第2夜 土翁と空夜のアリア
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神田はすぐに食べ終えたが、おなまーえが食べ切るまで待っていてくれた。
食堂を出る際にアレンをちらりとみたが、人一人が食べる量ではないほどの食事をしていた。
司令室に着くと、リーバーに座って待つように言われる。
おなまーえの予感はどんどん可能性を高めていく。
「お待たせしました」
お腹をさすりながらアレンが入ってくる。
神田は入り口とは正反対の方向を向いて眉を顰めた。
「あの量食べたの?」
「はい、まだあの倍はいけますよ」
紳士的で純粋な少年とは打って変わって可愛らしい一面もあるのだな、とおなまーえは微笑む。
「おし、揃ったな。じゃあ室長…って寝てるか。」
コムイは本の山の中に倒れ込んでいる。
まぁまぁいつもの光景だ。
「室長…室長……コムイ室長!!」
リーバーが苛立ったように体を揺らして起こそうとするが、彼はピクリともしない。
「リナリーちゃんが、結婚するってさ」
「っ、リナリィィイイー!!」
飛び跳ねたコムイはリナリーの姿を見つけ抱きつきに行く。
彼女は顔を赤らめて俯いていた。
「わりぃな、このネタでしか起きねぇんだ、この人」
次の瞬間、リナリーの鉄槌がコムイの頭に下った。
****
「さて、時間がないのであらすじを聞いたらすぐに出発してもらうよ。詳しい内容は、今渡す資料を行きながら読むように。」
リナリーから3人とも同じ資料を渡される。
「む…」
「ん?」
ようやく神田もアレンも察したようで、互いに露骨に嫌な顔をした。
間に挟まれたおなまーえに、リナリーからの慰めの視線が送られる。
流石にコムイもそれに気づかないほど鈍いわけではない。
「え、なになに?もう仲悪くなったのキミら?」
「…出会った時が"アレ"だったから」
「あ、う…」
リナリーの辛辣な言葉にコムイは小ダメージを受ける。
「コムイさん、私とアレンくんだけでいくってことはできませんか?」
「うーん、できないね」
気を取り直して彼は世界地図を広げて、ヨーロッパのあたりにポインターを当てた。
「南イタリアで発見されたイノセンスがアクマに狙われているらしい。神田くんがいてくれた方が安心する。」
決して戦闘ができないわけではないが、おなまーえはどちらかというと守備役だ。
確実にイノセンスがあれば、アクマとの戦闘は避けられない。
両サイドからの威圧を受けながら、彼女は諦めた顔で頷いた。
「わかりました…」
「では以上だ。早急に敵を破壊し、イノセンスを保護してくれ。」
「はい」
****
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「急いでアレン、汽車来ちゃう!」
神田とおなまーえが先行し、探索部隊のトマとアレンがそれに続く。
4人は今、夜の闇の中を猛スピードで進んでいた。
もうすぐで汽車が歩道橋に差し掛かるので、そこから汽車に飛び乗るのだ。
汽車の先頭が歩道橋下に差し掛かる。
階段をすっ飛ばす勢いで駆け上がり、手すりを乗り越えた。
おなまーえが着地する直前に神田が軌道を変えて、彼女の邪魔にならないように避けてくれる。
「ありがと」
小さく感謝の言葉を述べるが、彼は返事の一つもしなかった。
「と、飛び乗り乗車…」
「いつものことです」
屋根から汽車に侵入し、黒の教団だといえば乗務員は畏まってお辞儀をした。
用意された部屋は上級階級の人が使用する個室。
おなまーえと神田にとっては当たり前の光景だが、アレンにとっては珍しいことのようだ。
やっと腰を落ち着かせたおなまーえとアレンは早速資料に目を通す。
「目的地、南イタリア。古代都市マテール……これって確か、ずいぶん昔に滅びた都市ですよね?」
「そうだね。表向きは劣悪な環境による移住ってことになってるけど、その実はアクマによる襲撃だよ。」
「そんなことが…」
「…今までアレンは表の歴史を見てきただろうけど、今後は裏の歴史…より真実に近いものを見ていくことになるんだよ。」
光があれば闇がある。
綺麗なものも、汚いことも、隠された全てを見ていく羽目になるのだ。
おなまーえはそれだけ言うと資料に目を通した。
アレンもそれに倣って目を落とす。
『マテールの亡霊』
調査の発端は地元の農民が語る奇怪伝説だった。
亡霊はかつてのマテールの住人。
街を捨て移住していった仲間たちを怨み、その顔は恐ろしく醜やか。
孤独を癒すため街に近づいた子供を引きずり込むと云う。
亡霊とイノセンスがなぜ関係あるのかとアレンは問いかけた。
おなまーえは説明しようと口を開いたがうまく言葉にできない。
そんな当たり前のこと、疑問に思ったことすらなかった。
結局、探索部隊のトマが解説してくれた。
アレンはトマと話すため部屋の外に出る。
パタンと扉が閉まり、狭い部屋におなまーえと神田だけが残った。
「……お前、あいつがいいのか?」
「何が?」
窓際に肘をついて神田はこちらを見る。
「やけに気にかけてるじゃねぇか。あのモヤシのこと。」
「新人教育の時はいつもこんなもんですよ。先輩は逆でしたよね。私が困ってても絶対手出ししなかった。でも私の成長を期待してそうしてくれたんですよね!」
「面倒だったからだ」
「もう、先輩不器用なんだから」
窓の外に灯りが見え始める。
そろそろマテールの街に一番近い駅に着くだろう。
「そろそろですね」
「ああ」
電車が止まる。
立ち上がったおなまーえは背筋に冷たいものが走る感覚がした。
彼女のこういう時の直感はなぜか当たることが多い。
(探索部隊が無事だといいけど)
ボンヤリとそんなことを考えていた。