-無印篇-
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――雨音が、耳鳴りみたいだ
ザァァァァァァア
貴方を救うために百眼魔王の城へと乗りこみ、1人残らせる事無く次々と殺めていった。
「――ヒィッ、だ……誰か…!」
ドス……
名も知らない妖怪の腹を貫く。
これで何人目かも分からない程に沢山沢山殺めてきた。
ここに来るまでに作った死体の数など知らない。
「き…っ貴様…一体…!?」
死ぬ間際に縋り着いてくる妖怪の手を、振り払い崩れ落ちるのを見つめる。
その時静かな雷の響き。
それは僕を表すかのように。
この悲惨な現状を白く照らす。
雷の音さえも雨音に勝って聞こえなく感じる。
――耳鳴りが酷くて気が狂いそうなんだ
隠し通路のような所から下に下る。
ここに貴方はいるのだろうか…
もうどこを探しても見つからなかった。
最悪な想像さえもする頭を振り払い声を絞り出す。
「――花喃、ここにいるのか?」
「悟能…?」
声が帰ってきた先には檻の中で座り込む愛おしい貴方の姿。どれぐらい会いたかっただろう。最悪な想像をしその都度、吐き気に襲われた。
でも、あぁ…あぁ…!!やっと、やっと見つけた…!!
檻に駆け寄り貴方を間近で見つめる。
「花喃…!!」
「悟…能、悟能なの…?」
「――生きてたんだ良かった…!!」
「その右目…どうしてここに…!?」
僕の右目の怪我を心配してくれる貴方。
そんな事をどうだっていい。
そう思い抱きしめてその存在を確かめる。
「ごめんこんな目にあわせて。帰ろう花喃、僕が守るから…」
――えぇ、悟能。帰りましょ、私達の家へ
そう返ってくると。そう返事をしてくれると思っていた。
会えた、生きていた嬉しさと喜びのあまりその変化に見落としていたんだ。
顔に影を作った貴方はいつもの優しい笑顔を作ってくれなかった。
「…もう遅いよ、悟能」
「花喃?」
スル……
抱きしめた腕からゆっくり離れた時、腰に差していた刃物を抜いてゆっくりと貴方は自分の首に掛けた。
「――!何を……?」
「このお腹の中にはね、あの化け物の子供がいるの」
あぁ、やめて…ッ!
「……だから…」
その続きを言わないで…ッ!
「さよなら、悟能」
誰かこの時間を止めて…!!
――誰か、殺して。
儚く綺麗に笑う貴方を、止めようと手を伸ばしても檻のせいで届かない。
「花喃…!!」
目の前を冷たい赤が飛び散る――
…僕は一体何がしたかったのだろう……
彼女が好きだと言ってくれた両手を血に染め、彼女を守れず何故…何故僕は……生きているの…?
――僕を殺して――
─────────────────
──────────────
─────────
森に響いた銃声音によって現実に引き戻され、八戒は小さく声を漏らす。
威嚇射撃によって清一色が腰掛けていた岩のすぐ横に穴を開けた。
「──悟空と双葉はどこだ。次は当てるぞ」
「さて、どうしたと思います?1人はこの霧の中をさ迷い歩いているか、あるいは……熊の餌になっているかもしれませんねぇ」
ガウンッガウンッ!
