第3夜 月夜の復讐者
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「……宗教?」
「ああ」
おなまーえは訝しげに眉を潜めた。
資料の内容を要約すると、とある宗教のセミナーに参加した人々が次々とアクマにされている可能性がある、と言うものだ。
「これは…」
この手のやり口に、おなまーえは身に覚えがあった。
(もしかして…)
忘れもしない、"あの2日間"。
おなまーえは顔を歪めた。
****
これは彼女がまだティエドールに拾われて間もない頃の話である。
13歳そこらの彼女は、まだエクソシストではなく、ティエドールの弟子として旅をしていた。
そんなある日のこと。
「そろそろおなまーえちゃんも一人で任務こなしてみる?」
「へっ!?」
ティエドールの、まるで世間話をするかのようにさりげない言葉で、おなまーえは顔を青ざめた。
ティエドールに拾われて半年。
まだ黒の教団というところにも行ったことのない彼女は、いつもティエドールの背後や安全なところから仲間を見ていた。
「ほら、可愛い子には旅をさせよって東洋のことわざもあるしね」
「ひ、一人ですか…?」
「うーーん、でもやっぱり心配だなぁ」
「元帥…」
「女の子の弟子なんて久々だからねぇ」
ティエドールは少し考え込んだ後、そうだと手を打つ。
「ユー君についてってもらおうか」
「「えっ」」
神田だけでなく、おなまーえも声を上げる。
神田ユウ、この男はおなまーえと初めて出会った時に目の前でアクマを倒してくれた恩人なのだが、いかんせん無愛想なため、彼女は怖い人という印象しか抱けなかった。
震えながら首を神田の方に向ければ、彼も心底嫌だと言わんばかりの顔をしている。
「なんで俺が子守なんてしなきゃならねぇんだ、ジジイ」
「だってユー君が適任なんだもん。マー君は見てられなくて手出ししちゃうだろう?」
「まぁ…」
要は基本はおなまーえ一人で任務をこなすが、危険な状況になった時だけ手を出す見張りの役割に、ティエドールは神田を指名したのだ。
確かにマリは優しいため、おなまーえが困ったらすぐに手を出してくれるだろう。
だがそれでは彼女のためにならないということだ。
「大丈夫。アクマの出現情報はあまりない街だから。」
「アクマがいないのに、なんで師匠にお声がかかったんですか?」
「ああ、それはね」
ティエドールの物腰柔らかい笑みが今はとても恐ろしく見えた。
「街の人が何十人と行方不明になっているからだよ」
****
「この街、ですね…」
「………」
おなまーえの半歩後ろを歩いている神田は返事をしない。
腕を組んで、さして興味もなさそうな目をしている彼は、今回の任務では余程のことがない限り手を出さないのだ。
今回の修行のテーマは、『街の人に聞き込みをすること』。
エクソシストになると、探索部隊がいない場合自身の足で聞き込みをすることがある。
それの練習として、ティエドールはこの街を指定したのだろう。
街は意外にも活気付いていた。
雑貨屋や娯楽施設もちらほら見受けられる為、それなりに大きい街だ。
「すごい…」
かつて自分の生まれ育った街の隣街に憧れを抱いていたおなまーえは、その都会のような光景に目を奪われた。
「………」
「ハッ」
首を120度回転させると、神田がこちらに睨みを利かせている。
さっさとしろ、観光できてるわけじゃねぇ、と。
言葉は発してなくとも言いたいことはわかる。
即座に小さく頭を下げてそそくさと移動をした。
おなまーえは震えながら街の中央広場までやってきた。
中央広場には屋台が立ち並んでいる。
(どういう人から話しかけたらいいんだろう。師匠、いつも適当な人に声かけるくせに、だいたい当たりなんだもん……)
険しい顔で悩んでいたからだろうか、一人の女性がおなまーえに声をかけてきた。
「こんにちは、旅のお方ですか?」
「は、はい!」
顔を上げると同い年くらいの女性がチラシを抱えてニコニコしていた。
「はじめまして、私はロゼリア」
「おなまーえです」
「この街は初めて?」
「はい、そうなんです」
「なら是非、これを見ていって」
「……なんですか?これ」
差し出されたチラシは、素人でも見ればわかる怪しい宗教の勧誘広告。
真ん中に大きくパブリック教会と書かれている。
謳い文句は『主に全てを捧げなさい。さすればどんな願いでも必ず叶います。』だ。
胡散臭さの塊だった。
近々、初回体験セミナーがあるということで宣伝していたようだ。
「私の所属している宗教なんですけど、この街の半分くらいの人が信仰しているんです」
「え!?半分って…すごいですね…」
自信満々のロゼリアは誇張表現はしていないだろう。
現にチラシに載っている教祖の写真はすでに街のあちこちで見かけていた。
「明日セミナーがあるんです。私も見せ場がありますから、よかったら見に来てください。それでは。」
「あ、待って!」
せっかく捕まえた情報源(正確には向こうから話しかけてくれたのだが)、おいそれと逃すわけにはいかない。
「えっと、その、あの……」
だが話の切り出し方がわからない。
唐突に『この街で行方不明者がたくさんいるって本当ですか?』と聞くのは些か不自然だろう。
おなまーえは混乱した。
(少なくともこの人が敵か味方か分からなければ、自分の素性は明かさない方がいいし……でも気を許してもらわないと話してくれないだろうし……)
迷った挙句、とうとう変なことを口走ってしまった。
「あの……お茶でもしませんかっ!!」
おなまーえの5メートル後ろの神田が盛大に舌打ちしたのが聞こえた。