!!」
「ざっけんなよ!何でこんな奴の言う事聞かなきゃ……だッ!!?」
次々と降って来る柱を避けながら走り続ける。
「また随分な歓迎ですよ」
「チッふざけやがって…!おい上だ!!」
先頭を走っていた三蔵が隠れていた小さな階段を見つけ、そこへ崩れ込むように飛び込んだ。
ひとまずのチェックポイントの様で1回息を整える。まさに危機一髪だ
薄暗い階段を再びただ全速力で駆け抜ける。
「最上階でお待ちなんでしょうかね?」
「フン、バカと煙は高い所が好きだからな」
「くっそ!意地でも煙草吸い続けてやる」
それから何気なく壁に目をやる八戒。
『↑2F/13F』
と表記されたその表示を眺めていた。
それから色々なトラップを掻い潜りなんとこさ最上に着いたものの、そこにカミサマはおらず居たのはあの気色の悪い人形のみ。
そこで半ギレな悟空がカミサマの居所を詰めた所、一行の立っていた床がガコンと音を立てて開くと同時に「1階でございます」と告げられ高い場所から下へと落とされた。
「うわぁぁぁああ!!?」
勢いよくほぼ真っ逆さまに落とされ、底は見えない真っ暗闇。
「誰だよ!上だって言ったヤツっ!?」
「底が針山じゃない事を祈ってくださいねッ」
「ッ如意棒ォ!!!」
悟空の叫びに如意棒が現れ壁に突っ返させるも止まることを知らず、落下の速度を少し落とすだけ。
「……って止まんねぇよオイ!」
「ぎゃーッ!!」
「底……ぶつかりますよ!!」
見えてきた光に逆らうことも出来ず自由落下で投げ出される。それから衝撃とともに全身に打ち身のような痛みが走る。
「…生きてます?」
「てて…腰打ったァ」
「………~~~ッ」
ガラガラと音を立てるそれらをかけ分けながら起き上がる。
「…な、何だこりゃ……!!?」
驚嘆の声をあげる。それもそのはず自分たちが落とされた場所に目を向けると、そこに広がるのはまるで子どもの玩具箱。
大きなクマのぬいぐるみ、ミニカー、サイコロに鍵盤ハーモニカ。足の踏み場もないと言うよりもそれらがもう床と化している。
──あははははは!
楽しそうな笑い声が響いて見上げて見れば教会にあるような大きなステンドグラスを背にして現れた『カミサマ』。高い場所から不遜にこちらを見下ろしてくる。
「すごいすごい!!こんな速さでここに辿りついた人達、初めてだよ!てゆーかこの『オモチャ箱』に来たお客さんは初めてかな」
「…逢いたかったぜェ“カミサマ”」
「ホント?嬉しいなあ」
悟浄の挑発した所であいも変わらず、カミサマはくすくすと微笑んでいる。
『三蔵一行』とカミサマの喧嘩のやり直し。
いや喧嘩の売り直しの開始だ。
「…遊んでやろうじゃねぇか。思う存分なァ!!」
玩具を蹴り飛ばし悟浄の台詞を合図にカミサマ目掛けて突っ込んでいく彼を援護するように、三蔵が発砲。
「それじゃ前と変わんないよ?」
彼らに“もう負け”の字はない。
悟浄や三蔵の攻撃をヒラリと避けるカミサマ。
三蔵の背後へと回り込んでいたカミサマ目掛けて悟空の如意棒が叩き割る勢いで振り下ろせば、さすがにカミサマの表情に焦りが見えた寸前で空を切る。
しかし回避直後に悟浄の蹴りが再び襲いかかった。
「わッこの…!!」
あまりにも綺麗な攻撃な流れに悟浄の蹴りをギリギリでかわすも、その後ろに控えていた八戒には気付かなかった様でそのまま気功を受ける。
「!! なッ…何で…ッ!?」
今までの余裕がいとも簡単に崩れ、動揺する『カミサマ』の前に立つ八戒。
「ちょっかいを出して近づく。怖くなると逃げる。癇癪おこして暴れる。子供の行動パターンを読むのは造作もない事です。現役保父さんをあなどらないで下さいね?」
ニコリと笑う八戒。台詞は挑発全開。
「…くっ…そぉお!!死んじゃえ!!」
お得意の数珠が八戒の首を絞めるものの、
ガウンッ!
