ジャーファルと使用人のお話
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【side ジャーファル】
彼女をデートに誘ってみようと思った。付き合って1年、一緒に外出したことなどなかったからだ。だが不肖ジャーファル、酒の勢いで好きな人に告白したとはいえ、素面の状態でデートのお誘いができるほどの精神は持ち合わせていない。だからすごく遠回しに、シンドバットを巻き込んで、夜流れ星が見られると嘘の情報を使ってまで、おなまーえを連れ出そうと思ったのだ。自分から誘うのは気恥ずかしいので、彼女から誘ってもらおうと。我ながら童貞を拗らせていると強く思った。
「聞いてみたが、断られたぞ。女子会があるんだそうだ。」
「……そうですか」
ところが、シンドバットから聞いた彼女の返事はノーであった。もともと予定があったというのもあるだろうが、それほど自分と一緒にいるのは嫌になってしまったのか、とネガティブな思考になってしまう。
「そうですかって、お前いいのかそれで。このままだといつか別れるぞ。」
「……別にそれならそれで構いません。」
「お前なぁ……」
「彼女が別れたいと言うのであれば、私に引き止める権利なんてありませんよ。」
だってこんなに彼女を一人ぼっちにさせてしまっているのだから。まだ付き合って間もない頃、彼女は自分が初めての彼氏だと言っていた。好きな人とこうして過ごすのが夢だったと。
ところが自分は彼女の夢を何一つ叶えられていない。忙しさにかまけて、おなまーえと過ごす時間をまともにとってこなかった。気づいたら1年。ピスティに咎められて初めて気づいたのだ。『最近おなまーえ元気ないけど、ちゃんと構ってあげてる?女の子は寂しがり屋なのよ?』と。
そういえば正面からおなまーえの顔を見たのはいつだったか。最近、あの花のような笑顔を見ただろうか。翌朝、彼女の顔を見て申し訳ない気持ちになった。彼女はこんな寂しそうな目をする人ではなかったはずだと。
初めておなまーえの顔を見た時、何て真っ直ぐな目を持っているのだろうと思った。自分にはもうない、穢れのない目。年甲斐もなく彼女ともっと話したいと思い、新人が廊下掃除を言い渡されていることを利用して名前を聞き出すことができた。
そこからが大変だった。本来は会話すらまともに出来ない程の身分の違いだ。元暗殺者とはいえ、今は国の政務官。国民の鑑になるような振る舞いをしなければならない。仕事をサボることなどできないため、早朝の掃除をしている彼女に会えるのは週に1.2回程度であった。他愛もない話でコロコロと笑ってくれる彼女に愛おしさが募った。
しばらく経つとおなまーえは新人という枠組みから外れた。立派な宮仕えとして、担当の場所が充てられるのだ。すぐさま人事に彼女を執務室の担当にするように命令した。当の本人は知らないだろうが。仕事の手際は最初の頃より格段に向上していた。なによりも、彼女の淹れてくれたコーヒーは決して上手いものではなかったが、どんなコーヒーよりも美味しく感じた。
他国に外交として出向いた際は、フリーの時間におなまーえに何を買って帰ろうかと土産屋を数件巡った。シンには『どうしたジャーファル!なんか変なもんでも食ったか!?仕事人間のお前が土産屋に行くなんて……!』などと失礼なことも言われたものだ。
そして謝肉宴の日。清掃担当のおなまーえも、この日はお祭り衣装に着替えて給仕をしていた。いつもより露出の多い服。美しい花飾り。お酒で上気した頬。どれを取っても官能的だった。
自身もそこそこ酔っていた。いつのまにかおなまーえとピスティとヤムライハは仲良くなっていたようで(というより、自分の恋心を見抜いて面白そうだったからおなまーえに近づいたのだろう)、八人将に焚きつけられたと言っても過言ではない。どうやら自分は相当分かり易かったらしい。
勢いに任せて彼女に告白して、正式にお付き合いをさせてもらえることになった。はじめの頃は多少彼女と過ごす時間を確保できたが、 シンドリアが発展すればするほど、彼女と過ごす時間は減っていった。
「どうした?ジャーファル」
「ハッ……」
長く考え事をしていたようだ。シンドバットが心配したようにこちらを覗き込んでいる。
「いえ、なんでも。……そうですね。彼女とはお別れした方がいいのかもしれないですね。」
自分と一緒ではおなまーえは幸せになれない。ジャーファルという男は彼女に寂しい思いをさせてしまう最低な男だ。暗殺者として多くの人を殺してきた自分には、恋をするなどという人並みの幸せは身に余った。
「おなまーえには、彼女自身を大切にしてくれる人と添い遂げてもらいたいんです」
それが彼の心からの願いだった。
シンドバットは苦虫を噛み潰したように顔をしかめていた。
「気をつけろよ。お前の軽率な行動一つでおなまーえは傷つくんだからな。」
女心を甘く見るなと、彼は釘を刺した。