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-無印篇-




ー桃源郷ー



「あぁぁぁぁ!!!腹減ったったら腹減ったぁぁぁぁ!!!」
「うるっせんだよ!!お前はそれしかないのか!!」
「おい猿、生臭坊主様はヤニ切れ気味でイラつきMAXなんだから少しは大人しくしてろ!」
「ついでに次の村までまだかかる予定ですからね」
 
辺り一面砂漠の中を4人の男たちがジープに乗って走っていく
 
「仕方がありません。日も落ちて来ましたし、今日はここら辺で野宿の準備をしましょう」
「飯だぁぁぁ!!」
「だからうるせぇ!!!」

スパーン!
どこからが出したか分からない大きめのハリセンで金髪の僧侶が騒いでいた少年の頭を強く叩く。
 
「痛てぇぇ!!…ってあれ?」
「どうしました?悟空」
「いや、あれって人?」
「あ?こんなへんぴなとこに人なんて……あれま本当だ」
 
野宿をと思い止まった場所から少し離れたところに人影。その人物はこちらに気づくと歩み近づいてきた
 
「こんにちは。あなた達が西へ旅してるっていう人達ですね。」

一行の前に歩み寄って来たのは長い紫の髪を靡かせ、きらりと輝くエメラルドグリーンの瞳を持つ無表情な1人の少女。僧侶はそんな少女に短銃を向ける。

「貴様何者だ」
「あなたが僧侶…確かに金髪ね…」
 
短銃を向けられたというのに怯えるどころか顔色一つ変えずに、無表情のまま自分を見つめ独り言を言う少女に眉を寄せる
 
「あ?」
「あなたにこれを渡すように言われました。観世音菩薩様って言う人に――」
 
聞き覚えのある名前に反応し手渡された紙を受け取り内容に目を通すがその内容により一層眉間のシワが深くなる
 
「ッチ!」
 
舌打ちと共に持っていた紙を赤髪の青年に投げつける

「どうしたんだ三蔵?」
「なんて書いてあるんですか?」
「えーどれどれ…その者も一緒に旅へと同行させよ。さもなくはカードの使用を止める。観世音菩薩より…ってなにこれ」

手紙の内容にはぁとため息と共に加えていたタバコの煙を吐き出すと僧侶が面倒くさそうに話し出す
 
「旅に出る前、三仏神から途中女と合流するように言われていがお前のことか」
「…多分」
「ッチ!めんどくせぇ…」
「よく分かんねぇけど一緒に旅するってこと!?」
「そういう事みたいだぜ。むさ苦しい男の中に可愛い女の子が入ってくれるなんて嬉しいことこの上ないぜ」
「これから一緒に旅をするという事は自己紹介しなくてはですね。僕は八戒と言います。こちらが玄奘三蔵」
「はいはい!俺は悟空って言うんだ!でこっちがゴキブリエロ河童!」
「誰がゴキブリエロ河童だ!チビ猿ちゃんは黙ってろよ!俺は悟浄よろしくな」
「林崎 双葉です。よろしくお願いします。」
 
淡々と自己紹介を初める4人に三蔵は気に食わんと言う顔で止めに入る
 
「おい。俺はこいつを旅に同行させるのを認めてねぇぞ」
「三蔵。そんなこと言ったって双葉さんを同行させないとカードの使用も出来なくなるんですからね?そんな事になったら始まったばかりの旅が無一文からの開始になっちゃいますよ」
 
三蔵を見ながら八戒はため息混じりに論破しその説明から更に悟空がいち早く反応する

「そうなったら飯食えないじゃん!!!」
「いやそこかよ!」
「ごはん所かあなた達タバコも買えませんよ」
「チッ!!めんどくせぇ!!」
 
まだ納得いかないと言う顔の三蔵をよそに今日はここで野宿をするということで一行(三蔵除き)と準備をし夕飯を食べることに
 
「双葉さんは何か嫌いなものなどはありませんか?」
「はい。ないのでお構いなく。」
「なぁなぁ双葉のその服装変わってるな!どこから来たんだ?」
「確かにミニスカでいいよな」
「悟浄、教育的指導」
 
よそってもらった器を受け取る双葉をキラキラした目で見ながら興味津々に聞く悟空と双葉を上から下まで見て鼻の下を伸ばす悟浄に八戒はどこから出したのか分からない笛を吹きながら悟浄に制裁を加えていた
 
