15. 貴方の傍では全てが素晴らしかった
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「―――というものを手に入れましてね、ぜひ今度バルマ公にお見せしたいと思っているんですよ」
「まぁ、それはとても素敵ですね。旦那様にお伝えしておきます。」
社交界が始まって小一時間たったころ。
おなまーえは自身に話しかける貴族に向けてにっこりと笑いかける。
外向け用の笑顔だ。
ダンスフロアに降りた時からずっと貼り付けているが、流石に口角が痛くなって来た。
「そうだ。レディ、宜しければうちの息子と一緒にダンスでもいかがですか?」
私は本来使用人だ。
しかし四大公爵家に代々仕えている家柄は下手な貴族よりは格上の存在となりうる。
ここに取り入って四大公爵家のご加護にあやかろうとする人々も少なくはない。
この男も同じ考えなのだろう。
こういった場合は、まず一度目は断るようにしている。
相手の出方を伺うためだ。
「申し訳ありません、あまりこういった場には顔を出さず、慣れてはいないのですが…」
「大丈夫ですよ、私がエスコート致します」
初老の男の後ろから若い男が姿を現した。彼がくだんの息子なのだろう。
「ご挨拶が遅れてすみません。折角ですし、まずはダンスから如何ですか?」
「……では」
これ以上に断ると失礼に値してしまう。
おなまーえはほんの一瞬気が重そうに顔を歪め、彼の手を取った。
****
「あ、おなまーえさん」
シャロンはテラスで腰をかけて夜風に当たっていた。
ぽーっとダンスホールを眺めていると、知っている顔を見つけて思わず声を出した。
シャロンの目には、大勢の貴族の中で好青年と踊る、美しく着飾ったおなまーえの姿が映る。
彼女の動きは軽やかで洗練されている。
普段はブレイクに飛びつく姿しか見ていないのでついつい粗雑なイメージを抱いていたが、こうして優雅に踊る様は貴族の令嬢に引けを取らなかった。
「……こういう言い方は誤解を招くかもしれませんが、少し意外でした」
「彼女は妙なところで気品ある立ち振る舞いをしますからね」
テラスの手すりに寄りかかるブレイクはこちらを見ずに答える。
シャロンはそわそわした様子で彼をチラチラと見た。
「その…ブレイク、宜しければここで一曲踊りませんか?やはりせっかくのパーティーですし。」
「……ご存知でしょう、お嬢様。私のダンスの才能のなさを。」
「ああ……そうでしたわね。他人とリズムを合わせられない、ミスターワンマンプレイでした。」
ブレイクは武の才能もあり、使用人として申し分のないステータスを誇っているが、どうにもダンスだけは苦手であった。
できないわけではないが、共同作業というものに慣れずいつも相手の足を踏んでしまう。
「ならおなまーえさんの動きを参考にここで練習しましょう!彼女の動きはとても綺麗ですし、公爵家の使用人としてダンスもできないと恥ずかしいですわよ?」
悲しげな表情を浮かべるブレイクにシャロンは気づかない。
こうなったら意地でも踊らさせてみせると息巻いていた。
「ほらよく見てくださいブレイク。貴方は器用なんですから、リズムを取るのではなく相手の動きをコピーするつもりで…」
「みえません」
「もう!面倒臭がらない!物は試しだと思ってやってみてください!」
「…視えないんです、お嬢様」
「――え?」
シャロンが勢いよくこちらを振り返る。
先程までの喜々としていた顔はそこにもうなく、呆然とした表情を浮かべている。
(まだ早かったか…)
レイムからシャロンをあまり子供扱いするなと言われた。
しかしどう頑張っても幼い頃の彼女が抜けない。
かつてお世話をしていた主もまた幼かったからだろうか。
「そ…」
シャロンは震えて声が出ない。
泣かせてしまう、そう思った。
(あぁ、やはりまだ言うべきではなかった――)
ブレイクはシャロンに失明について告白したことを後悔した。
彼女にはまだ早かったと。
彼女は泣くだろうか?怒るだろうか?
「――なら仕方ありませんわね」
しかしシャロンは違った。
「覚悟してくださいブレイク。私が特別に手取り足取りみっちり教え込んで差し上げますわ!」
ブレイクの目はもう何も映さないはずなのに、何故かシャロンがとても凛々しく笑った気がした。
「さぁ、手を。」
そして彼女は手を差し出す。
(あぁ――私の気づかぬうちにシャロンはちゃんと隣にいた。いつのまにか君は、こんなにも強い人になっていたのだね。)
end