5. その枯れない花の中に私たちは居たのです
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用意されていたケーキをありったけ持って戻ると、今度は紅茶のお代わりを要求された。
息つく間もなくもう一度厨房との往復をする。
途中知り合いのメイドに話しかけられたため少し時間を食ってしまった。
戻るとブレイクの皿がタワーのように積み重ねられていた。
対するオズの方は数枚程度だ。
なにやら真剣な話をしているため話しかけにくい。
オズがティーカップを持ったタイミングでおなまーえは話しかけた。
「えっと……遅くなりました」
まだかろうじて暖かいポットを机に置く。
ブレイクは彼女を一瞥するとフォークを口に咥えたまま喋り出した。
「あぁ、ありがとうございます。そうですね、じゃあ次は…」
「おなまーえさん、ケーキまだ余ってるから食べてってよ」
再びおなまーえに指示を出そうとしたブレイクを遮って、オズがケーキを食べるように勧めてきた。
「でも…」
「だいたい話も終わったし、ね?」
ブレイクは何も言わない。
先日からあからさまに何かから遠ざけられているのはヒシヒシと感じていた。
具体的にナニかと聞かれるとわからない。
しかしオズのことといい、黒うさぎのことといい、シャロンが誘拐されたことといい、彼らが何かしらの事件の中心にいることはよくわかった。
「ブレイクもあんまりしつこいとおなまーえさん愛想尽かしちゃうよ」
「それ言う相手逆じゃないですカ?」
呆れたような、面白いものを見たような顔でため息を吐くと遂にはおなまーえの同席を許可した。
「はぁ、まぁだいたい話は済みましたからね」
「やったー!」
真ん中に配置されていた椅子を若干ブレイクに寄せておなまーえはちょこんと座った。
残っていたのはショートケーキ。
ベリーが大好きな彼女は頬を緩めた。
「いやー、ありがとうございます!さすがは英雄の生まれ変わりと名高いオズ坊っちゃま、心の広さが違いますね!」
「は??なにそれ」
ピタリと空気が変わった。
彼は眉をひそめる。
「ああ、オズ様が気絶なさった後のことなんですけど…」
「パンドラ中その話でもちきりですヨー。『100年の時を越え、英雄が再び現れた!!』ってね☆」
「………」
彼は俯いてしまった。
誤解をさせてしまっただろうか。
フォローしなければと内心焦る。
「ブレイクとおなまーえさんは、ジャックの言ったことを信じるの?」
「私は実際その場にいたわけではないのでなんとも」
「右に同じです」
おなまーえは手に持っていたフォークを置く。
「でもネ、『生まれ変わり』なんて安っぽいと思いません?」
「え?」
「私もそう思います!やだ、運命感…」
「じなくて結構です」
しっしっと手を振られ、おなまーえは肩をすくめる。
「まぁでも、どうせならもう少しシャレた言い回しにすればいいのに、って感じですよね」
「…はは、たしかに」
「だから、そんなセンスのない奴らの言うことなんて気にしなくていいんですよ、オズ様」
ブレイクはゆっくり立ち上がった。
おなまーえもそれに続いて立ち上がるとオズの背後に回り肩を揉む。
「はーい、オズ様、力抜いてくださーい」
「君が何かに気を使う必要はないし、誰かになろうのする必要もありません。さぁ答えてごらん。君の名前はなんだい?」
ジャックの生まれ変わりなんてナンセンスな名前ではなく、彼には彼の名前がある。
「……オズ」
オズは泣きそうで、それでいてちょっと嬉しそうな顔をした。
「オレは、オズ=ベザリウスだよ」
「うん、いい笑顔!」
憑き物が落ちたような晴れやかな顔でオズは笑った。
彼の心に反応するように辺りに充満していた朝靄も晴れてくる。
「おや、霧が晴れてきましたネ」
「ホントだ」
頂点に向かって駆け上がる太陽が少し眩しい。
「さーて、もう仕事の時間ですから続きは次回にしましょうかー!」
ブレイクの呼びかけでお茶会は終了となった。
ん?待てよ?仕事の時間…?
おなまーえはガバッと腰元につけている懐中時計を確認して血の気を引かせた。
「え、やだもうこんな時間!?兄様に怒られる!」
「あららぁ、片付けは私やりますから、さっさと行ってください。むしろ行け。」
「あぁ、せっかくのデートだったのにイチャイチャできなかった!」
「はぁ、うるさい子ですね、全く」
ブレイクはおもむろに残っていたケーキにフォークを突き刺すと、それをおなまーえの口に突っ込んだ。
あーんなんていう雰囲気のかけらもなく、文字通り突っ込んだ。
「んぐっ」
「これで満足ですか?」
「………」
「おなまーえさん?」
彼女は金色の目を丸くする。
口の中に広がるベリーの酸味がきつい。
何をされたのか気づくのに数秒かかった。
「…!?〜〜〜!!」
次の瞬間ユデダコのように顔を赤く染めると、彼女はサッと一礼してピューっと走り去って言ってしまった。
「オヤオヤ、刺激が強すぎましたかネェ♡」
「へぇ……予想と違ったなぁ。おなまーえさんならブレイクに抱きつきにでも行くのかなって思ってたんだけど…」
「あの娘は向こうからはグイグイ来るくせに、こちらが迫ると耐性がなくてすぐにああなるんです。」
黙っていればまぁまぁ美人の部類に入るおなまーえだが、やはりあの性格ゆえに男性経験などほぼないのだろう。
「……なんか、ブレイクには勿体無いくらい」
「私もそう思いますヨ」
「…え!?」
ブレイクはボソッと小声で呟いたがオズにはしっかりと聞かれていたらしい。
ニマニマとした表情で彼は問いかける。
「え、それどういうことですかぁ〜、ブレイクさぁ〜ん?」
「……黙ってればボロは出ませんし、それに…イエ、なんでもありません」
彼は心底めんどくさいという顔で皿を台車に乗せた。
彼の脳裏に浮かんだのは、とある少女の姿。
花が好きだと言った彼女をよく外に連れ出してあげていた。
(……名前も同じで顔立ちも似てマスが、目の色が違いますし…そもそも生きているはずもありませんネ)
果たして、少女はなんの花が好きだと言っていただろうか。
ブレイクは思い出すことができなかった。
end