その数珠さえも三蔵の銃でを断ち切られる。
気が付けば『カミサマ』を囲んで立つ四人。
「……何だよ。その眼、弱いくせに…弱いくせにッ!!」
「!!」
癇癪を起こした子どものように周りに当たり散らしても、彼らはもう倒れることを知らない。
「ごちゃごちゃうるせぇなッ!まだ負けてねぇ…もう負けねぇ!!」
振りかざした如意棒によって数珠は引きちぎられる。
「くっ……そぉおォ!!しつこいなぁッ!!」
どんなに攻撃した所で何度も何度もたちが上がる。
「~~~もうつまんないよこんなの!!さっさと降参しちゃえよっ!!?」
「…やっぱりウマが合わねぇな。貴様にとっては生き死に事態がゲーム感覚のつもりなんだろうが」
ふらり。血に塗れた三蔵がゆっくりと起き上がる。
そんな彼に続くように悟空が、悟浄が、八戒が起き上がる。無様に倒れても何度でも。
「生憎俺達がやってんのは『賭け事』でな…。賭けてる物は──命じゃねぇんだ」
「っ!いい加減にしなよもーー!!しつこいと女の子に嫌われるって、先生が言ってたぞ!!……あっそうか。」
「あ?」
癇癪を起こしたかと思えば、何かを思い出したかのように再びニヤリと笑みを浮かべ出す。
「女の子で思い出した。君たちに良いものを見せてあげる。──おいで、僕の可愛いお人形さん。」
「は?ッ!!」
1歩踏み込んだ悟浄の頬に向かって一線、何かが飛んで来た。足元に目を向ければ見慣れたクナイが刺さっていた。カミサマの隣にゆっくりと現れた人物に4人は息を飲んだ。
「紹介するね。僕の可愛いお人形さん。あの日君たちが置いていった女の子だよ。」
そこに立っている一人の少女は見知った綺麗なエメラルドグリーンは光を浴びない深い闇を帯びた瞳へと変わり見たこともない黒のドレスに身を包み、まるで精巧なビスクドールのようだった。
「嘘だろ おい…」
「双葉ッ!!!」
虚ろな表情でこちらを見つめる双葉。
あの日から安否が分からず、無事を祈っていたはずがこんな再会を果たすなど誰が想像していただろうか…
「君たちに置いていかれたのにさ、必死になって1人で僕に立ち向かってくるの。だんだん僕も飽きてきちゃって最後に手足を動かなくしてあげたんだけど、泣き叫ばずに我慢してるあの表情がとても良くてね。気に入っちゃって僕の新しい玩具にしたんだ」
無抵抗な双葉の頬を触りながら吐かれる台詞は胸糞悪いもので、腸が煮えくり返る思いだった。
「てめぇ!!」
「おっとやめた方がいいよ。僕に何かしようとすると…その子が襲って来ちゃうよ?そうするように教えてあげたんだぁ」
気がつくと四人の周りには双葉の武器である暗器が複数囲んでいた。少しでも動けば先程の悟浄のように攻撃されることは目に見えて分かる。
動けずにいる一行に対して楽しそうにニッコリと笑みを浮かべ形勢逆転と言わんがらりに優位な立場に立つカミサマ。
「この子異世界から来たんだって?面白そうだったから記憶見せてもらったんだぁ。…ねぇ君たち知ってる?彼女可哀想な子なんだよ。子どもの頃に目の前で父親が自殺しちゃうし、数ヶ月前には育ての人が事故で死んじゃうしさ」
「は…?父親…?」
「なんだよ、それ…」
今まで彼女から聞かされた事のなかった過去の話。
異世界から一人飛ばされた少女に対して、育った向こうでの話をあまり聞こうとしてこなかった。
自ら話をしようとしないのに思い出させるような事は酷だと思った彼らなりの優しさだったからだ。
