-無印篇-
「ねぇ、私達」
愛おしく微笑むあの人。
「このままひとつになれたらいいね」
僕が貴方の頬に触れると少し照れくさそうにしていた。一つ一つの仕草が愛おしかった。
「私、悟能の手好きだな。指も長くてすごくキレイ」
僕の手に貴方の手が触れてなぞる。
「ふふ、男の人に綺麗って変かな?」
――貴女の為なら、何でもできた。
貴女の為なら、何にだってなれた。
「逃げよう花喃!僕が守るから」
下を向き僕を見てくれない。
いつものあの微笑みを浮かべない貴女。
「……駄目よ悟能」
そう言ってゆっくり顔をあげ僕を見つめる…
「貴方の手、血まみれなんだもの」
目の前が真っ赤になったと同時に腹を食い破り数え切れない程の百足が湧き出し、身体に、顔に、這わせる愛した人の姿だった―――
――――――――――――――――――――――――
「ッあ……」
起き上がり目を開けると今見た光景とは違う月明かりが照らされた森の中。
先程の夢を頭の隅にやりながら荒れた呼吸を整えるようにもう一度座席に持たれかかる。
ここの所同じような夢で何度も目が覚める。
その後は決まって眠れない。
(――もう何度目だろう。夢の中で僕は、繰り返し貴女を失う。)
「――どうかしたか。」
「三蔵…」
隣で座って寝ていたはずの三蔵がその様子に気づき声をかけるも、八戒は強張った顔から無理やりいつもの笑みを作るように表情を変えた。
「何でもありません、寝相悪くて。ちょっと散歩に行ってきますね」
いつもの声と笑顔を作ってはいたが、その様子がいつもと違い何かあったのは明らかだった。
しかし、三蔵も深くは追求する事をせず八戒を見送った。
「気をつけろよ」
「はい」
八戒はそう言うと奥深くへと向かってフラフラと木々の中へと歩いていった。
寝ていたはずの悟浄がその後ろ姿を、頬杖をし片目を開け見つめていたが少し遅れて八戒の後をついて行く。
「なぁ三蔵…」
「起きてたのか。」
「いや、今起きたんだけどさ…双葉ずっと魘されてんの。起こしたがいいかな…」
爆睡しているだろうと思っていた悟空の目覚めに驚くも、当の本人が心配する人物に目をやると車体に持たれかかり、蹲るように丸まって眠っているが小さく魘される双葉の姿。
「心配なら起こしてやれ」
「うん…ってあれ?八戒と悟浄は?」
「……連れション」
変な間に何となく三蔵のそれが嘘だと気がついたがあえて何も言わず双葉を起こそうとしたその時、遠くから銃声のような音が響いて聞こえてきた。
その方角は2人が消えていった森の中、穏やかだった森が一変して空気が変わった。
「三蔵!」
「さっさと双葉を起こせ!行くぞ!」
「うん!」
───────────────
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「ねぇ、双葉」
優しく名前を呼んでくれる大好きな人
「私、双葉の髪も瞳も大好きよ。きっと神様からの贈り物なんだと思うの」
優しく微笑む貴方がそう何度も言ってくれたから、この異色な髪も瞳も悪くないかもと思えた
「双葉が心から笑顔になるの私は見たいな」
貴方がそう言うから鏡の前で笑う練習を何度隠れてしてみた
なのに……
「双葉が本当の家族だったら良かったのになぁ…そしたら…」
ねぇ…待って。置いて行かないで…!!
私笑えるように頑張るから!行かないで!!
ねぇ!!―――!!!
