第6夜 千年の騎士
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日がまだ高いうちに、リナリーとアレンは闘技場近くの街に足を踏み入れた。
大通りは人で溢れ、屋台で賑わっている。
アクマの脅威などまるで感じていない様子である。
「わぁー、見てくださいリナリー。スップリですよ、スップリ!」
アレンが近くの屋台を指差す。
茶色い揚げ物が所狭しと陳列している。
油のにおいが食欲をそそる。
「スップリ?」
「ローマ発祥の、じゃがいもの代わりにお米を使ったコロッケのことです。中にモッツァレラチーズが入ってて……あ、2つください!」
説明し終えないうちにちゃっかり2つ注文するアレン。
そんな彼の手には、既に山盛りの屋台飯が抱えられている。
アレンは寄生型イノセンスのため、大食らいである。
その細い体のどこにこの量の食べ物が押し込まれているのか、甚だ疑問である。
「もう、アレンくん!遊びに来てるわけじゃないのよ!おなまーえと神田のこと聞かなきゃいけないのに。」
初めは寛大に許していたリナリーだが、一軒一軒買っていくため、聞き込み調査もままならない。
流石に目に余ると、彼女は腰に手を当てて注意をした。
屋台の店主はそれをみてニコニコしながら話しかけてきた。
「まぁまぁ、お嬢さん、そんなにカッカなさんな。」
「あ、すみません」
「いやいや。若いもんはたくさん食べてたくさん運動すりゃええ。」
「あはは、そうですね」
スップリを三つ差し出してきた店主はオマケだよ、とウインクをする。
アレンは感謝の言葉を述べて、それを一口で平らげた。
「旅の人かい?」
「はい、でも仲間とはぐれてしまいまして」
「この辺りに来たはずなんですけど…」
「……ふぅむ」
店主は少し考え込むと、アレンとリナリーをジロジロと眺めた。
観察されているようで居心地は良くない。
「……もしかして連れの人はその黒いおべべを着ているかい?」
「っ!?見かけましたか!?」
アレンは身を乗り出して店主の手を取った。
店主が指差したのはエクソシストの証の団服。
左胸にローズクロスの刻印、背中に十字架の模様。
伸縮性があり、暑さ寒さにも対応している優れ物だ。
ただ一つ、一般の人と比べると少々目立つのが欠点だが、どうやら今回はそれが吉と出たようである。
「あぁ。一週間くらい前だったのぅ。お前さんと同じこと言って買ってったよ。」
『わぁー、見てください先輩!スップリですよ、スップリ!』
『オイ、観光に来たわけじゃないぞ』
『いいじゃないですか、少しくらいー』
『別嬪さんだねぇ。オマケにもう一個つけちゃるよ。』
『わぁ!おじさんありがとう!』
「おなごの方は別嬪さんじゃったが、男の方は無愛想なやつでなぁ」
先輩呼びの女性と無愛想な男。
間違いなくおなまーえと神田である。
ようやく掴んだ手がかりに2人は気を引き締めた。
「リナリー」
「ええ」
2人は一週間前に、この街には辿り着いていた。
手がかりの少ない今、足取りを追うのが最善の方法だろう。
「おじさん、2人がどこに向かったかわかりますか?」
「それなら町長様のお屋敷じゃよ。なんでも幽霊退治の有志を募っているらしくてな。」
「幽霊退治?」
「詳しいことはわからんが、倒せたもんには報酬が与えられるとかなんとか」
奇怪現象あるところにイノセンスあり。
この幽霊も、闘技場の剣闘士と無関係ではないだろう。
「行ってみますか」
「そうね」
2人は店主に礼を述べ、その町長の屋敷というところに向かった。
「そういえば、おなまーえってどうして神田のことを先輩って呼んでるんでしょうか?」
「私も詳しくは知らないけど、エクソシストとしての心得?みたいなのを神田が教えたかららしいわよ」
「あの神田が…?教える…?」
「私も想像つかないわ…」
指導する神田を思い浮べようとするが、どうにもしっくりこない。
あの男が人に何かを教えることができるのだろうか。
2人は苦笑しながら屋敷の門をくぐった。
****
豪勢な門を越え、迎えてくれたのは屋敷の使用人。
「幽霊退治の有志です」といえば奥まで案内してくれた。
広間には食事が並べられ、同じく幽霊退治を申し出た人たちで溢れている。
アレンもリナリーもそれなりにご馳走になり、満足した頃。
パンパンと手を叩く音が聞こえた。
顔を上げると吹き抜けの上の階から顔を覗かせる男がいた。
おそらく町長だろう。
「有志諸君。しばらく手を止めて私の話を聞いてほしい。」
あんなに賑わっていた会場が一気に静まり返った。
皆一様に顔を上げて男の話を聞く。
「すでにご存知の方もいるとは思いますが、この街の近くにある闘技場が解体される運びとなりました。だが、ひと月前から始めた工事は未だに進まず。それもこれも、ビットリオを名乗る男に工事を妨げられてしまうからであります。」
闘技場の剣闘士が確認されたのはひと月前。
ちょうど解体工事の始まった時期と重なる。
剣闘士は闘技場自体を守る役目を担っているのだろうか。
「このままでは工事が進まない。そこで皆様のお力を貸して頂きたい。その幽霊のような男を退治された方には相応の報酬を用意致しましょう。」
報酬という単語で、会場内の熱気が上がった。
ここにいる人たちはほとんどがそれ目当てで集っている。
報酬がもらえるのは1組だけ。
アレンはリナリーにこそっと耳打ちした。
「確か資料には闘技場の周りにはアクマがいるって書いてありましたよね?」
「うん。でも言っても聞かないと思うわ、あの人たちは。」
目をギラつかせる参加者たち。
皆お金に目が眩んでしまっているため、聞く耳も持たないだろう。
探索日は明日からだが、既に抜け駆けを企んでいるものもいる。
「僕たちが防ぎましょう」
「そうね」
2人は早速闘技場に向かうことにした。