-無印篇-
「……あッ、ちィ~~~~」
ちりちりと肌を焼け付くような日差しと進んでも一向に変わらない砂漠景色。
皆がもう言ったところで無駄に体力を使ってしまうと黙っていた中で、そう声を上げたのは悟空だった。
一言声を上げると積もり積もったイライラは次々と出ていく。
「ただでさえクソ暑いのに、何でこんなカッコしなきゃなんねぇんだよ!」
「砂まみれになりたきゃ外せばいいだろ猿。喋らせんなよ、口ン中に砂入る」
5人がいるのは砂漠のど真ん中、何も無い砂漠をひたすらにジープを走らせる。
砂埃から守るためにいつもは羽織らないローブを深く被っているが日差しも相まって暑さが増していく。
「あんま寄んなよ。アチいってば!」
「るせェな、狭いんだよ!この焼き猿が!!」
「誰が焼き猿だ!ひからび河童ッ」
「2人ともこんな狭いところで暴れないで」
どこまで走っても村ひとつない。
そしてこの暑さで溜まりにたまった怒りが小さな火種を作りいつものように今日も今日とて言い合いが始まった。
いつも以上に幼稚さが増した言い合いが大きくなる前に止めに入ろうとする双葉だったがそれも虚しく、暑さのせいで動くことすらしなかった三蔵の堪忍袋の緒が切れた。
「…そんなに冷たくなりたいか?」
「「結構です」」
ジープの上で立ち上がり銃口を向けながら後ろの二人に射抜くように視線を放った。
いつもよりも冷静な怒りを表す三蔵。
その視線に本能で危機を感じた二人は、大人しく両手を上げて降参のポーズをしながら押し黙った。
「駄目ですよ三蔵。冷たくなる前に腐っちゃいますから」
「それ1番怖いよ…」
こちらもいつも以上に禍々しいオーラを放つ八戒に、悟空と悟浄は背筋に寒気が走った。
涼しそうな顔をしながらもやはり八戒も暑さには勝てないのある。
「──なぁ八戒。本当に、この砂漠って近道なの?」
「地図によると、そう広い砂漠じゃない筈ですよ。ちょっと方向感覚狂いますけどね」
助っ席の三蔵が広げる地図を見しながら八戒は言った。
「見渡す限り砂海原だな」
「陽炎見てるだけであつっくるしいぜ。まったく」
辺り一面砂漠が広がり暑さもあってか蜃気楼まで出来ている景色にもはや嫌気すら感じてしまう。
双葉も砂埃が口に入るのが嫌で必要以上話そうとはしない。もはやこのジープの揺れでだんだん睡魔が襲い膝を抱え寝る姿勢に入った。
ここ数日の疲れのせいか本格的に寝てしまっていた双葉だったが何かに呼ばれる声に目を開く。
「ピィー!ピィー!!」
「じー、ぷ…?あれ、皆は…?」
いつの間にか砂漠に寝転んでいた体を眠気が残る中、ゆっくりと起こすとジープが飛びついて来た。
小さな体を抱きとめ先程まで一緒に居たはずの三蔵たちの姿探す。
しかしすぐ近くにいたのはこの前初めて会った赤髪と黒髪の2人組のみ
「あなた達は、確か紅孩児と独角…」
「やっと目が覚めたか。」
「どうしてあなた達がここに…三蔵たちは…?」
「どうやら三蔵達は砂の中らしい」
「砂の中…?どういうこと…?………まさか蟻地獄にでもあったって言うの!?」
2人が見つめていた場所に勢いよく座り込み無理だと分かっていても砂漠を素手で掘り返そうと試みる
「やめろ!そんなことしても無理だ!」
「離してッ!!無理でもやるの!!みんなを助けなきゃ!!」
独角に腕を捕まれ制しされても必死に掘り起こそうとする双葉の姿にそれまで静かに見つめていた紅孩児が動き出す。
「2人とも少し離れていろ」
「…何する気?」
「──吹き飛ばす。」
そう言い放つと詠唱を唱え始めた紅孩児の周りからは真っ赤な強風が吹き荒らしさっきまで必死に双葉が掘り起こしていた場所に向かって凄まじい一撃を放った。
「ピィー!」
「あっ!まってジープ!」
抱えていたジープが砂嵐の方へと飛んでいきそれを追いかけると砂の下に出来た空洞のような場所に4人の姿が見えた
「皆!!」
「ピィー!」