――――――――――――――――――――――――
「…い……おい!!双葉起きろ!八戒と悟浄がやべぇかも!!」
「!!」
夢から呼び戻され飛び起きた自分を待っていたのは、起こそうと両肩を持って上下に揺さぶ悟空を見る
「ご、くぅ?」
(さっきのは……夢、か。こっちに来てからは全く見なかったのになんで今…)
「寝ぼけてる暇ねぇぞ、さっさとしやがれ!」
柄にもなく少し焦っているような三蔵にやっと頭が覚醒しとりあえず言われた通りに二人について走りながら状況だけ簡潔的に教えられた。
ジープから少し離れた距離に二人は居たが焦る声で悟浄を呼ぶ八戒の姿に到着した三人も動揺をする
「――八戒!!何があった?!」
「悟浄が…!!」
状況を確認せんと三蔵が少し怒鳴り気味で声をかけるも、八戒も動揺しながら言った言葉に目線を悟浄に向ける。そこで見た光景は、悟浄の体がバネのように跳ね上がりそれと同時に身体中かビキビキと不気味な音を立て血管が浮き上がっていた
「な……何だよ、コレ!!」
「血管……!?」
「悟浄…!!」
「あ、うごあァあぁ――あッ……!!」
両手で頭を抱えると、身体を弓なりに反らして絶叫する姿に四人は悟浄の身体に起こっている事に頭が追いつけず何も出来ずに見つめていた。
双葉はその光景に我慢できずに悟浄の手を強く握る。
そして悟浄は顔を歪めながら口を開く。
「クソッ――血管の中を、何かが這い回って、やがる……!!」
「どうなってやがる!?」
「一体何が――」
《種ダヨ!!》
四人以外の奇妙な声に、一斉に振り返る。
そこには不気味な壊れた人形が転がっていた。
その人形にはあの麻雀牌の存在が見てわかる。
《ソイツノ身体ニ、種ヲ植エタノサ。血ヲ吸ッテ血管ニ根ヲハル、生キタ種ヲネ!!》
「……何だよアレ!?」
「気色悪い事してくれるっ!!」
カタカタと上下しながら話す人形に嫌悪を抱き吐き捨てる
「清一色の……使い魔です」
「あの野郎か」
八戒の言葉に三蔵は舌打ちをする。
人形は止まることを知らずカタカタと機械仕掛けの虚ろな瞳をこちらに向けて口を動かす
《ホラ、早ク種ヲ殺サナイト、ソイツモコノ森ノ木ノ一本ニナッチャウヨ?ソレトモソノ方ガ“えころじかる”デイイカモネ!!カカカカカカ!!ソウソウ、一応言ッテオクケド、種ハソイツノ心臓ノスグ隣ニ、植マッテルヨ》
止まることなく喋り続ける人形。
「……てめェ、何が目的だ?」
《――カカカ、カカカカカ!!》
そう問いかけられても人形は嘲笑う。その声は機械音なくせに妙に生々しく聞こえフツフツと怒りが込み上げてくる。
《楽シイ……楽シイヨ猪悟能!!君タチもハヤクコッチへオイデヨ!!》
そこにいるはずのない清一色本人が嘲笑い、きっとこの状況を楽しんでいることは見なくても分かる。
双葉は心底怒りが湧いてきて力のコントロールを忘れた時、無意識に暗器が発動し人形を破壊した。
いつもと違い冷酷な表情で壊れた人形を鋭い目付きで睨みあげる。
近づいてきた人物に目をやると眉間のシワを一層増やしている三蔵だった。
「……いい御趣味だよ。あの変態野郎が。悟空!八戒!悟浄の腕押さえとけ!!」
「え?うんっ」
「何をする気ですか?」
三蔵の意図に戸惑いつつも呼ばれた2人は悟浄の腕を片方ずつ押さえ込む。
「……満足か?清一色。これがてめェの望みだろ!!」
三蔵はそう言って振り返り袖口から出した銃を悟浄に向け突きつけた。それは普段ふざけながらよく見る光景、しかし今は状況が全く違う。
今の三蔵の表情は真剣そのものなのだ。
「なッ…三蔵!?何やってンだよ!!」
「もしかして、撃ち抜く気!!?」
「待って下さい!!的が小さすぎる……それに、例え種を撃ち抜いても心臓へのショックが「八戒。俺が撃ったら即傷を塞げ」
止める言葉も耳を貸さず、三蔵はトリガーに指をかけた。銃を下ろす気など更々無い彼は覚悟を決めた瞳をしていた。三蔵が意図するとこが理解できた。
「八戒変わって。私が悟浄の腕抑えるから三蔵が撃ったら間髪入れずに塞ぐことに集中して」
「しっかり押さえとけよ、悟空!」
