第12夜 箱舟
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「終わって、たまるかぁあああ!!」
『怒り』のメモリーを持つノア、スキン・ボリックの最後のあがきは神田には通用しなかった。
神田は何度目かのトドメを刺す。
「ぁ、ああああ!!」
スキンの断末魔が響いた。
長い戦い彼の体のノアが生命の限界を迎え、体が朽ちていく。
「うるせェよ。終わっとけ。」
神田はそれをしかと見届けた。
今度こそ、このノアを倒したのだ。
砕けた六幻をじっと見つめる。
一度砕けたものを、三幻式で無理やり繋ぎ止めたが、役目を終えた刀は瓦解してしまった。
「…チッ、コムイのやつに頭下げねェとな」
屋内だというのに雪が降ってきた。
この部屋の箱舟の崩壊も随分と進んでしまっている。
ぼんやりとした彼の脳裏に1人の女性がいる。
『先輩、好きです』
返事は後で追いついてから言えと、彼女は言った。
なんて自分勝手なやつなのだと呆れたが、それが彼女が出来る精一杯の強がりだったのだ。
「……オレは……」
あの時自分は何と答えようとしていたのだろうか。
オレもお前のことが好きだと、彼女の想いに答えようとしたのだろうか。
蓮の花の情景が浮かぶ。
"あの人"はこんな自分を許してくれるのだろうか。
おなまーえのことが好きだ。
ただの弟弟子から、いつのまにか仲間になっていた。
やがてそれはともに過ごす時間が増えるほど、守りたいものになった。
地面が揺れる。
そうだ、行かなければ。
ここはもう時期崩れる。
「くっ」
だが神田は立ち上がってもすぐに膝をついてしまう。
それだけの体力すら残っていなかった。
短時間で命を使いすぎた。
左胸に広がった刺青がその証拠だ。
――ズシィィン
レンガで作られた建物が崩壊する。
アレン達はあの扉が次の空間へと進んでいった。
唯一の出口だったいうのに。
扉は瓦礫に埋もれた。
神田は後にも先にも行けなくなってしまった。
このままここで箱舟とともに次元の狭間に吸い込まれる。
「…チッ、アイツらに怒られちまうな」
必ず付いて来いと仲間は言った。
「悪りィな、おなまーえ…」
彼は不敵にニィッと笑うと、重力に逆らわずに落ちていった。
****
沈みゆく意識の中で、おなまーえは意外にもはっきりと夢を見ていた。
まず、おなまーえはボロボロのみんなとともに教団に帰る。
真っ先に婦長が飛び出てきて何名か確保され、病棟に連れて行かれる。
それを見送ると、今度はコムイが「おかえり」と両手を広げるのだ。
泣きそうなリナリーがコムイの胸に飛び込んで「ただいま」と答える。
腰を落ち着ける間も無く、アレンが空腹を訴え、一行はひとまず食堂に向かう。
ジェリーがバージョンアップした坦々麺を振舞ってくれて、それがもう絶品で頬が落ちてしまうほど。
ラビが「毎度のことながら、そんなもんよく食えるさー」と水を持ってきてくれて、一口食べるかと聞けば「アイツに殺されるからいらない」と応える。
アイツとは誰だろうと考えていると、科学班の面々が食堂にやってきて団服の採寸をすると言い始める。
特にジョニーとタップがノリノリで測ってくれるのだ。
お腹も満たされ、そろそろ"彼"との鍛錬の時間だと思い、辺りを見渡す。
だが"彼"の姿はどこにもない。
訓練場にも談話室にも科学班のところにもいない。
「あれ、××?」
どこを探しても見当たらない。
そんなはずはないとおなまーえは"彼"の自室に向かう。
長い付き合いではあるが、互いの自室に足を踏み入れたことはない。
だというのに、おなまーえには部屋の中がはっきりと見えた。
物のない部屋。
ベットと砂時計のような花瓶が一つあるだけ。
花瓶の中にはピンク色の蓮の華が咲いていた。
だがそれも残り一枚で枯れてしまう。
「××?」
ここにも彼はいない。
どうしよう。
伝えたいことがあったのに。
伝えなければならないことがあったのに。
ああ、最期にもう一度だけ――
地面が崩れる。
崩壊する箱舟は、容赦なくおなまーえを巻き込んで落ちていった。
****
「っ!!」
ミランダは自身のイノセンスから感じた異変に目を見開いた。
彼女の
だから彼らに何かあれば、彼女が真っ先にわかるのである。
ミランダは小さく首を振った。
「2人分の時間が……」
この喪失感に、信じたくないと頭を抱える。
『すごいよミランダ!天才!!』
こんな時に限ってミランダの頭にはおなまーえが思い浮かんだ。
「誰か、2人の時間が……消えた……」
それは箱舟の中の誰か2人が、死んだということである。
『あなたの能力は死者にも使える?』
彼女の声がやけに脳の奥に響いていた。