第3夜 月夜の復讐者
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「ああ、痛イ痛イ。鎌が持てなくなっちゃッタじゃなイ。」
アクマは変形する。
神田に斬られたところが大きく膨らみ、元の形から離れていく。
だが変形を終えるのを待つほど、おなまーえは愚かではなかった。
今が好機だと、一気に破魔の矢を放つ。
ところが変形途中とはいえ、脚力は備わっていたようで、アクマは一気に上空に飛び上がった。
まるでリナリーのダークブーツのような跳躍力。
かと思うとクルクルと回転しだし、円盤状の刃物の形になった。
「なるほど、鎌鼬みたいなものね」
こちらに向かって突進してくる刃物を避け、過ぎたところを矢で狙い撃つ。
動きが早いため命中率は普段の半分以下だ。
加えて高速で回転しているため、アクマの核の部分まで矢が届かない。
「くっ…」
幸いまだ直撃していないためおなまーえの体は五体満足だが、ところどころに直線状の傷が入り、団服はボロボロである。
(このままだと拉致があかない)
こちらの攻撃は入らず、ほぼ一方的に傷をつけられている状態。
体力に自信があるわけではないおなまーえは、延長戦に持ち込むことだけは避けたかった。
「これじゃああなたの体力が尽きるまで付き合わなきゃいけないじゃない。少し退屈ね。」
言葉も流暢になってきている。
進化が終わりかけている証拠だ。
完全体のこいつとどう闘うか。
キィンと矢が弾かれる。
アクマは回転をやめ、ふわふわと浮く。
おなまーえはじっと敵の様子を観察した。
このアクマは刃物を突き出したような見た目をしていて、能力は高速で動けることと。
その能力を活かして、高速回転し体当たりしてくるのが主な攻撃方法。
おなまーえの矢もその回転に弾かれてしまう。
だがよく見ると、攻撃の軌道は大幅には変えられないようだ。
つまり方向転換するためには、一度回転を止めるか物に激突して跳ね返るかしなければならない。
またおなまーえの矢が当たった後も、わずかな時間だが回転を止めて体勢を立て直している。
おそらく矢の威力で軌道が変わってしまうからだろう。
(一度に2.3本射てれれば……)
おなまーえの弓矢は基本は一本ずつしか射てない。
(お願い。応えて、イノセンス…)
妹を亡くし、その妹の魂の入ったアクマに殺され、そしてアクマにされたロゼリア。
彼女はもうこれ以上ないほど苦しんだ。
早く解放してあげたい。
――ピカッ
「っ!?
おなまーえの想いに呼応するようにイノセンスが光った。
これはアレンの時に見たのと同じ、イノセンスの進化である。
「……そう。あなたもロゼリアを助けたいと思ってくれてるんだね。」
イノセンスは生きているとティエドールは言っていた。
おなまーえは今それを身を以て体感している。
雲に隠れていた満月が姿を現した。
高速回転したアクマがこちらに襲いかかってくる。
「いくよ、イノセンス」
変形を終えた
迫り来るアクマをギリギリまで引きつけてから回避し、おなまーえは弦を引っ張った。
現れた矢は3本。
彼女の想いにイノセンスが応えた結果である。
「もう、楽になって、ロゼリア」
パァンと矢が弾け飛ぶ。
一本がアクマの回転を止め、一本がバランスを崩させ、そしてもう一本が核の部分に直撃する。
「ギ、ギャァアアァアァ!!」
断末魔が響いた。
アクマの殻が剥がれ、中から光が零れだす。
勝敗は決まった。
ピシッと鎖にヒビが入った音がし、次の瞬間アクマの体とともにそれは砕け散った。
『……ありが…と……おなまーえ…』
ダークマターが消滅する刹那、ロゼリアの声が聞こえた。
アレンのような目を持っていないおなまーえは彼女の最期の表情を見ることができなかったが、その顔が穏やかなものであることを願った。
****
「……で、こいつだね…」
「ヒ、ヒイッ!!」
もうこの街におなまーえと神田とこの元教祖以外の生物はいない。
人もアクマも、全て滅んだ。
「殺すのか?」
「………」
神田が抑えていてくれたため、今回はこの男を見逃さずに済んだ。
だが次どこでまた同じようなブローカー活動をするかわからない。
それだけでなく、こいつはローズも、ロゼリアも、彼女の恋人をも不幸にした。
到底許すことはできない。
おなまーえはグッと拳を握る。
「……それもいいだろう。だが、ひとつだけ聞く。こいつはお前が殺すほどの価値のある人間か?」
「……なかなかきつい質問しますね、先輩」
こいつを殺したところでおなまーえの気が晴れるかと問われれば、そうではないだろう。
彼女は善良な市民の育ち。
自分の意思で人を殺して、平気な顔で余生を生きていけるほどの残忍さは持ち合わせていなかった。
「探索部隊が近くまできてる。身柄を拘束して引き渡すのも手だぞ。」
「………」
ブローカーとして活動していたこの男を、黒の教団は見逃さないだろう。
伯爵に関する情報や、ほかのブローカーに関する手がかりをあの手この手で聞き出す。
おなまーえが今この男を殺してしまえば、その有益な情報すら手に入らず、各地の被害を未然に防ぐことはできないだろう。
「……先輩」
迷った末におなまーえは結論を出した。
悔しさに溢れた表情だが、静かな声ではっきりと言った。
「ロープ、どっかにありませんでしたか。この男を教団に連れて帰ります。」
まばゆい朝日が彼女と神田を照らした。
《第3夜 終》
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少女Sです!
神田夢、オリジナルばかりですみません。
よくよく考えてみたら元帥捜索編に入るとほとんど神田出てこなくなるから、その辺オリジナル満載になってしまいます。
なるべく複雑でないように書いていこうと思いますので、お付き合いいただけると幸いです。
基本原作沿い、原作にない部分の穴はオリジナルで埋めていきます。
よろしくお願い致します。
2018/10/25 少女S