「うえ〜…、まじかよ〜」
これしかないのなら、これしか方法がないのならこの可能性にかけるしかない。それでもリスクを最小限に抑えられるように……
そう分かっていても不安が拭えない。
「俺は絶対に外さん。これで死んだら悟浄の柔な心臓の所為だ」
装填した銃器を構える三蔵、不安なのはきっと彼だって一緒だ。
「…あー、すっげむかつくっ。ぜってー死なねぇ」
仲間同士でこんな事をさせ、あの気色の悪い笑みを浮かべる清一色が頭を過ぎる。この手のひらで転がされているような感覚に虫唾が走る。
そして自分はただ腕を抑えるしか出来ず三蔵に嫌な役回りをさせてしまうことにも歯がゆさを感じ下唇を噛んだ。
「減らず口を閉じんと舌噛むぞ」
ガウン、と響いた銃声と共に、悟浄の血が飛び散る――
「がはッ」
血管が消える代わりに、悟浄の意識も手放されていく。
「──悟浄!!」
「チッ」
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「──傷、塞がりました。意識は失ってますが、脈は正常です」
八戒の報告に双葉と悟空が安堵の声を上げる。
「はぁーっ、こっちの心臓に悪いぜ、ったく!!」
「良かった…悟浄…」
「……――僕のせい、なんですね」
「八戒?」
悟浄の隣で座り尽くし俯いたまま呟く八戒に、目線を向ける。
「清一色の狙いは明らかに僕だ」
「やめろ」
「でも三蔵!!」
「落ち着け!!ここでお前が取り乱したらそれこそ奴の思うツボなんだ!!」
「そうだよ…落ち着いて八戒」
三蔵は八戒の胸倉を掴みあげた。
このメンバーの中でいつも物事を冷静に判断し対応する2人の言い合いに双葉が間に入ろうとした時、八戒の体が倒れて行った
「――!おい!?」
「八戒!?」
1番近くにいた三蔵が倒れた八戒を受け止める。
双葉も数歩遅れて駆け寄るも気を失っているがその表情は疲労と睡眠不足のせいで真っ青──
「……水持ってこい悟空!」
「わかった!」
三蔵に言われ悟空は来た道を引き返して行った。
八戒を悟浄の隣にゆっくりと寝かせながら三蔵は溜息を漏らす。
「ここ最近ろくに寝てなかったらしいからな。無理もねェか……」
「三蔵、私も悟空を追いかけるよ。一人じゃ危険だから」
「待て。…お前も最近ずっと魘されてたぞ。大丈夫なのか?」
「……私なんか、全然大丈夫だよ。八戒に比べたら…」
そう返事を返すともう見えなくなった悟空を追いかけるように走る。
(猪悟能が八戒ならこの経緯も辻褄が合う。そうなるとあのクソ野郎の目的は明らかに八戒を壊すこと。なんでそんなことするかは知らないけど多分二人は面識がある。どちらにせよこんなやり方……)
「許さない……!!」
「おや?何を許さないんですか?」
「!!?」
走る背後に音も気配もなく現れたのはこのクソみたいなシナリオを作り上げた張本人の姿。
突然現れた背後の気配に咄嗟に距離をとり、暗器のクナイを2本構え持つ。殺気立った気配で清一色に睨みつける。
「本当に嫌われたものですね」
「逆にこんな事しといて、好かれるとでも思ってるの?…そうだとしたら頭沸いてんじゃないの?」
先程の事と言い飄々と余裕のある態度も相まってより一層腹が立ちクナイを投げるも交わされ、ならばと距離を一気に詰め体術戦で攻め立てる。
しかしその攻撃すら飄々と余裕な素振りで避けられてしまう。
「いやはやお強いですね。しかし」
「くっ!!」
地面から伸びてきた根のような物に体が巻き付き捕らえられてしまう、力強く抵抗を試みてみるも全く動かない。
そんな自分に対して気色悪い笑みで近づいてくる清一色。そして動かないことをいいことに顎を持ち上げられる。
「あなたにもこの舞台の出演者となって頂かなくては行けないで少々大人しくしていただけますか?」
「…私をどうにかしたところで別に意味ないと思うけど?」
鼻で笑うもそれはそれは可笑しそうにする清一色は髪の毛をさらりと触らり双葉は気持の悪さが増していく。
