第15夜 戦火の爪痕
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
重々しい扉を開ける。
赤い絨毯の敷かれた部屋は、中央庁の警備員が石像よろしく壁際にずらりと並んでいる。
念のためと入口で簡単な身体チェックをされた。
そこまで警戒しているのなら呼び出しなどしなければ良いのにと頭の片隅でごちる。
「やぁ、ミスおなまーえ。直接会うのは初めてだね。」
「……初めまして、ルベリエ長官」
恰幅のいい、髭面の男が紅茶カップを持ち上げて挨拶してきた。
言わずもがな、中央庁長官ルベリエである。
彼は向かいのソファに手を出す。
「どうぞ」
「失礼します」
おなまーえの前にも紅茶が置かれた。
香りの良さからなかなか良い値段のするものだと思われる。
ミルクと砂糖を注ぎ入れ、揺れる水面をじっと見つめる。
カップを持ち上げ、甘ったるいそれを喉奥に流し込んだ。
「襲撃のときの後遺症はもう大丈夫なのかい?」
「余計な前置きは結構です。何かお話があると伺いましたが。」
「君は思いの外せっかちのようだ」
ケーキも出されたが、そちらには手をつけなかった。
「なに、大した話ではない。君がイエスと一言言ってくれるだけで良い。」
「……内容次第です」
「ふむ。では本題に入ろう。」
ルベリエは鋭い眼差しをおなまーえに向けた。
「我々の次なる実験に協力してもらいたい」
(ほらね。ろくな話じゃない。)
話にならないとおなまーえは首を振った。
伯爵と戦う教団の長い歴史の中で、人体実験はその歴史と同じくらい長い間行われてきた。
神田のセカンドエクソシスト計画が良い例だ。
彼は尚も言葉を続ける。
「結晶型についてはもうすでに聞いているね」
「はい」
「装備型よりはるかに力を発揮できるそうじゃないか。実に魅力的だ。」
装備型だったリナリーが結晶型になり、その圧倒的な力でレベル4を屠った話は聞いた。
しかし結晶型は、リナリーとイノセンスが十分に意思を交わし合えたからこそ行えた進化。
彼の言わんとしていることをおなまーえはハッキリと口にした。
「つまり、結晶型を人工的につくるための実験ですか?」
「話が早くて助かる」
リナリーにできて他のエクソシストにできない道理はない。
事実コムイもその可能性はあると言っていた。
中央庁の狙いは、人体実験をしてでも、たとえその結果おなまーえが使い物にならなくなったとしても、強力な戦力を確保する。
この男は本当にどこまで外道なのだと眉をしかめる。
「お断りします」
「……状況を理解できない辺り、まだまだ子供のようだね」
「……どういうことですか?」
彼は一枚の写真を取り出した。
そこに写っていたのは黒髪ストレートの女性、ルル=ベル。
先日の奇襲の際に記録に残っていたのだろう。
「このノアはおなまーえの親族だと聞いたよ」
「それがどうかしましたか」
「……君なんじゃないのか?ノアを本部に引き入れたのは。」
なにをバカなことを言っているのだろうと素直に思った。
ただ血の繋がった存在というだけでそこまで疑うのかと。
勤めて冷静に彼女は切り返した。
「それはあり得ません。変な言いがかりはよしてください。」
「ならなぜ君は怪我ひとつせず、ただ気絶させられていたんだい?エクソシストも科学班も被害は甚大だったというのに。」
怪我はした。
だが擦り傷程度だったため、おなまーえに流れる神田の血がそれを塞いでくれた。
だがそんなこと言ってしまったら、エクソシストを人と思わないこいつらは、神田を命がすり減るまで回復に使わず可能性だってある。
彼女は苦し紛れに答える。
「……それこそ状況証拠だけです」
「わかっていないようだね。証拠などいくらでも作れるんだよ。」
「っ…」
甘かった。
ハナから交渉する気などなかったのだ。
おなまーえを異端審問にかければ、彼女はエクソシストというコムイの保護から外される。
後は焼こうが煮ようが中央庁の好きにできるのだ。
「それに、これは君だけに教えてやろう」
ルベリエはソファに肘をつき、上目遣いでこちらを見た。
「サードエクソシスト計画」
「なに!?」
カッと頭に血が上り、思わずガタンと立ち上がる。
この人たちはまだ人工的にエクソシストを作ることを諦めていなかったのか。
立ち上がった瞬間、微動だにしていなかった警備員が一斉にこちらに銃を向けた。
(いけない。このままでは思う壺だ……)
おなまーえは大きく深呼吸をすると、ゆっくり席に着いた。
警備員も警戒を解く。
「サードエクソシスト計画にはセカンドエクソシストに協力してもらっててね。あの、なんだっただろうか。君と仲の良いセカンドエクソシスト。君が断れば、彼にも是非協力を願いたい。」
「私が協力すれば彼から手を引くとおっしゃっているんですか?」
「その通り」
「……この外道」
おなまーえが断れば、神田が被験体になる。
つまり神田を人質に取られたというような状態ということである。
「まぁすぐには答えなくていい。本部の移転作業もあるだろうしね。さて、どうする?」
「……考えさせてください」
ぎりっと奥歯を噛みしめる。
「では、良い返事を期待しているよ」
殺したいほど憎い男を前にして、おなまーえは何もすることができなかった。
《第15夜 終》
_________
わー、この先ヒロインどうなっちゃうのでしょうか(棒)
すみません、本当に。
文章は書いてませんが、展開は後日発表します。
部分部分は書いてますので、そこだけピックアップして公開もします(アルマカルマ編、基本的にヒロイン空気になりそうですし、私が書きたかったのはアルマと神田の逃避行するシーンなので、そこだけ〜みたいな…)。
中途半端な作品になってしまってすみません。
素直に方舟で終わらせればよかったかな…?
でも伏線もまだ回収してないので、そこだけはなんとか解説しておきたくて。
こんな作者に付き合っていただきありがとうございます。
続きが読みたいとコメントしてくださる方、ごめんなさい。
最新刊はちゃんと読んでます。
書きたいシーンもあります。
でもそこにいくまでの道のりがしんどくて…。
原作沿いの宿命ですね。
あと、少なくとも2回は更新すると思いますので、どうか気長にお待ちくださいませ!
2019/03/22 少女S