「双葉!」
「良かった、ジープも双葉も無事でしたね…」
「──おい八戒!?」
「八戒!!」
飛んできたジープを抱きとめ蟻地獄に飲まれる前に逃がしておいた双葉達の姿に安堵した瞬間、その場で倒れそうになった八戒。それにいち早く気がついた悟浄が咄嗟に手を伸ばした。
「カッコつけて無茶すんじゃねーよこのバカ!!」
「あはははっすみませ…」
「俺がみじめだろォが」
「…悟浄?「…三蔵が!三蔵が妖怪の毒にやられてヤベェんだ!!」!?」
いつもと様子のおかしい悟浄に問いかけようとしたがその言葉は悟空の切羽詰まった声に遮られた
「何だと?」
「あの薬使いの姉ちゃんいないのか!?」
「八百鼡なら今日はいねぇぞ ──お前らこの砂漠の妖怪に会ったのか?」
「あぁ もう死んだけどな ──ってお宅ら、もしかしてここに経文探しに来たのか?だとしたら無駄だと思うぜ。全部砂の中だ 掘り起こすしかねェよ」
やり取りの最中突然三蔵を抱え直す悟空に悟浄が声を荒らげる。
「──おい!どうする気だ悟空!?」
「三蔵おぶってく」
「悟空。気持ちはわかるけど…」
「バカ猿が!この炎天下の中を何キロもか?無理だって!」
「だって しょーがねーじゃん!!時間がねぇだろ!?ジープだって使えないし ──だけどッ三蔵は死なせねぇッ…!!」
譲らない悟空に固唾を飲む。
絶対を通す悟空に対して紅孩児は決意の籠った瞳を向けた。
「──待て 悟空…向こうに俺達が乗ってきた飛竜がある。それを使えば簡単に近くの街まで行けるだろう。貸してやっても構わん ──ただし…俺を殺せたらの話だ」
そう言って、紅孩児は悟空をキッと見つめる。
「俺達が勝てば『魔天経文』をもらう 貴様らが勝てば飛竜は貴様らの物だ ──決着を付けよう」
「……紅孩児…?」
要は互いに今必要とするものを賭けた戦いだ。
混乱を見せる悟空に紅孩児は容赦なく詠唱を唱え襲いかかる。三蔵を守り続ける悟空。
守り続け思うように反撃ができない悟空に八戒が声を出す。
「悟空。三蔵は僕らに任せて…闘いなさい。紅孩児は本気です。──恐らく彼は、何かとても…大事な物を背負って闘っている」
八戒の言う通り、紅孩児サイドで何かしらの事情があるのは明確。それは悟空も分かっていた。
「今の貴方なら判りますよね。大事な物を失いたくないという思いが」
「──なあ八戒。後でどーにかして俺を止めてくれる?」
「悟空…?」
「悟空、まさか――」
「俺、今のままじゃアイツ倒せないから。だけど負けらんないから。……頼むな」
今まで付けていた金鈷が砂の上へと落ちた。
それと同時に大地より生まれし斉天大聖が、不敵な笑みを浮かべる──
──────────────────────
それまで反撃できずにいた悟空は圧倒的な攻撃力を見せ、ほぼ一方的に紅孩児を倒す。倒れてもなお攻撃しようとするため止めに入った独角兕をも倒し、悟浄や八戒も悟空の暴走を食い止めようと動くものの砂上に倒れ伏せてしまう。
「…ッ」
「──ふた、ば…逃げて」
「双葉…!」
次の標的を変えた悟空がゆっくりと双葉へと近づいてくる。ボロボロになった八戒や悟浄、そして毒に苦しむ三蔵。悟空にはこうなる事がわかっていた。だから「止めてくれる?」なんて言葉を口にしたのだ。
この状況で双葉が今出来ることなど決まっている。
「悟空…いいよ、相手になるよ。」
「ダメ、です!!双葉!」
「ッ戻ってこい!!」
悟空に向き直しクナイを両手に構える双葉。
そんな危険な状態に八戒と悟浄が止めようとするも双葉の目には覚悟が決まっていた。
あれだけの強さを見せられては、自分が敵う相手など到底思っていない。それでも譲れないものがある。
「…私ね、まだそんなに経ってないし、あなた達4人との絆が特別深いわけじゃない──でも、私はあなた達を守りたい…あなた達の事が大切なの…!!」
「双葉…」
「…」
