2月9日
夢小説設定
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「…わかんねぇな。せっかくの願望機なんだ、もーちょいワガママ言っても良いんじゃないか?」
彼の言わんとしていることはわかる。
要はもっと生きたいと素直に願えば良いと言っているのだ。
「別に長生きしたいわけじゃない」
「懸命だ。だが生きてりゃ友なんて自然とできるもんだ。」
「…知らない」
知らない。
そんなことは知らない。
少なくとも十数年生きてはみたが、友なんて自然にはできなかった。
バカにされたような気がして、ランサーの言葉に不満が募る。
「そもそも根底から違うんだよ。願望機に願ってできたトモダチでお前は満足できんのか?」
「…じゃあどうしろっていうの?」
後ろから大きなため息が聞こえた。
わしわしと髪を撫でられる。
「お前はオレのマスターで、オレはお前の槍だ。それは違いねぇし、変わることもない。」
「うん」
「だが、もう一つ何かあってもバチは当たらないと思わんか?」
ランサーは目を細めてニィッと笑った。
おなまーえとランサーは(互いに恋心があったかどうかは別として)一度体を重ねた関係だ。
通常であれば、彼の言う「もう一つ」とは恋人か、愛人か、その手の類いだろう。
だが彼女は世情に疎かった。
この流れでおなまーえが思いつくのはただ一つ。
「――ランサー、私と友達になりたいの?」
おなまーえはコテンと首を傾げた。
「…………」
「…………」
一瞬の静寂。
呆れてものも言えないのか、拍子抜けしたのか。
ランサーは目を丸くすると、堪え切れないとばかりに腹を抱えた。
「――ふっ、ハッハッハッ!いいぜぇ!そうきたか!」
彼は大声で笑いだす。
「やっぱおもしれぇわ、嬢ちゃん」
バシバシと背中を叩かれた。
手加減してくれているため痛くはない。
「違うの?」
「いやいや――そぉだよな、まずは友達からだよなー」
「え?え?」
ランサーは微笑ましいものを見るような目をする。
「欲が出たのはこっちだったな。嬢ちゃん…いや、おなまーえ。」
「名前、覚えてたんだ」
「忘れてたわけじゃねぇよ」
「…じゃあ私も、クー・フーリンは長いから……クーちゃんとか」
「おいそれだけはヤメロ。あの女と同じ呼び方はすんな。」
「……クーちゃん」
「だから」
「クーちゃん」
「…………はぁ…好きにしろ」
諦めたように彼は後ろに倒れ込んだ。
柔らかいベットが傾く。
おなまーえの表情は相変わらず暗いままだ。
「……でもランサー、結局私のこと忘れちゃうでしょ」
「何故そう思う?」
「月での聖杯戦争、マスターのこと覚えてないって」
「ああ、んなことを気にしたのか」
「私にとっては大事なこと」
「つってもなー、あれは未来の話だから今のオレは知る由もねぇんだよ。未来の情報を今の人間に知らせると何が起こるかわかんねぇだろ。だから曖昧な記憶になってる。」
「…たしかに」
言われてみれば納得できる理由だった。
「嬢ちゃんのことは例え座に戻ったとしても忘れられないだろうさ」
その言葉に、おなまーえは頬を緩めた。
「あれね、ランサーって気のいいお兄ちゃんみたいだね」
「ほぉ、兄貴か……まだまだ足りねぇな」
「え?」
「いや、こっちの話」
人好きのする笑みを浮かべてランサーは笑う。
ケルト神話において主人公とも言える彼が、落ちこぼれの自分が体を重ねるなんて、ましてや友達になってくれるなんて、それだけで夢でも見ているかのような気持ちだった。
「ランサーみたいに私も強くなりたいな」
「なれるさ、嬢ちゃんなら」
「…おなまーえだってば」
《2月9日 終》