-無印篇-
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「おいっ、エロ河童!!何しやがんだよっ、やめろって!」
「クククッ、おー、カックイー!」
「やめなよ悟浄。二人とも一応怪我人でしょ…いい加減にしないと雷落ちるよ」
「〜〜ってめぇ!!ざけんなよクソ河童ぁ?!」
「やかましい!!」
「言わんこっちゃない…。」
悟空のギブスに悟浄が落書きをする、それを見かねた#主1#が止めるも聞くことなく予想通り三蔵の雷が落ちる。
そんないつもの光景を八戒は地図から目を離し眺めていた。
「あー楽しかった」
先程まで主犯格だったのに満足した様子で近づいて来る悟浄に、呆れたように口を挟む。
「元気ですねぇ。自分だって怪我人のくせに」
「俺は体もアソコも丈夫に出来てんの。お前こそ、憑き物が落ちたような顔してんじゃん」
「!」
皆無事でいつもの日常が帰ってきてようで、居心地の良さを感じていたので悟浄の言葉に少し驚く。
「――そうですね。彼はある意味、もう1人の僕でしたから。過去を引き摺り続けて生きてきた、僕自身の亡霊、だったのかもしれない。」
「………」
悟浄が黙って、空を見上げ口を開いた。
「双葉ちゃんに話さなかったのは、そう言うのも全て見せたくなかったからだろ。まぁお前のデリケートな部分だからそう軽々しく話すことでもないけどさ。」
「そう、ですね…。清一色が現れた時が話すタイミングだったんだと思います。でもそれが出来なかった、拒絶されるのが怖かった。」
「俺もバカ猿も妖怪だってこと話せてないのも似たようなもんだしな。」
「…でも双葉の言葉を貰ってちゃんと話そうって決心が着きました。」
「!…そうだな。……なぁあの時、お前が聞いた質問の答え今でもいいか?」
その言葉に八戒は返事をするように小さく頷いて見せ悟浄はその日の出来事を思い出すかのように話し出す。
「…三年前のあの日、どしゃ降りの中お前は俺を見上げて『殺してくれ』って眼をしてた。――だから助けたんだよ。俺は死にたがってる奴を簡単に殺してやる程優しい男じゃあナイの」
「悟浄……」
気になっていた答えはやはり、優しくて彼らしく期待を裏切らないものだった。
「――で 今はどーなワケ?いつ死んでもイイって顔にはみえねぇけどな」
「今は…そうですね」
その質問に微笑み、八戒は右手を高く上げ良く晴れた空に向けた。
「この生命線が、もう少し長かったら良かったなぁと思います」
許されるなら花喃。
――あともう少しだけ、自分の為に生きてみたいと思うんだ。
そう思っていたのもつかの間
「えー 何、八戒生命線短いの?」
「あ、ほんとだ」
「うわ…びっくりしたぁ」
「じゃあさ、コレでいーじゃん」
八戒の背後から手のひらを覗き込む悟空と双葉に驚く。
何かを思いついたのか悟空が八戒の右手にマジックで生命線を書き足していった。
「おい猿!!散らかした物ぐらい片付けろ!」
「うわ ヤベッ」
「バッカでー」
「だから片付けたらって言ったのに」
三蔵に怒られる悟空を眺めながら双葉は八戒の横に腰掛けた。
反応のない八戒に悟浄と双葉が振り返ると、呆然と書き足された生命線を見つめる八戒。
「…参ったなぁ」
言葉と裏腹に全くそんな素振りも無く
「油性ペンですよコレ」
「油性だな」
「油性だね」
「落ちないじゃないですか」
少し嬉しそうな八戒に悟浄がふっと笑って見せた。
「落ちねェな……いーんでない?」
「そぉですね。」
そんな二人の温かさを感じながら、双葉は目を閉じた。
この日は近くの小さな町で休憩も兼ねて数日滞在すること。
町につきすぐに食事も早々に済まし宿屋へと向かったが、生憎三部屋しか取れず三蔵が一人部屋を獲得し悟浄と悟空、そして八戒と双葉の部屋割りとなった。
「白竜お疲れ様〜」
「キュー」
白竜を抱き上げベットへと背中からダイブする双葉を見てやはり歳相応だなと八戒は改めて感じた。
そして決意していた心が揺るぐ前に話をすることにした。
「双葉、お話があります。」
「?どうしたの改まって…」
「その…僕の過去についてなんですが、清一色から聞いたとしてもやはり自分の口からちゃんと話がしたくて…」
「…うん。」
話し始める八戒を待つも一向に口を開かず俯く。