それから双葉と悟空は同時に地を蹴った。
────────────────
──────────
────
最初から有利に立てるとは思っていなかった。
あれだけ場数を踏んできた人達が転がされてるぐらいなのだから自分は守るので精一杯だと思っていた。
次々とくる攻撃を避けることでいっぱいだ。
それに加え砂漠の足場の悪さや暑さでどんどん体力が消耗されていく。
「ッ!!?」
「「双葉!!!!」」
砂に足を取られた一瞬の隙を狙い、横からの蹴りが飛んでくる。そのまま避けきれず脇腹に当たってしまい、勢いのまま転がる双葉の首を掴み締め上げたまま持ち上げる。
「か、は……ッ、ぁ…」
「ッ!!!やめてください悟空!!!」
「やめろ!!そのままじゃ双葉が死ぬぞ!!!」
二人の止める声など今の悟空の耳には届かずニヤリと不敵な笑みを浮かべたままどんどん力を込める。
全身の痛みと体力を消耗したせいで抵抗する力など残っておらず意識が遠のいて行く。
しかし聞き慣れた1発の銃声を最後に意識を失った。
────────────────
──────────
────
「ねぇ双葉。帰ったら甘いもの買いに行こう」
「?…いいけど、何かあったっけ?」
「甘いものを食べるのに理由なんてないわよ」
「わかった。じゃあ帰ってくるの、待ってるね」
「えぇ!行ってきます!」
「…え?」
「か、な…?」
「なんで、こんな時でさえ涙が出てくれないの…?」
「私、どうやって泣けばいいか分かんないッ」
────────────────
──────────
────
「あっ」
「双葉!目が覚めたんですね!!」
「はっ、かい…?」
「2日も目が覚めなかったんですよ?」
目を覚ますと心配そうな顔でこちらを見ている八戒の姿。意識を失う前の事を思い出し、ここに自分が寝かされているということは危機的状況から脱せたということだと理解した。
「……みんなは?…怪我、大丈夫?」
「えぇ。でも、今は自分の心配をしてください。無理したせいであちこちまだ治りきってないんですからね」
八戒の言う通り、至る所が包帯とガーゼで治療されている。一応あの後の話をあらかた聞かされた。
「──もうあんな無茶はしないでくだいね」
「……うん」
「何ですか今の間は」
「約束は…でき、ない。だってみんなにもしもの事があったら無茶はする、よ」
「双葉…」
「それよりも悟空は?」
「悟空なら」
「おっ!目が覚めたか双葉ちゃん」
開かれた扉から入って来た悟浄と入口で少し隠れた悟空が現れた。気まずそうにする悟空を見かねて隣に来るように手招きする双葉。八戒も席を譲り座るように促す。悟空が席について1番最初に目に入ったのは首の包帯だった。
「双葉、俺…」
「悟空」
「な、なに「えい」痛っ!?」
近づいてきた悟空の額目掛けてぺちんっとデコピンを食らわせる。予期せぬ小さな攻撃に言うほど痛くは無いが驚きが勝って固まる悟空。
「これで“おあいこ"だよ?」
「へ!?」
「あのね、私にとって悟空は初めて出来た友達なんだよ?こんな事ぐらいじゃ怖がったり嫌いになったりしないよ」
「友達…」
「友達、じゃない?」
「そんなわけねぇじゃん!!」
「だったらこれでこの話はおしまい。」
それでも納得していない様子の悟空。うーんと悩み後ろの方で見守っている八戒と悟浄に助けを求めるも2人は見守ることに決め込んでいるようだ。
「……じゃあ、甘いもの」
「え?」
「甘いもの食べたいから、一緒に食べ歩き付き合ってくれる?」
「そんなんでいいの…?」
「うん。甘いものを食べるのに理由なんていらないから」
「!!分かった!双葉の怪我が治ったら一緒に行こ!」
今度はいつもの満面な笑みを見せる悟空。
その笑みを見た双葉や八戒と悟浄も本調子に戻ったことを理解した。
それから残りの傷を気功術で治してもらい動いても支障がないほどまでに回復した。