「おやおやご謙遜な事を。…しかし見れば見るほど本当にお美しい方だ。紫のシルクような髪に宝石のように角度を変えればグリーンサファイアにエメラルドグリーンにも見える瞳。…そんな風に睨みつけられるとゾクゾクしますね。」
「その手離してくれない?生憎変態は大っ嫌いなの」
「いいですねぇその強がり。ところで猪悟能の事分かりました?」
「そんな人知らない」
「ご冗談を、貴方のような賢明な方なら大方予想は出来ているはずです。それとも本人から言われるのを待つおつもりですか?」
「その人の検討がついてようとなからろうとアンタなんかに関係ないと思うけど?」
余裕のある態度を崩さない双葉にますます面白いと言わんばかりに笑い声を上げ顔を近づけてくる。
「くっくっくその強がりもいつまで保てることでしょうね。そうですね…ではその検討がついている方は貴方に、どんなことをすると悲痛な顔に歪むのでしょうかね?…ッ!」
その一言に自分の中で堪忍袋の緒が切れる音と共に、ナイフが清一色の頬に一線入れる。それと同時に自分の周りの空間からクナイやナイフを召喚する。
「アンタ、いい加減にしなさいよ。次何かしてみなさい…タダじゃおかないわよ」
「やはり面白い方だ…しかしそろそろお眠りになっていただきましょう。何せ次が詰まっていますからね」
「ッ!!!」
首元に何かを刺され何かを企む清一色の顔を見ながらそのまま意識が遠のいて行ってしまう……
(八、戒……)
――――――――――――――――――――――――
夢を見た。
愛した貴方との幸せな日々を。
僕の人生の中で命をかけてでも守り抜くと誓った。
なのに――
『――僕を殺して』
その誓いも虚しく幸せな日々から一転、後悔や絶望そして自らの死を望む程の自責に駆られた過去の夢――
「ただいま。ごめん遅くなって。生徒達と遊んでたんだけど、なかなか終わらなくてさ……――花喃?」
いつものように扉を開けば、いつものようにこちらに気がついて笑いかけ迎えてくれる貴方を想像していた。
そんな当たり前が今日も続くと思い込んでいた。
扉を開けて目に飛び込んで来た光景は朝出た時とは違い、激しく荒れた我が家とどこを探しても見つからない貴方だった……
「仕方ない。仕方なかったんだよ……!花喃を差し出さなければウチの娘が連れてかれてたんだ!!あんたも知ってるだろう。【女狩り】の百眼魔王の一族がこの町に来たんだよ!」
一人の犠牲で皆が助かりよかったと口々に話している。
「――それで、花喃を身代わりに……?」
「あぁそうさ!!俺の大事な娘をあんな化け物にやってたまるか!親もいないあんた達にはわからないだろうがな……!」
この人達は何を言っているのだろうか……
仕方がない?何が仕方がないんだ?
そんな理由で化け物に花喃を、僕の最愛の人を渡したと言うのか…?
安堵する町の人々に吐気と嫌悪さえ抱く、そして同じ人間だとは思えなくなった。
なんて残酷な生き物たちなんだろう。
こんな奴らの為に花喃は……!
そう思うと虚ろな目で目の前の醜い生き物達を見据えた。
『きみを愛してる』
ねぇ、花喃。
町外れの子供塾で働けることになったよ。
この辺は学校なんてないし僕達みたいな孤児でも通える様な所なんだ。
給料はあんまりいい方じゃあないけど二人で食べていくには充分だと思う。
……だから、一緒に暮らそう。
「悟能、私達もう、独りじゃないんだね。」
僕が大好きな優しい微笑みを浮かべる貴女。
握る手は、いつだって優しくて暖かかった。
「花喃、花喃ごめん。好きだって言ってたのに……この手、真っ赤なんだ。助けに行くから、花喃。必ず行くから」
部屋中に血が飛び散り、周りには動かなくなった生き物だった物が転がっていた。殺めたのは自分だ。
あの時握った手、大好きだと言ってくれた手は、今はもう真っ赤な血に染まって汚れていて誰も握らない。
――――――――――――――――――――――――
右手をぼんやりと朧気な意識のままじっと見つめている八戒に気が付き新聞を読んでいた三蔵が目線をずらし声をかけた。
「起きたか。人を治して倒れてちゃ世話ねーな」
「……ここは……」
