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-無印篇-



双葉が旅に合流して早1ヶ月。
八戒が先生を買って出てくれたおかげで何とかこの異国の地での読み書きができるまでになり、今では車に揺られながら分厚い本を読むこともしばしば――

「なぁなぁ双葉何読んでんの?」
「えーと初心者向け 暗器の使い方…ってなんつー本読んでんだよ…」
「どこで売ってんのそんな本…」

静かに読書する双葉の手に持たれているのは『初心者向け 暗器の使い方-これで君も暗殺者に!-』などと書かれた物騒な本だった。
さすがに引き気味の2人だが双葉は至って真面目である。

「?だって今まで暗器なんて触ったことないから正しい使い方、知っておかないと危ないじゃない?」
「どんだけ真面目ちゃんなんだよ…」
「しかし本当に凄いですよね。1ヶ月で読み書きできるようになって今ではそんな分厚い本まで読めるなんて」
「それは八戒先生のおかげです」
「いや確かに八戒のおかげもあるだろうけどよ…」
「あれは、…根気詰めすぎって言うだよ」
「だな」

そう言われても当の本人はケロッとしているが4人は1ヶ月の間、朝から夜中まで暇さえあれば読み書きの復習をする姿を思い出す。さながら受験勉強かとツッコミたくもなったが本人が至って真剣にやっていたので口出しせず見守っていた。

「こんだけ揺れてんのにそんな分厚い本読めるのもすごいけどな」
「酔ったりしないの?」
「全然?大丈夫」
「でもそろそろ直してくださいね。次の町に着来ますよ」
「はーい」

そんな一行は今日も今日とてジープで揺られ他愛ない会話をしながら次の町へと向かうのであった――


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「うわぁー店がいっぱいだっ!」
「こんなに賑やかな町は久しぶりだな」
「あぁ」
「妖怪の影響をあまり受けてないんでしょうね」
「はぐれそう…」
 
着いた町は人も店も多く、人の波に飲まれそうになる。この1ヶ月の旅の中でも1番人の行きかいが激しい。人の多いところは昔から苦手な双葉。
さすがにこんな場所ではぐれてしまっては合流できる気がしないなと八戒か悟浄の服を掴もうと思っていたのもつかの間すれ違う人々にぶつかった瞬間、気がつくと前を歩いてはずの4人が消えてしまった…と言うより自分が流されたという方が正しい気がする。

「あ、本当にはぐれた…」

辺りを見てもそれっぽい人物達は居らずとりあえず脇の路地に逃れることにした。
車酔いはしないがこの人の多さと慣れてないせいで人酔いしてしまい気持ち悪さが込み上げてくる。
とりあえずしゃがみ混み行き交う人々を眺める。

「どうしよう…」
「おやおやこんな所でどうしたんですか?」
「ッ!!?」

みんなを探そうにもこの人酔いの気持ち悪さでまた人の波に乗るのは正直しんどいと感じながらどうするか考えていると背後からぬるっと現れた気配に驚き振り返る。
背後に立っていたのは嫌な雰囲気をし、いやらしく気色の悪い笑みを浮かべる男の姿。

「驚かせてしまいすみません、しかし何かお困りのようでしたのでお声をおかけしたんです」
「そうでしたか…すみません。連れとはぐれてしまったので探しに行こうと思っていたんです」
「それは大変ですね。あぁそうだ、私占いが得意なんですよ。だからそのお連れの方々がどこにいるのか占って差し上げますよ」
「結構です。生憎、占いは信じないタチなので」
「それは残念、警戒されてしまいましたね…いやでもしかし女性と行動を共にするとは…つくづく懲りないお人ですね…猪悟能」
「…」
(猪悟能って誰?苗字は八戒と一緒だけど…てかこの人凄く嫌な感じ。早くみんなと合流しないと…)

現れた時から感じていた嫌な雰囲気に直感が危険を知らせる。目の前の男への警戒心に少しずつ距離を取るも、こちらの警戒心に気づいていながら男は不敵な笑みを浮かべる。

「私、猪悟能って人知らないのでもう行きますね。」
「あぁあなた猪悟能を知らないんですね。くくっそうですか。あなた何も教えてもらえてないんですね」
「さっきからなんなんですか…喧嘩売ってます?」

何かを知っている素振りを見せる男にだんだん苛立ちが湧いてくる。しかしここでそれを見せてはきっと相手の思うつぼ…ならば冷静を保つべし

「知らないのなら私が教えて差し上げますよ」
「誰のことを言ってるのか知らないけどアンタから教えて貰わなくて結構。私、本人から聞いた話しか信じないタチなの。」
「せっかく、何も知らずにあの偽善者と一緒にいる可哀想なあなたに親切に教えて差し上げようと思っていたのに…まぁいいでしょう。あぁ自己紹介がまだでしたね、我が名は清一色。…そうだ。あなたのお探しの方々はあちらの広場の方にいらっしゃいますよ…林崎双葉さん。」
「ッ!!!」

教えていないはずの名前を呼ばれ警戒態勢を一層上げ構えるも目の前にいた男は嫌な笑みを浮かべながらその形を保たず崩れていき最後に残ったのは砂と麻雀牌だけとなった
麻雀牌を拾い上げると偽の文字。