約束通り悟空と甘いものを食べ歩きしながら三人へのお土産を買い宿へ向かう。
先程買ったカステラ焼きを二人で仲良く食べながらのんびり歩いて帰る。
「なぁずっと気になってたんだけどさ」
「ん?」
「双葉っていつか元の世界に帰るのか?」
「…どう、だろ」
「帰りたいとか思わねぇの?」
今まで元の世界の事を話さない所か帰る手立てを探そうとしない事に疑問を抱いていたのはきっと悟空だけではないだろう。
元の世界に未練などさらさらない、が…向こうでは事故にあって死んでいる身なので帰ったとてどうなるかなど目に見えている。
向こうで死んでいるという事を一行には伝えていないので疑問視されるのは当たり前だ。
「うーん…別にいいかなって、思ってる。向こうに待ってる人がいる訳でもないし」
「じゃあもしさ、全部終わって元の世界に帰れなかった時、双葉が良かったら長安に行こねぇ?」
「長安?」
「うん!俺たちが住んでたとこなんだ!」
「一緒に行ってもいいの?」
「だって帰れなかったら双葉ひとりになっちゃうじゃん!だからみんなで一緒に行こうぜ!」
「うん!」
旅が終わった後の事は双葉の中では曖昧にしか決まっていなかった為、悟空からの言葉は凄く嬉しかった。何より四人と一緒にいられる事が素直に嬉しい。
そう思える程に双葉の中で四人は大きな存在になり始めていた。
まだ見ぬ長安に期待を膨らませていると、どこからとても小さな声が聞こえてくる。
『…け…』
「?」
『……た……て』
「あれ?」
「どうした?」
急に歩みを止めた双葉に悟空が尋ねるも、双葉は辺りをキョロキョロと見回す。
「声が聞こえるの」
「声?」
『……た……すけ……て』
周りはガヤガヤと商店街の活気で声など沢山飛び交っている。悟空には双葉の言うその声とやらは聞こえていない。しかし急に宿屋とは違う方向に歩みを進める双葉を慌てて追いかける悟空だったが、案外その声の元はすぐ近くにあった。
商店街の路地裏に小さな黒い子犬が倒れていた。
優しく持ち上げたその子犬は酷く傷だらけで泥だらけだが、汚れることもお構いなしに抱えた双葉。
「子犬…?」
「こいつすげぇ傷だらけじゃん!」
「手当てしてあげないと」
二人は子犬を連れて急いで宿へと向かい事情もそっちのけで八戒に子犬の傷を治してもうようにお願いをした。それから傷が治り子犬は気功術の暖かさですやすやと眠りに落ちた。
一連の流れを見ていた悟浄と三蔵も何がなんだか分かっておらず説明を求める。
「どうしたんだ?この子犬」
「それが双葉が見つけた?でいいのかな」
「なんで疑問形なんだよ。」
「俺にも良く分からんねんだよ」
「どういう事だ?」
悟空に説明を求めたがよく分からないため、三蔵が当事者である双葉へと疑問を問う。
本人はすやすや眠る子犬を膝へ乗せ柔らかな毛並みを優しく撫でる。
「──声が、聞こえたの」
「声?」
「うん…助けてって」
「…」
「ねぇ三蔵」
「駄目だ。」
双葉が何を言いたいか理解しているのか食い気味に答えられてしまう。拒否される理由は双葉にも分かっていた。しかしこの子犬との何かの縁にどうしても引き下がる事など出来ずにいた。
「…まだ何も言ってない。」
「旅には連れていかん。しかもそいつ「妖怪、だよね」…分かってたのか」
「でもこんな所にひとりぼっちに出来ないよ。面倒はちゃんと見るから、お願い三蔵。」
「……声が聞こえたと言ったな」
「?うん。」
その問いに答えた後何かを考える三蔵だったが諦めたのか大きなため息をつき始めた。
「はぁぁぁぁ勝手にしろ」
「……なんか三蔵この頃双葉に甘い時あるよな」
「今日から君はクロガネだよ。よろしくね。」
クロガネと名付けられたその子犬との不思議な縁を知ることになるのはまだ先の話──
ちりちりと肌を焼け付くような日差しと進んでも一向に変わらない砂漠景色。
