ピアスの行方
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おなまーえに部屋に通された。必要最低限のものしか置いてない部屋は簡素だが、決して生活感がないわけではなかった。彼女はシャワーを浴びると言って浴室の方に向かった。いくら信頼してくれているとはいえ、いささか無防備なのはいただけないと感じたが、彼女の仕事柄仕方ないのかとも感じる。
「あの、降谷さん………少し後ろ向いててくれますか?服そっちにあるので……」
浴室の扉が少し開き、蒸気が漏れる。安室は承諾して目を閉じた。しかし浴室から出た音はしたが、いつまでたっても彼女が動く気配がない。
「……おなまーえさん?」
「ハッ……いえ、なんでもないです。すぐ退きますね。」
彼女は我に返ったようにパタパタと動いた。いけないこととは思いつつも、薄っすらと目を開ける。
「…………」
思わず息を飲んでしまった。彼女の体を隠すのはタオル一枚だけで、華奢な肩と柔らかそうな脚がそのまま見えていた。しっとりした髪から垂れる水が彼女の肩にぽたりと落ちる。
自分を敬愛して身を粉にして働いてくれている女性は、本当に魅力的だった。素直に感謝すると同時にどうして彼女が自分のものではないのかという欲が芽生える。安室は無意識のうちに彼女の体にそっと腕を回した。
「!?……降谷さん……?」
(素直に好きだと伝えられたらどんなに楽だろうか)
彼女はびくりと跳ねたが抵抗はしなかった。ハニートラップの仕事故に慣れっこなのだろうか。そう考えるとモヤモヤした気持ちが安室の心を支配した。
「あ、あの……どうしたんですか」
「…………あなたは、カルーアとして生きてて辛くはありませんか」
「……?」
「多くの男性と関係を持つことに、なぜ抵抗がないんですか?」
聞いてしまった。これで彼女がつらいと言ったのであれば、すぐに組織から手を引かせて公安総出で匿うつもりだった。しかし彼女は臆せず、迷うことなく答えた。
「……それが仕事ですから。それに案外慣れてしまえば楽なもんですよ。」
彼女は進んで仕事に従事している。なら安室が口を挟めることはなにもない。
「……それがあなたの答えなんですね………」
「え?」
「いえ、なんでもないです。やっぱり僕は車で待ってますね。」
小さな部屋を出て行く。彼女とは上司と部下、それ以上でも以下でもない。割りきらなくてはならないのだ。おなまーえが来るまで、彼は静かに心の整理をしていた。
****
「お待たせしました」
綺麗にドレスアップしたおなまーえは安室の車の窓をコンコンと叩いて声をかけた。助手席に座るもどこかそわそわと落ち着かない。
「先程はすみませんでした。少し考え事をしていたもので……」
「え、あ、はい、大丈夫です。」
「その服似合ってます。とてもお綺麗ですよ。」
「あ、ありがとうございます……」
オシャレなブラウスに黒の落ち着いたスカート、そして緩くまとめられた髪。流石としか言いようがなかった。しかし実のところ、おなまーえも普段からこんな格好をしているわけではない。
(降谷さんとお食事………気合い入れなきゃ)
憧れの上司とお食事。気合いを入れないはずがなかった。
「そういえば」
「はい?」
「ピアス見つかったんですね」
「!?……気づいてたんですか」
「えぇ、あんなに見られたら僕だって気付きますよ。それにお会計の時、癖で耳弄ってましたよ。」
「あぁー、申し訳ない。ポケットにしまってたら公園で落としたみたいで……」
「少年探偵団は優秀ですね」
「そうですねー」
緩やかに夜の街を走る車。2人の関係は信頼できる上司と部下。ただ互いに秘めた想いは相手には伝わらない。