「とにかくみんなと合流しないと…」


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広場へと走って向かう双葉だが先程の人酔いがまだ治ってないせいで途中気持ち悪さが込み上げる。
しかし進むに連れて大きな音がだんだん近づいてくる。それに答えるように多くの人たちが自分とは真逆の方向へ走って逃げていく。
人混みをかき分け逆らうように目的地へ向かいようやくたどり着いた頃には、見慣れた4人と知らない人達の姿が周りは建物が激しく破壊されて何かと戦った後のような状況。4人の元へと走って駆け寄って行く。

「みんな!」
「こんのバカ犬!どこいってやがった!!」
「っ!!?」

駆け寄ってくる双葉に1番に気がついた三蔵が近づいてきたかと思えば懐からこの頃よく見慣れたハリセンで勢いよく後頭部目掛けばっしーん!!!っといい音を立てながら叩かれた。その衝撃に頭を抱えてしゃがみこむ。
そんな光景を見ながら三蔵に遅れ他の3人も後頭部を抱える双葉に駆け寄って来た。

「…痛い。しかも犬って…」
「おいこら生臭坊主!そんなんで女の子叩くな!」
「双葉!どこに行ってたんですか?怪我してませんか?」
「心配したんだぞ!」
「たった今頭怪我した…ごめんなさい。人混み、慣れてなくて気がついたら流されてた…」
「僕達も気づかずにすみません。何も無かったですか?」

その言葉に先ほどの気持ちの悪い笑みを浮かべる男を思い出した。
 
(そう言われたらあの男、猪悟能がどうとか偽善者と一緒にとか言ってたけど4人のうちの誰かと知り合いって事かな…でも私だけが知らないって事は聞かない方がいいよね…)
「双葉?やはり何かありましたか?」
「!うぅん大丈夫何もなかったよ、ちょっと人酔いして気分が少し悪かっただけ。…それよりさっきからそこにいる人たち誰?」

そう先程からずっと驚いた顔で大人しくこちらを見つめている知らない4人組にはてなを示す。
雰囲気を見るに妖怪なことには気がついていた。
すると赤毛の男が口を開く。

「この頃一行と共に行動する女がいると報告があったがまさか本当だったとは」
「鬼のように強い女だと言ってたからどんなゴツイ大女かと思ってたらなんだ可愛らしい嬢ちゃんじゃねぇか」
「ご、ゴツイ大女…」
「可愛らしいじゃなくて可愛いうちの姫様なんだよ」

さすがにゴツイ大女と思われてたのはショックだが悟浄のフォローに恥ずかしくなり八戒と悟空を盾に隠れる。

「まぁいい…1つ詫びておこう」

三蔵が僅かに顔を上げた。

「俺は自分の歩んでいる道に疑問を抱いていた。迷いを持って闘いに挑んだことは貴様らに対して無礼だったと思う…だが、俺には善悪では計れないほど大事なものがある。だから次は、すべてをかけて貴様らを倒す。――俺のために」

ニッと笑った赤髪の彼はどこかカリスマ性を感じた。
悟空もその笑みにつられてニッと笑う。

「“倍返し”まだ足りてないぜぇ?」
「ツケとけよ。すぐに払ってやる」
「さ・ん・ぞーっ!!今日は楽しかったよー!!また来るからねー!一緒に遊ぼーね!お姉ちゃんも!」
「誰が遊ぶか、このクソガキ」
「えっ…どうも?」

女の子が赤毛の男の肩に飛び乗った勢いで少し呻き声が漏れる。三蔵も懲り懲りだと言わんばかりに返事を返し、双葉も自分に振られるとも思っていなかったので驚きながら返事をする。
悟浄も煙草を取り出し高身長の男に話しかける。

「次は土産くらい持って来いよなぁ?」
「そっちこそ茶ぁぐらい出せや」
「お怪我の方、お大事に」
「はい。皆さんもお元気で」

女性がお辞儀をし八戒もにこやかに微笑んだ。
ザッと消え去った敵陣を見送って、悟空が両手を背組んだ

「「お元気で」――って言われちゃったよ」
「ははっ!」

煙草に火をつけながら悟浄がごちる

「やりづらい敵だぜ、まったく」
「おそらく奴らでさえも誰かの駒の1つだろうな。牛魔王の蘇生を目論み、この世界に混沌を呼んだどっかの馬鹿は」

三蔵が思案するように話をする背には夕日が沈む。

「紅孩児の後ろにいる、俺達が倒すべき真の敵だ」
(紅孩児…確か牛魔王の息子って言ってたっけ…でも敵対してるようには見えなかったな…)
「…とにかくこの街を出た方が良いな」
「ああ」

進み出した三蔵達に1歩遅れて歩き出そうとしたときだった

「──っ、が、かはっ!ゲホっ…」

苦しそうな声に驚き振り返ると八戒が足を着いて息苦しそうにしていた

「八戒?!!」

八戒に駆け寄り背を撫でる、双葉の声に先に進んでいた3人も驚き引き返してきた。

「大丈…夫、何でもありません」

背中を擦りながらふと八戒が握りしめる物に目が行き驚いた。その手の中には罪の文字の麻雀牌が握られていた――
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