皆がもう言ったところで無駄に体力を使ってしまうと黙っていた中で、そう声を上げたのは悟空だった。
一言声を上げると積もり積もったイライラは次々と出ていく。
「ただでさえクソ暑いのに、何でこんなカッコしなきゃなんねぇんだよ!」
「砂まみれになりたきゃ外せばいいだろ猿。喋らせんなよ、口ン中に砂入る」
5人がいるのは砂漠のど真ん中、何も無い砂漠をひたすらにジープを走らせる。
砂埃から守るためにいつもは羽織らないローブを深く被っているが日差しも相まって暑さが増していく。
「あんま寄んなよ。アチいってば!」
「るせェな、狭いんだよ!この焼き猿が!!」
「誰が焼き猿だ!ひからび河童ッ」
「2人ともこんな狭いところで暴れないで」
どこまで走っても村ひとつない。
そしてこの暑さで溜まりにたまった怒りが小さな火種を作りいつものように今日も今日とて言い合いが始まった。
いつも以上に幼稚さが増した言い合いが大きくなる前に止めに入ろうとする双葉だったがそれも虚しく、暑さのせいで動くことすらしなかった三蔵の堪忍袋の緒が切れた。
「…そんなに冷たくなりたいか?」
「「結構です」」
ジープの上で立ち上がり銃口を向けながら後ろの二人に射抜くように視線を放った。
いつもよりも冷静な怒りを表す三蔵。
その視線に本能で危機を感じた二人は、大人しく両手を上げて降参のポーズをしながら押し黙った。
「駄目ですよ三蔵。冷たくなる前に腐っちゃいますから」
「それ1番怖いよ…」
こちらもいつも以上に禍々しいオーラを放つ八戒に、悟空と悟浄は背筋に寒気が走った。
涼しそうな顔をしながらもやはり八戒も暑さには勝てないのある。
「──なぁ八戒。本当に、この砂漠って近道なの?」
「地図によると、そう広い砂漠じゃない筈ですよ。ちょっと方向感覚狂いますけどね」
助っ席の三蔵が広げる地図を見しながら八戒は言った。
「見渡す限り砂海原だな」
「陽炎見てるだけであつっくるしいぜ。まったく」
辺り一面砂漠が広がり暑さもあってか蜃気楼まで出来ている景色にもはや嫌気すら感じてしまう。
双葉も砂埃が口に入るのが嫌で必要以上話そうとはしない。もはやこのジープの揺れでだんだん睡魔が襲い膝を抱え寝る姿勢に入った。
ここ数日の疲れのせいか本格的に寝てしまっていた双葉だったが何かに呼ばれる声に目を開く。
「ピィー!ピィー!!」
「じー、ぷ…?あれ、皆は…?」
いつの間にか砂漠に寝転んでいた体を眠気が残る中、ゆっくりと起こすとジープが飛びついて来た。
小さな体を抱きとめ先程まで一緒に居たはずの三蔵たちの姿探す。
しかしすぐ近くにいたのはこの前初めて会った赤髪と黒髪の2人組のみ
「あなた達は、確か紅孩児と独角…」
「やっと目が覚めたか。」
「どうしてあなた達がここに…三蔵たちは…?」
「どうやら三蔵達は砂の中らしい」
「砂の中…?どういうこと…?………まさか蟻地獄にでもあったって言うの!?」
2人が見つめていた場所に勢いよく座り込み無理だと分かっていても砂漠を素手で掘り返そうと試みる
「やめろ!そんなことしても無理だ!」
「離してッ!!無理でもやるの!!みんなを助けなきゃ!!」
独角に腕を捕まれ制しされても必死に掘り起こそうとする双葉の姿にそれまで静かに見つめていた紅孩児が動き出す。
「2人とも少し離れていろ」
「…何する気?」
「──吹き飛ばす。」
そう言い放つと詠唱を唱え始めた紅孩児の周りからは真っ赤な強風が吹き荒らしさっきまで必死に双葉が掘り起こしていた場所に向かって凄まじい一撃を放った。
「ピィー!」
「あっ!まってジープ!」
抱えていたジープが砂嵐の方へと飛んでいきそれを追いかけると砂の下に出来た空洞のような場所に4人の姿が見えた
「皆!!」
「ピィー!」
「双葉!」
「良かった、ジープも双葉も無事でしたね…」
「──おい八戒!?」
「八戒!!」
