28. 貴方がやってくるまで
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その空気をぶち壊したのはオズであった。
「あのさ!」
「ひゃうう!?」
「っ!?!?」
彼が突然大声を出したことで、驚いたシャロンが抱えていたアリスをギュウッと抱きしめた。おなまーえもギルも思わず拍子抜けしてしまう。
「ど、どうされたんですか、オズ様」
「うん、あのさ……こんなときにあれだけど、オレ、帰ったらまたお茶会開きたいんだよね」
「「「おちゃかい?」」」
その場にいる全員が頭に疑問符を浮かべた。
こんなときに彼は何を言っているのだろうか。
「うん。ほら、前にオスカー叔父さんが開いてくれたみたいなやつ。あれ、すごく楽しかったから。天気のいい日にいっぱい人呼んでできたらいいなって。」
それが叶うはずはないとオズもわかっているだろうに。
彼の口から当たり前のように未来の話が出たことが、嬉しかった。
一拍おいてシャロンが手を合わせる。
「いいですわね!でもオズ様、折角ならもう少し暖かくなるのを待った方がいいかもしれませんわ。」
「最近急に冷え込んできましたしねー」
「そうだな。ならオレはそれまでに右手だけでオズの好きなケーキを作れるようになっておこう。」
「鴉!私の好きな肉もだ!」
「わかったわかった」
みんなわかっている、そんな未来が来ることはないということは。
おなまーえは泣きそうにになるのをぐっとこらえた。
「よかった、それじゃあオレもそれまでに写真の勉強をするよ」
「写真?」
「うん。昔から興味はあったんだけど、その時は他に覚えなきゃいけないことがたくさんあったから。」
「知らなかった…」
「ギルが来る前の話だよ」
長年仕えていた主人がカメラに興味を持っていたなんて、ギルはこれっぽっちも気づいていなかったようでショックを受けている。
気持ちはわからないでもない、とおなまーえは隣のブレイクをチラッと見た。
「でもやっぱり勿体無いかなって。叔父さんのカメラが現役で使えるんだし。」
「あぁ、いいんじゃないかな?」
オズの叔父、オスカー=ベザリウスはもうこの世にいない。
彼と少ししか交流のなかったおなまーえですら心を痛めたというのだから、彼らの心の傷は計り知れない。
それほどまでに、かの公爵は偉大だった。
ギルは片手でオズの頭をわしゃわしゃと撫でた。
アリスがそれを羨ましそうに見つめる。
「ぷーーっ!」
突如隣にいたブレイクが耐えきれずに吹き出した。
「な、なんだよーっ!笑うなよーっ!」
「っとにもー」
おなまーえは苦笑すると、ブレイクの片腕にしがみついた。
「ハァ、長生きってのはするもんですネェ」
「ブレイク、貴方最近本当に発言が年寄り臭いですよ」
「ちゃんと私が最後まで介護してあげますから、戻ったら婚姻届にサインしてくださいね?」
「お願いですカラ、ほっておいてください」
「いいか、お前達ー!、忘れるなー!!戻ったら肉ー!お前らによる、私のための肉!肉!肉パーティーだあああああっ」
「うん…あれ?ちょっと違うけど」
「まずはオズの好きなイチゴのケーキと、それからチョコレートたると、前に作ったシフォンケーキも好評だったしな、よし甘いものだけじゃ飽きるからスープも用意するか…」
「にくー!にくー!!」
「うるさいバカうさぎ!体に悪いからちゃんと野菜も食べろ!」
5人の楽しげな声が辺りに響く。
この絶望的な状況で、彼らは気丈に希望を語らった。
「どんどん霧が濃くなってきてるね」
オズの言う通り進むほどに霧が濃くなってきた。
「みんな!気をつけ――」
オズの声をおなまーえが聞き取れたのはそこまでだった。
足元がぐにゃんと歪み、瞬きの間に彼女は1人ぽっちになっていた。
「……なるほど、これが噂に聞くサブリエのよくわからない力なんですね」
ゴーンゴーンと時計が鳴っている。
時計塔との距離は転送される前よりも近くなっていた。
「待ち合わせ場所を決めていたのは幸いですね」
早く行かなければと足を向けようとした瞬間。
「っ!?」
突き刺さるような殺気を感じ、おなまーえは跳躍する。
「おま、えは…!?」
態勢を整え、今自分が立っていた場所を見ると白い仮面の騎士が地面に剣を突き刺していた。
体の所々が崩れかけているが、見間違うはずがない。
「白の騎士…!?」
アリスに破壊されたはずの彼は、それでもなおアヴィスを彷徨い続けていたのだろう。
「っ……なるほど、私はこのためにここに呼ばれたわけ」
1人にされ、こいつと出会ったことには意味がある。
きっとそれは彼女の犯した罪の償いなのだろう。
ならば全力で挑もう。
これが罰なのだと言うのなら、甘んじて受け入れよう。
(それにこいつを放っておけばみんなに危害が及ぶ…)
ならば今ここで粛清しなければならない。
おなまーえはバルマからもらった剣を構えた。
「……来い、白の騎士」
赤の騎士が姿を現わす。
半壊している体で、白の騎士はニタリと笑った。
end