「こことは別の世界から来ました。私の通っていた学校の制服です。タイミング的に学校へ向かってる途中、急にこちらの世界に来たのでこの服装のままだったんです。」

これまた表情を変えずスラスラ答えるが自分が向こうで死んだことは別に話すことでもないと思いそこは伏せて話した。
そんな双葉を見ながら聞き流してはならないワードに悟浄と悟空の動きが止まった

「待って今サラッとすっごいこと言わなかったか!?」
「双葉って別の世界から来たの!!!?」
 
驚いたのは2人だけではない八戒と三蔵を箸を止め双葉を驚いた顔で見つめる
 
「はい。信じてもらえないと思いますが」
「じゃあさ!双葉の世界にも美味いもんいっぱいあんの!??」
「だからそこじゃねぇだろ…おめぇはまじで食いもんしかねぇな」
「そう、ですね…こちらの料理を知りませんがあの世界にも美味しい物はいっぱいありました。機会があれば今度お作りしますね。」
「わーいやったー!!!」
 
本当なら別の世界から急に来たとなれば動揺の1つでも見せるはずが、出会ってから今まで表情1つ変えない少女に三蔵はどこか違和感を覚えた。
 
「おい。そんな状況なら普通動揺の1つでもするだろ。自分の意思で来た訳では無いなら尚更な。それなのになぜお前は表情一つ変えずに平然でいられる。」
「…昔からどうやら表情筋を動かすことが苦手らしくよく表情が死んでいると言われます。お気に触るようでしたらすみません。」

ご馳走様でした。と言い残し荷物を持ち上げそそくさとどこからへ向かって行ってしまった
 
「えっちょ双葉!?」
「あ〜ぁ…もうちっと言い方がないかね…」
「三蔵…」

当の本人は煙草を咥え火をつける
 
「八戒、あまりあの女から目を離すなよ。やはりまだ信用ならん。」




双葉は先程より少し離れた所に流れていた小川に腰がけ、観世音菩薩から渡されたリュックの中身を確認し始めた。
 
「アメニティ、救急箱、寝袋、着替え。…ん?これって…」
 
手に取ったのは見慣れたアルバム。
開いて最初に目に入ったのは満面の笑みを浮かべ双葉を抱きしめる女性との写真が沢山入っていた。
まさか大切なこの写真たちをこちらに持って来れるとは思ってもいなかったのでとても嬉しい。
どれを見てもいつも笑顔で写る女性にそっと触れる
 
「よく分からない所に来ちゃった…これでも一応動揺してるんだけどなぁ。…正直、人ともう関わりたくないって、まだ思ってる…ねぇこんな弱い私に力を貸して…」
「双葉さん?」
「!!」

後ろの茂みから顔を出したのは八戒だったが気配には敏感な方の双葉は全く気づかなかったのでアルバムを勢いよく閉じ驚いて振り返る

「八戒、さん」
「すみません驚かす気はなかったんですけど」
「いえ、大丈夫です…」
「隣、いいですか?」
「はい」

広げていた荷物を速やかに直し座るスペースを開けるとそっと八戒が腰かけた
 
「先程は三蔵がすみません。言い方があぁですが悪気はないのであまり気にしないでくださいね」
「はい。大丈夫です」
「そうですか…」
「表情が豊かになればいいなとは思っているのですが、上手くいかなくて…。前はまだ少しは笑えたり出来てたはずなんですが…」

三角座りをし表情がなくても明らかに落ち込んでいる事が分かる双葉に笑みがこぼれる。

「そんなに落ち込むこともないと思いますよ?」
「え?」

落ち込んでいた顔を上げるとこちらに微笑みながら覗き込む八戒の姿

「だって近くで見ると双葉さん結構分かりやすいですし。表情って言うか表現が豊かですね」
「…!!」
『双葉は自分が思ってるよりも結構分かりやすくてずっと表情ってより表現豊かよ?』
 
重なって見えたのはもう会うことが出来ない大切な人

「それにそんなに悩んでいてもうちには元気の化身のような悟空もいますし、そのうち釣られて笑えるようになると思いますよ」
『そんなに悩まなくたって何かの拍子で釣られてそのうち笑えるようになるわよ』
 
あの人と同じことを言う八戒に驚き目を見開く。
元の世界ではこの容姿のせいもあって気味悪がられ嫌悪の対象だったのでそんなことを言ってくれる人などあの人以外居なかった。