飛んできたジープを抱きとめ蟻地獄に飲まれる前に逃がしておいた双葉達の姿に安堵した瞬間、その場で倒れそうになった八戒。それにいち早く気がついた悟浄が咄嗟に手を伸ばした。
「カッコつけて無茶すんじゃねーよこのバカ!!」
「あはははっすみませ…」
「俺がみじめだろォが」
「…悟浄?「…三蔵が!三蔵が妖怪の毒にやられてヤベェんだ!!」!?」
いつもと様子のおかしい悟浄に問いかけようとしたがその言葉は悟空の切羽詰まった声に遮られた
「何だと?」
「あの薬使いの姉ちゃんいないのか!?」
「八百鼡なら今日はいねぇぞ ──お前らこの砂漠の妖怪に会ったのか?」
「あぁ もう死んだけどな ──ってお宅ら、もしかしてここに経文探しに来たのか?だとしたら無駄だと思うぜ。全部砂の中だ 掘り起こすしかねェよ」
やり取りの最中突然三蔵を抱え直す悟空に悟浄が声を荒らげる。
「──おい!どうする気だ悟空!?」
「三蔵おぶってく」
「悟空。気持ちはわかるけど…」
「バカ猿が!この炎天下の中を何キロもか?無理だって!」
「だって しょーがねーじゃん!!時間がねぇだろ!?ジープだって使えないし ──だけどッ三蔵は死なせねぇッ…!!」
譲らない悟空に固唾を飲む。
絶対を通す悟空に対して紅孩児は決意の籠った瞳を向けた。
「──待て 悟空…向こうに俺達が乗ってきた飛竜がある。それを使えば簡単に近くの街まで行けるだろう。貸してやっても構わん ──ただし…俺を殺せたらの話だ」
そう言って、紅孩児は悟空をキッと見つめる。
「俺達が勝てば『魔天経文』をもらう 貴様らが勝てば飛竜は貴様らの物だ ──決着を付けよう」
「……紅孩児…?」
要は互いに今必要とするものを賭けた戦いだ。
混乱を見せる悟空に紅孩児は容赦なく詠唱を唱え襲いかかる。三蔵を守り続ける悟空。
守り続け思うように反撃ができない悟空に八戒が声を出す。
「悟空。三蔵は僕らに任せて…闘いなさい。紅孩児は本気です。──恐らく彼は、何かとても…大事な物を背負って闘っている」
八戒の言う通り、紅孩児サイドで何かしらの事情があるのは明確。それは悟空も分かっていた。
「今の貴方なら判りますよね。大事な物を失いたくないという思いが」
「──なあ八戒。後でどーにかして俺を止めてくれる?」
「悟空…?」
「悟空、まさか――」
「俺、今のままじゃアイツ倒せないから。だけど負けらんないから。……頼むな」
今まで付けていた金鈷が砂の上へと落ちた。
それと同時に大地より生まれし斉天大聖が、不敵な笑みを浮かべる──
──────────────────────
それまで反撃できずにいた悟空は圧倒的な攻撃力を見せ、ほぼ一方的に紅孩児を倒す。倒れてもなお攻撃しようとするため止めに入った独角兕をも倒し、悟浄や八戒も悟空の暴走を食い止めようと動くものの砂上に倒れ伏せてしまう。
「…ッ」
「──ふた、ば…逃げて」
「双葉…!」
次の標的を変えた悟空がゆっくりと双葉へと近づいてくる。ボロボロになった八戒や悟浄、そして毒に苦しむ三蔵。悟空にはこうなる事がわかっていた。だから「止めてくれる?」なんて言葉を口にしたのだ。
この状況で双葉が今出来ることなど決まっている。
「悟空…いいよ、相手になるよ。」
「ダメ、です!!双葉!」
「ッ戻ってこい!!」
悟空に向き直しクナイを両手に構える双葉。
そんな危険な状態に八戒と悟浄が止めようとするも双葉の目には覚悟が決まっていた。
あれだけの強さを見せられては、自分が敵う相手など到底思っていない。それでも譲れないものがある。
「…私ね、まだそんなに経ってないし、あなた達4人との絆が特別深いわけじゃない──でも、私はあなた達を守りたい…あなた達の事が大切なの…!!」
「双葉…」
「…」
それから双葉と悟空は同時に地を蹴った。
────────────────
