第1夜 黒の教団
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食事の時間が終わり、神田もおなまーえも非番だということで、2人で鍛錬をすることにした。
とは言っても体力の差や武器の相性から、おなまーえには一切の勝ち目がない。
なので神田は攻撃、おなまーえは避けで、一定時間経って彼女が攻撃を喰らわなければ勝ちだ。
今のところ彼女の勝率は20%くらいだが。
「ほっ、よっ……はっ」
「…っ……」
互いにイノセンスは使わずに体術だけで競っているが、溢れ出る殺気は戦場のものと遜色ない。
「うわっ!」
だがとうとう足を崩され、おなまーえは後方に転倒してしまった。
踏ん張る余力があればよかったのだが、なにせ昼から夜までずっと組手をしていたのだ。
体力的にも限界だ。
バターンと倒れ、砂埃が舞う。
「まだまだだな」
「みたいですねぇ」
こちらを見ずに汗を拭う神田を見上げる。
タハハと笑っておなまーえは立ち上がった。
「もうこんな時間ですね。そろそろ戻りますか?」
「俺はまだやってく」
「じゃあ私も待ってますよ」
「…一旦戻れ」
そう言った彼の真意をおなまーえはすぐに汲み取れた。
彼女のタンクトップは汗まみれで、全身に砂が付いている。
このままだと風邪をひくかもしれないし、汚いから風呂でも浴びてから戻ってこい、ということなのだろう。
姉が比較的無表情だったということもあって、おなまーえはこう言った人種の心を読み取るのは比較的得意な方であった。
「じゃ、あとで戻ってきますね」
素直に従い、おなまーえは一度自室に戻る。
汗で少し冷えてしまったので、大浴場の方に足を向けた。
大浴場もまた、団員の憩いの場だ。
今日は偶然にもリナリーに遭遇した。
「おなまーえ!」
「リナリーもこれから?」
「うん。神田、機嫌悪そうだった?」
「大丈夫だった。でもアレンくんとの相性は良くないみたいだね。」
「だね」
シャワーを浴びて湯船に浸かる。
そういえば、とおなまーえは思い出したかのように話題を切り替える。
「彼平気だった?腕」
神田がアレンの対アクマ武器に傷をつけられていた。
イノセンス同士の激突などそうそう見るものではないので、彼の切り傷はすぐには治らないだろう。
「兄さんが治療してた」
「あぁ…」
コムイの治療はそれはそれは酷いものだ。
リナリーはちょっと荒っぽいという表現をするが、あれは荒っぽいどころの話ではない。
「もしかして今日のうちにヘブラスカのところにも?」
「行ったよ。結構ショック受けてたみたい。」
「あー…」
いつかやらなければならないこととはいえ、初めての場所で1日に何度もトラウマ級の体験をしたアレンに、同情の気持ちをこめて合掌した。
「明日から早速任務だって」
「また新人教育は私かな?」
「多分?」
今ホームにいる団員とメンバーを考えたら自分が担当するのが無難だと思う。
ぱしゃっと風呂から立ち上がる。
体も温まった。
湯冷めしないうちに服を着て神田のところに戻ろう。
「じゃあリナリー、また明日」
「また明日」
タオルですぐに隠していたが、リナリーはおなまーえの背中の火傷跡を見て、目尻を下げた。
****
先ほどのタンクトップ姿とは打って変わって、暖かい服装でおなまーえはまた修練場に来ていた。
どうやら集中しているようで、神田はこちらに気づいていない。
話しかけて集中力を途切らせるのも憚られたので、彼女は横の観戦席のようなところに腰をかけた。
逞しい二の腕。
しなやかな胸筋。
研ぎ澄まされた剣筋。
真剣な表情。
どれを取っても神田は綺麗だった。
(綺麗だなんて言ったら絶対に怒られるな)
おなまーえより長い髪も、何の手入れもしていないというのに本当に美しい。
彼女はそれに羨望の眼差しを向けた。
(私も先輩みたいに綺麗な髪だったら恋人の1人や2人できたのかな…)
戦争だというのに何を呑気なことをと言われそうだが、おなまーえもまだ17歳の女の子。
愛だの恋だのに想いを馳せることもなくはない。
(はは、恋人が2人いたらだめか……)
あくまで本の中でしか知らない。
生まれ育った街は小さく、同い年くらいの男の子はいなかった。
姉にもそういった仲の人はいなかったように思う。
(……ちょっと眠いかも……)
そろそろ日付も変わる。
少しくらいなら横になっても構わないだろうか。
(ちょっとだけ……ちょっと、だけ……)
そうして彼女はぐっすりと眠り込んでしまった。
****
ハッとして目を覚ました。
どのくらい寝てしまっていたのだろうか。
辺りを見渡せば、窓から眩しい光が差し込んでいるのが見えた。
どうやらあのまま眠りこけて朝になってしまったらしい。
体を起こそうとして、毛布がかけられていることに気づく。
そして規則正しい呼吸音が聞こえることも。ゆっくりと後ろを向けば、神田が腕を組んで座っていた。
目は閉じられてはいるが、起きているのか寝ているのかわからない。
「ぁ…」
おなまーえは嬉しそうに頬を緩める。
きっと彼はおなまーえをここに置いていくことだってできた。
だがそうしなかったのは、きっと彼の不器用なりの優しさだ。
「先輩」
「…………」
神田は反応しない。
本当に寝ているのだろうか。
畳んだ毛布からは、石けんとほんの少し彼の匂いがした。
「せーんぱい」
「……飯でも食いにいくか」
眉ひとつ動かさず、神田は応えた。
2人とも昨日の昼から何も食べていない。
そろそろ腹の虫が鳴りそうな頃合いだ。
「そうですね。その前に先輩のお部屋にこれ返しに行かないと。」
「……オレじゃねぇ」
「まぁまぁ、そんなこと言わずに!」
早朝で人の気配はあまりない。
2人はまだ誰もいない廊下を仲良く歩いた。
《第1夜 終》