Heaven’s Feel
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「――ねぇ、聞いた?また近くで通り魔事件が起きたらしいよ。」
「え、マジ?何件目よ、これで。」
「そろそろ二桁だって。うち今朝学校行くなって言われたばかりなのに。」
「私も。親が外出歩くなって。」
「あのね、ここだけの話。うちのお父さんの知り合い警官なんだけど、実際のところ手がかりぜんっぜん掴めてないって。ヤバくない?」
「マジか。あれでしょ、心臓をひと突きって。相当な手練れなのかな。」
「やっぱお化けとかなんじゃないの?ネットじゃそういう噂回ってるよ。」
「赤い槍の悪魔?あれは流石にないわ。槍とかいつの時代よ。」
「わかんないじゃん。そういうコスプレかもよ?狙われてるの、うちらみたいなうら若き女子高生ばっかみたいだし。」
「まぁこんなに人殺してるんだからまともなやつじゃないだろうね。――あ、予鈴鳴った。いかなきゃ。」
「次どこだっけ?」
「3-B。待って、今日私当たるじゃん。」
「ノート貸したげよっか?」
「たすかる〜」
Heaven’s Feel
しとどに雨が降る。
数時間前、ランサーの気配が消えた。
おなまーえの代わりに見回りに行ってくれた彼とのパスが切れたのだ。
『怪しいサーヴァントがいる』
それがすべての発端だった。
夜12時。
柳洞寺で起きた昏睡事件について、言峰から連絡があった。
衛宮士郎の一件を許したわけではないおなまーえも、この報告には食いついた。
聞けばキャスターとその門番をしていたアサシンの退去が確認されたが、それを倒したであろうサーヴァントが正規のものと異なるらしい。
『もしこのサーヴァントを処分すれば令呪を一つ進呈する』
そう言われては断る理由はなかった。
ランサーもこれには同意してくれた。
どこの誰ともわからないサーヴァントに、英雄クー・フーリンが負けるはずがない。
彼らはそう信じて疑わなかった。
言峰の言った怪しいサーヴァントはすぐに見つかった。
建設中のビルの屋上。
髑髏の仮面を被った黒い装束の不気味な男。
そいつとランサーが戦ったところまでは追えていた。
白兵戦において、ヤツはランサーの敵ではなかった。
ただ逃げ回るそいつを、ランサーが追うだけ。建設中のビルから公園、高速道路、森へと、ヤツはさながら忍者の如く細やかに逃げ回った。
おなまーえは水晶を通じてそれを追いかけた。
そうして行き着いた先は柳洞寺、その裏の大きな池だ。
ランサーの太ももまで浸かるほどの水深。
足場の悪い中で、それでもやはりヤツはランサーには到底かななかった。
だが――
――パリン
突如水晶が割れた。
今まで一度だってこんなことなかったのに。
何度もアクセスを試みたが、ノイズがかかり向こうの景色も音声も拾えない。
思念で呼びかけてもランサーは応答してくれなかった。
「はっ、はっ、はっ…」
丑三つ時。
おなまーえは柳洞寺に向かって走っていた。
バシャバシャと水たまりを蹴飛ばす。
暖かいコートを羽織り、万全の状態でホテルを出たのに、もう指先は氷のように冷えきっている。
走るなんて、それこそ本当に始めての行為なのではないだろうか。
足がもつれ転びそうになるのを、なんとか踏ん張り、次の足を繰り出す。
這うように境内へ続く階段を駆け上がる。
もはやここまでくると、普通の人からしてみれば歩いているのと大差なかったが、おなまーえにとっては最大限のスピードだった。
人気のない寺は一層不気味さを増していた。
「っ、はぁ…はぁ……っ、ランサー!!」
おなまーえは手の甲をさする。
そこには残っているはずの最後の一画も彫られていなかった。
ランサーを連れ戻そうと、最後の頼みの綱でかけた令呪だった。
令呪を全て使い果たしたおなまーえはランサーのマスターでなくなった。
存在を感じることも、思念で会話をすることも叶わない。
それ抜きに考えても、忠義に厚い彼がおなまーえの元を離れるとは思えなかった。
もし瀕死の状態ならばすぐに契約し直せば、霊基を修復するのに十分な魔力を送ることができる。
時は一刻を争うかもしれない。
「っ…」
息を整える間も無く、おなまーえは寺の裏手に向かって走り出した。