第12夜 箱舟
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まずアレンが先導して、目につく建物を片っ端から壊していった。
「どこかに外に通じる家があるはずですよ!僕それで来たんですから!」
「って、もう何十軒壊してんさ!」
「この舟は停止したレロ。もう他空間へは通じてないレローって!」
建物を壊す音より、圧倒的に箱舟の崩壊の音の方が大きい。
「マージで出口なぁんて無――」
――ジャキン
レロはアレンの左腕と六幻に加えて、
全員の額に怒りマークが浮いて出ている。
「危ない!」
リナリーの叫びに全員が振り返った。
亀裂が石畳の上を走ってくる。
「うわっ!」
なんとかバランスを保ち、一同は崩れた足場を慎重に降りた。
ここはかろうじてまだ崩壊は免れているようだ。
「無いレロ…ホントに…。この舟からは出られない。お前らはここで死ぬんだレロ。」
「………」
全員が口を閉ざした。
伯爵の言葉が嘘だと信じたいが、これだけ探しても出口が存在しない今、本当になす術がない。
このまま箱舟とともに時空の狭間に巻き込まれて、魂もろとも消滅してしまうのだろうか。
得体の知れない恐怖がおなまーえの体に走った。
「あるよ。出口だけならね。」
次の瞬間、静寂が裂かれた。
どこかで聞いたような青年の声がアレンの背後から聞こえたのだ。
そちら見ると癖っ毛黒髪でメガネのラフな格好の、いかにもチンピラという外見の男が鍵を手に立っていた。
「あ、あなたは!!」
「「びん底メガネ!!」」
おなまーえには見覚えがなかったが、アレンとラビとクロウリーは面識があるようだ。
だがこの男、飄々としているようで隙が全くない。
おなまーえは警戒心をあらわにした。
そうとは気づかず4人は談笑を始める。
「え、そんな名前なの?オレ」
「なな…なんでこんな所にいんの!?」
「いや、まあ…」
「――おい」
神田もじっと男を睨みつけた。
「そいつ殺気出しまくってるぜ」
男はニィッと笑った。
髪をかきあげ、アレンの頭をがっつりと掴む。
「少年。なんで生きていた、のっ!」
――ズキィン
すると男は何の躊躇もなくアレンに頭突きをかました。
相当な石頭なようで、アレンは額を抑えている。
「千年公やちび共にさんざん言われたじゃねーかよ」
「な、なにを言っ…」
アレンはそこでようやく目の前の男ととあるノアの姿が重なることに気づいた。
男の名前はティキ・ミック。
この世の万物を選んで触ることのできる能力を持っている。
それを使って眼鏡を落とすと、ティキは肌の色を変えた。
わざわざ前髪をあげて、額の聖痕を見せつける仕草もする。
「出口、欲しいんだろ。やってもいいぜ。」
出口、それは今おなまーえたちが一番欲しているもの。
「この方舟に出口はもうねえんだけど、ロードの力なら作れちゃうんだなぁ、出口」
思わぬティキの発言に、エクソシストだけでなくレロも驚いた。
彼の背後からハート形の扉が生え出てくる。
「地面から扉が!」
『レロ!?その扉は、ロードたまの扉!』
「うちのロードは唯一、箱舟を使わず空間移動できる能力者でね」
ロード。
確かアレンの作った巻き戻しの街の資料で見たノアの名前である。
「ど?あの汽車での続き。こっちは出口、お前らは命を懸けて勝負しない?今度はイカサマ無しだ、少年。」
『…どういうつもりレロ、ティキ!伯爵たまはこんなこと』
どうやら今回ティキが持ちかけてきたゲームは、完全に伯爵にとっては想定外で、こちからしてみたら唯一の救いのようである。
レロの発言には耳を貸さず、ティキは続けた。
「ロードの扉とそれに通じる三つの鍵だ、これをやるよ。考えて…つってもしのごの言ってる場合じゃねえと思うけど。」
箱舟の崩壊は刻一刻と進んでいく。
これが罠だろうがなんだろうが、一同は藁にもすがる思いでロードの扉を目指すしかないのだ。
ティキの横の建物が倒壊してきた。
ドーム状の屋根が彼に向かって落ちる。
『ティキ!』
「た、建物の下敷きになったである!」
クロウリーはどうやらティキを心配したようだが、奴には万物を選択する能力がある。
この程度で死ぬようなタマではない。
「エクソシスト狩りはさ、楽しいんだよね」
案の定、瓦礫の向こう側からティキの声が聞こえた。
「扉は一番高いところに置いておく、崩れる前に辿り着けたらお前らの勝ちだ」
「ノアは不死と聞いていますよ、どこがイカサマ無しですか」
「あっははっ!」
ティキは可笑しそうに笑った。
「…と、失礼、なんでそんなことになってんのか知らねえけど、俺らも人間だよ少年。不死に見えんのは、お前らが弱いからだよ。」
キラッと光るものがこちらに飛んでくる。
神田が片手でそれを受け取ると、先ほど見せられた鍵であった。
今度こそ本当にティキの気配はしなくなった。