ぼんやりとする意識を覚醒させようと周りを見るも薄暗い洞穴の中、出口から見えるのは霧がかった景色だけ。
「あれから半日程しか経ってない。まだ森の中だ」
「そう…ですか。…すみませんでした」
「霧がひどい。なんにせよ今は進めんさ」
だんだん覚醒する中、思い出した倒れる前に起こった出来事。周りを見ても倒れる寸前まで怪我を直したその人物は見当たらないことに不安を煽る。
「悟浄は?」
「残念ながら御健在だ。今は野暮用で出てるがな」
その言葉に強ばった体の力が抜ける。
何故奴が襲ってきたかは分からずとも狙いは明らかに自分の筈だった。
なのにあの時は悟浄を狙った。
どんな理由にしろ自分のせいで悟浄に怪我をさせてしまったことが八戒の中に自責の念が宿る。
そんな考えを知ってか三蔵が口を開く。
「……他人のことより手前の心配をしたらどうだ。あの変態易者に覚えは?」
「いいえ――でも向こうは僕の過去を知っていて、そして、僕を憎んでる」
「…アイツには話してねぇのか?」
三蔵の言うアイツが彼女の事だろうと直ぐに分かった。このメンバーの中で唯一八戒の過去を知らない人物は1人だけ。
「話せませんよ、双葉には。妖怪だってことさえ話してませんしね…」
こんな汚い自分を彼女だけには知られたくない。
見られたくない。何故だかそう思い話を切り出すことをしなかった。
力なく笑みを作り顔をする八戒に三蔵は鼻で笑った。
「1番懐いてるアイツに知られて拒否られるのが怖いか」
「…そう、ですね。」
「フン、お前はアイツの事を1番知っていると思っていたがそうでもないな。」
「どういうことですか?」
「アイツの事を見くびりすぎだな。……しかし百眼魔王の一族に生存者がいたという噂も、あながち嘘ではなかったってことか」
『百眼魔王』そのフレーズだけでも八戒の中に憎悪を甦らせる。
「……一人残らず、殺したと思ってました」
「“ツメ”が甘いんだよ」
「坊主の台詞かぁ?それ」
洞窟の外から聞き慣れた声ととも現れた悟浄に、倒れる前と違いいつもの元気な悟浄の姿に安堵する八戒。
「ダメだわ。スゲー霧で、この辺一帯捜したけどよ」
「捜…したって、何を……」
安堵したのもつかの間、悟浄の言葉にハッとして辺りを見渡す。そこにはいつも明るく元気な悟空と、無表情ながら懸命に笑おうと努力する双葉の姿がどこにもないことに気づき焦りを見える。
「悟空と双葉は……?二人がどうかしたんですか!?」
「何お前言ってなかったの?」
「黙れ。――八戒が倒れた後、悟空が水を取りに行ってそれを追いかけた双葉もろとも消えた。ジープごとな」
「――ッ!?」
聞きたくなかった状況にいつもの冷静さが無くなる。
こんな時に二人して消えるなんて、もし悟浄のように何かあったら……!
そう思い探し立ち上がろうとするも悟浄から頭を抑えられ制止されてしまう。
「だからここにいろっての!奴の狙いはお前なんだからよ!」
「これ以上僕のせいで、誰かが傷つくのを見てろって言うんですか!?」
「……【無一物】という言葉がある。禅道の教えのひとつだ」
睨みつけらしくもなくくってかかる八戒をよそに、三蔵の低い声が洞窟ないに響いて聞こえた。
「【仏に逢えば仏を殺せ】、【祖に逢えば祖を殺せ】何物にも捕らわれず縛られず、ただあるがままに己を生きること……先代が俺に説き継がせたのはそれだけだ。だから俺は殺し続ける。俺の行く手を阻む全ての物を。それが誰の敵であれ同じことだ」
一見厳しくも聞こえるが三蔵なりの優しさに、気づいたからこそ八戒は黙り込む。
「わかったら、頭冷やしてさっさと体調を整えるんだな。足手まといは必要ない」
そう言うと三蔵は悟浄は洞穴の外へと消えていった。
それをただ見送る事しか出来ず、言われた事を自分の中で受け止めようやく冷静さを取り戻す。
後先考えずに行動すればきっと奴の思うつぼ、そうなれば今度こそ皆を危険に晒してしまう。
いつもならそんな事冷静に判断できている筈なのに、我ながらみっともない。三蔵の言うことは一理ある。
「――その通りですよ。まったく」