クククと気色悪く含みを持った笑みで言う。
飄々とした態度を崩さずに交わし、木の上に登った。
「やれやれ、短気なお人達だ。カルシウム不足ですかね」
ザザザザ……
そう言うとパチンと指を鳴らし、どこからともなく音が響き辺り一面に虫の大群が地を這い三人を囲む。
「?!何だこりゃあ!」
「ムカデか……チッ、どこから湧いて来やがるんだ…!?」
気付いたときにはすでに遅く、ムカデは三人の足元から纏わりつき登ってくる。
払い除けてもキリなく大量に登って来るため、下半身は既にびっしりムカデの大群が襲ってきていた。
「百眼魔王はムカデの妖怪でした」
そんな三人を前で清一色が語りだし声が森に響く。
「ムカデは大顎に持つ毒液で、昆虫を捕らえるんです。………ホラ、早く逃げないと、それだけの量に咬まれれば命にかかわりますよ?」
「――っ」
「八戒!!」
清一色の話に従うように、八戒の体をムカデが容赦なく襲いかかる。
「憎しみが足りませんか?」
清一色が八戒に近づき顎を掴み、無理やり顔を上げさせたかと思うと自分の顔と対面させる。
「――それではこんなのはどうですか?」
そう言うと霧の中から三人の前に表したのは、根のような物で縛りあげられ気を失っている双葉の姿だった。
「双葉ッ!!」
「チッ!」
「おいおい…また偽物とかじゃねぇだろうな」
「残念ですが紛れもない本物ですよ」
気を失っているの事をいいことに髪をすくい上げ口元に寄せる。
「私考えたんですよ。あんなに啖呵切って貴方に何かしたらタダじゃおかないと言っときながら、このムカデ達に犯されればこの方はどんな顔をするでしょう。それを目の辺りにする貴方はどんな悲痛の顔に歪ませるのでしょう。」
「や、やめ」
八戒には儚くも綺麗な顔を浮かべる最期の最愛の人の姿と双葉が重なって見えた。
少しずつムカデの大群が双葉の元へと向かう。
その光景を見るだけで頭が真っ白になり心臓の鼓動が響く。
「さあ、よぉくご覧なさい――貴方の姉を陵辱し、孕ませた、ムカデ野郎の息子の顔を。そして貴方の姉ように犯される彼女の姿を!!」
その言葉と共に八戒の目が見開く。
憎悪の瞳で清一色を睨みムカデの大群から腕だけを払い上げて拳を振るった。
「おっと」
清一色は軽くあしらいその勢いで、八戒の鳩尾に肘打ちを入れた。
「がはッ――!」
「八戒……!!」
八戒は顔を歪ませるもそのまま清一色から頭を地面に押さえつけられ左手を掴んで馬乗り状態になる。
そんな状況に悟浄が名を呼んでも聞く耳を持たない八戒は清一色を殺意と憎悪な瞳で睨みあげる。
「ああ、だんだんイイ顔になってきた。咎なき命まで奪った贖罪のつもりか知りませんが、貴方の健気なまでの偽善者ぶりは嫌いじゃありませんけどね。でも」
清一色は厭らしい笑みで舌なめずりをし言葉を続ける。
「貴方の痴態と殺意だけが、ワタシの心を満たしてくれる」
「それ以上喋るな。耳障りなんだよ」
そんな二人の憎悪を消すかのように割って入った三蔵に我に返った八戒。
「俺がこの世で嫌いな物ベストスリーのうち、二つ教えてやろうか」
「是非お伺いしたいですねぇ」
「変態と虫ケラだ」
その言葉と共に経文を発動させてムカデを一匹残らず消し飛ばした。
その時双葉を縛り上げていた根も一緒に消え、支えをなくし倒れる所を三蔵が抱きかかえた。
経文によって起こった風から清一色は片腕で顔を隠したが、その隙に悟浄の錫月杖が襲いかかる。
その三日月型の刃によって清一色は肩ごと切り落とされる。
「……なんかさー、久々にブチ切れそーだわ。スゲーな、この温厚な俺がよ?」
悟浄は挑発的な笑みを浮かべるも、その瞳には怒りが見てわかる。
「おい、平気か八戒…八戒?」
三蔵が座り込だまま動かない八戒に呼びかけるも、反応がない。その様子を見て悟浄は舌打ちをし八戒の肩を両手で掴んだ。
「おい!しっかりしやがれ!お前は“猪八戒”だろうが!!」
悟浄の怒号に八戒に意識を戻した。
「――ッ!?大丈夫です。すみませ、」
「危ねェ!!」
その時三蔵の声が響き気付いた時には悟浄の後ろに倒れていた筈の清一色が悟浄の頭を鷲掴んだ。
「な……ッ!!」
「悟浄!!」
2人が悟浄を助けようと時、空から一直線に清一色の顔目掛けて小さな竜が翼を羽ばたかせて襲いかかった。
「ジープ……?」
ジープは清一色の顔を一生懸命つついたり引っかいたりと戦う。その緩んだ隙に悟浄は逃げ出した。