「双葉さん?」
「双葉でいい、です。…そっちの方がいいです」
「分かりました。双葉も僕のことは八戒と呼んでください。みんなそう呼んでいますし。あと敬語も使い慣れてなければ普通にしてていいですからね」
「…うん。ありがとう、八戒。」
「どういたしまして。さぁ明日も朝早いですから戻りましょう」
「うん」
 
立ち上がり砂を叩いて落としていると八戒が来た方から何かの鳴き声が聞こえこちらに飛んで来る。
 
「キュー」
「ジープ、探しに来てくれたんですね。今から戻ろうと思っていたところなんですよ」
「竜…?」
 
それは白い小さな竜。八戒の肩に乗り撫でられ気持ちよさそうに目を閉じている。
 
「あっそうですね、この姿は初めて見ますね。先程まで僕たちが乗っていた車なんですよ」
「そう、だったんだ…えっと初めまして、双葉です。よろしくね」
「キュー!」

今度は双葉の肩に乗り頬を寄せる白竜に表情は変わらないが背後に花が飛んでるのが分かるほど嬉しそうな双葉にまた笑みを1つこぼした



翌日――
 
太陽の眩しさで目を開くといつもの見なれた天井…ではなく、清々しい程によく晴れた青空が目に入った。
一瞬寝起きの頭では理解できなかったが自分の状況を理解し上半身を起こし周りを見ると大きないびきをかきながら未だ爆睡している悟浄と悟空を横目に伸びをした

「キュー…?」
「おはようジープ。起こしちゃった?」

自分と同じように寝起きの白竜を抱き先程からいい匂いがする方へと歩みを進める

「あっおはようございます。昨日はよく寝れましたか?」
「おはよう、八戒。うん、手伝うよ」
「ありがとうございます。ちょうど起こしに行こうと思っていたところなのでまだ寝てる2人を起こしてきてもらってもいいですか?」
「分かった。三蔵も、おはよう」
「…あぁ。」

今来た道を戻りまだ寝る2人を起こしたあと朝食を済ませある程度の準備をし出発をすることに

「今日中には次の村に到着出来ると思いますよ」
「わぁあい!!飯だ飯だ!!」
「今食ったばっかりだろうが」
「着いたら煙草買うのが先だ。」
「宿が取れればいいですね」

この4人を見ながら双葉はみんながみんなまとまりがなくて自由だなぁと感じながら眺めていた
まだ会って間もない、しかも人と関わろうとしてこなかった双葉からしたらこの中に入るというのはとてつもなく至難の業なのでは感じるのであった
出発する時も双葉が後ろの席のどこに座るかで悟浄と悟空が騒ぎ出したのでハリセンを取り出した三蔵と八戒の鶴の一声で騒ぎは静まった。
ちなみに後部座席は悟浄、悟空、双葉と言う座り順になった



そして出発からある程度した時―――

「見つけたぞ!!三蔵一行!!!」
「今日こそ経文を頂く!!!」

そんな声とともにいつの前にかジープを囲むように周りには耳が尖り、鋭そうな爪を光らせ皆が武器を持ちこちらに殺気を立てながら大勢集まっていた
 
「まーた懲りずにぞろぞろと」
「雑魚ばっかじゃん!」
「仕方ありませんね。この人達を倒したら町までもうすぐですよ」
「さっさと片付けるぞ」

なんとなくの状況は観世音菩薩からある程度簡単に聞かされていた。負の波動によって妖怪の理性がなくなる現象。
今まで平和な世界で過ごしてきた双葉からしたらリアリティのない話を聞かされるだけでさすがにこの状況を目のあたりにして驚かないわけがなくその様子を見るしかなかった。
しかしこの状況に慣れている4人はジープから降り戦闘態勢に入る。
双葉に目を向けた悟浄が近くの岩場に隠れるように連れていく。

「双葉ちゃんはここね」
「ジープ、双葉を頼みましたよ」
「キュー!!」

八戒から言われ白竜もおまかせをと言わんばかりの顔をし双葉の前を守るように飛ぶ
そこからは瞬きの暇もないほどに圧倒的強さの4人に寄って倒されていく妖怪の軍団を眺めていた。