しかしそんな思いすら踏みにじるかのように嘲笑う。
「あれやっぱり知らなかったの?5歳の頃に父親が目の前でわざと首に刃物を立てて自殺したんだよ?父親の血を浴びても全く表情1つ変えずに感情も何も無くその亡骸を長い間眺めてた。それに育ての親が死んだ時だって泣かなかった。信じられる?気持ち悪いよね!」
「…」
つらつら話される双葉の過去。
きっとこんな風に知られる事は望んでなどいなかった。いや、話す事などこの先なかったであろう事をこの男は軽薄に告げてくる。
「今だってそう。平和な世界で暮らしてたくせに、毎日毎日妖怪に襲われて殺してても血に染ってもなんとも思ってない。この子に感情なんて「おい。」」
「その減らず口を閉じやがれ。たかがこいつの記憶覗いたぐらいで知った気になってんじゃねぇよ。」
「双葉は泣かなかったんじゃねッ!泣けなかったんだ!!泣き方を知らないから、そうやって今まで生きてたから!!!」
「…感情がないわけねぇだろ。表情が動かなくたってこんなに分かりやすくてそんで喜怒哀楽が誰よりもあんだよ」
「血に染っても何も思ってないわけじゃありません。血に染まっても洗い流せることを知ったから、今も前を向いて僕たちと進んでるんです。…何も知らないあなたが双葉のことを知ったような口で話さないで頂けますか?」
「…ッ」
「──それに『本人から聞いた話以外信じない』ので」
自分が思ったように行かない状況に笑みは再び崩れるカミサマを他所に、彼らの声が聞こえたのか虚ろな表情のまま一粒の涙が流れた。
「ッ!!!あーもーーー!!!こんな奴ら殺しちゃえ!!!」
カミサマの命令に双葉はふらっと動き出す。
そんな双葉を見ても彼らは構えない。
振りかざされたクナイの軌道は四人に向かってではなく隣に立つカミサマへと向かう。
「ッ!!?」
「ひ、との過去を、…ぺらぺら、と……クソ野郎」
「双葉!!!」
無理やり催眠術を解いたせいで、ふらつく双葉を慌てて支える八戒。
「あり、がと八戒」
「いいえ。おかえりなさい双葉」
「!!…ただい、ま」
サッと双葉の傷を見たところあの日受けた傷は綺麗さっぱり治っているようで、カミサマがそうしたのだとすぐに分かった。
「――『うこく』……だったな」
三蔵の呟きに驚愕に目を見開くカミサマを無視してそのまま続ける。
「ようやく思い出せたぜ。ムカつく事は忘れる性分なんで随分手間取ったがな」
10年前もこんな風に遊び相手を探してただろう。そう語られる紐解かれる真実。
――烏哭三蔵法師
額に印チャクラを持たない異端の三蔵法師。
天地開元経文『無天』の所有者。
ざっくりとはこちらの世界に来る前、観音菩薩から聞かされた話に出てきた。
「じゃあこの男も本物の『三蔵』だってのか!?」
「そうだよ。僕の先生はすごい人なんだ。何でもできるし、何でも知ってる。このお城を造ったのも先生なんだもん。先生は僕に全部託して三蔵の任を降りた。だから僕は本物の三蔵法師だ」
そう自慢げに話す『カミサマ』。だがそんな彼に向かって三蔵は「それはどうだろうな」と呟いた。
「確かに貴様の師匠は三蔵だったかもしれん…だが、貴様が本当にそれを継いだとしたなら……経文はどうした?」
「っ!!」
そう。今『カミサマ』が肩にかけている経文は
「わざわざ俺の物を奪い身につけているのは、三蔵法師の証である経文を貴様が所有していない証拠だ」
玄奘三蔵の『魔天経文』だ──
