第5夜 師弟
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「では早速。資料では見させてもらったんだけど、リカバリー?って能力を見せて。」
「は、はい」
ミランダは
元は古時計だったものを、科学班が加工して円盤型にしたという。
ミランダのイノセンスといい、おなまーえの
コムリン事件など、普段はろくなことをしていないが。
「生きているものにできるなら、無機物にも機能するよね」
「た、多分…」
「じゃあ試しに」
そういっておなまーえが取り出したのはボロボロになったサンドバック。
神田とおなまーえがよく使っていたものだが、ところどころほつれてきてしまい中綿すら出てきている。
それに向かっておなまーえは矢を数本射った。
「とりあえずやってみて」
「リ、
イノセンスが発動され、白い光が対象物を包囲し、2人の周りにドーム場の空間が出来上がる。
サンドバックの傷が吸収されて、瞬く間に新品同様の形になった。
おなまーえはそのサンドバックを手に取り見回す。
神田とつけた傷も修復されていることから、単純な時間巻き戻しではないことがわかる。
「『時間の巻き戻し』というよりは『最善の状態を保つ』の方が正しいかもしれない」
「たしかにそうだわ…」
「範囲の強弱はつけられる?」
「まだ難しいけど、練習すればできるかもしれない」
「範囲が小さくなれば省エネになるから、その分長く能力を使うことができる。それから、対象のみに使う力も身につけようか。」
「対象のみ?」
「私の
だがそれは味方だけでなく、敵の時間すらも修復されてしまうため実用には向いていない。
「エリアではなく、一個人に
「なんとなくだけど、わかったわ」
「ごめんね、説明上手じゃなくて」
「大丈夫。私なんかのためにこんなに考えてくれてありがとう。」
「……ミランダ」
おなまーえはしゃがんで彼女と視線を揃えた。
元々の性格のせいもあるのだろうが、このネガティブなままでは今後の業務に支障を来すだろう。
酷だが彼女を連れていかなければならない場所がある。
おなまーえは少し躊躇するとミランダの手を取り、立ち上がった。
「……ついてきてほしい場所があるの」
****
「ここは…」
「……大聖堂」
厳かな雰囲気。
それだけ言えば神秘的な空間を想像されるが、ここに充満しているのは死と悲劇の匂い。
冷たく濁った空気が2人を包む。
「うぅ…」
「…くっ」
「なんで死んだんだっ…」
「くぅっ…」
「あぁぁあーー!!」
ずらりと並べられた棺に縋り付く団員。
嘆き悲しむ者たちの叫び声が広い大聖堂にこだまする。
「……ここにいる人のほとんどは探索部隊。私たちエクソシストの代わりに各地に怪奇現象を訪ねて回ってる人たち。」
ミランダはわなわなと震えた。
戦争の負の側面を間近に垣間見て恐ろしくなった。
「ミランダ」
「な、なに…」
「あなたの能力は死者にも使える?」
「っ…」
答えは否。
資料にもそう記載されていた。
もちろん意地悪でこんな質問をしたわけではない。
ミランダは視線を目の前の棺に下ろした。
この人にも家族がいただろう。
愛する人ももしかしたらいたかもしれない。
どんなに願ってもこの棺の中の命はもう戻らない。
「我々人類は圧倒的に不利なの。アクマの恐ろしさは、知ってるよね。」
こくこくと首を縦に降る彼女。
巻き戻しの街で強く感じた。
「唯一対抗できる手段がイノセンス。でもそれは誰にでも扱えるものじゃない。」
しゃがみこんだ彼女の手を引き、大聖堂から出る。
厚い扉一枚隔てて、廊下と中では世界が違った。
「あなたは黒の教団のエクソシスト。今すぐに気持ちを切り替えろってのは無理かもしれないけれど、私たちにしか救えない命があるの。たとえ感謝されなくても、エクソシストが救わなきゃならない。」
「…………」
「でもその前にね」
おなまーえの脳裏に、こちらを冷たく見下ろす神田の姿を思い浮かべる。
「誰かを救いたいなら、まず自分が自分のこと守れないとどうしようもないの」
『失いたくないなら、まずお前がお前自身を守れるように強くなれ』とかつて彼は言った。
「私があなたのこと、サポート系エクソシストとして責任持って育てます。少し厳しくなりますが、あなたの唯一無二の力を最大限に活かしたいの。ついてきてくれますか?」
夢を抱く前に現実を見せておかなければ。
とはいえ少しやりすぎたかとおなまーえは心配し、彼女の顔を覗き込む。
だがおなまーえの想いとは裏腹に、ブラウンの目は覚悟に満ちていた。
ミランダはまっすぐな目で答える。
「……えぇ。私の力が少しでも皆様のお役に立てるなら。」
「……ありがとう、ミランダ」
《第5夜 終》