自嘲気味に八戒は一人呟いた。
外では悟浄が三蔵を見てニヤニヤしていた。
「……何がおかしい」
「いんや別に?玄奘三蔵サマの説法が聞けると思わなかったからよ」
「死にたくなかったら二度と口にするな」
言いたいことが分かっているからこそうざったそうにする三蔵に、咥えていたタバコに火をつけてやる悟浄。そして2人してタバコを吹かし空を見上げる
「――で、どーすんの?」
「何が」
「サルと姫様だよ!何がじゃねーっつの」
「……悟空と双葉は行方不明。霧は明けない、八方塞がりだな」
「なーんか、アイツの卓の上にいるみてえでぞっとしねーぜ」
2人分の紫煙が空へとを立ち込める。
「さしづめ、俺ら五人の誰か一人でも欠けたら奴の勝ちってトコか?」
「死なねェよ。俺負けんのちょー嫌い」
「……『ちょー』はやめとけ」
「じゃ、何?」
「『激嫌い』」
そんなやり取りをしながらどうしたもんかと考えていると、今だ晴れることの知らない白い霧から人影のような物体を捉えた。
「…あ?」
その人影は見知った姿に形をなして行き、徐々にこちらに向かって走ってきている事に気がつく。
「――おい!あれ……」
悟浄の指さす方を見つめるも、三蔵はどことない違和感に襲われ眉間にシワを寄せる
「あー、いたいた」
「悟空!」
「置いていかれたのかと思ったぜー!」
「~~んだよ!何やってんだよ、てめぇわよぉ?!」
「あいたたた!!」
駆け寄ってきた悟空の首を腕で絞める悟浄
「水取りに行ったはいいけど迷っちゃってよぉー」
「この馬鹿猿!!」
「じゃ清一色にやられたわけじゃないんだな。人騒がせな。」
「──悟空!」
騒がしさに気付いた八戒が洞穴から出て、悟空に駆け寄り両肩に手を置いて項垂れた。
「…良かったぁ…あんま心配かけないでください、もう」
「うん、ごめん」
やはり何かが違う。姿は悟空なのだが何か…
このどことない違和感に決定打を打つ為に、三蔵が悟空を呼んだ。
「ジープはどうした」
「え?いや、俺知らねぇけど」
──腹減ったー!!……えっ!?双葉とジープいないのか?!
「霧が明けたら双葉とジープも戻ってくるだろ。こんな森早く出よーぜ」
――やべぇーじゃん!!早く探しに行こうぜ!!
いつもの彼ならそう返すはずが、それだけ言うと先に進もうと歩き出した悟空。
そのやりとりで、この場にいる悟空以外の全員が感じた違和感が確信へと変わる。
「…悟空」
三蔵の声が、遠くに響いた。
「え──」
いつも見せるような笑顔を見せながら振り返った先には三蔵の銃口。
その瞬間、強張るその表情。
本当に外見だけ良く出来た偽物。
「な…、」
「お前じゃない。俺が呼んだのはあの馬鹿猿だ」
「どうしたんだよ、三蔵?!冗談やめろって」
つくづくタチの悪いものばっかり仕込んでくるものだ……
「俺だよ三蔵!」
──あぁこの声は、本当に耳障りだ。
「もう1つ付け足す」
三蔵の怒りが込みあがり引き金に掛けてる指に力が篭る。
「気安く俺の名を呼んで良いのも、」
そのまま引き金が容赦なく引かれた――
「あの馬鹿猿だけだ」
銃弾が目の前の偽物の額に命中し、ゆっくりと倒れていく。
倒れた後ゆっくりと土人形かのようにボロボロと崩れ消えていき最後に残ったは白一色の牌のみ。
「…出て来いよ、清一色。三蔵様かなりご立腹だぜぇ?」
霧の奥を見つめれば返事をするかのように声が響いてくる。
「格好良いなあ」
霧から現れる姿に一斉に振り返る。
「見くびってましたよ、貴方達を」
晴れた霧と共にいやらしい笑みを見せる男の姿。
今まで散散この状況を仕組み陰から楽しんでいたが要約あの日以来現した。
「ごきげんよう良く出来た人形だったんですけどねえ――どこでバレました?」
つくづく馬鹿にされたものだ。
「勉強不足なんだよ」
「悟空の第一声は、」
「腹減った、だ」
三蔵が狙いを定め、
「──難しいなあ」
清一色を銃弾が襲い掛かる。
開戦の幕開けだ――
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