「~~~うるさ「三蔵としての法名も持たないから名乗れないんじゃないのか?」
「うるさいなぁっ」
「貴様は師から法衣も法力も城も譲り受けたが『三蔵』だけは与えられなかった「うるさぁあい!!」
三蔵の言葉を必死に否定するように叫んだ瞬間。
「!!? な…ッ」
「うわっ ちょ…!!?何だよコレ!!?」
五人の体に人形が絡み付く。
「あはは 僕のオモチャの兵隊だよ。普通のオモチャじゃないんだ。その子達が何でできてるか判る?魂を物質に変えた物なんだ 媒体は君達が壊しちゃったけどね」
「まさか…じゃあこれは全部…」
「……てめぇ、こんなモンの為に…!!」
そんな光景に楽しそうに笑う『カミサマ』に攻撃しようにも人形たちが阻んでくる。
「ば…クソッ!!」
「うわ!」
玩具や人形たちに足元を取られた悟空が座り込む。
「悟空ッ!!」
『カミサマ』はもう悟空の前にいてそのまま蹴り飛ばす。
「がはッ」
「ねぇ?すごいでしょ先生は。こんな事まで僕に残してくれたんだ。全ての生命は神様の玩具なんだって」
どこまでも命を軽く見ているカミサマに双葉は産まれて初めて堪忍袋の緒が切れる。
「ふざけんなッ!!!命は玩具なんかじゃない!!!お前なんか、神様にも三蔵法師にもなれないただの中途半端でちっぽけなクソ野郎だ!!!」
近くに居た三蔵がオン マ ニ ハツ メイ ウンと唱え終わると同時にカミサマの肩に掛けられていた経文が光り出す。
「ッ!!魔戒天浄!!!」
三蔵がそう叫ぶと、人形達は吹き飛ばされ『カミサマ』が驚いて後ずさった。
「そんな…!!」
「玩具が何だって?クソが。てめぇにくれてやるモンなんざねぇんだよ。何ひとつな」
三蔵の手元には魔天経文が戻る。
「…返せよッ返せぇえ!!」
叫び攻撃しようとするカミサマの腕を悟浄が掴む。
それを拒むように数珠が胸に埋る。
「長ぇ『鬼ごっこ』だったな。つかまえたぜ」
渾身の一撃が、カミサマの腹にぶち込まれる。相打ちのように繰り出された数珠により悟浄は倒れたが、その背後からクナイと千針を手に持つ双葉と如意棒を構えた悟空が飛び出す。
「くッ…来るなぁ!!」
もう『カミサマ』の攻撃になど物ともせず、如意棒はしなるように曲がり、男の体を容赦なく壁へ叩きつけ、その隙をクナイと千針が襲いかかる。
全てを出し切った悟空と双葉はバタリと倒れ込む。
「よくも…よくもっっ!殺してやる!!殺してやるから!!!」
「どうぞ御自由に?」
叫んで振り返った目の前には気功を発動しようとしている八戒。『カミサマ』は咄嗟に反撃に転じる。
攻撃が放たれるその刹那……
バッと気功を解除し、何かを庇う様に両手を広げた。
「ッ!!」
『カミサマ』の攻撃がもろに入っても八戒はその場に立ち続けていた。
「何で!?何で今バリアも張らずに攻撃やめたの!?」
「…良いんです。“もう済みましたから”」
「え?」
動揺を見せた後、その言葉に初めて己の身に何が起きたのかを理解した。自身の身に纏う白い法衣の胸元は撃ち抜いた複数の弾丸によって赤に染まる。その現実を「信じられない」と震え出す。
胸に空いた穴に掌を這わせながら、血を吐き出す。
「仲間を盾に……?」と呟いて。
倒れる八戒の後ろから現れた三蔵の姿を凝視する。
「あ、う、あ……あ、あぁああぁあ!!!」
絶命の声が響き渡る。
「……な、……何……で」
喘鳴混じりの声で問いかける。
血溜まりで伏せる男は憎らしげに三蔵を見上げる。
三蔵は静かに呟く。