「ジープ、みんな強いね」
「キュー!」

そうでしょと自慢げな顔をする白竜に動くはずがないのに笑みがこぼれそうなった。
しかし目の前で飛び交う血や肉片を見ても動揺1つしない自分にやはり昔からなにも変わってないなと思ってしまうといつも以上に冷たい無表情になっているのが自分でも分かった…。
そんなことを思っていたせいで少しの油断で隙を作ってしまったのだ。
後ろから勢いよく羽交い締めされ首元に刃物を当てられているのを感じそちらに目を向ける。

「キュー!!!」
「っち!!邪魔だ!!」
「っ!ジープ…!」

妖怪から双葉を助けようとした白竜が叩き落とされてしまった。白竜に駆け寄ろうと動かした時、首元に当てられていた刃物が少し食い込んだ。

「動くなよ。お前は今から人質だ!」
「…」

そのまま岩場から皆が見えるところに移動させられ見せしめるよう妖怪が4人に向かって叫んだ

「この女が殺されたくなかったら経文を渡してもらおうか!!!」
「なっ!」
「汚ぇぞ!!」
「……おい。俺はお前がどうなろうが知らん。まだ同行を認めとらんからな。」
「さ、三蔵!!」
「今更何言ってんだ生臭坊主!」
「俺たちの旅はこんな事ばかりだ。何も出来ない足手まといを守りながらこの先進むほど甘くねぇ。着いてきたきゃ自分でどうにかするこったな」
「んな無茶な!?」
「三蔵いくらなんでも!」
「うるせぇ黙ってろ。」

確かに三蔵の言う通りだと思った。別に来たくてこの世界に来たわけではない。どの道多分元の世界に帰った途端私は死ぬだろう。別に生きたいと言う気持ちがあるわけでもなく勝手に生き返らせられて西へ迎えと言われたからそうしているだけに過ぎない。
しかし昨日、八戒と話してて大切な事を思い出した

『双葉が心から笑顔になるの私は見たいな』

生きたい訳でもないしまだ人と関わることもしたいと思ってない。でもこの人達と旅をしたらきっと私は変われる気がする…あの人に見せられなかった私になれる気がする、だから…だから私はまだ死ねない…!!

「…言われ、なくても…」
「あ?…っ!!!!」

勢いよく後ろの妖怪の足の甲を踏みつけ緩んだ隙に素早くしゃがみこみ相手の足元を回し蹴りした。
後ろに転けた相手が攻撃してくるより先に手先に武器を構え躊躇なくやられたように喉を突いた
双葉は自分がトドメを指し、突いた首から飛び散る血とその死体をいつも以上に冷たい瞳で見つめていた。

「フン…やれば出来るじゃねぇか。」

残る敵を全滅させ5人は再びジープに乗り込みあと少しで着く町へと向かう。

「なぁなぁ!双葉さっき武器どこから出したんだ??」

それは先程の戦闘でどこからともなく出した武器の事をさしながら好奇心豊かに聞いてくる悟空

「確かにアイツが持ってたのはナイフだったけど双葉ちゃんが持ってたのってクナイ?みたいだったよな」
「それが私にも分からなくて…もしかしたら菩薩様から渡された物かも。」
「渡された?」
「ここに来る前に光?みたいなのが私の中に入っていって」
「それって俺の如意棒と悟浄の錫月杖みたいな物かな?」
「多分そうだろうな。」
「三蔵知ってんの?」

今まで黙って聞いていた三蔵がタバコを吹かしながら会話に入ってくる。前に見た書物を思い出しながら話し出す。

「お前らが前に壊した壺ん中には3つ入ってたらしい。あの後色々調べて分かったことだがな。どうやら特殊な暗器が入っていたらしい」
「あんこ?」
「馬鹿猿お前わざとだろ…」
「暗器ですよ。主に暗殺に使われる武器の事です」
「暗殺か…確かに双葉ちゃん体術もスピードも早かったよな」
「なにかそんな訓練でもしてたのか?」
「いや…全く何も…どっちか言うと体が勝手に動いたような無意識な感じ…」
「ある意味才能だな。」
「あっ町が見えてきましたよ」
「わーい!飯だ飯だ!!」
「猿じゃねぇけどさすがに腹減ったな」

着いたのは賑わいのある町で出店や人やらで溢れていた
初めて見るこの世界の建物や出店達。やはり元の世界とはまた違った雰囲気だなと感じながらジープを抱え4人の後ろを歩く。しかしそこで目にしたあるもので今までなんとな感じていた事が確信へと変わった。
そんな落ち着きのないようにキョロキョロと周りを見る双葉に気が付き声をかける

