2月2日
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……ああ、そうだ。あの赤い服のマスターの居場所だけでも探っておかなきゃ。」
彼女は町中に仕掛けた監視カメラを一つ一つ見ていく。
――スッ
刻印の前を、人影が通り過ぎた。
「…ん?」
その次の道に仕掛けた刻印に場面を切り替える。
「んんん?」
橙色の髪。
お人好しそうな顔。
ベージュの制服。
「これって、さっきの少年?」
「なに?」
言峰がまた水晶玉を覗き込んできた。
「ランサーに命じろ。もう一度あの少年を殺せと。」
「い、いやです」
「おなまーえ、ここで無駄な時間をかける余裕はない。事態は一刻を争う。もう一度言おう。殺せ。」
「――っ!」
さもなければお前も殺すと、そう聞こえた。
昔から人の顔色を伺うのは得意だった。
今はその察しの良さが裏目に出た。
「ランサー……さっきの男の子、まだ生きてる」
「なに?」
「追って…」
「…わかった」
おなまーえの声は震えていた。
先程は言峰が指示した殺しだったが、今度はおなまーえが自ら指示した。
どんな理由があれ、彼女は本当に加害者になってしまった。
ランサーは言われるがまま、少年を襲う。だがそうやすやすとは死なない。
少年は意外にも魔術に精通しているようだった。
(投影魔術――また珍しい。さっきの女の子は宝石魔術を使ってたし、本で読むのと実際に目で見るのはこんなにも違うのね。)
魔術に関する知識はほとんど書籍から仕入れていた。
おなまーえは人生のほとんどをあの病院で過ごした。
そんな彼女にとって聖杯戦争は驚きと新鮮の連続なのである。
(いけない、戦況に集中しなきゃ)
おなまーえは水晶玉にかぶりつく。
少年の家は広々としていた。
彼は一度庭に出て、蔵の中に飛び込む。
「チッ、男ならしゃんとしろっての」
ランサーは悠々とそれを追いかけると、蔵の中、少年の背中めがけて槍を突き刺した。
「ぐっ!」
少年の武器はもともとはポスター。
丸めていたそれを広げて簡易的な盾を作る。
その機転の利いたアイディアは成功したが、強化しているとはいえ所詮は紙。
彼の持っていた武器は砕け散る。
「詰めだ。今のは割と驚かされたぜ、坊主。」
おなまーえ同様、ランサーも感心しているようだ。
「しかしわからねぇな。機転は効くくせに、魔術はからっきしときた。筋はいいようだが。もしやお前もマスターになれたのかもしれねぇな。」
ランサーは獲物を追い詰めた狩人のような目をする。
「ま、だとしてもここで終わりだ」
「っ…ふざけるな」
少年はうわごとのように呟く。
「助けてもらったんだ。助けてもらったからには簡単には死ねない。」
おなまーえは水晶玉を共に覗き込んでいる言峰に問いかける。
「言峰神父、今マスターは何人揃っているんですか?」
「6人だ。セイバーの枠がまだあまっている。」
「…………」
残る枠はあと一つ。何か嫌な予感がした。
――その予感は、数分と経たずに的中した。
蔵の中央、荷物が雑多に置かれた魔法陣が魔力を帯びる。
「っ!?7人目のサーヴァントだと!?」
まばゆい光の中現れたそれは、迷うことなくランサーを跳ね退けた。
不測の事態に、彼は蔵の外に飛ばされる。
「なっ…!」
あんなデタラメな召喚があってなるものなのか。
詠唱どころか、魔力を回した気配もなかった。
「ランサー!無事!?」
「ああ、なんとか。しかし驚いた。ありゃ上級のサーヴァントだぞ。」
「うん。サーヴァント戦となれば話は別。ランサー、様子見をしたら帰還して。」
「ああ」
「…………」
心のどこかで安堵している自分がいた。
あの少年を殺さなくてよかったと。
魔術師としての覚悟が足りないと怒られるだろうか。
でもおなまーえは、己が望みのために、人の命を摘み取ることは極力したくない。
本当に無事でよかった。
「……予想外の事態だな」
「言峰神父。彼は部外者ではなくなりました。殺す必要はありませんね。」
「ああ。さて、私も自分の仕事を果たさなければな。もう夜も遅い。おなまーえも帰るといい。」
遠回しに、邪魔だから帰れと言われた。
ランサーからは危ないから留まっているように言われたが、この男に不信感を抱いている今、この教会に居たくなかった。
「では今日はこれで。……言峰神父、あなたを頼った私が愚かでした。」
ランサーとこの男を合わせたくない。
おなまーえは早々に退散した。
《2月2日 終》