「……『無一物』――という言葉がある。師が俺に残した言葉だ」
『カミサマ』も知っているその言葉。
しかしそれは決して同じであって同じものではない。
「何物にも捕らわれず縛られずに生きろ、と。……だが全てを捨てて生きる事が正しいのか、俺は俺なりの解釈でここまできたつもりだったが……むしろ、俺が何よりも捕らわれていたのは、『無一物』という言葉そのものだったんだ」
シリンダーから空薬莢を捨て五発の弾丸を装填する。
「迷いはない。俺には俺の生き方が――玄奘三蔵の称 となえる『無一物』がある」
ガチャとリロードした銃を手に己が信じた道を進む。他の誰でもない、それが玄奘三蔵と言う人物なのだ。
「……わかんない。わかんないよ、そんなの。俺にはなんにもないのにッ君は色んな物持ってるじゃんか……あんなに沢山。ズルいよそんなの…ねぇ俺に頂戴?」
その懇願に、フッと笑い穏やかな声で答える。
「やらねぇよ」
「……ケチ。」
――パラ。
喧嘩の決着が着いた直後、天井から砂埃が落ちてくる。そしてその後城全体が大きく揺れ出す。
「な……何だ!?」
「…地震?」
大きな音を唸られる城。
何とか立ち上がった彼らに血溜まりに伏せた男が告げる。
「違うよ。全部壊れて消えちゃうんだ。……ゲームはもう、終わったんだから」
「ゲーム…?」
「先生と僕との約束 俺が負けるまでのゲームなんだ 先生の遊んでるゲームなんだ」
彼もまた誰かの玩具に過ぎなかったのだ。
「何だよソレッ……おかしーだろそんなの!!」
「早く逃げないとお城ごとペシャンコだよ?」
こんな時でさえ笑うカミサマ。そんな彼のその手を、悟浄がグッとつかんだ。
「――何、勝手な事抜かしてんだよッ!!」
「!? 何でッ……」
「何でじゃねぇっ!てめぇそれじゃあ金閣銀閣と何も変わんねぇだろが!!振り回されたこっちはいい迷惑なんだよッ!行くぞオラ!!」
かけられた言葉にその瞳が大きく揺れる。
しかし悟浄を突き飛ばす。
「お前…っ」
「ごめん、いいんだよ。俺、ここで待ってるんだ」
「え?」
「悟浄!天井が!!」
崩れた落ちてきた天井が『カミサマ』と悟浄を引き離す。
「っぶねぇ!」
「おい行くぞ!時間がない」
振り返る悟浄に
「……優しーじゃん」
「ケッ 言ってろよ」
カミサマを背を向け崩れる城から脱出するため走り出す。双葉もドレスの裾を太もも辺りまで破り駆け出す。
ガラガラとどんどん原型を止めれなくなってきた城は行く道すらも阻んでくる。それらをひたすらに回避しながら走り続ける。
「頭上に気をつけて下さい!」
「おいっ出口って本当にこっちでいいのか!?」
「どっちにしろ走るしかない!!」
「つったってこっちしか道ねーじゃん!」
「ここは1階みたいですから 階段の昇り降りはないと思いますけど……ッ!!」
皆が全速力で走る中、傷が傷んだのか八戒がフラつく
「八戒!!」
「おい平気か八戒!?」
「えぇ…すみません」
倒れる寸前で悟浄と双葉に支えられ何とか持ち直す。
「三蔵!!ここカギかかってて開かねぇよ!?」
「どけ!!」
南京錠を銃で壊し扉を開けるも目の前を瓦礫の山と崩れる障害物だらけ
「うっわ」
「走り抜けるぞ!!」
「八戒、大丈夫?」
「えぇ…なんとか」
「だーックソォ!!」
「チッ出口はすぐそこだってぇのに…!」
落ちてくる瓦礫を叩き壊す悟空を先頭に走っている最中、悟浄と八戒、双葉の上に大きな瓦礫が落ちてくる
「!!」
ガウンッ!!ガウン!!