「双葉はぐれないようにしてくださいね」
「八戒、大変。」

自分を呼ぶ八戒の服の裾をくいくいと引っ張り大変と言う割にはやはり無表情の双葉を不思議そうに思いそこそこ身長差があるので少し屈み内容を聞いてみる

「どうしました?なにかありましたか?」
「なんとなく、そうかもとは思っていたのだけど……私この土地の文字読めない」

街にある文字全てがなんとなく中国語だと理解は出来るが、見たことがあるだけで読めないという事に気がつき焦る。
さすがにこの世界で衣食住を過ごすとなれば書けないにしても文字が読めないのは何かと不便になる。
戦闘は何とか動けることが先程の戦いで分かったがこんな小さなことまで足手まといになってしまうと思うと申し訳なさを感じた。しかしそんな双葉の気も知らず無表情だが雰囲気で少し焦っているのを感じた八戒はそれが可笑しくなりくすくすと笑う

「なんだぁ、そんなことですか…」
「そんなことって、文字読めないのは不便だし一々あなた達に聞かないといけないじゃない」
「分かりました。それなら僕が文字を教えますよ」
「……本当?」
「えぇ。僕こう見えて塾の先生や悟空に勉強を教えていた時があるんですよ?」
「…確かに似合うね」

1度脳内で八戒の先生姿を想像し考えた後、うんうんと1人納得する素振りを見せる双葉に八戒は表情の事で悩んでいると言う割に雰囲気はすごく分かりやすいなとこれまた別の事を考えていた。
先に行ってしまった3人を追いかけ合流したところ宿屋を探すか店を探すかで揉めているのを見つけたがそんな3人に八戒は慣れた素振りで提案する。

「分かりました。僕と双葉は宿を探しますので3人は買い出しと食事の出来るお店を探して来てください。1時間後にこの場所で待ち合わせしましょう」
「よし!飯だー!!」
「ばっか!煙草が先だ!」

渡された買い出しのメモを持ってやいやい騒ぎながら一足先に行ってしまう2人を見ながら三蔵が八戒の耳元で双葉を横目に呟く

「随分ご熱心な事だな。」
「やだなぁ。あなたが目を離すなと言ったんでしょ?」
「フン」

鼻で笑った後、騒ぎながら行ってしまった2人を追いかけるようにゆっくり人混みへと消えていく三蔵を見送ってから残った2人も宿探しへと向かった。
色々探しまくり2部屋空いている所を見つけそこに決めることに。ジープと荷物の見張りをしながらチェックインを済ませる八戒を眺めふと忘れていた先程の光景が頭をよぎった
あの時見た飛び交う血と肉片や何も躊躇なく妖怪だからと関係なく人を殺した時の感触のこと…まだ肉を絶った感触が手に残っている。だからと言って恐怖や懺悔すら感じない。そんな自分が気持ち悪いと思ってしまうがこれがこれからの日常になる。こんな事を一々気にしてたらきっと埒が明かない…そう言い聞かせながらじっと手を見つめるも、もう血なんて着いていないのに幻覚のように赤く見えてきてしまう―――。


 
―――――――――――――――――――――――
  
悟空達よりも少し遅れて三蔵が2人の元へ追いつく

「なぁ」
「あぁ?」
「さっき八戒に何言ってたんだ?」
「ふん。お前に一々言うことでもない。」
「あーそうですかそう言うと思いましたよ!」

予想していた通りの返事に少し拗ねた態度で悪態を着きながら先程買った煙草を咥える悟浄。
悟空と先に出店に向かう途中、後ろで三蔵が八戒に何かを言っていたのが見えていた大方何を言っていたのかは想像がつく。
あれが人の世話を焼くのはいつものことだ。そういつもの事…しかし今回はやけに気にかけている気がする。悟浄とて三蔵ほどでは無いが全く警戒がない訳では無い。
旅を初めて早数ヶ月、ここまで色んな敵に出くわして来た。双葉と出会った時も刺客かと少なからず警戒はしたがあの年頃で全くと言っていいほどの無表情さにどこか引っかかる所があった。