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最初から有利に立てるとは思っていなかった。
あれだけ場数を踏んできた人達が転がされてるぐらいなのだから自分は守るので精一杯だと思っていた。
次々とくる攻撃を避けることでいっぱいだ。
それに加え砂漠の足場の悪さや暑さでどんどん体力が消耗されていく。
「ッ!!?」
「「双葉!!!!」」
砂に足を取られた一瞬の隙を狙い、横からの蹴りが飛んでくる。そのまま避けきれず脇腹に当たってしまい、勢いのまま転がる双葉の首を掴み締め上げたまま持ち上げる。
「か、は……ッ、ぁ…」
「ッ!!!やめてください悟空!!!」
「やめろ!!そのままじゃ双葉が死ぬぞ!!!」
二人の止める声など今の悟空の耳には届かずニヤリと不敵な笑みを浮かべたままどんどん力を込める。
全身の痛みと体力を消耗したせいで抵抗する力など残っておらず意識が遠のいて行く。
しかし聞き慣れた1発の銃声を最後に意識を失った。
────────────────
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────
「ねぇ双葉。帰ったら甘いもの買いに行こう」
「?…いいけど、何かあったっけ?」
「甘いものを食べるのに理由なんてないわよ」
「わかった。じゃあ帰ってくるの、待ってるね」
「えぇ!行ってきます!」
「…え?」
「か、な…?」
「なんで、こんな時でさえ涙が出てくれないの…?」
「私、どうやって泣けばいいか分かんないッ」
────────────────
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「あっ」
「双葉!目が覚めたんですね!!」
「はっ、かい…?」
「2日も目が覚めなかったんですよ?」
目を覚ますと心配そうな顔でこちらを見ている八戒の姿。意識を失う前の事を思い出し、ここに自分が寝かされているということは危機的状況から脱せたということだと理解した。
「……みんなは?…怪我、大丈夫?」
「えぇ。でも、今は自分の心配をしてください。無理したせいであちこちまだ治りきってないんですからね」
八戒の言う通り、至る所が包帯とガーゼで治療されている。一応あの後の話をあらかた聞かされた。
「──もうあんな無茶はしないでくだいね」
「……うん」
「何ですか今の間は」
「約束は…でき、ない。だってみんなにもしもの事があったら無茶はする、よ」
「双葉…」
「それよりも悟空は?」
「悟空なら」
「おっ!目が覚めたか双葉ちゃん」
開かれた扉から入って来た悟浄と入口で少し隠れた悟空が現れた。気まずそうにする悟空を見かねて隣に来るように手招きする双葉。八戒も席を譲り座るように促す。悟空が席について1番最初に目に入ったのは首の包帯だった。
「双葉、俺…」
「悟空」
「な、なに「えい」痛っ!?」
近づいてきた悟空の額目掛けてぺちんっとデコピンを食らわせる。予期せぬ小さな攻撃に言うほど痛くは無いが驚きが勝って固まる悟空。
「これで“おあいこ"だよ?」
「へ!?」
「あのね、私にとって悟空は初めて出来た友達なんだよ?こんな事ぐらいじゃ怖がったり嫌いになったりしないよ」
「友達…」
「友達、じゃない?」
「そんなわけねぇじゃん!!」
「だったらこれでこの話はおしまい。」
それでも納得していない様子の悟空。うーんと悩み後ろの方で見守っている八戒と悟浄に助けを求めるも2人は見守ることに決め込んでいるようだ。
「……じゃあ、甘いもの」
「え?」
「甘いもの食べたいから、一緒に食べ歩き付き合ってくれる?」
「そんなんでいいの…?」
「うん。甘いものを食べるのに理由なんていらないから」
「!!分かった!双葉の怪我が治ったら一緒に行こ!」
今度はいつもの満面な笑みを見せる悟空。
その笑みを見た双葉や八戒と悟浄も本調子に戻ったことを理解した。