「さっさと走れ!!」
落ちてきていた瓦礫を三蔵が銃で綺麗に撃ち砕く。
「いやん、三蔵サマ優しーーっ♡」
「三蔵、すごい!」
「悟浄。ここを出たら真っ先に殺してやる」
いつもの調子な悟浄に三蔵はそう言うと先を急ぐ。
そして見えてきた出口付近で「伏せて!!!」と言う八戒の声とともに木っ端微塵に吹き飛んだ城。
凄まじい爆風を肌で感じながら、崩れた城を見届けて五人は倒れ込む。
「あーー…終わりましたねぇ…ひとまず」
「……だな。」
やっと終わった戦いに気が抜けて力が出ない。
「…生きてっか?」
「ええまあ、何とか」
「……生きてる…」
「いでででで…あーー気ィ抜けたら急に痛みが来やがった」
「なぁなぁ八戒さっきマジで三蔵に撃たれたの?」
「撃ってねぇよ。ちゃんと脇から狙ったからな」
「あはは でも二発ほど掠りましたよ。実は」
「当たってたんだ…」
仰向けに寝転がればあの霧に覆われていたのが嘘かのように綺麗な澄み切った大空。
「…でもさアイツ結局、何者だったんだろ」
「…さぁな。興味ねぇよ」
「いいんじゃないですか?『カミサマ』って事で」
悟空の疑問に八戒が答えて、
「…だな。」
「…そうだね」
「ま、いっか」
「ですよね」
「……」
個々それぞれに納得して、溜め息を吐く。
「あ~~何かもォ……」
悟空がいつもの言葉を言おうと身体を起した…が、
「は…「「「「腹減った。」」」」
いつもの台詞を吐こうとした瞬間、見事に四人に先を越された。
「~~~なッ…」
「さて、行きますか」
「ちょっ…オイッ!!」
「フン」
「オイってば」
「行きまショ行きまショ」
「~~~俺のセリフ取んなよッ!!」
皆起き上がり先に進む。
やっぱり皆、かっこよくて頼もしくてその背中をいつまでも追いかけていたい。改めてそう思えた。
だから──
「みんな」
双葉の声に4人は振り返ったものの驚きの顔を見せる。
「ありがとう」
ずっと無表情だったはずの少女が初めて綺麗に笑って見せていたのだ。
「!!」
「双葉…!」
「ふ、双葉ちゃん 今…」
「わ、わ、笑ったぁぁぁあ!!!!」
この日初めて見せた笑顔は一行にとって忘れることのない日なるのだった。
────────────────
──────────
────
「……どうした。乗れ」
綺麗な日暮れの空の下、ジープの運転席に座ったのは三蔵。そんな滅多に見れない光景に固まらない訳もなく思考回路が一時止まっていた。
「うっわ、どーしたの三蔵様?どーゆー風のフキマワシ!?」
「うるせぇよ。てめーらみたいな死にぞこないどもに運転されちゃかなわんからな」
これはぶっきらぼうな彼なりの優しさなのだろう。
「じゃあお言葉に甘えまして」
「えっと…お邪魔します」
「早く行かねーと夜んなっちまうしな」
「安全運転でお願いシマス。」
「地図いります?」
「いらん。進む方角はひとつだからな」
八戒は助席へ後の三人はいつもの定位置に乗り込む。
「ただでさえ死にそーなのに腹減っててかなりピーンチ」
「じゃあ賭けましょうか?」
「次の街までに死んだ奴が負けってか?」
「罰ゲームはどうするんだ」
「全裸にむいて大通りに転がします」
「乳首にニップレスつけてな」
「死ねねぇ~!!」
「じゃあ死なないようにしないとだね」
4人の話に何故か気合いを入れている双葉に悟浄が声をかける。
「いや なーんで双葉ちゃんまで全裸転がしされるつもりでいんの」
「えっ?違うの?」
「双葉は女の子なんですから他のことをさせます」
「大盛りラーメン食べさせるとか?」
「あぁそれがいいかもな。」
「ぐっ…それはやだ…ミニがいい、子ども用がいい」
「それ罰ゲームになってねーじゃん!!」
「双葉の場合そっちの方が死活問題なんだろ」
「うん。」
「……おい、アクセルはこれか?」
急にガクンと振動があってアクセルベタ踏み猛発進。踏んだ石で車体が跳ね上がる。
「え…うおあ!!?」
「ちょ…ちょっとタンマぁ!!うわッ」
「さ、三蔵ッ!?貴方免許は…」
「さぁな。」
「死ぬって!」
「あはは!!すごいすごい〜!!」
「何かめっちゃ双葉のテンション高んだけど!!?」
危険な運転で笑い声や叫び声を乗せて西に走りだす。
❉あとがき❉
次回、カミサマ篇のエピローグとなります。
今はストックを貯めるべく、ヘイゼル篇の執筆を開始しました。
今回のカミサマ篇のイメージソングはLiSAさんの『oath sign』とAimerさんの『六等星の夜』です。
どうぞ引き続きよろしくお願いします。
