第12夜 箱舟
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バタンと勢いよく扉を開けて、一行の目にまず飛び込んできたのはリナリーの頬に手を当てるクロス元帥。
まるで映画のキスシーン直前のような光景に、一同は顔を青くさせる。
クロスもこちらに気づいたようで、5人の荒い息が部屋にこだまする。
「犯罪です!師匠!!!」
「遅かったかーーっ!!」
「コムイさんになんて言われるか…!」
「ち、違うのアレンくん!今のは…」
「なんだ馬鹿弟子。16なら立派な女だろうが。」
「元帥!もう!!」
クロスはパッとリナリーから手を離した。
すかさずラビとアレンが彼女の保護に回る。
「お、そこにも別嬪がいるじゃねぇか」
椅子に腰掛け、タバコをふかすクロスの視線は、おなまーえに向いていた。
彼女は左右をキョロキョロと見てから自分を指差す。
「え、わ、私!?」
おなまーえはこれまで、面と向かって容姿について評価されたことなどあまりなかった。
褒められたとしても、そのほとんどが町のチンピラ。
こうして面識のある人に言われると、嬉しいような恥ずかしいような、複雑な気持ちが込み上げてくる。
「………」
神田がスッとおなまーえを隠すように前にたった。
クロスはニヤリと笑う。
「お、なんだオメェさん。おなまーえに惚れてんのか。」
「「「!!」」」
クロス以外の全員の動きが止まった。
そう、箱舟が崩れる前、おなまーえは神田に告白していた。
『後でかならず追いついて、その時にお返事聞かせてください』と言ったため、色々なことがあってつい忘れかけていたが、おなまーえはまだ返事を聞かされていないのである。
ドッドッドッと心臓が鳴る。
よりによってなぜこのように公開処刑されているのか。
2人きりの時間もあったのだから、その時に聞けばよかったと彼女は後悔する。
皆が息を飲む音が聞こえた。
「……ちげぇ」
――ピシィッ
次の瞬間空気が固まった。
惚れているのかというクロスの質問に対し、神田はそれを否定した。
(あ、やば、泣きそう……)
わかっていた。
一度は断られた身だ。
この人が愛だの恋だのにうつつを抜かすわけないじゃないか。
それに彼には"あの人"がいる。自分が入り込む隙なんてないのだ。
俯いてぷるぷると小刻みに震えるおなまーえに、アレンもリナリーも声をかけられなかった。
彼女の肩を抱いたのは神田だった。
びくりと大きく跳ねる。
「だがこいつはオレのもんだ。手出しすんじゃねェ。」
「ぇ…」
潤んだ目でおなまーえは神田を見上げた。
「……ヒュー、青いねぇ」
クロスは小馬鹿にしたような顔をしてシッシッと手を振った。
「青少年の恋なんざ、青臭くてとても見てらんねぇ。ほら、とっとと出てけ。」
「言われなくとも」
そう言うと、神田はおなまーえを連れて部屋から出て行ってしまった。
「……え?」
「「ええぇぇぇえええぇ!?!?」」
アレンとラビの叫びが響く。
一言も好きとは言ってなかったが、あれはどう見ても両思い。
「ウソ!?いや、そんな気はしてたけど!」
「おなまーえは絶対神田に騙されてます!」
「ふ、2人とも落ち着いて…」
「教団に戻ったら死人続出だな、こりゃ」
「ああぁああ〜〜!!」
楽しそうに笑うクロスの紫煙が、くるりと宙で円を描いた。
****
「はぁ」
扉を閉めて、神田は大きくため息をついた。
中からはラビとアレンの叫び声が聞こえてくる。
「せんぱ…」
「黙ってろ」
色々と聞きたいことがあったが、この男は答える気が全くなさそうだ。
「……お前右腕の調子どうだ?」
「え…私そんなに表情に出てました?」
最初は打撲か脱臼でもしたのかと気にしていなかったが、どうも様子がおかしい。
チカラが入らないのだ。
「普通にしてる分には大丈夫なんですけど、引っ張られたりすると痛みます。それから、その、チカラがあまり入らなくて……」
「………」
神田は静かに彼女の右肩を触りだした。
意外にも温かい手が、肩から二の腕を確かめるように揉む。
「先輩…?」
「外傷はねぇな」
「はい…」
神田は腕を放すと、少し躊躇してから口を開いた。
「オレが見つけた時、お前は瀕死の重傷だった」
「え?」
「昔マリにオレの血与えた事あったろ」
「う、うん…」
それのおかげでマリは失明はしたものの、致命傷にはならなかった。
まさか――
「オレの血をお前にやった」
「っ!それじゃ私、先輩の寿命…!」
「オレがしたくてやったんだ。お前のせいじゃねェよ。」
神田の寿命を削っておなまーえは蘇った。
こうして生きていられるのは、神田のおかげなのだ。
「なんでそこまでしてくれるんですか」
「…さぁな。勝手に解釈してろ。」
これで神田とおなまーえは一心同体となった。
仮に神田が死んだ場合、おなまーえの中の彼の血は作用しなくなる。
つまり彼女も死ぬということだ。
「……先輩は大バカものです」
「ああ」
おなまーえはギュッと彼を抱きしめた。
筋肉に覆われた鎖骨に額を預ける。
神田は決して腕を回してはこなかったが、彼女の細い肩に頭を落とした。