「大丈夫か!?」
森の中から足を引きずりながら来る悟空の姿。
それを見た瞬間、清一色は舌打ちをした。
「悟空!」
「悪ィっ、待たした!!」
片手を上げていつものように笑う悟空に悟浄が近づいていく。
「――おっせーんだよてめーわ!!」
「しょーがねーだろ足折れてんだから!!」
いつものよう言い合う二人、そんな時途端に悟空の腹の虫が鳴り響きその場に座り込んだ。
「腹減ったしもーサイアクッ」
「……これだよ」
「悟空以外の何者でもありませんねえ」
真偽を疑わずとも本物の悟空に、八戒と悟浄は自然に顔がほころんだ。
そんな中三蔵は抱えていた双葉を八戒に渡した。
「悟空」
「え?」
「このバカ猿!!」
三蔵の呼ばれ悟空が振り向いたものの頭に強い衝撃が走った。衝撃を与えたのは三蔵のハリセン。
気を抜いていたため悲鳴をこぼした。
「ぎゃっ~~~何すんだよイキナリ!?」
「よし。」
痛がる悟空をよそに三蔵は満足げに頷く。
訳が分からない衝撃を与えられ与えは本人は満足している姿にキレだす悟空。
「『よし。』ぢゃねーだろ暴力タレ目!!」
「安心したならそー言やぁいいのに。カワイイ奴っ」
これまたいつものやりとりに悟浄が笑ったが、三蔵に睨まれ目を逸らす。
「うっ…」
「!!双葉!分かりますか?」
気を失っていた双葉の意識が戻り、それに気がついた八戒が呼びかける。
ぼんやりした表情を浮かべながら焦点を合わせる。
「八、戒?…あれ、私……そうだ!清一色に応戦しててそのまま捕まったんだ…」
「ケガはないですか!?」
「う、うん大丈夫だよ。捕まっただけで何もされてないよ?」
「っ!良かったぁ!!」
まだ覚醒しきってない頭を動かし気を失う前の出来事を思い出したが、八戒の勢いに驚く。
八戒も無事を知り双葉の両肩を掴み項垂れた。
「双葉ちゃんが無事で良かったよ」
「うん、ごめんね心配かけて」
「本当だくそ娘。」
安堵の声をあげる中似つかない声が聞こえてくる。
「あーあ、キレイに取れちゃいましたねえ。ま、足よか幾分マシですけど」
清一色は切り落とされた切り口を痛くもないと言わんばかりにましてや、興味深そうに見ていた。
それの気色の悪い光景に悟空は三蔵の後ろに隠れて言った。
「三蔵、やっぱりアイツなんか変だ。だって“生きてる臭い”が全然しない」
「……どういうことだそれは」
「わかんねーけどッ!腕もげても平気な顔してんなんて絶対フツーじゃねーじゃん!」
「おい、ちょっと待てよ。じゃあ何か?清一色が幽霊か何かだとでも言うのかよ?」
――幽霊?そうだ、彼は……
その言葉に八戒はある事を朧気な記憶から少しずつ思い出して行く。
そんな事お構い無しに清一色は斬られた腕をいじり飽きた後、後ろの茂みに自分の腕を放り投げた。
「うげ、気持ち悪」
「ククッ、最高の褒め言葉ですよ!!」
悟空の言葉に満足そうな顔をし清一色は隠し持っていた点棒を悟浄の胸と悟空の足に目掛けて投げ放つ。
しかし二人はギリギリで交わす。
「赤い髪のお兄さんと、金眼の坊や」
そして三蔵と双葉にも点棒を投げるも2本とも双葉によって弾き落とされた。
「次は―――本当に彼のお友達が減ってしまいますね」
「やってみろよ」
「まだ何かするんだったら容赦しない」
三蔵と双葉は殺意のこもった瞳で睨みつけ挑発的な言葉を放つも、清一色は快楽の笑みを浮かべる。
そのやり取りを見ていて八戒の中で忘れていた記憶がやっと再生されていく。
――思い出したあの声、あの眼。この男は――僕が殺したはずだ。
「おいっ、この最低野郎!!」
その殺気立った中を悟空が叫ぶ。
「三蔵に何かしてみろ。タダじゃ済まねえかんな!!」
「おやおや。お宅のペットは忠誠心があついですね。しかし……よく吠える」
投げた点棒を今度は避けきらずに悟空の足に刺さってしまう。
「悟空……!?」
「立っているのもやっとの状態で、よく強がりが言えますねぇ」
いつもならあんな攻撃すぐに避けるはずが本当に足が折れているのだと分かり、三蔵と悟浄は驚いて唖然としていた。
「……お前本当に骨折してたのか」
「だから最初っからそー言ってるだろ!?」
「うわぁ、足変な方に曲がってる。イヤーン」
「悟空大丈夫?」
「双葉だけじゃん。まともに心配してくれてんの…」
応急処置と言わんばかりに悟空の骨折している足に太めの枝とハンカチで結び固定する双葉。