今ならと思ったもののどう話すべきか本人を目の前にし、また悪い思考が頭を巡ってしまう。
そんな八戒に気付いたのか双葉が優しく語りかける。
「ねぇ八戒?別に無理して話そうとしなくていいよ?話せないってことはきっと今その時じゃないんだよ」
「… 双葉は優しいですね」
「うぅん、私は優しくなんてないよ。」
「いえ、優しいです。あの時言ってくれた言葉、凄く嬉しかったんです。だからこそ上手く話せないかもしれないけど聞いて欲しい。」
そう言って今度こそゆっくりあの頃を思い出しながら、そして時より詰まりながらも八戒は話した。
話し終え双葉の顔を見ながらずっと思っていた事を聞いてみる。
「こんな話…本当は軽蔑します、よね」
「?何で?」
「…え?」
その問に、はてなを浮かべる双葉に逆に八戒が驚く。
復讐で関係のない命も奪い、守りたかった人も守れず自分は妖怪に変貌してしまうなどあまり気持ちのいい話ではない。
ましてや双子の姉弟なのにこんな話、世間的に考えたらご法度だろう。
例えそれがほんとうに愛していたといても許されることなどない。
「私そんな事で軽蔑したりしないよ。だって花喃さんも八戒もお互い愛し合ってたんでしょ?二人が幸せだったんだからそれを周りがとやかく言う資格ないよ。」
「…」
「辛い事がいっぱいあったけどそれが今の八戒を作り上げてる。今もこれからも進むのは猪八戒だもん。」
――あぁこの人はどれだけ言って欲しい言葉を言ってくれるんだろう。
「それに花喃さんだって八戒が二人の大切な思い出を忘れない限りどんな形であれずっと一緒に居られるよ」
「双葉…」
軽蔑されてもおかしくないはずなのに八戒の話を、双葉はちゃんと受け止め優しい言葉を紡いでいく。
例え表情が上手く動かずともその瞳を見ただけで、嘘偽りのない気持ちだと分かる。
「それにね、妖怪だとしても八戒は八戒だもの。何も変わらないよ。」
「…ありがとう。双葉」
――その言葉だけでどれだけ僕が救われるか貴方はきっと知らない。
「色んな事があって言うの忘れてたけど、八戒…おかえりなさい」
「!!」
きっと双葉は猪八戒として戻ってきたことへの言葉をだったのかもしれない……
それでもその言葉はあの日、扉を開けたら最愛の人から帰ってくるはずだった言葉。もう帰ってくることはないと思っていたのに……。
「ただいま…」
照れくさそうに、でも嬉しそうに八戒は微笑んだ……
それから少ししていつものように嵐が騒ぎを起こしながらやってきた。
バン!!
勢いよく扉が開いたかと思えば同室のはずの悟浄と悟空が喧嘩をしながら身を乗り出しながら入ってくる。
「八戒!やっぱり部屋変わってくれよ!悟浄のいびきうるさいんだよ!」
「んだと!?バカ猿!!お前のいびきのが鼓膜破れそうになるぐらいうっさいわ!」
「なんだと!!?悟浄だって!」
喧嘩しながら入ってくる悟浄と悟空に二人で顔を見合わせクスリと笑みがこぼれる。
「はいはい、喧嘩しない。」
「だってよ〜八戒!」
「分かりましたから。周りのお客さんの迷惑になりますから、お部屋に帰りましょうね〜」
「俺らはガキか!?」
「そんな感じじゃないですか。」
いつもの調子で保父さんスイッチが入った八戒が二人の間に入り喧嘩を収め部屋へと誘導していく。
「双葉、二人を部屋で寝かしつけた後、三蔵とルート確認等をしてきますのでゆっくり休んいてくださいね」
「だから寝かしつけって俺らはガキか!!?」
「うん、分かった。白竜は預かっておくね」
「はい。お願いします」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ二人の背中を八戒が押しながら部屋を出ていくのを見送った後、双葉は白竜を抱きかかえ部屋の窓から見える月を眺めた。
「花喃さん、か。」
――貴方と名前が似てるから少し驚いちゃったよ……花南(かな)。
思い出すのはいつでも笑顔を向けてくれていた大好きな人。二度と会う事が出来なくなってしまった大切な人。
寂しそうな顔をする双葉を心配そうに見つめる白竜。
そんな視線にも気づかず、見つめる月にはゆっくりと闇のような雲が覆いかぶろうとしていた。
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