それから残りの傷を気功術で治してもらい動いても支障がないほどまでに回復した。
約束通り悟空と甘いものを食べ歩きしながら三人へのお土産を買い宿へ向かう。
先程買ったカステラ焼きを二人で仲良く食べながらのんびり歩いて帰る。
「なぁずっと気になってたんだけどさ」
「ん?」
「双葉っていつか元の世界に帰るのか?」
「…どう、だろ」
「帰りたいとか思わねぇの?」
今まで元の世界の事を話さない所か帰る手立てを探そうとしない事に疑問を抱いていたのはきっと悟空だけではないだろう。
元の世界に未練などさらさらない、が…向こうでは事故にあって死んでいる身なので帰ったとてどうなるかなど目に見えている。
向こうで死んでいるという事を一行には伝えていないので疑問視されるのは当たり前だ。
「うーん…別にいいかなって、思ってる。向こうに待ってる人がいる訳でもないし」
「じゃあもしさ、全部終わって元の世界に帰れなかった時、双葉が良かったら長安に行こねぇ?」
「長安?」
「うん!俺たちが住んでたとこなんだ!」
「一緒に行ってもいいの?」
「だって帰れなかったら双葉ひとりになっちゃうじゃん!だからみんなで一緒に行こうぜ!」
「うん!」
旅が終わった後の事は双葉の中では曖昧にしか決まっていなかった為、悟空からの言葉は凄く嬉しかった。何より四人と一緒にいられる事が素直に嬉しい。
そう思える程に双葉の中で四人は大きな存在になり始めていた。
まだ見ぬ長安に期待を膨らませていると、どこからとても小さな声が聞こえてくる。
『…け…』
「?」
『……た……て』
「あれ?」
「どうした?」
急に歩みを止めた双葉に悟空が尋ねるも、双葉は辺りをキョロキョロと見回す。
「声が聞こえるの」
「声?」
『……た……すけ……て』
周りはガヤガヤと商店街の活気で声など沢山飛び交っている。悟空には双葉の言うその声とやらは聞こえていない。しかし急に宿屋とは違う方向に歩みを進める双葉を慌てて追いかける悟空だったが、案外その声の元はすぐ近くにあった。
商店街の路地裏に小さな黒い子犬が倒れていた。
優しく持ち上げたその子犬は酷く傷だらけで泥だらけだが、汚れることもお構いなしに抱えた双葉。
「子犬…?」
「こいつすげぇ傷だらけじゃん!」
「手当てしてあげないと」
二人は子犬を連れて急いで宿へと向かい事情もそっちのけで八戒に子犬の傷を治してもうようにお願いをした。それから傷が治り子犬は気功術の暖かさですやすやと眠りに落ちた。
一連の流れを見ていた悟浄と三蔵も何がなんだか分かっておらず説明を求める。
「どうしたんだ?この子犬」
「それが双葉が見つけた?でいいのかな」
「なんで疑問形なんだよ。」
「俺にも良く分からんねんだよ」
「どういう事だ?」
悟空に説明を求めたがよく分からないため、三蔵が当事者である双葉へと疑問を問う。
本人はすやすや眠る子犬を膝へ乗せ柔らかな毛並みを優しく撫でる。
「──声が、聞こえたの」
「声?」
「うん…助けてって」
「…」
「ねぇ三蔵」
「駄目だ。」
双葉が何を言いたいか理解しているのか食い気味に答えられてしまう。拒否される理由は双葉にも分かっていた。しかしこの子犬との何かの縁にどうしても引き下がる事など出来ずにいた。
「…まだ何も言ってない。」
「旅には連れていかん。しかもそいつ「妖怪、だよね」…分かってたのか」
「でもこんな所にひとりぼっちに出来ないよ。面倒はちゃんと見るから、お願い三蔵。」
「……声が聞こえたと言ったな」
「?うん。」
その問いに答えた後何かを考える三蔵だったが諦めたのか大きなため息をつき始めた。
「はぁぁぁぁ勝手にしろ」
「……なんか三蔵この頃双葉に甘い時あるよな」
「今日から君はクロガネだよ。よろしくね。」
クロガネと名付けられたその子犬との不思議な縁を知ることになるのはまだ先の話──
