2月13日
夢小説設定
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川と街2つ分を超えて、おなまーえは鬱蒼とした森に辿り着く。
「ランサー…」
靴下は擦り切れて穴が開いてしまった。
全く、靴という文明を発明した人は偉大だとつくづく感じる。
素足のまま、おなまーえは雑木林へ足を進めた。
****
城は相変わらず荘厳な雰囲気を醸し出していたが、城主の姿も、彼女が仕掛けたであろうトラップも全て外されていた。
今のおなまーえでは解除する余力がなかったので好都合だが違和感を感じる。
「……こっち」
ランサーの気配は城の裏手の方から感じられた。
中の構造がわからない以上、外から回って入り口を探した方が早いだろう。
おなまーえは城の周りをぐるりと半周した。
「この、行き場に迷え!クソ神父!」
「ん?遠坂さん…?」
おなまーえは勝手口から城に入り込んだ。
地下へと続く階段。
その奥から遠坂凛の叫び声が聞こえる。
彼女がここまで取り乱すなんて滅多にない。
「……」
ランサーの気配もそこから感じる。
おなまーえは彼女の声に引き込まれるように階段を降りた。
「地獄だってあんたみたいなのは願い下げで、煉獄だって、他のやつが図太くなるんでたらい回しよ!」
靴を履いていないため、足音も立てずに一歩一歩降っていく。
遠坂凛の剣幕がビリビリと肌をなぞる。
「あんたみたいな不能者は性に合わない天国あたりで、針のむしろにくるまってろっての!」
「…遠坂さん?」
その場にいた4人が一斉に階段の方を見た。
立っていたのは雪と同化してしまうのではないかと思うくらい真っ白い肌のおなまーえ。
本来華を添える役割の唇は真っ青になっている。
森を抜けてきたであろう切り傷は痛々しく、破けた靴下から覗く素足は見るに耐えなかった。
「ふっ、そろそろくる頃合いだと思っていたぞ、おなまーえ」
「おなまーえ、逃げて!」
「なに…この状況…」
遠坂凛が縛られ、言峰綺礼はそれを助けるでもなく口角を上げて傍観している。
なぜか間桐慎二もいて、ランサーは苦々しく顔を歪めていた。
話を聞かなくとも先ほどの凛の叫びからだいたいを察した。
昔から察しはいい方だった。
「……言峰さん。一応聞きますけど、どういう状況ですが、これ。」
「なに、囚われの身となった元教え子を助けにきただけだ」
「ハッ、よく言うぜ」
「……遠坂凛を解放してください」
「自分で縄を解けば良いのでは?でなければそこなランサーにでも命じればいい。」
「違う、そうじゃない。言峰さん。あなたは遠坂さんに、金輪際関わらないであげてください。」
「それはおなまーえには関係のないことだ」
「関係あります」
おなまーえはちらりと遠坂凛を見た。
「――友達、だから」
向こうはそう思っていないかもしれないけれど、おなまーえにとって遠坂凛と衛宮士郎は友だった。
残りの寿命を考えると、生涯で唯一無二の存在と言えるだろう。
「……ふっ、はははは!そうか。お前のような籠の鳥にも友と呼べる相手ができたのか。これならば外に出してやった甲斐があるというものだ。」
綺礼はさも面白そうに笑った。
「ならばおなまーえ、取引だ」
「はい」
「令呪をこちらに渡しなさい」
「―――」
「なっ!あんた監督役のくせに戦争に参加する気!?」
「もとよりランサーの触媒は私が使役しようと思って用意していたものだ。それを、情で彼女に貸与していたに過ぎない。」
令呪を渡せば、ランサーとの契約は破棄される。
自動的におなまーえは聖杯戦争から外されるということだ。
「………」
「どうしたおなまーえ。友を助けたくはないのか?」
「………」
「それともランサーを私に返したくない理由があると。こいつから感じるお前の魔力、それが関係しているのだろう?」
ランサーはおなまーえの魔力を吸って、今やマスターなしでも数ヶ月は生きられるほどの英霊となっている。
英雄クー・フーリンにとって馴染みのないこの冬木でも、数日は問題なく過ごせるだろう。
「お前がランサーにそこまで入れ込むとは一体どういう風の吹き回しなのか」
「……あなたには、きっとわからないでしょうね」
「――なに?」
ずっと口を閉じていたおなまーえは憐れむような口調で言葉を紡いだ。
「それがきっと、言峰綺礼の業なのです。人を愛することを知らないあなたに、誰かの人生を踏みにじる権利なんてない。」
「………」
「私はランサーを愛してる。でも、それと同じくらい遠坂さんのことを大切に思ってる。」
そっと手の甲に触れる。
そもそもおなまーえの聖杯に対する望みは「友だちが欲しい」ただ一つだった。
だがそれはもう叶った。
今聖杯戦争を続けているのは、遠坂凛と衛宮士郎を手助けするためだ。
唯一心残りがあるとすれば、私の槍となると違ってくれた彼を裏切る結果になるということ。
おなまーえは視線をランサーに送った。
「……好きにしろ」
「ごめんね、ランサー」
2人の間に、それ以上の会話は必要なかった。
――短い間だったけれど、繋いだ