第12夜 箱舟
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「ここはなんであるか?」
「橋?」
「みたいですね」
次の部屋は川辺に大きな橋が架けられていた。雰囲気は江戸大橋と言ったところか。
一行はその大きな橋の上を歩いているような状態である。
「これは日本の風景であるか?」
「うわ、先輩こういうの好きそう」
「江戸は伯爵が吹き飛ばしちまったから、もうここでしか見られないかもしれないさ」
「あれってレロの力だったりするの?」
『レロ?あれは伯爵たまのちょっぴり本気モードレロ』
「あれでちょっとなんさ…」
江戸で建物すべてを吹き飛ばす風を巻き起こした伯爵。
3人は肩をがっくりと落とした。
あの力といい、箱舟といい、伯爵についてはほとほとわからないことだらけである。
「……よーし、向こうまで競争!」
おなまーえは走り出した。
「あ、ズリィさ!」
「待つである!」
柳が揺れ、川の水音が聞こえる。
3人ははしゃぎながら橋を渡っていく。
アレンは今くぐったばかりの扉をじっと見つめていた。
「神田のことが心配なの?アレンくん」
「そ、そんなわけないじゃないですか。リナリーこそ――」
「うん、心配だよ。でも一番気が気でないのはおなまーえだと思う。」
前を走り、気丈に振る舞っているおなまーえ。
確かに今一番神田の身を案じているのは、紛れもなく彼女だ。
「………」
「大丈夫。神田は約束を破るような人じゃないわ。だからきっと来てくれると信じてる。」
「…ですね」
あれでいて神田は義理堅い男だ。
それにいつだって神田はおなまーえのことを信頼していたし、彼女を守っていた。
心配はしているが、信頼することも仲間としての絆の一つ。
必ず追いついてきてくれると信じ、アレンは足を動かした。
****
「何さ、ここ…」
「さっきのところより外っぽいね」
おなまーえとラビはポカーンと天井を見上げていた。
ちなみにクロウリーは空腹のため、途中から2人の速さについてこれなかった。
辺りは完全に日本庭園になっていた。
砂利道の脇には手入れされた松の木が植えられていて、池には鯉が泳いでいる。
そこから流れる小川はとても澄んだ色をしていた。
奥には小さな茶室も見える。
少し遅れてアレンとリナリーも到着する。
「すごい本格的ですね…」
「箱舟の中って全部こんな感じなんさ?」
『そんなわけないレロ!』
「ここにもノアがいるのかしら」
リナリーの言葉に一行は辺りを見渡す。
すると茶室の方から、金髪の女性がこちらに向かって歩いてきた。
豊満な体をしているが、締めるところはしっかりしまっている、いわゆるナイスバディ。
「ストラーーイク!!♡」
バキュンとラビのハートが撃ち抜かれた。もちろん比喩表現だが、彼はばたりと倒れる。
「エ、エリアーデの方が綺麗である」
クロウリーも口ではそう言っているが、もじもじと落ち着きがない。
「ちょっと2人とも!!」
「お、落ち着いてリナリー」
「まさかアレンくんまで!?」
「ちがっ!います!!」
コツコツと優雅にこちらに歩いてくる女性。
彼女の髪を結ってある青いリボンを見て、おなまーえは自身の目を疑った。
「……そんな……」
「どうかしたの?おなまーえ」
目を見開き、にわかには信じがたいという顔をしたおなまーえに、リナリーは声をかけた。
「……お姉、ちゃん…」
「え!?」
「お姉さん!?」
2人は交互におなまーえと女性の顔を見る。滑らかな肌。
ぽってりとした唇。
おなまーえに似た、美しい黒髪。
『レロ!ルル=ベルたままでまだここにいるレロ!?』
「主が、顔くらい見せてきなさいと」
女性はじっとこちらを見つめると、サングラスを外した。
「……久しぶりね、妹」
「……まさか本当にノアだとは思わなかったよ、ルル姉」
あの顔、口数の少なさ、そして青いリボン。
追い求めていた探し人は敵だった。
それはとても信じがたいことだったが、感傷に浸る間もなく、おなまーえは彼女を睨みつける。