「なぁなぁ三蔵!あれ買っていいか?」

両手にいっぱいの荷物を持った悟空が小走りで近づいて来た。八戒から渡された買い出しのメモとあとは何やら関係のなさそうなものまで目に入る

「お猿ちゃんそんだけ買ってまだ食いもん買う気かよ」
「猿じゃねぇ!!だって美味いもん食べたら元気出るだろ?」
「誰がよ」
「誰って双葉だよ!さっきの戦いからあんまし元気なさそうじゃん」

その言葉に2人は考える。思い返してみても昨日出会った時から1つも双葉の表情は変わっていない

「あれ?2人とも気づいてないの?多分八戒は気づいてたっぽいけど」
「あの女はずっと表情変わってないだろ」
「変わってないけどなんて言うか上手く言えないけどさ、うーんオーラ?っていうか雰囲気?がよく見てたら凄い分かりやすいんだよ。多分いきなり違う世界に来させられただけでも不安に思うのに俺たちと旅するってなると今日みたいなこともこれから沢山あるじゃん?それに普通に考えれば多分あんなことするの初めてだと思うから平気そうに見えてもきっと平気じゃないと思う」

確かに年端も行かない少女が全く知らない世界に飛ばされた挙句、常日頃危険な戦闘をするとなれば平気なわけがない
表情ひとつ変えない彼女は大人びて見えていたがそこらを歩く少女たちと何ら変わらない。

「だからさ!美味いもん食って元気になって欲しいって言うか俺ッ双葉の笑った顔が見てみたいんだ!!」

抱えていた荷物をぎゅっと力を込めて言う悟空の頭をくしゃくしゃと撫でる悟浄

「そう言うのは本人に言ってやれよ」
「さっさとそれを買って八戒たちと合流するぞ」
「!うん!!!」



─────────────
───────
───


待ち合わせ場所に先に来ていたのは八戒と双葉。
ボーっと出店や行く人々を眺めベンチに座りジープを膝に乗せ撫でている双葉。表情はやはり相変わらず変わらないが、どことなく元気がないことに八戒も気づいていた
原因も先程の戦闘だろうと検討は着いている。
やはり三蔵に止められてでも自分が手を出すべきだったとそんなことを考えていた。

「双葉、先程はやはり僕が助けに入るべきでした。すみませんでした」
「?どうして、八戒が謝るの?これからもあんなこときっと山ほどある。…その度にみんなに助けて貰ってたら申し訳ないよ。遅かれ早かれ自分で手を下す時はくるんだから……ただ」
「ただ?」
「飛び交う血を見ても肉を絶った感触も、初めてのくせになんとも思わないどこか欠けてる自分が嫌になるほど気持ちが悪いなって思ってただけ。そのくせ未だに自分の手がまだ血に染って汚れている感覚が消えない事が気になってる……こんな事考えてたらダメだね。これからはそれが日常になっていくんだから。」
「双葉…」

白竜を撫でていた手を見つめ儚げに話す様子に八戒は胸の奥をぐっと締め付けられる気分になった。
そして同時にその様子が昔の自分と少し被って見えた。それはまだ彼らと出会ったばかりの頃の自分に……
双葉が見つめているその手を優しく包み込む様に両手で握る

「八戒?」
「……僕も前は色んな事があって自虐的になってた頃があったんです。でも周りに感化されて気づいたんです。どんだけ汚れたって洗い流せる。だから双葉の手だってもう洗い流されて綺麗ですよ。血で染まってなんかいません。」
「八戒…」
「無理に割り切ろうとしなくたっていいんです。きっと僕みたいに周りに感化されてこれから少しずつそう思えるようになるはずですから。」
「…ありがとう、八戒。」

心の霧が凄く晴れたような気がした。
握られた手からは久々の人の暖かい温もりを感じる。

過去の自分を思い出すかの様に話す八戒にそう返した双葉は微笑んで見えた───


 
――――――――――――――――――――――――
 

「おーい!双葉ー!八戒ー!」

それから少しして集合場所に現れた3人。
荷物を両手いっぱいに持った悟空は走って双葉の目の前に止まった。走ってきたにも関わらず息の上がらないまま荷物をベンチに置き双葉の両手を強く握った。
 
「悟空?」
「双葉!俺、双葉の笑った顔が見たい!」
「!!」
「今はまだ無理かもだけど俺手伝うから」
「…」
「上手く言えねぇけもさ、何かあったら何でも言っていいかんな」
「ありがとう、悟空」
「!どういたしまして!」

そんな2人を微笑ましく見守りながら宿へと足を進めるのだった
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