その姿を見ながら清一色は次の企みに出る。
「そうだ双葉さん。貴方は断りましたが、私が勝手にお話させていただきますね。」
「は?」
「猪悟能のことですよ。」
「…え?」
その名に八戒は反応し一瞬にして血の気が引き、一気に身体の力が抜け地面に座り込む。
そんな八戒の変化に気づきながら清一色はニタァと気色悪い笑みを浮かべつらつらと話し出した。
復讐に駆られ沢山の命を殺めた事、沢山の罪を。
愛した人が自分の双子の姉であったことを止めどなく話し続けた。
途中清一色を黙らせようと動いた悟浄と悟空を三蔵が止めた。
驚いて三蔵を見るも何か強い意志のある表情にも黙って見守ることにする。
「歪んだ愛。そんな事の為に何百何千と言う命を奪ったんですよ。双子が恋人同士だなんて気持ち悪いでしょ?穢らわしいでしょ?そんな馬鹿げた復讐のせいで彼は人間から妖怪に変貌を遂げたんですよ!バカバカしいでしょう?貴方は何も知らずに何も教えてもらえないまま妖怪の彼と共に行動をしていたんです。」
八戒のいる角度からは双葉の表情は読み取れない、しかしずっと黙っている事に恐怖を感じた。
――知られた… 双葉だけには知られたくなかった、過去の話…
「ふーん。で?」
「……は?」
「!?」
八戒の気持ちとは裏腹に双葉が発した言葉に驚いた八戒と清一色。
「だから何だって聞いてんの。悪いけど今話したのはアンタの独り言でしょ?私言ったわよね、本人から自分で聞いた話しか信じないって。アンタの言うその猪悟能って人が八戒だったとしてもそれが何?何度も言うけど私は猪悟能なんて知らない。私が知ってるのは猪八戒だけよ!」
力強く言い放つ双葉に三蔵はフッと笑ってみせる。
「てか妖怪だったら何?妖怪だろうと人間だろうと大差ないわよ。そんな事別に大事じゃない、大事なのはその人がどんな人物かよ。優しい人も妖怪もいる、その人たちをあんたみたいなくそ妖怪と一緒にしないで!」
その言葉に反応したのは八戒だけでなく悟浄と悟空も息を飲んだ。
清一色に言い返すだけ言い返し、双葉は八戒の同じ目線になるようにしゃがみこみ手を握り包み込む。
それはあの日八戒がしてくれたように。
「ねぇ八戒…私まだ分からない事も知らない事もいっぱいある。でも今の私が知ってる事は優しくて周りに目配りしたり、見ず知らずの私なんかにも気を使ってくれてるけど自分の事になると途端に器用貧乏になっちゃう…そんな貴方しか知らない、そんな貴方を知ってる。」
まだぎごちない表情筋を必死に動かし少しほんの少し微笑んで見せた。
「それにね、八戒が教えてくれたんだよ。この手は汚れてない、汚れても洗い流せる。そうでしょ?」
「…双葉……」
八戒の瞳に光が戻る。
しかしその状況を面白く思わないものが一人。
清一色は舌打ちと共に二人に向け点棒を投げるも、それにいち早く気がついた八戒が双葉の腕を引き逃げる。
「つくづく面白い方だ…やはりあの時、死体にして突き出す方がダメージがありましたね。」
思ったようにならなかったことへの腹立ちか、少し余裕を無くす姿を見せる。
そんな清一色を他所に八戒は三蔵に耳打ちをした。
「――三蔵。二手に別れましょう」
「……フン、成程な!」
八戒の意図を理解し、三蔵は清一色に向けて引き金を引いた。
「不意討ちとはまた姑息ですねえ?」
「貴方に言われたかないですよ!」
銃弾と気功術を軽々と避け清一色そ森の奥へと消えていった。
「追うぞ八戒!」
「悟浄、悟空と双葉を任せましたよ!」
「あッ、オイ!?」
「八戒、三蔵!?」
作戦通りに行き三蔵と八戒は追いかけるべく森の奥へと走って行き、残りの三人は置いてけぼりを食らった。
「い、行っちゃった…」
「~~アイツらわざと俺ら置いてきやがったな!?」
「マジかよ、ふっざけんな!!」
「清一色はそんなに生易しい相手じゃねぇ。追うぞ!」
「おう!」
「うん!」
悟浄は骨折している悟空を背負い走りだそうとした時だった 、昨夜やられた胸の痛みに思わず足を止めた。
「悟浄?」
「大丈夫?」
「昨日の傷、治りきってねーの?」
悟浄は痛みで黙るが、それはYESと捉えられる。
「使えねー奴ッ!!見失っちまったろーが!!」
「――ッてめーにだきゃあ、言われたくねぇよ!この骨折猿!!」
「猿サルゆーなエロ河童!!」
「もう!こんな時まで喧嘩しないの!!」
言い争う声が森に響きながら二人が消えていた方へと足を進めて行った。